2019.2.18~21 サンフランシスコで開かれたM3AAWG 45th General Meetingに参加して来ました。NDAの範囲内でみなさまに共有します。技術の話はだいたいNDA違反になるので伏せておきます。
M3AAWGとは?
M3AAWGとは、MESSAGING, MALWARE AND MOBILE ANTI-ABUSE WORKING GROUPの略語です。公式ホームページでは以下のように説明されています。
ref. About M3AAWG
The Messaging, Malware and Mobile Anti-Abuse Working Group (M3AAWG) is where the industry comes together to work against bots, malware, spam, viruses, DoS attacks and other online exploitation.
分かりやすく説明すると、M3AAWGはGoogleやMicrosoft、Facebook、Twitterなどメッセージングを扱っている大企業はもちろん、アメリカ政府など各国の政府・団体・学者が集まり、メッセージングのあらゆることについて議論してベストプラクティスを確立した後、RFCとして業界標準にまで発展させる超国際的ワーキンググループです。日本からも団体、ISP、ベンダー企業が毎年参加し活動していて、去年JPAAWGという日本のワーキンググループも設立されました。
M3AAWGの特徴
-
フラットな立場で話し合う。
集まったメンバーにはRFCの著者、RFCを決める人たち、GoogleでGmailを開発したキーエンジニア、アメリカ政府でメールシステムを運用しているエンジニア、アメリカ議会でメッセージング政策を提案する議員などさまざまですが、みんながフラットな立場、フラットな目線でメッセージングに関する技術や政策について話し合う場です。 -
業種を超えて一緒に対策を考える。
メッセージング分野は、閉じられた一つの組織・プラットホームの中で完結するものではなく、必ず外に相手が存在するものです。Phishingメールなど問題が起こったら一つの組織内では対応しきれないことが多いです。このような問題について利害は異なっても同じくメッセージングを扱っている人たちが一緒に対策を考え、ベストプラクティスを作り、RFCや政策政策まで発展させて行きます。(例: 2017年アメリカ政府が導入を義務付けたDMARCなど。) -
オープンラウンドテーブル形式の議論
議論されるアジェンダは事前に集められ、アジェンダ毎にオープンラウンドテーブル形式で議論されます。どのアジェンダにいつ参加するかは自由ですが、議論の結論が気になるので最後は一つのアジェンダに集中するとこになります。このオープンラウンドテーブルがM3AAWGの白眉。私の場合ケンブリッジの教授とRFCの著者、LinkedINのエンジニア、チェコのISPのエンジニアと話をしました。 -
ファシリテータの重要性
もちろんベンダーとISP、政府団体、学者で立場も意見も異なります。オープンラウンドテーブルでは意見をまとめる役のファシリテーターが二人以上いて、白熱する場をまとめます。非英語圏の参加者のたどたどしい英語での意見も素晴らしくまとめてくれました。このようなファシリテーター役を務める人はカンファレンスが始まる前に事前研修を受けることも出来ます。 -
ベストプラクティス化からRFC化、政府の政策にまで持って行く。
重要なアジェンダでオープンラウンドテーブルでは結論が出てないものは次のM3AAWGに持ち越され、大規模で議論されます。ここでまとまったらM3AAWGのベストプラクティスとして発表され、IETFにも提案出来ます。IETFはこれをRFC化出来る団体です。 -
小ワーキンググループの存在
メッセージングと言っても幅は広いのでM3AAWGには小ワーキンググループが存在します。。参加者は自分の興味で小ワーキンググループを選択して参加し、自分の持っているスキルで貢献する仕組みです。たとえばSNSのAbuse対策ワーキンググループやベストプラクティスの翻訳ワーキンググループなど。私の場合、初参加ということもあり今回は翻訳の小ワーキンググループに名前を記しました。(早速、翻訳の依頼が来ています。)
個人的感想
-
メールセキュリティ業界で長く勤めて来ましたが、この分野でここまで大規模な世界的カンファレンスは今回が初めてでした。メッセージング系エンジニアは基本的に外にはあまり出ない存在なので、同じ分野エンジニアたちを多く会えて直接現場の話が聞けたことが嬉しかったです。
-
オープンラウンドテーブルで個人が出した一つの意見がみんなの共感と支持を得てベストプラクティスになり、ついにはRFCまで行くというプロセスを目の前でみて感動しました。世界のスタンダードに携われるということ、私の知識と技術、経験で社会に貢献出来るということに喜びと誇りを感じました。
-
サンフランシスコという場所が良かったです。シリコンバレーが近いこともあり、アメリカの有名IT企業のエンジニアが会場のどこにもウロウロしていたのでいつでも話が出来ました。英語という言語やサンフランシスコという地域だからこそ得られる情報の豊富さには羨ましさまで感じました。
-
おまけな話ですが、会場のホテルが豪華でスポンサー企業が協賛してくれるご飯とおやつがゴージャスでした。Night Outのイベントではレトロゲーム機がたくさん並ぶサンフランシスコのクラブを貸し切ってゲーム遊び放題だったのも楽しかったです。
[写真: M3AAWG Night Outでゲームに夢中な様子]
次回は2019.6月ハンガリーのブダペストで開かれます。ヨロッパで開催されるとアメリカとはまた異なる参加者がたくさん集まるらしいので気になるところです。
以上。