1. はじめに
1.1 目的
VTuberのファン数は日々増え続けているように見えます。事務所ごとのファンがどれほど重複しているのか、またこれから先どのように成長していくのか気になり、Twitter APIを用いて調べました。
1.2 注意
2022年1月時点でのデータです。内容の正確性には注意を払っていますが、ミスで間違った結果を導いている可能性もあります。鵜呑みにする前に、ご自身で検証してみてください。また、データを取得している間にもフォロワー数は変化し続けていたので、有効数字はせいぜい3桁くらいだと思います。
2. 方法
2.1 調査対象
ホロライブ1、ホロスターズ2、にじさんじ3、.LIVE4、774 inc.5、のりプロ6、Re:Act7、ぶいすぽっ!8、VShojo9、VOMS10、神椿11、MAHA512を対象としました13。
2.2 調査期間
2021年12月28日からデータを取得し始め、2022年1月15日に終わりました。また、2020年4月13日から18日にかけて取得したデータも持っていたので、過去との比較にはそのデータを用いました。
2.3 データ取得
Twitter APIを用いると、指定したアカウントのフォロワー一覧を取得することができます。 フォロワーを取得するAPIは、1ページで5000人分、15分間に15ページ分のフォロワーのIDを取得できます。つまり、1分間にフォロワー5000人分のIDが得られます。例えば、フォロワーが30万人のアカウントのフォロワーのIDを取得するのには1時間かかります。
今回使ったコードを以下に示します。APIキーを取得する必要があります。
import tweepy
import time
CONSUMER_KEY = 'YOUR_CONSUMER_KEY'
CONSUMER_SECRET = 'YOUR_CONSUMER_SECRET'
ACCESS_TOKEN = 'YOUR_ACCESS_TOKEN'
ACCESS_TOKEN_SECRET = 'YOUR_ACCESS_TOKEN_SECRET'
def get_follower_list(twitter_id):
follower_list = []
cursor = -1
while cursor != 0:
auth = tweepy.OAuthHandler(CONSUMER_KEY, CONSUMER_SECRET)
auth.set_access_token(ACCESS_TOKEN, ACCESS_TOKEN_SECRET)
api = tweepy.API(auth, wait_on_rate_limit = True)
itr = tweepy.Cursor(api.followers_ids, id=twitter_id, cursor=cursor).pages()
try:
for temp_list in itr:
try:
follower_list.extend(temp_list)
except tweepy.error.TweepError as e:
print(e.reason)
time.sleep(60)
except tweepy.error.TweepError as e:
print(e.reason)
break
cursor = itr.next_cursor
return follower_list
2.4 データ可視化
3要素の面積比例ベン図を描くためには、正円ではなく楕円などを用いる必要があります。3要素の面積比例ベン図を描くために、今回はeulerAPE14というツールを用いました。
それ以外のグラフはpythonとmatplotlibとseabornで描きました。
3. 結果と考察
3.1 全体
今回対象とした範囲でのVTuberファンの総数は約570万人でした。事務所を比較すると、ホロライブとにじさんじが二大勢力となっています。ホロライブをフォローしているのは約330万人、にじさんじをフォローしているのは約280万人となっています。また、ホロライブ、にじさんじ、それ以外をそれぞれ1人以上ずつフォローしている層も約87万人います。
JPはホロライブJP、ホロスターズ、にじさんじJP、.LIVE、774 Inc.、Re:Act、ぶいすぽっ!、のりプロ、VOMS、神椿のフォロワーの和集合。ENはホロライブEN、にじさんじEN、VShojoのフォロワーの和集合。IDはホロライブID、にじさんじID、MAHA5のフォロワーの和集合を表しています。
これを見ると、VTuberファンの半分以上はJPのメンバーのみをフォローしています。ENのみをフォローしている層も100万人近くいます。一方で、IDのみをフォローしている層は少なく、IDをフォローしている層の多くはJPやENもフォローしていることがわかります。
3.2 日本語圏詳細
日本語圏のみを見ても、ホロライブとにじさんじが二大勢力となっています。
事務所ごとのヒストグラム
このヒートマップは、色の濃さでフォロワーの人数を表しています。これを見ると、ホロライブJPを1人だけフォローしている人と、にじさんじJPを1人だけフォローしている人が圧倒的に多いことがわかります。
