この講座も第3弾になりましたので,いよいよAIの中身に入っていきましょう.
なおこの講座では,以前から予告してある通り,機械学習,その中でもニューラルネットワークを取り上げますので悪しからず.
今だから求められるAI
そもそもなぜAIが最近急激に流行るようになったのか?
最も大きな理由は,この情報社会の発達にあります.
技術や計算機(コンピュータ)の能力が向上したことにより,私たちは**大量の情報(ビッグデータ)**を簡単に生産できるようになりました.
(ex. 昔は天気を観測するとき,せいぜい温度計と湿度計と気圧計程度でしたが,今なら高度な観測システムが構築されていますし,人工衛星からの画像も利用できます.)
またさらに,インターネットが普及し,ビッグデータは簡単に共有されるようになりました.
こうしたデータは今まで人の手で解析されてきましたが,そのリソースには限界があることに加え,人の常識を超える解析がなかなかできないという欠点があります(人の常識とは,今までの知識に基づいた因果関係などです).
だからこそ,コンピュータを使わないとできない解析が求められているーーそれが,AIが持て囃される最大の要因です.
実際,AIの心臓である機械学習の研究は1980年代にすでに行われていました.
ところがほとんど表に出なかった.当時は早すぎたのです.
コンピュータを思う存分利用する土台が揃い,新しいコンピュータの姿を求められたとき,突然当たったスポットライトーーそれがAI,機械学習なのです.
機械学習
AIを支えている大きな技術に**「機械学習(Machine Leaning)」**があります.
ヒトと同じような高い学習能力をコンピュータで実現する技術です.
これを用いると,私たちヒトが経験を積み重ねていきながら世の中のルールを学習していくのと同じように,コンピュータは与えられたデータから規則を見つけていくことができます.
この機械学習こそ,音声,言語,画像といった様々なデータを「知識」として蓄え,「知恵」を弾き出す人工知能の心臓となるのです.
また機械学習のうち,ヒトの神経細胞の仕組みにヒントを得て造られた**「ニューラルネットワーク(Neural Network)」を利用し,深く深く学習していくことを「深層学習(Deep Learning)」**と言います.
ヒトの脳の仕組み
「ニューラル」とは,「神経の」という意味です.
というわけでまず,ヒトの脳がどのような仕組みで動いているかをご説明しましょう.
脳は神経細胞の集まりです.
神経細胞はこのような形をしています(超デフォルメ済)
この細胞体に何らかの刺激が加わる(興奮する)と,電気信号が軸索を伝わり,軸索末端に到達します.
軸索末端は他の細胞の樹状突起と繋がっていて,信号を次の細胞につないでいきます.
この連結部分をシナプスと言います.
このようにして,神経細胞同士が繋がり合い,ネットワークを形成しています.これが脳の正体です.
神経細胞の興奮は,シナプスにおいて,軸索末端→樹状突起方向のみ伝搬していきます.
軸索末端と樹状突起はべったりとくっついているのではなく,ごくごくわずかな隙間(シナプス間隙)が開いています.
軸索末端に信号が到達すると,末端の先から神経伝達物質が分泌され,樹状突起にある受容体に向かいます.
そして神経伝達物質が受容体に結合したとき,細胞体に刺激が伝わっていくのです.
逆方向に伝達することはありません.
第一のミソは,この信号は一方向にしか伝わらないという点です.
神経細胞は相互にやり取りしているのではなく,情報の発信先と受信先が分かれているのです.
神経細胞は,興奮している,興奮していないの二つの状態しかありません.
なんとなく興奮しているとか,ちょっと興奮しているとか,めちゃめちゃ興奮しているとか,そういうのはありません.
神経細胞はそれぞれ閾値を持っており,刺激の量が閾値を超えたときだけ興奮するようになっています.
ニューラルネットワークの仕組み
それでは,機械で脳を実現する「ニューラルネットワーク」について見ていきましょう.
ニューラルネットワークにおける神経細胞はこちらです.
これをパーセプトロンと言います.
神経細胞と同じように,
- 入力と出力先がそれぞれ存在する
- 閾値を超えたときだけ興奮する(興奮時に1,非興奮時に0を出力する).
性質を持っています.
これがつながると・・・
パーセプトロンが層状に並んでいます.この一つ一つを**「層(Layer)」**と言います.
人間の神経細胞は軸索を一本しか持ちませんが,パーセプトロンは次の層の(大抵)全部のパーセプトロンと繋がっています.
これによって複雑な関数を表現することができます.
次回の講座では,このパーセプトロンをどのように実現するかを紹介したいと思います.