想定読者
英語教材やTOEICのリスニングパート、ニュースなどの綺麗な英語は聞き取れるようになったが、リアルなネイティブ同士の会話はまだ聞き取れない、英語学習中のソフトウェアエンジニア。
はじめに
リアルなネイティブ同士の会話を聞き取れるようには、ネイティブ向けのコンテンツを利用することが有効です。
なかでもインタビュー形式のものは実際の会話や面接に近いため、プレゼン形式のもの等に比べてより実践的でお勧めです。
ただ、インタビュー形式のものはニュース等に比べて、くだけた表現が多く、話す速度も早いため聞き取れないケースが多くなってしまいます。聞き取れない部分は何回聞いても分からないままで、学習効果は低くなってしまいます。
このため、学習目的ではトランスクリプト(音声の聞き起こし原稿)がついているコンテンツであることが重要です。
トランスクリプトがあるネイティブ向けのメディアは、NPRやVOA、TED1など、数多くありますが、ソフトウェアエンジニアが聞いて興味を持てるもので、かつトランスクリプトがあるものは、なかなか見つかりません。
ここでは、インタビュー形式でトランスクリプトが有り、ソフトウェアエンジニアにお勧めできる内容の英語でのポッドキャストのエピソードを、3つご紹介します。
(1) The Changelog エピソード202回「Yukihiro Matsumoto Interview」
"23 Years of Ruby" with Matz
https://changelog.com/podcast/202
(再生時間:1時間23分)
The Changelog — 毎週いろんなオープンソース開発者を呼んでインタビュー。だいぶクオリティにばらつきがあるけど、バラエティに富んでいて面白い。興味ある時だけ聴く感じ。
『Tatsuhiko Miyagawa’s Blog』の オススメ Tech Podcast 5選 から引用
まず最初にお勧めしたいのは、The Changelogの202回、プログラミング言語「Ruby」の開発者、まつもと ゆきひろさんがゲストの回です。
まつもとさんのプログラマーとしての生い立ち、Rubyの誕生からこれまでと、これからの展望が語られています。
(Rubyの25周年記念イベント「Ruby25」のまつもとさんの基調講演に近い内容です。)
まつもとさんは当然、全編英語でお話しされていて、日本人の我々からすると当然聞き取りやすく、また、こんな風に話せるようになれれば良いな、という目標にもなります。
ホストの二人も、非ネイティブのまつもとさんがゲストだからか、他の通常回より若干ゆっくり分かりやすく話されているように感じます。
このエピソードの公開当時(May 7, 2016)は、まだトランスクリプトはなかったのですが、その後(Jul 26, 2017)からトランスクリプトが、Githubにアップされるようになっています。
https://github.com/thechangelog/transcripts/blob/master/podcast/the-changelog-202.md
The Changelog公式のお勧めリスト
他のエピソードも面白いものが多く、ほとんどのエピソードにトランスクリプトがあるのでお勧めです。
https://changelog.com/podcast/recommended
このポッドキャストの他のエピソードをピックアップ
201回 SQLiteのRichard Hippさんがゲスト回のハイライト
『Apple II を購入した高校1年(日本の中学3年)のRichard少年が、Appleのテクニカルサポートに電話した際に、その電話に出た驚きの相手とは!?』
(2) ACCIDENTAL TECH PODCAST エピソード205回「Chris Lattner2 Interveiw」
"PEOPLE DON'T USE THE WEIRD PARTS"
http://atp.fm/episodes/205
(再生時間:2時間18分)
テック系英語Podcastといえば、Rebuild.fm の宮川達彦さんも番組内でたびたび触れらている[ATP (ACCIDENTAL TECH PODCAST)]です。
Accidental Tech Podcast — 元 Tumblr, Instapaper の Marco Arment, Ars Technica の OS X Review や Perl hacker としても有名な John Siracusa と Casey Liss がやってる Podcast. 毎週1時間超、ちゃんと定期的に配信していて(メンバーが旅行などのときには事前収録とかしている)すごい。
『Tatsuhiko Miyagawa’s Blog』の オススメ Tech Podcast 5選 から引用
ホスト3人、ゲストなし。週1配信。
通称 ATP。Tech 系の鉄板 Podcast である。
私が何か英語の Podcast をまじめに聴いてみたいと思ってたときに、すばらしいタイミングで始まったので第1回から聴いている。
白熱するとみんな早口だし、まるで聴き取れなかったんだけど、だんだんそれぞれの性格や嗜好がわかってきて、少しずつ内容がわかるようになってきた。聴き始めたときは Marco Arment しか知らなかった。彼は大好きな Instapaper を作った人で、今は Overcast を作ってる。彼のアプリとかいろんなことに対する考え方にはいつも刺激を受ける。…
堀内敬子さんのブログ『云々』の おすすめTech系英語Podcast から引用
2時間超と長いエピソードですが、チャプターがきれいに付けられているため、Podcastのチャプター機能に対応しているOvercastアプリなどで章単位に聴いていくと長さを克服できます。(iOSに標準インストールされているポッドキャストアプリにはチャプター表示機能がない。)
ATPは通常はトランスクリプト無しの非インタビュー形式のPodcastですが、この回はスター開発者、クリス・ラトナー2さんをゲストに迎えた特別回のためかインタビュー形式で行われ、トランスクリプトも提供されています。
このトランスクリプトには、30秒ごとにタイムスタンプが挿入されています。
初見の際は邪魔なように感じますが、聴きながらトランスクリプトを読む際に今どこが読まれているのか探しやすいです。
トランスクリプト例:
GARBAGE COLLECTION VS. ARC
John Siracusa: I feel kind of [1:56:30] like this is fighting the last war instead of the current war, but you mentioned garbage collection vs. ARC a bunch of times. Obviously, that ship has sailed, but I would love for you to give a reasonable summary of what the trade-offs were there.