対数をとってみると、フォローしている人数が少ない層では、ホロライブのフォロー数とにじさんじにフォロー数になんとなく負の相関が見えます。一方で、フォローしている人数が多い人数では、箱推しに近い層もいることがわかります。見えている線は、ホロライブ箱推しで6期生(2021年11月デビュー)をまだフォローしていない層や、にじさんじ箱推しでエデン組(2021年7月デビュー)をまだフォローしていない層ではないかと推測されます。
いずれにしても、フォローしているVTuberの人数が1人や2人のフォロワーが圧倒的に多いことには変わりありません。
3.3 英語圏詳細
英語圏の3事務所のフォロワー分布です。3事務所のフォロワーの和集合は約260万人です。ホロライブENをフォローしている割合が大きいですが、VShojoはそれに次ぐ勢力になっています。
3.4 インドネシア語圏詳細
ホロライブIDとにじさんじIDを対象としました。MAHA5はYouTubeチャンネル登録者数に比べてTwitterフォロワー数が極端に少なかったので、分析の対象から外しました。調べてみると、インドネシアではTwitterよりもFacebookやInstagramの方が広く利用されているようで、Twitterのフォロワーで判断するのは不適当かもしれません。
3.5 ホロライブ詳細
ホロライブJPとENとIDのフォロワーの分布を示します。ファンのうち80.9%はJPをフォローしています。54.6%はENをフォローしており、25.7%はIDをフォローしています。JPのフォロワーのうち、ENやIDを1人でもフォローしているのは約半分です。一方で、IDのフォロワーの多くはJPやENをフォローしていることがわかります。
ホロライブJPのフォロワーが何人のメンバーをフォローしているかを示したヒストグラムです15。1人だけをフォローしている層が多いことがわかります。フォローしているメンバーが4人以下の層で、ファンの半分を占めています。一方で、このヒストグラムからは箱推し層の存在もわかります。データ取得時点では、6期生5人のデビューから1ヶ月ほどしか経っていなかったので、6期生をまだフォローしていない箱推し層もいると解釈できます。
ENについても同様で、1人だけをフォローしているファンが多く、また箱推しのファンもみられます。
IDについても同様です。メンバーがJPやENより少ないからか、箱推し層の割合が高くなっています。
ホロライブのフォロワーの変化の様子を示します16。2020年4月時点ではENは存在せず、IDがデビューしてから1ヶ月も経っていませんでした。当時のIDのデータを持っていなかったので、JPのみを示しています。
2020年4月時点では73万人程度だったファンのうち、1/5ほどの約14万人がフォローを外し、2022年1月までに約270万人が新たにフォローしています17。現在のファン約330万人のうち、2020年4月からフォローしているファンは約20%です。
ホロライブJPのフォロワーの多くは、ホロライブENやにじさんじJPをフォローしていることがわかります。また、ホロライブJPしかフォローしていない層も25%ほどいることがわかります。
ホロライブENのフォロワーについては、70%近くがホロライブJPのメンバーもフォローしていることがわかります。
ホロライブIDのフォロワーのほとんどはホロライブJPやENをフォローしています。
3.6 ホロスターズ詳細
ホロスターズのフォロワーのの多くはホロライブJPやENやIDやにじさんじJPをフォローしていることがわかります。ホロライブENやIDのフォロワーも多いことから、海外のファンの割合も低くないと解釈できます18。
3.7 にじさんじ詳細
にじさんじJPとにじさんじ海外のフォロワーの分布を示します19。にじさんじの場合はJPの規模が海外よりも大きくなっていることがわかります。
にじさんじ海外のフォロワーの分布を見ると、ENの規模が一番大きいことがわかります。
にじさんじJPをフォローしているファンは、何人のメンバーをフォローしているのかを示します1520。ホロライブのファンと同様に、1人のみをフォローしているファンが多いことがわかります。また、メンバー数が多いこともあってホロライブよりも箱推しの割合は少ないものの、それでも箱推し層が存在することがわかります。
にじさんじENについても同様で、単推し層が最も多くなっています。
にじさんじIDについても同様で、単推し層が最も多くなっています。
にじさんじKRについても同様で、単推し層が最も多くなっています。
にじさんじJPのフォロワーの変化の様子を示します。2020年4月時点でフォローしていた約97万人のうち、約1/5がフォローを外し、2022年1月までに約180万人が新たにフォローしていることがわかります。
にじさんじ海外も合わせたフォロワーの変化の様子を示します21。2020年4月時点ではENは存在せず、IN(インド)とKRは存在しましたがデータを取得していなかったので、この図では含めていません。2022年1月時点ではINは活動休止しています。
