線形代数学
理系の大学生ならば大学に入って最初の一,二年を掛けて,一般教養科目として数学の広義で学ぶ機会も多いだろう「線形代数学」。工学系の人ならば多くの場合,実用的な行列の扱い方と意味不明な線形空間なる概念を学ぶ科目というイメージが強いと思う。
大学数学
大学で学ぶ数学(特に代数学)では,高校までに体験的に学んできた対象の持つ性質を切り出し,抽象化した概念を学ぶことが多い。線形代数学だと解析的には「比例」,幾何的には「真っすぐさ」の抽象化であると感じている。性質を特徴づける関係性を取りだし公理化することを概ね方針としている場合が多く,線形代数もその公理系を持って「線形的」なるものの持つ内容を表現しているのだと言えるだろう。
応用先
微分
例えば微分は関数の線形化である。局所的に直線に近似することによって,その周辺における扱いを線形化することが可能になる。それは情報の適切な取捨選択なのだ。テイラー展開も一次まで見れば線形近似である。振り子の問題で,振れ幅が大きく倍場合にはsin xをxに近似して十分に振り子の運動を理解できるように,多くの場合局所的に線形近似することが有効であるのだ。更に,ある種の関数の集合は計量可能な線形空間(さらに強い主張としてそのノルムに対して完備である)になっており,多くの解析的な操作を線形空間上の操作と見做せるのだ。典型的な例としては,フーリエ変換は,そのヒルベルト空間の基底に対する線形結合による表示であると言える。
幾何
幾何的な理解も線形空間を持って深めることができる。接ベクトル空間は,対象の多様体の座標に依らず定義される「接平面」の抽象化であり,曲がった空間であってもその周辺では線形的な空間として把握される。結果として,私たちの慣れ親しんだ微分の概念なども容易に展開できたりするのである。
代数
環の具体例としても把握できる。その持つ代数的な構造は更なる抽象への土台でもあるのだ。
以上のように,線形代数はあらゆる分野に顔をのぞかせる,偉大な基礎と言って過言ではないのだ。