はじめに
Web 地図を中心に、これからの地図に求められる性質や技術や何だろう?というテーマで、思いつくことを書き連ねてみます。
まだ個人の経験に基づくアイデア段階で、エビデンスも不明瞭です。今後、折に触れて修正できればと思います。
これからの Web 地図に必要そうなもの
ローカライズ・パーソナライズ
統一的な図式で表現された地図を全国で利用できるというのは、統一的なサービスを提供する上で重要なことかと思います。以前は、統一的な地図を全国・全世界で、より大縮尺で、ということが大切だと思っていましたが、しかし、どうも異なるように感じてきました。
文化や社会が違えば、地物の重要性は変わります。海外の地図デザインで日本の地図データをそのまま表示すると、非常に使いにくいです。その原因の一つとして、日本の特に都市では非常に重要な地物である鉄道が、海外ではそんなに重要ではないところも多いために控えめな表現で記述されるから、というのがあります。世界を同じ基準で比較するというよりも、ある一定の地域で目的を果たすことを考えれば、大縮尺ほどその地域にローカライズすることが大切だと感じます。
また、究極的には、その個人が必要なものを地図上に表示するようなパーソナライズに行きつくかもしれません。Google map は、パーソナライズされた地図の代表と考えられます。さらに、その個人にパーソナライズするだけでなく、その時々の目的(検索結果)に応じて地図のないようを変更しています。これは、地図をその場でカスタマイズできる Web 地図の性質を非常にうまく使っている例ではないかと思います。
パーソナライズは、背景地図というよりも上乗せデータの方が重要かと思います。その人にとって、その時に見たいデータをどのように提供するか、データ整備と検索機能の話に帰結しそうです。
ちなみに、Google map を観察すると、個人や目的が変わっても背景地図は大きくは変更されていません。背景地図はローカライズまで、POI を含めた上乗せデータはパーソナライズまで、というところに落ち着きそうです。
AI
AI の話でにぎわっていますが、まだ自分の中の解像度は低い分野です。
地図分野において、AI は地図作成の文脈で使われることが多いですが、もうすこし大雑把な使い方もできるかもしれません。たとえば、オンザフライで空中写真のジオリファレンス等を自動でやってくれるとありがたいです。
話題の大規模言語モデルで言えば、住所のパースに威力を発揮しそうです。これには、期待しています。
Web 地図においては、地図そのものへの影響というよりも、上記のパーソナライズ化するためのツールとしての役割になるのかもしれません。
三次元
Web 地図にも三次元(3D)の波が来て久しいです。Google map は従来から 3D 表現が可能です。
地形の 3D 表現については、標高値を RGB へシリアライズし、画像タイルの技術を用いることで、シームレスな 3D データを配信するという技術が主流と感じています。国土地理院の標高タイルもこの系統です。この技術を用いることで、たとえば Mapbox GL JS や Maplibre GL JS といった Web 地図ライブラリでシームレスな地形の 3D 表現が可能となっています。
3D 表現では、Cesium もよく使われているようですが、個人的には動作に重さを感じています。
3D の地図を使うときに感じるのは、「軽さ」が重要という点です。特に Web 地図の場合は、適宜カメラ位置を変更する必要があります。3D 表現だと、いろいろなカットで見ることができるのが魅力でしょうから、なおさらカメラを動かす機会が大きくなると思います。その際に、いちいち処理に時間がかかっていたら致命的です。
軽さの点で、建物の 3D はまだ難しいと思います。国土交通省のPLATEA(プラトー)の動きがありますが、たとえば、Web 上で成果を見ることができる PLATEAU VIEW App では、1都市ずつのロードで、シームレスに見ることはできません。このようなデータをシームレスに見せるにあたり、どのように見た目とパフォーマンスのバランスをとるかが重要かと思います。
一方、Mapbox 社は、Mapbox GL JS v3 のベータ版公開とともに、その都市のランドマークとなるような建物の 3D モデルを標準スタイルの中で提供しようとしています(→参考記事)。個人的には、データ量の重さは気になるところですが、このような流れは今後も普遍的になるかもしれません。
なお、現時点では、操作の重さの点で、結局 2D の方が見やすいな、とも感じています。操作の軽快さと見た目のバランスをどのようにとっていくかが、今後の Web 地図における 3D 表現のポイントかもしれません。
また、3D にしたところで、現在、見た目以上の使い道が思いつかないのも課題かと思っていましたが、むしろ「見た目が変わると何が変わるのか?」を突き詰めていく必要性の方が高そうです。
一覧性
Web 地図では、シームレスに動かせて、その時の目的に合わせた地図を提供する、その時にいらないものは見せない、という「取捨選択」が魅力かと思います。
一方で、「一覧性」の需要が大きいという経験もしています。紙の上の地図で、情報を一覧したい場面は思っていた以上に多いです。役所文化でポンチ絵とか曼荼羅とかが批判されてはいますが、あのような一覧性が欲しくなる場面は実感しており、地図にもそれが言えるかと思います。
その場に応じた取捨選択が魅力の Web 地図だと、このようなポンチ絵的な出力はそぐわないかもしれませんが、だからといって捨てるわけにはいかない需要だと思います。
国の基本図(国土地理院の地形図等)は特にそうだと思いますが、背景地図は、国土に関するポンチ絵的な要素(=一覧性)を持っているのかもしれません。背景地図を表示するにあたり、この一覧性と見やすさのバランスをどうするかが苦心のポイントかと思います。
上乗せデータでも、どのように一覧性をもって表示させるかは重要です。地図ですべてを表現するのではなく、グラフや表も使いながら、サイト全体でデザインしていくことが必要かと思います。
空間解析
Web 地図はどうしても「可視化」に集中しがちですが、付加価値を付けるとすれば、データから結論を導くための空間解析も必要になるかもしれません。ただし、クライアントサイドの Web 地図上で高度な処理は難しいでしょうから、どこまでの機能を提供するかはバックエンドやデータとの相談になるでしょう。