普段はアドテクノロジーセンターで副センター長をしている三宅です。
3rd party Cookie廃止影響については既に多方面から多くの記事が出ていますが、アドテクに携わっている人間としては一応触れておかないといけない内容だと思うのでこの辺で私の見解をまとめておいきます。
本記事は2023年11月に開催されたアドテクセンター勉強会のLTの内容の焼き直し版です。Supershipアドテクセンターではこのような勉強会を隔月くらいで開催しています。
注:三宅個人の見解であるのと、ゴールがあるテーマではないので参考程度に読んでください
TL;DR
- 広告配信においてCookieは主にターゲティングとコンバージョン計測に使われている
- ターゲティングにおいてCookieを代替する技術
- Cookieを直接代替するユーザーID技術
- ユーザーではなく面に対してターゲティングを行う技術
- コンバージョン計測においてCookieを代替する技術
- Cookieを直接代替するユーザーID技術
- ユーザーを特定せず効果計測を行う技術
(おさらい)Cookieがなぜ必要か
Web広告は、
- メディアから広告配信システムへの広告リクエスト
- それに対しての何かしらのターゲティングを通した広告レスポンス
- ユーザーの広告クリック
- 購入等のコンバージョン
という流れになっています。
Cookieは主に 2. ターゲティング
と 4. コンバージョン計測
で利用されます。
それぞれでCookieを利用したいモチベーションは以下の通りです。
- ターゲティング
- コスパ(CTR, CVR)を上げるため、買う人にだけ広告を見せたい
- コンバージョン
- ターゲティングや次の販促に活かすため、どういう人が買ったのかを知りたい
- 後から分析しやすいというのが店頭販売と異なるネットの強み
- ターゲティングや次の販促に活かすため、どういう人が買ったのかを知りたい
ターゲティング
広告は表示するのにお金がかかるため、購入可能性が低い人に対して広告を配信するのはコスト的に非効率です。
また、ユーザーからしても興味関心のない広告は場合によっては不快と捉えられることがあるため、ブランド力が上がるどころか下がることもあります。
Cookieを使ったターゲティング
3rd party Cookieが使える場合、サイト訪問履歴など何かしらのユーザー集合をCookieやMAIDを使って作成すれば、そのユーザー集合(オーディエンス)に対して広告配信システムから広告を配信することができます。
しかし一般的には広告を配信するメディアと広告配信システムはドメイン(運営元)が異なるため、3rd party Cookieとして扱われ規制の対象になります。
そこで各所で代替手段が検討されています。
手段①:Cookieの代替となるIDを使う
Cookieの代わりとなるユーザーIDを利用し、今までのユーザーIDに近しい形でターゲティングを行います。
- 1st party ID
- メディアが保持するCookieやPII(メールアドレス等)、独自ユーザーID等の1st partyデータを用いたターゲティングです
- メディア自身が広告配信システムを用意するなどの対応が必要です
- 共通ID
- 各共通IDベンダーが発行するIDです
- 確定IDと推定IDに分かれており、確定IDはPIIを使った確実なユーザーIDの割り振り、推定IDはフィンガープリント等を使った確率データを含むID割り振りです
- ネットワークを使った識別
- キャリア回線を使用して通信する際に、IPアドレスからユーザーIDを割り振ります
- docomo
- au
- https://supership.jp/news/2021/11/16/5394/
- 通信のたびに毎回一時IDを発行おり個人は特定できないようになっています
手段②:ユーザーに依存しないターゲティングを行う
Cookieを含むユーザーIDはあくまでもターゲティングの手段なので、特定のジャンルを持つユーザー集合に広告を配信できるのであればユーザーID以外の方法でも解決することができます。
ユーザーを指定しない場合、次に考えられうるのはメディアです。特定のジャンルに特化したメディア、もしくはページはそのジャンルに興味がある人が見ているであろうという前提です。
- コンテキスト
- メディアのコンテキスト(主成分)を自然言語的に分析し、そのジャンルのメディアに来るであろうユーザー集合に対して広告を配信する
