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【QAポエム】ソーシャルゲームの終活

Last updated at Posted at 2023-06-11

本記事はとあるソーシャルゲーム開発会社でQA(品質管理)を務める筆者が、
業務を通して考えたこと・感じたことを書き留めるポエム記事です。
あくまでも一事例として捉えていただければ幸いです。
また、守秘のために一部フェイクも含みます。

ソーシャルゲームはいつ終わるのか

一般的に1年半程度ではないかと言われています。
ですがタイトルによってその差は激しく、平均値を取ることに大きな意味はありません。
ただ、ゲーム会社の内部にいる人間としては自分の関わるタイトルの寿命はしっかりと考えたいものです。
終わりを見据えてこそソーシャルゲームの運営のプロだと私は考えます。

しかしながら、現場で働いていると実はこの手の話題はあえて避けられている空気が見られます。どの仕事でもそうですが、創作の現場では一丸になって事業の継続や発展に向けての熱量を持ち続けることが良しとされる文化が強い。そしてそれが効果的でもある傾向があります。そんな雰囲気の中で「タイトルをたたむ時に」という話題は当然出しにくいでしょう。しかしそれを展開する立場というのも必ず必要です。現実を生きるクリエイティブとはそういうものです。

今回はQAという役職として考える終わり際のインシデントを書き留めておこうと思います。

インシデント:重大な事件・事故に発展する可能性を持つ行動や要素

サービス終了が決まると起こり得る不具合

ソーシャルゲームの運営は、運営会社にとっての事業の1つです。
そのため、タイトルのサービス終了が決まるとその事業はすみやかに縮小されます。
そうして発生するのが「人的リソースの低下」そして「意識の低下」です。

コストの関係上、サービス終了が決まったゲームに大幅なアップグレードは行わないのが基本です。そのため、未来に向けた実装物の各制作や発注が止まり、現存するリソースだけでサービス終了日までゲームを継続動作させる形の運営シフトに移行します。外部制作の会社であれば契約の解消か縮小、自社制作の会社であれば他プロジェクトへの人員スライド等を行うことでしょう。そうした対応で運営に関わる人間の数が減ることにより、何らかの対応漏れやサポート面での不備が発生し得ることは想像にかたくありません。
また、ユーザー側がサービス終了の決まったゲームに冷めてしまうように、開発社内の人員も冷めた空気をまとってしまうことも少なくありません。これは先に述べた創作の現場特有の高い熱量の負の側面とも言えます。熱い想い故に燃え尽きると精彩を欠いてしまうわけです。人間である以上、これは責められるものではないため、インシデントとして早い段階で備えておくと良いでしょう。
QAに限らず、本当は「始めから冷めた人間」もクリエイティブの現場には必要なのです。

次に注意したいのが「返金」関連の対応です。
多くの会社はソーシャルゲームの運営にあたり「資金決済法」を適用した課金システムを採用します。この法のもと、ユーザーが現実の資金で購入したゲーム内の通貨はゲームのサービス終了時点で未使用で残っていると返金(現実資金として引き出す)対応が必要となります。
そのため、ゲーム開発会社としてはゲーム内通過を「サービス終了までに使い切ってほしい」という状況になり、それらを消費するための機会をゲーム内に設ける施策を求められます。
ここに関わるインシデントとして私が注意したいのは「そもそもこの対応を忘れる」ことと、「不慣れな施策を打ってしまう」ことです。
前者はほぼありえないとは思いますが、注意するに越したことはありません。
なぜなら、人的リソースが低下したチームではありえないような対応漏れが起きるものだからです…

