はじめに
先日参加したハッカソンで、医療現場の課題解決を目指すWebサービス「MediCare Online」を開発しました。本記事では、その背景、サービス概要、使用した技術についてご紹介します。
医療現場の最も大きな課題の一つは「時間」です。医師の長時間労働が問題視される中、私たちはAIを活用して診療プロセスを効率化し、医師の負担を大幅に軽減することを目指しました。
医療現場が抱える「時間」という課題
現在の医療現場では、医師が全ての患者に対して一人ずつ丁寧に診察を行っています。軽症の患者や定型的な症状の患者にも同様の工数がかかるため、医師の時間的負担が大きくなるという課題がありました。
実際に、外来患者の診察時間に関するデータを見てみると、約70%が10分未満 で診察を終えています。
一方で、厚生労働省の調査によると、医師の一日の総労働時間は11.7時間にものぼります 。そのうち、患者の診察に充てられる時間は、平均的な患者数(40人)と診察時間(8分)で計算すると約5.3時間となり 、カルテなどの記入時間(総労働時間の15%)が約1.75時間を占めるなど 、患者一人ひとりと向き合う時間以外にも多くの時間が割かれているのが現状です。
開発したサービス「MediCare Online」
そこで私たちは、AIを活用したオンライン診療サービス「MediCare Online 」を開発しました。
このサービスは、AIが診察の段取りを行い、症状の似た患者をグループ化することで、医師が効率的に診断できるようにするものです 。
MediCare Onlineの主な機能
従来のオンライン診断が「問診票記入 → 個別診断」という流れだったのに対し、MediCare Onlineは新しい体験を提供します。
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AIアバターによる問診支援
- 診察前にAIアバターが患者と自然な会話形式で問診を行います。
- AIが症状や患者が医師に聞きたいことを要約し、構造化して記録します。
- これにより、医師は事前に患者情報を把握でき、診察時間を短縮できます。また、情報の聞き漏らしを防ぎ、見落としのない診断をサポートします。
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患者のグループ診断
- AIが事前問診や症状データから、症状の似た患者を自動でグループ化します。
- 医師は個別に対応するのではなく、グループごとにまとめて診断や処方のテンプレートを準備できます。
- これにより、対応時間を大幅に削減し、インフルエンザのような流行病に対しても迅速に対応することが可能になります。
技術スタック
本サービスの開発で使用した技術は以下の通りです 。
カテゴリ | 使用技術 |
---|---|
UI/UX | React, Three.js, VRM, Tailwind CSS |
音声/マップ | Google Text-to-Speech, Google Maps API |
AI診療支援 | Gemini API, 症状ベクトル化, k-NNクラスタリング |
データ管理 | Supabase (DB, Auth, Storage) |
類似症例探索 | Python, scikit-learn, Faiss, Annoy |
グループ診療の仕組みとロジック
患者を症状ごとにグループ分けするためのロジックは、以下の3ステップで実現しています 。
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患者情報の特徴量化とベクトル変換
- 問診票から得られる身長、体重、年齢、症状(腹痛、発熱など)といった情報を特徴量として抽出します。
- これらの特徴量を数値ベクトルに変換します。
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類似度の算出
- ベクトル化された患者情報同士の類似度を、コサイン類似度などの指標を用いて計算します。
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グルーピング
- k-NN(k-nearest neighbors)アルゴリズムを使い、類似度の高い患者同士を同じグループに分類します。
使用したデータセット
AIモデルの学習と検証には、医学診断のためのデータセット「DDXPlus」を利用しました。
このデータセットには、患者の基本情報(年齢、性別)や詳細な症状、既往歴、そして確定された病名や鑑別診断の情報が含まれており、今回の要件に適していました。
導入によるインパクト
MediCare Onlineを導入することで、医師の負担を劇的に軽減できると試算しています。
例えば、1グループあたり最大8人の患者を10〜15分(問診8分+診察3分)で対応できると仮定します。
これまで40人の患者(1グループ最大8人と仮定)を個別に診察していた時間が、5組のグループ診療で完了する場合、1日あたり患者にかける時間を約8.25時間から約55分に短縮でき、7時間20分もの時間を創出できる可能性があります。
今後の拡張性
将来的には、感染症の早期検知・予防システムへの拡張を考えています。
AI問診の結果を地域ごとにリアルタイムで集計・可視化し、「リアルタイム感染マップ」を作成します。これにより、インフルエンザなどの流行の兆候を早期に捉え、学級閉鎖のような対策をより迅速に行うことが可能になると考えています。
おわりに
今回は、ハッカソンで開発した「MediCare Online」についてご紹介しました。AIとグループ診療というアプローチによって、医療現場の大きな課題である「時間」の問題を解決し、医師がより質の高い医療を提供できる環境づくりに貢献できればと考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました。