はじめに
『失敗の科学』という本には"失敗"とそれに対する取り組みが多く書かれているのですが、ここでは非難について書きました。
この記事の全体の流れ
- なぜ人は非難するのか?
- 非難してしまわないための考え方と取り組み
- 非難がなくなると究極のパフォーマンスを引き出すってほんと?
なぜ人は非難するのか?
『失敗の科学』では非難についてこう説明しています。
非難は、人間の脳に潜む先入観によって物事を過度に単純化してしまう行為だ。 1
非難の具体例
みなさんも似たような経験はないでしょうか?
本番環境でシステム障害が起きたとします。そのとき...
「Aさん、ちゃんとテストしたの」
と怒ってしまったとします。しかし、結局、Aさんとは全く関係のないことが原因だったとか...
上記の言葉に当てはめるなら
人間の脳に潜む先入観 | 物事を過度に単純化してしまう |
---|---|
Aさんはテストしなくて無責任だ | システム障害はAさんが原因 |
となります。
はい、「非難」の出来上がりです
非難の原因
犯人探しをする脳
私達の脳は、一番単純で一番直感的な結論を出す傾向があるそうです。
私は今の会社にくるまで、特定の誰かを非難している現場に参加したことがありますが、あれは悲惨です。プロジェクトが失敗すれば、そこに参加しているメンバーの評価が下がるかもしれません。
非難している人の裏側にある心理は、自分が罰せられるかもしれないという"恐れ" です
自分はこれだけ頑張ったけど、あの人が〜という特定の人に責任をなすりつけて、問題の真因を探ろうとしないのです。懲罰によって状況が改善されるというのは幻想であり、むしろこのようにメンバー間の他責を醸成してしまうのです。
非難してしまわないための考え方と取り組み
さて、非難が人間の性質によって生まれるということは、何も意識しなければそちらのダークサイドに引き込まれるということです。そうならないためにはどうしたらよいでしょうか?
HRT(謙虚・尊敬・信頼)を持ってチームで仕事をする
HRTとは Humility(謙虚)・Respect(尊敬)・Trust(信頼)の頭文字です。私はこの考え方を『Team Geak』という本で知りました。チーム開発する上での要点が分かりやすくまとまっているのでオススメです
HRTを醸成するための取り組みについて、@rf_p 氏が率いる私たちのチームでの取り組みを説明します。
お互いを知る
まずは同じチームメンバーのことを知るところから始めます。(え?当たり前すぎる?)
お互いのことを知っていると一緒に働く上でのコミュニケーションが円滑になります。
例えば
- 遠慮なく発言したり・質問しやすい空気が生まれる
- 相手の得意な技術が分かれば、質問がしやすくなる(逆に質問されやすくなる)
- どんなお仕事・技術に興味があるか分かれば、成長しやすいお仕事をお願いできる
このための具体的な取り組みとして、 @rf_p 氏が率いる私たちのチームで行ったのは、下記のような自分史を作ってメンバー間で説明することでした。
西暦 | 年齢 | 仕事の イベント |
プライベートの イベント |
得た価値観 考え方 |
モチベーション (1-10) |
---|---|---|---|---|---|
(私たちのチームではプライベートのイベントで一番盛り上がりました)
この自分史の説明とセットで、好きな仕事、嫌な仕事の頼まれ方など説明できると良いと思います。
振り返りをチームのものにする
ポストモーテムで障害の教訓を共有する
ポストモーテム2とはシステム障害などが発生した後に書くドキュメントです。社外向けの障害報告書とは違うポイントは、エンジニア向けの文書で良いということや、システム障害により学んだ教訓の項目があることでしょう。
このドキュメントをチームで共有する上で大事な考え方は 障害の原因を特定の個人のせいにしないこと。チームとして再発防止の取り組みに昇華させること です
再発防止の取り組みは、「やります!」という意識で終わらせるのではなく、issueを作成して、実行に移せる状態にまで持っていくところがポイントです。
障害の原因を特定の個人のせいにすることは、先述した犯人探しの顕著な例ですね。
非難がなくなると究極のパフォーマンスを引き出すってほんと?
非難がなくなること自体はマイナスをゼロにしただけなので、それ自体は究極のパフォーマンスを生まないんです。
でも、上述した"非難をなくすため"というマイナス出発の取り組みも、視点を変えれば究極のパフォーマンスに確実に近づいているんです。ポイントは 小さな改善(マージナルゲイン) です。
失敗から学ばない「クローズド・ループ」から進化する「オープン・ループ」へ
失敗は必ず発生します。そこで肝心なのは、「オープン・ループ」と呼ばれる学習サイクルにつなげることなんです。
しかし、私たちは失敗を放置したり、曲解することで学習しない「クローズド・ループ」という状況にしばしば陥りがちです。
先述した"犯人探し"も、特定の個人に問題の原因を帰結させ(曲解して)、それ以上、学べない状態に陥っています。
これをポストモーテムから得た取り組みによって、オープン・ループに持っていきたいんです。
小さな改善(マージナル・ゲイン)の速度を早める
ポストモーテムから出た改善案が、めちゃんこ工数がかかるものだったら途方にくれてしまいます。
なので、めちゃんこ工数がデカいときは、めちゃんこ分解してください。
例えば、ある障害を再発させないためには「テストをCI/CDに乗せてエラーならデプロイさせない」となったとします。でも、テストもない状態だったら、まずは「テストパッケージを導入する」「テストを一つ書く」とか。く小さくても前に進める。
この1%の改善サイクルを早めるための型として、チームの中で決まった振り返り方法を見つける。 これが出来たチームは究極のパフォーマンスを引き出せるんじゃないかなと思います。
改善提案をしても言っただけで何も変わらない状態が続けば、メンバーは「どうせ言ったってムダ」という学習性無力感に陥ってしまうでしょう。
まとめ
- なぜ人は非難するのか?
- 人間の脳は一番単純なことに結論付けようとする習性があり、自分の非を回避するために特定の個人を非難する
- 非難してしまわないための考え方と取り組み
- HRT(謙虚・尊敬・信頼)を持ってチームで仕事をする
- 失敗の振り返りをチームで取り組み、次のアクションに移す
- 非難がなくなると究極のパフォーマンスを引き出すってほんと?
- 失敗から学ばない「クローズド・ループ」から進化する「オープン・ループ」への移行が大事
- 小さな改善(マージナル・ゲイン)の速度を早めるための型をチームで見つける
終わりに
非難がなくなることは良いことなのですが、その非難の中には反論も含まれているかもしれません。反論をなくしちゃダメだし、非難の中に改善案のヒントが隠されているかもしれません。
結局はチームメンバーが自分が思っていることを素直に言えるのが健全な状態なんだろうなと思います。この記事を書いてて、HRTとかポストモーテムとか、根底に流れる心理的安全性とか、Google発の取り組みが多く、やはりGoogleってスゴイ会社なんだなと思いました。
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マシュー・サイド. 失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織 (Japanese Edition) 第5章 「犯人探し」バイアスとの闘い ↩
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『Googleのソフトウェアエンジニアリング』という本の中で内容が説明されています。 ↩