にじさんじはJPのファンの割合が高いこともあり、JPのフォロワーの変化と同じようになっていることがわかります。
にじさんじJPのフォロワーの40%程度はホロライブJPのメンバーもフォローしていることがわかります。また、他の40%程度はにじさんじJPのみをフォローしていて、この割合はホロライブよりも高くなっています。
にじさんじENのフォロワーはホロライブやにじさんじを広くフォローしているようです。
にじさんじIDのフォロワーもにじさんじやホロライブを広くフォローしているようです。
にじさんじKRのフォロワーはENやIDのフォロワーと少し違って、80%以上がにじさんじJPをフォローするほど、にじさんじJPに近いことがわかります。
3.8 のりプロ詳細
のりプロのフォロワーの多くはホロライブJPやにじさんじJPをフォローしているようです。
3.9 774 Inc.詳細
774 Inc.のフォロワーの多くはにじさんじJPやホロライブJPのメンバーをフォローしているようです。
3.10 ぶいすぽっ!詳細
ぶいすぽっ!のフォロワーの多くはにじさんじJPをフォローしているようです。
3.11 .LIVE詳細
他の事務所と同様に、単推し層が一番多いことがわかります。8人推しが箱推しよりも多くなっていますが、これはかつてのアイドル部箱推し層の名残だと推測できます。
.LIVEのフォロワーの変化の様子を示します。.LIVEでは2020年4月から2022年1月の間に、主要ユニットのアイドル部の卒業に伴い5人のメンバーが引退しています。また、新たに3人のメンバーが加わっています。
2020年4月時点でのファン約37万人のうち、15%がフォローを外し、新たに同程度の新規ファンが増えています。
.LIVEのフォロワーの多くはにじさんじJPやホロライブJPのメンバーもフォローしています。
3.12 Re:Act詳細
Re:Actのフォロワーの多くはホロライブJPやにじさんじJPのメンバーをフォローしていることがわかります。
3.13 神椿詳細
神椿のフォロワーの過半数はにじさんじJPやホロライブJPもフォローしています。一方で、フォロワーの規模が同程度の他の事務所と比べて、神椿のみをフォローしている層が30%と高くなっています。
3.14 VOMS詳細
VOMSのフォロワーの多くはホロライブJPやENやIDをフォローしていることがわかります。ここから、海外からのファンも一定数いると解釈できます。
3.15 VShojo詳細
VShojoのフォロワーの半分弱はVShojoしかフォローしていません。また、もう半分はホロライブENをフォローしているようです。にじさんじENとの共通のフォロワーの割合はそこまで高くありません。
3.16 MAHA5
MAHA5のフォロワーの半分以上はホロライブIDやにじさんじIDをフォローしているようです。
4. まとめ・感想
全体的に見ると、規模の大きなVTuber事務所のファンは、フォローしているメンバーの数が3人以下のファンが5割以上を占めているようです。この層のうち、新規層がどれくらいでコアな単推し層がどれくらいなのかはわかりませんが、ライトな層がたくさんいるのはとてもよいことですね。
また、今もすさまじい勢いで発展を続けているので、今後が楽しみです。
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ホロライブ。2022年1月時点では、JP 36人、EN 11人、ID 6人。2020年4月時点ではJP 28人、ID 3人。その間に、JPで10人、ENで11人、IDで3人がデビューして、JPで2人が卒業しました。2020年4月時点でのIDのメンバーのフォロワーは取得していなかったので、今回の分析には含まれていません。 ↩
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ホロスターズ。2022年1月時点でメンバーは9人。2020年4月時点ではのデータを持っていなかったので、今回の分析には含めていません。 ↩
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にじさんじ。2022年1月時点で、JP 107人、ID 19人、KR 19人、EN 15人。VirtuaRealはTwitterをやっていないメンバーも多いのでここでは扱いません。2020年4月時点では、JP 99人、ID 10人、KR 9人、IN 3人でした。INの3人とKRの9人については、2020年4月時点のデータを取っていなかったので扱いません。 ↩
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.LIVE。2022年1月時点では11人。2020年4月時点では13人。その間に5人が卒業して3人がデビューしました。VR LIVE(.LIVE公式サイト)には引退したメンバーも含まれていますが、今回の分析では除外しました。 ↩