後者も起こりにくいものではあるのですが、注意しておきたいような具体例も思い浮かびます。
例えば、ソーシャルゲームでおなじみのガチャのシステムでユーザーが貯蔵している有償アイテムの大幅消費を狙った施策を打つとします。ガチャから排出するキャラクターやアイテムをこれまでの運用よりもお得に提供することで、買い控えのあったユーザーにもこれまで未所持だったキャラクターのストーリーやアイテムの有用効果に触れてもらい、次回タイトルへの期待なども提供するような施策が一般的です。ですがQA的な目線で考えると「その施策に機能が追いつくか」といった疑問が浮かびます。
要するにサービス終了が決まってなければやらないような大盤振る舞いを行うわけですから、ガチャシステムの排出率計算や、表示上のUIがそれに対応できないのではないかという懸念です。そしてそういった問題が明らかになっても「直せない」のがサービス終了が決まったタイトルの運営の置かれた状況です。
サービス終了が決まった時にやる施策は案外早めに考えてテストしておくのも手かもしれません。
なぜなら、それを考える人員はその時にはもう居ない可能性だってあるのです。
人的リソースの低下はそれほどに重大なインシデントです。

サービス終了間際に起こり得る不具合

QAとして働いていると「サービス終了が近い環境で発生する不具合」というものに出会ったりします。
新規のプログラム実装や、これまで行ったことのないデータ調整をしていないにも関わらずです。
まるでオカルトのような話ではありますが、実は以下のような理由があったりしました。
それは「本番環境が開発環境に近くなる」という点です。
・アクティブ(高頻度で接続状態の)ユーザー数の低下
・システム整理に伴う稼働サーバー数の削減
上記の状況が進むと、本番環境と開発環境の状態が徐々に近づいてきます。
デバッグを経験している人間ならばピンとくるかと思うのですが「開発環境でしか起きないから直していない不具合」というのが実はどのタイトルでも少なからずあるものです。そしてそれらを発生させる条件が本番環境でも再現しやすくなるのがサービス終了間近という状況に案外重なってしまうのです。

また、サービス終了が決まった段階で大きな更新の止まったタイトルでは「軽微な不具合の対応打ち切り」が早い段階で発生し得ます。これらが積み重なって目立った不具合に発展することも想像できることでしょう。

そして悪質なチート行為を行うユーザーが増えるのも実はサービス終了間際であったりします。
ソーシャルゲームの運用はチート行為とその対応のイタチごっこが長く続くものですが、サービス終了間際はその対応も打ち切られ、悪質行為が増えてしまう場合も起こり得ます。

これらの原因をまとめて「本番環境のスペックの低下」というインシデントとして、早い段階で備えておきたいものです。加えてQAとしては「開発環境でしか起きないから直していない不具合」であっても資料化しておくことが大切だと考えます。

サービス終了後に起こり得る不具合

サービス終了の時点で何もやることがなくなるかというと案外そうでもなかったりします。
・そのタイトルがブラウザゲームの場合、アクセスするURLはいつまで保持するか。
・広報に使っていたSNSアカウントなどはいつまで残すか。
そういった事後処理の対応で大きなミスがあると、有終のしめやかな空気も壊れてしまうため、タイトルの終焉とともに気をそぞろにしないことが大切と私個人は考えます。

ただし、上記だけで良ければまだ安心なのですが、近年のソーシャルゲームでは「オフライン版」の提供がサービス終了後に行われる場合があります。

オフライン版とは、そのソーシャルゲームのネットワークや対人要素を排除して、サービス終了後にも遊戯要素のみユーザーに提供できるようにしたものですが、本来のソーシャルゲームではそのシステムや仕様の面でそういった動作を想定できていない場合がほとんどです。よってオフライン版となったことで発生してしまう不具合ももちろんあります。そして困ったことにオフライン版はソーシャルゲーム時代とは違い、次回更新でその不具合を直すという対応が取れないこともあります。

タイトルによってはオフライン版は殆ど0から作り直すという事例もありますが、それもまたまだ見ぬ不具合の潜む環境にほかなりません。

慣れないことが起きる。

ソーシャルゲームの終わり際のインシデントはこれに尽きるのではないでしょうか。
いずれ訪れるその日になって「あれも必要?これも必要?」と慌てたくはありません。
やはり、なるべく早くに始めておきたいものですよね、
「終活」 は・・・

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