- 番組視聴者データ
- 動画コンテンツ等で過去配信から視聴するユーザー層が分かっている場合はターゲティングデータとして利用します
- Deal
- 意味的にはコンテキストと近いものがありますが、Deal取引は予めメディアと合意を得ている ≒ 配信予定のメディアが分かっているため、そこに訪問するであろうユーザー集合を推測することができます
- またDealは任意の単位で発行することができるので、メディア内で1st party IDを使った特定のユーザー集合の広告リクエストのみを匿名化した上で広告配信システムへ送ることも可能です(デモグラdealと呼ばれます)
- それぞれのブラウザが提案する方法に乗っかる
- PrivacySandbox Topics API等
コンバージョン(CV)
コンバージョンを計測したいモチベーションは大きく以下かなと思います
- 単純に商品をコンバージョン(購入・資料請求・インストリーム・課金等)したかを知りたい
- コスパ(CPA)を知るため
- ユーザー層を分析したい
- 次の商品開発や広告設計に活かすため
- ユーザーIDそのものが欲しい
- 既に購入した人を広告配信から除外したいため
- 関連商品の広告を出したいため
前者2つはユーザーIDが手段なのに対し、3つめはユーザーIDの取得が目的になります。
ユーザーIDを取得できるのが一番よいですがCookieが廃止されると難しいため、地上波や(D)OOHで使われているような手法も検討する必要があります。
手段①:ユーザーIDを取得する
- 共通ID
- ターゲティングの章で説明した共通IDをLPにも導入することにより、確かなCV計測や分析を行います
- ただし、メディア・広告配信システム・広告主で同じ共通IDソリューションを導入する必要があり、規模の大きな案件向けの手法と言えます
- 1st party ID
- プライバシー保護を行った上でLPのユーザーIDを広告配信システムに連携します
- LPと広告配信システム間でマッピングテーブル等を持つ必要があるので、こちらも規模の大きい案件向けの手法と言えます
- 3rd party Cookie
- イタチごっこになりますがブラウザ規制をどうにか迂回して3rd partyからユーザーIDの取得を行います
- 以下が例ですが、既に規制対象になっているものや検討が開始されているものが多いです
- CNAMEトラッキング
- バウンストラッキング
- サーバーサイドトラッキング
- URLパラメータ
- それぞれのブラウザが提案する方法に乗っかる
- ユーザーIDを直接取得することはできませんが、セッションIDと組み合わせるとある程度ユーザーIDを取得できそうです(ノイズ多いけど)
- PrivacySandbox Conversion Measurement API(CMAPI)
- Private Click Measurement(PCM)
- ユーザーIDを直接取得することはできませんが、セッションIDと組み合わせるとある程度ユーザーIDを取得できそうです(ノイズ多いけど)
手段②:ユーザーID以外の方法でコンバージョン(っぽいもの)を取得する
Webメディア独自のユーザーIDを使いわない分、地上波や(D)OOHと横断して効果計測できるメリットもあります。
- 広告配信前後でPVや検索数、売上を比較する
- CVではないので、ブランドインパクト等と呼ばれることもある
- ブランドリフトサーベイ
- 広告接触者/非接触者へアンケートを行うことで、変化を測定
最後に
個人的な感想ですが、代替IDの導入は開発的にも運営的にもかなり体力が必要なので個人や規模の小さなメディアへの導入は難度が高いと思います。また面に対するターゲティングに関してもメディアへ訪問するユーザー層がある程度分析できることが前提であるため、個人サイトやまとめサイトのような特化した内容ではないメディアへの広告配信も厳しくなると予想されます(配信されないということはないと思いますが、単価はどんどん低くなっていくじゃないかと思います)。
広告収入をメインとして運営しているメディアはかなり多いため、良質メディアに対する低コストなターゲティングが求められます(現状でこれ、というような案はなさそうです)。
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