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774 Inc. 2022年1月時点で、あにまーれ 11人、ハニスト 4人、シュガリリ 3人、ブイアパ 5人、ヒヨクロ 6人。2020年4月時点では、あにまーれ8人、ハニスト4人、シュガリリ3人、ブイアパ4人。2020年4月時点のデータを取り損ねたメンバーがいるため、今回は過去データは扱いません。 ↩
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のりプロ。2022年1月時点ではメンバーは13人。2020年4月時点でのデータを取り損ねていたメンバーがいたので、過去のデータは扱いません。 ↩
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Re:Act。2022年1月時点ではメンバーは17人。 ↩
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ぶいすぽっ!。2022年1月時点で14人。2020年4月時点でのフォロワーを取得し損ねたメンバーがいたので、過去のデータは扱いません。 ↩
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VShojo。2022年1月時点でのメンバーは8人。 ↩
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VOMS。2022年1月時点で4人。2020年4月時点でのデータを取り損ねたメンバーがいたので、過去のデータは扱いません。 ↩
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神椿。2022年1月時点でのVIRTUAL ARTISTは7人。2020年4月時点では4人。この間に、1人のTwitterアカウントが凍結され、新設されています。 ↩
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MAHA5。2022年1月時点でメンバーは5人。 ↩
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エイレーンファミリーは公式サイトが見つからず、よくわからなかったので、対象から外しました。また、個人勢やほとんど個人勢のKizua AI Inc.などは、この記事がプレッシャーになるといけないので、分析の対象から外しました。知りたい方は、自分で調べてください。 ↩
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Luana Micallef and Peter Rodgers (2014). eulerAPE: Drawing Area-proportional 3-Venn Diagrams Using Ellipses. PLoS ONE 9(7): e101717. doi:10.1371/journal.pone.0101717. http://www.eulerdiagrams.org/eulerAPE ↩
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ホロライブ、にじさんじともに、この分布は幾何分布(指数分布)に似た形をしています。何か意味があるのでしょうか。 ↩ ↩2
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2020年4月時点でJPをフォローしていて、2022年1月時点でJPをフォローせずにENやIDをフォローしている層は4000人程度いましたが、全体の0.0%なので省略しています。 ↩
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新規ファンはどこからきたのかにも興味がありますが、事務所の栄枯盛衰が激しくて難しそうだったので諦めました。 ↩
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個人的には意外な結果だったので、分析のミスも疑いましたが、今のところミスは見つかっておらず、困惑しています。ホロスターズ界隈のことはよくわかっていないので、気になる方はご自身で追試をしてみてください。 ↩
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本来は4要素面積比例ベン図で示したかったところですが、可視化の技術がなかったので諦めました。 ↩
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この図のn=2,556,866という数字は他の図とすこしずれていると思いますが、有効数字3桁だと思ってください。 ↩
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2020年4月時点でJPやIDをフォローしていて、2022年1月時点でJPやIDをフォローせずENやKRをフォローしている層の数字を省略しています。 ↩