概要
前記事にて porg の実践的な利用方法を示しました:
ここでは、実際に porg を使い始めた方に向けての "本当の実践的活用方法" を示します。やり始めてみないと分からない話。テーマはあちこちに飛びます。
1. 本当は引用符でくくる "make install"
前記事での操作例は、表記を単純にするために porg -lD make install
としていました。これは porg -lD "make install"
というように、make install
を引用符でくくるように覚えておく方がベターです。
例えば以下のような install
ターゲットは、引用符なしではうまく動作しません。
$ porg -lD make -C doc install # NG!
porg: invalid option -- 'C'
porg: Try 'porg --help' for more information
make
コマンドに対する -C
オプションが、porg に対するオプションとして解釈されてしまうためです。make -C doc install
部分は引用符で囲む必要があります。常々引用符をつけるものだ、と覚えておけば間違いはありません。
$ porg -lD "make -C doc install" # OK!
2. "make install"
以外にもさまざまなコマンド利用
前記事でも述べたことですが、porg を使ってソースパッケージを登録するのは make install
コマンドだけではありません。さまざまなコマンドを用いて porg 登録操作を行っていくことができます。
以下は数々の例を、詳細な説明は抜きにして例示します。コメントを手がかりに読んでください。
# porg -lD "make install"
# vi /etc/myapp.conf
... myapp.conf というファイルを編集 ...
# porg -lD+ "touch /etc/myapp.conf" # touch コマンドにより porg 登録
# porg -lD+ "cp doc/* /usr/share/doc/hello-2.10"
# cp コマンドを使ってドキュメントコピー
# porg -lD+ "ln -s ../../lib/baz.so /usr/lib/baz.so"
# ln コマンドを使って symlink
# porg -lD+ "rm /usr/lib/libhello.so*"
# rm コマンドを使って so ファイルを削除
# porg -lD+ "mkdir -p /etc/myapp" # ディレクトリ生成は記録されません
porg: somepackage: No files to log # 何も記録(log)しなかったという警告エラー
# porg -lD+ "chmod 400 /etc/something" # chmod も記録されません
porg: somepackage: No files to log
# porg -lD "python setup.py install" # Autotools 以外のインストールもろもろ
# porg -lD "pip install someapp"
# porg -lD "gem install someapp"
# porg -lD "ninja install"
# porg -lD "make install" | tee mylog.log # ログ出力
# porg -lD "make install" >mylog.log 2>&1
3. 余計なものが porg に登録されてしまう
porg -lD make install
としたときに余計なファイルが porg に登録されてしまうときがあります。ありがちなのが、ソースディレクトリ内のファイルが porg に登録されてしまうことです。
ここで注意して頂きたいのは、「余計なファイルがインストールされる」とは言っていません。「余計なファイルがporg に登録されてしまう」と言っています。つまりソースパッケージ側の問題ではなく、porg 側の問題なのです。
具体例を見ます。GNU の screen-4.6.2 をインストールした例です。
porg -f screen
によって screen パッケージとして登録されたファイルを一覧表示してみます。
./configure
、make
を行い porg -lD make install
によって porg への登録を済ませているとします。
$ porg -f screen
screen-4.6.2:
/etc/screenrc
/usr/local/src/screen-4.6.2/doc/screen.info # これは何だ?!
/usr/bin/screen
/usr/bin/screen-4.6.2
/usr/share/info/dir
/usr/share/info/screen.info # ここに上と同じファイルあり!
/usr/share/man/man1/screen.1
/usr/share/screen/utf8encodings/01
/usr/share/screen/utf8encodings/02
...以下省略...
