はじめに
自分が Web 地図を構築する際は、国土地理院から提供されているタイルを背景地図として多く利用させていただいておりますが、細かく見ていると、鉄道路線の実態に対して、少し不思議と感じる表示がされていることがあります。
国土地理院の地形図は、どのような地物を表示するかのルール(図式)が定められています。せっかくですので、これを参照して地形図における鉄道の表示方法を整理してみます。
- 挿入している画像は全て、地理院タイル(標準地図)です。地形図ではありません。
- 鉄道関係の知識については、Wikipedia での確認にとどめておりますので、ご承知おきください。
図式の記載(鉄道記号の様式)
平成25年2万5千分1地形図図式の第31条のうち、「普通鉄道」に関する部分を抜粋します。
- 鉄道事業法(昭和61年法律第92号)による鉄道又は軌道法(大正10年法律第76号)による軌道に基づく鉄道に適用し、地下鉄、路面鉄道となっている部分は、以下の、「地下鉄及び地下式鉄道」、「路面の鉄道」の表示方法を適用する。
- JR線は、個々の路線名を注記する。ただし、新幹線は「○○新幹線」と注記し、新幹線が乗り入れる在来線については、在来線の名称の後ろに新幹線の名称を括弧書きする。
- JR線以外は、鉄道名及び路線名を注記する。ただし、路線名が本線とあるものを除き、他によく知られている略称がある場合には、その略称を以下の例に準じて注記する。
(例は省略)- 貨物専用鉄道のうち、鉄道事業法に基づく専用鉄道は、鉄道名に「専用線」を付して注記し、これ以外のものは、必要に応じて、鉄道名に「貨物線」を付して注記する。
- 普通鉄道で、JR線とJR線以外が線路を共有して運行されている区間は、JR線の記号で表示する。
ちゃんとミニ新幹線(山形及び秋田新幹線)の取り扱いも記載されています。
この5項目のうち、1.及び5. のルールに基づく表示を不思議と感じることが多かったので、実例を見てみます。
軌道法の路線も「普通鉄道」
法律によって色分けされている道路(国道・県道・市町村道……)があると、鉄道事業法の路線が「普通鉄道」で、軌道法の路線は「路面の鉄道」と思われそうですが、実際はどちらでも「普通鉄道」となります。
「路面の鉄道」は「道路上に敷設された鉄道に適用」とされています。図式に明示されてはいませんが、実態を見るに、「道路上の空中又は地下に敷設」は対象外のようです(ただし、高架部や地下鉄として取得されている可能性はありますが……)。
例:
- 名鉄豊川線は軌道法に基づく路線ですが、全線専用軌道なので「普通鉄道」となっています
- ゆりかもめは鉄道事業法と軌道法に基づく部分が混在していますが、ほぼ「鉄道橋(高架部)」となっています
なお、江ノ電や熊本電鉄の有名な併用軌道然とした部分は、「普通鉄道」として取得されています。
JR線とそれ以外の共有区間はJR線の記号
JR と私鉄が重複すると JR の表記となります。有名な共用例は以下のようなものでしょうか。
一方、以下の例では、レールは共用しておらず、JR と京成(成田スカイアクセス線)の線路が単線で並んでいるだけです。
厳密には、レールは共有していないはずですが、「線路」の定義次第で共用と言えるかもしれません。図式に線路の定義は記載されていませんが、日本民営鉄道協会のページを確認すると、以下の通り紹介があります。
日本工業規格では、「列車又は車両を走らせるための通路。軌道及びこれを支持するために必要な路盤、構造物を包含している地帯。」と定義しています。
JR 東日本と成田スカイアクセス線の例は、もともと成田新幹線用の路盤を共有しているはずなので、確かに広義では「線路を共有」と言えそうです。
他に、似たような例として、2社の単線並列ではありますが、複線で描かれている事例があります。
おわりに
思えば、国道等の位置づけが利用者にも明示される道路と異なり、鉄道は法律や管理者の実態と鉄道利用者向けの案内や見た目が乖離することがあります。そもそも、第二種鉄道事業者(線路を借りて営業のみ実施)や第三種鉄道事業者(営業せず線路のみ所有)が存在する以上、運行事業者と線路所有者のどちらを優先して地図を作るかの判断は難しいはずです。
現行の図式は、そのような悩みがあったうえでの結果なのかもしれません。