Objective-C had garbage collection, as you mentioned. Eventually, Objective-C dropped the garbage collection and got ARC, and of course, Swift [1:57:00] doesn't have garbage collection at all. Can you talk about the trade-offs there and why Swift is the way it is?
Chris Lattner: Would you like a comparison of ARC against the garbage collector Objective-C had, or garbage collection in theory? ...
Transcript of episode 205, an interview of Chris Lattner on January 17, 2017: から引用
大きなニュースになった彼のApple退社~Tesla入社の直後に行われたインタビューの内容は、下記のようなSwiftについてを中心にしつつ、
- Swiftは、なぜ、どのように創られたか
- オープンソース化はどのように行われたのか
- 初心者にも上級者にも適した言語なんて可能?
- Swiftが影響を受けた言語は?
- Swiftをすぐに受け入れるべき?
- メモリ管理について
- ガベージコレクション VS ARC
他にも
- イリノイ大学でのLLVMの開発からApple入社に至るまで
- LLVMとは何か
- マネージメントについて
- コーディングスタイル
- Appleで働くということは?
- なぜTeslaへ?
などについて語られています。
(クリスさんは、この後Teslaは半年で退職し、現在はGoogle Brainに移籍。Swift for TensorFlow をswift.org に還元(捻じ込む?)するなど、活躍を続けています。)
エンディングテーマが流れて終わりかと思いきや、その後にAFTER-SHOWとして会話が続いているのでお聴き逃しなく。
(3) Freakonomics Radio 「Satya Nadella Full Interview」
http://freakonomics.com/podcast/satya-nadella/
(再生時間:41分)
Freakonomics Radioは、「ヤバい経済学」というタイトルの本からスピンアウトしたポッドキャストで、Tech系のポッドキャストではなく毎週扱われるテーマは多種多様なのですが、
2017年1月~2月に収録されたシリーズThe Secret Life of C.E.O.’s.には、著名なCEO達のインタビューが収録されています。
ここからご紹介したいのが、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOのインタビューです。
正直、この「人のよさそうなインドのオッチャン」がCEOになってから、マイクロソフトが変わった。特にオープンソースやUNIXにやさしくなったし、AzureでLinuxは走るし、今や、Windowsでbashやapt-getも走るようになった。すごい、・・・ナデラになってからMSの買収攻勢も激しく、マインクラフトもLinkedInもMSが買ってしまった。
村上 福之さんのブログ「ネットとケータイと俺様」の『この業界の人なら買って損はない本。書評:Hit Rerfesh 著:サティア・ナデラ』から引用
この後にGithubも買ってしまい 、さらにはMicrosoftの時価総額がGoogleを上回り「世界第3位の企業」に返り咲く など、凋落しかけていたマイクロソフトを変革し、再成長の軌道に乗せたサティアさんが、
- CEOに就任するまでの経緯
- ノキアの買収と売却について
- 生い立ち(インド生まれ。インド人のご両親は特にエリートというわけではない)
- 移民とテクノロジー企業
- アメリカ巨大企業のインド系CEO達の共通点とは?
- 家族(要介護の脳性麻痺の息子と、学習障害の娘を持つ父として)
- マイクロソフトで行われていること、行おうとしていること
など、書籍の「Hit Rerfesh」の要約のような形で語られています。
このポッドキャストの他のエピソードをピックアップ
同じシリーズThe Secret Life of C.E.O.’s.からFacebookのマーク・ザッカーバーグさんのフルインタビュー
Extra: Mark Zuckerberg Full Interview
http://freakonomics.com/podcast/mark-zuckerberg/
Cambridge Analyticaへの個人情報流出事件が発覚する前に行われた収録ですが、既になんとなくインタビューの当たりが強いです。
Freakonomics Radioの通常回からのお勧め
How to Become Great at Just About Anything(「何か」の一流になる方法)
http://freakonomics.com/podcast/peak/
他のお勧め
The Web Ahead
http://thewebahead.net/episodes
2016年6月以降は新しいエピソードが追加されていないですが、100を超えるエピソードがトランスクリプト付きで公開されています。
あなたのお勧めのTech系Podcastを、ぜひコメントで教えてください。
Hope you enjoy.
-
TEDには、Linuxのリーナス・トーバルズの The mind behind Linux
表計算ソフトVisiCalcのダン・ブルックリンのMeet the inventor of the electronic spreadsheetのようなTech系のコンテンツがいくつかあります。 ↩ -
Chris Lattner (クリス ラトナー)は、LLVMコンパイラ基盤、Clangコンパイラ、そしてプログラミング言語Swiftの生みの親。http://nondot.org/sabre/ ↩ ↩2