問題は
screen-4.6.2:
に続くファイル一覧の 2 行め、/usr/local/src/.../screen.info
というファイルです。これは実はソースディレクトリ内のファイルであって、screen パッケージが「インストール対象物をここに置きます」といって置いたものではありません。
それが証拠に、その数行下に (ディレクトリこそ異なりますが) 同名ファイル /usr/share/info/screen.info
が一覧の中に表示されていて、まさにこれが、正しいディレクトリにインストールされた結果であるわけです。ソースディレクトリ内の /usr/local/src/.../screen.info
というファイルは間違っています。というか、そもそもソースコードからパッケージビルドを行った場合、インストールした後にはソースディレクトリは削除しますから、こんな風に porg に登録されても、ソースディレクトリ内のファイルはすぐ削除されます。porg に登録されることがおかしいのです。
なぜこんなことになるのか。これは止むを得ません。porg にとっては、
make install
によって、その裏側で実際にファイルの移動 (mv
) やコピー (cp
) などが行われたものすべてを登録することしか、対処のしようがないからです。
中身を仔細に調べてみると、screen パッケージは make install
の際に、makeinfo ./screen.texinfo -o screen.info
というコマンドを実行して screen.info
なるファイルを生成しています。これはソースディレクトリ (厳密にはビルドディレクトリ) 内での話です。これをやられてしまうと porg は、インストール操作中に新たに create されたファイルであることから、インストール対象物として捉えてしまいます。これがインストール処理なのか、そうではないのかは porg には分かりません。だから 2 行めのファイルとして -f
オプションの一覧にあがってしまっているのです。
これを避ける方法を紹介します。
-E
オプションを活用します。そして詳細な説明は省略しますが、-E`pwd`
とするのが手っ取り早い解決法です。
このオプションはディレクトリ名を引数にとるもので、そのディレクトリ配下のファイルは porg に登録しないことを指示します。
-E`pwd`
という入力は、カレントディレクトリ配下のファイルを porg に登録させないことを意味します。ここでいうカレントディレクトリは、ソースディレクトリ (厳密にいうとビルドディレクトリ) を指すことになります。こうすることで、screen パッケージの例でいえば、ソースディレクトリ配下の、例の screen.info
というファイルの登録が阻止できることになります。
$ porg -lD -E`pwd` "make install"
一般的には
-E`pwd`
というオプションだけでは対処できない場合もありますので留意しておいてください。
そもそもこの -E
オプションのデフォルト値は /tmp:/dev:/proc:/selinux:/sys:/run
というものです。ここに列記されているように、/
(ルートディレクトリ) 配下の特別なディレクトリを除外する指定です。
-E`pwd`
という指定の仕方は、このデフォルト値を上書きして `pwd`
だけを除外ディレクトリに指定するものとなります。デフォルト値を上書きしたことから、/tmp:/dev:/proc:/selinux:/sys:/run
の指定は為されなくなります。したがってもし /tmp
や /run
などにインストールを行う (あるいはインストール処理時に、一時的にせよこれらのディレクトリへの書き込みを行う) パッケージがある場合は、そのディレクトリに対するインストール処理が記録されることになります。少なくとも /tmp
へのインストールなんて普通はありえません。このように -E`pwd`
という指定は思わぬ副作用を生む可能性がありますから注意してください。一切の不具合をなくすためには -E/tmp:/dev:/proc:/selinux:/sys:/run:`pwd`
と指定するのが最上の手立てになりますが、そこまでしなくてもせめて -E/tmp:`pwd`
くらいは必要になるかもしれません。
4. 生成バイナリを tarball にするスクリプト porgball
ソースコードからビルドした各種パッケージを porg に登録した場合に、そのインストールファイル (実行バイナリやドキュメントなど) を tarball に固めるスクリプト porgball
というものが用意されています。せっかくソースコードからビルドしたのですから、バックアップの意味で、あるいは他マシンへのコピーなどに活用できる補助ツールです。
実例を示します。GNU hello パッケージを既に porg により登録しているとします。porgball
を使って登録内容 (インストール内容) を tarball にします。
... 操作するディレクトリはどこでもよい...
# porgball hello
tar: メンバ名から先頭の `/' を取り除きます
あるいは
# LANG=C porgball hello
tar: Removing leading `/' from member names
警告メッセージ「メンバ名から先頭の `\' を取り除きます
」は tar
コマンドが出力しているもので、tar
の仕様に基づくものです。
上によりカレントディレクトリに tarball が生成されます。以下で確認します。
# ls
hello-2.10.porg.tar.gz
# tar tf hello-2.10.porg.tar.gz | less
usr/bin/hello
usr/share/info/dir
usr/share/info/hello.info
usr/share/locale/bg/LC_MESSAGES/hello.mo
usr/share/locale/ca/LC_MESSAGES/hello.mo
...以下省略...
生成される tarball には、サフィックスとして .porg
がつきます。
またデフォルトでは tar.gz が生成されますが、tar.bz2 にするには -b
オプション、tar.xz にするには -x
オプションが用意されています。詳しくは porgball --help
や man porgball
を参照してください。