数列の極限、定義からすでに怖い
高校までの極限の定義はあいまいで、問題を解くときはほとんど代入だったと思います。しかし、εδ論法では、極限は以下のように定義されます。
\displaystyle \lim _{n\rightarrow \infty } \ a_{n} =\alpha \ \ \Leftrightarrow \ ^{\forall } \epsilon >0,\ ^{\exists } N\in \mathbb{N} ,\ ^{\forall } n\in \mathbb{N} \ \{n\geqslant \ N\ \Rightarrow |a_{n} \ -\ \alpha |< \epsilon ] \
ここでNについて大事になってくるのが、εに依存するということです。すなわちNは
\displaystyle N\ =N_{1}( \epsilon )
のように書くことができます。つまり、εδ論法を用いて数列の極限を求める際に大切なのは、Nをεを用いて表すことでその存在を確認することなのです。実際やってみないとわからないと思うので、例題を解きましょう。
- 例題1:次の等式を証明せよ
\lim _{n\rightarrow \infty } \frac{1}{n} =0
高校で出てきた公式ですね。実際大学でも公式として扱うのですが、定義から導くことも十分可能です。やってみましょう。
【答え】
アルキメデスの性質より、任意の正の実数εを用いた数1/ε及び1に対して、以下の式を満たす自然数nの存在が保証される。
\frac{1}{ε} < 1 \times n \tag{1}
これを書き換えると
\frac{1}{n} < ε
となる。nは自然数より、上の式が
\biggl|\frac{1}{n}-0\biggr| < ε
と書き換えられることは自明だろう。式(1)よりNは
N = \biggl\lbrack \frac{1}{ε} \biggr\rbrack + 1
とすることで、
\ ^{\forall } ε >0,\ ^{\exists } N\in \mathbb{N} ,\ ^{\forall } n\in \mathbb{N} \ \ \bigg[n\geqslant \ N\ \Rightarrow \bigg|\frac{1}{n} \ -\ 0 \bigg|< ε \bigg] \
を満たすため。題意は示された。
急に登場したアルキメデスの性質について少し補足を行いますね。私自身、アルキメデスの性質は先ほどの証明で使ったものだと考えていました。しかし調べてみるとどうやらアルキメデスの性質から導かれるものらしく、それ自体とは少し違うことがわかりました。
アルキメデスの性質は「$\mathbb{R}$が実数の公理を満たす時、$\mathbb{N}$は上に有界ではない」というものであるが、それが成り立つ必要十分条件は以下の通りです。
^{\forall}x \in \mathbb{R}, ^{\exists}n \in \mathbb{N} \ s.t. x<n
この実数xをa/bとかにしてさらに条件を追加すると先ほど照明で使った形
^{\forall}a,b > 0, ^{\exists}n \in \mathbb{N}\ s.t. na>b
を導くことができるとのこと。(∵参考文献(1))
【余談】数列-極限値の絶対値、なにで閉じても良いのか問題
εδ論法にまつわる本を大学の図書館などで借りてみるとですね、結論付けのところでこう書かれているものが多いんですよ。
~より
\ ^{\forall } ε >0,\ ^{\exists } N\in \mathbb{N} ,\ ^{\forall } n\in \mathbb{N} \ \ [n\geqslant \ N\ \Rightarrow |a_n \ -\alpha |< 2ε ] \
当時の私は「2εでもいいんですか?(涙目)」と一人泣いていましたね( ´∀` )
ここで話すよりも、私が学習に使用した書籍の『イプシロン・デルタ論法完全攻略』(共立出版)を購入された方がよいと思いますので(詳しくは参考文献のへどうぞ)、同様の悩みで悩んでいる独学勢は是非購入を検討してみてください^^
有界のあれこれ(極限だけじゃダメなのか、どこで使うのか)
そもそも下に有界というのと上に有界というのがあるのはご存じでしょうか?私は知りませんでした(数弱)。それぞれの定義をとりあえず見てみましょう。{$a_n$}を数列としますね。
- $a_n$が下に有界$\Leftrightarrow$$^{\exists}m_1\in \mathbb{R},\ ^{\forall}n \in \mathbb{N} \ [m_1<a_n]$
- $a_n$が上に有界$\Leftrightarrow$$^{\exists}m_2 \in \mathbb{R},\ ^{\forall}n \in \mathbb{N} \ [a_n<m_2]$
この両方が成り立つ場合、つまり下にも上にも有界である場合、$a_n$は有界であるといい、以下の条件
^{\exists}M>0,\ ^{\forall}n \in \mathbb{N} \ [|a_n|<M]\tag{2}
が成り立ちます。
さて本題、有界と極限の違いって何でしょう?
一応理学部には所属しているのですが、大学側でεδ論法の授業が用意されていないので間違った解釈なのかもしれませんが(解釈の正誤を確認するすべが基本ないからね、仕方ないね。(・ω・)(-ω-)(・ω・)(-ω-)ウンウン♪)
結論としては、大きな違いはないと思っています。
ただですね、まったく同じかといわれたらそうではないと思うんです。極限は収束先として値を1つ指定します。それに対し有界というのはあくまで”何かしら”数列を上か下(もしくはその両方)から囲える値が存在することを示すものなので、例えば、$n\in\mathbb{N}$において、$a_n$は$3<a_n<7$の範囲にとどまるとします。$a_n$が単調増加するとすると、$\lim_{n\rightarrow \infty}\ a_n = 7$となりますが、有界であることを証明する場合、式(2)のMは別に7以上であれば何でもよいのです。イメージとしては極限のほうが有界より厳しいという認識です。数学的に正しい書き方でないとは思いますが、式にすると
(極限)⊂(有界)
こんな印象です。実際数列の性質として、収束する数列は有界であることが知られています。ではどこで使うのか?
単純です。$a_n$の極限値が0でない値を取り、証明の題意に合わせて絶対値の式を変形した結果、単体の$|a_n|$を不等式評価しなければいけなくなった時です。例えば不等式
|Ca_n-C\alpha| \leq |C||a_n|+|C||α|
が出てきたとしましょう。(「この式別にCを孤立させなければそもそもCεで抑えられると思います!」という苦情は受け付けません。)さて、ここで$|a_n|$が評価できれば無事不等式を評価し終え、εを用いてNが表せるところまで行くことができますよね。そこで式(2)の出番ですよ。有界であることが問題で保障されていれば一瞬でMを用いて不等式評価を終わらせることができます。
コーシー列
追記予定
感想
高校数学とはまた違った難易度がある大学数学、独学で進めていますが私もかなり苦戦を強いられております。そもそも書籍の巻末問題の証明が略だの筆者に委ねるだのが多く、本当に意欲が無ければ門前払いを食らってしまうような気がします。しかし理解できた時の感動はとても大きいので、私は独学で進んでいこうと思っています(^▽^)/
参考図書及び参考文献
(1)WIIS 『実数の定義 アルキメデスの性質』https://wiis.info/math/real-number/definition-of-real-number/archimedean-property/ アクセス日2025/05/10
(2)原惟行 松永秀章著『イプシロン・デルタ論法完全攻略』共立出版 2011年