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位相空間における連続写像を定義する

Last updated at Posted at 2019-02-01
\newcommand{\inverse}[1]{#1^{-1}}
\newcommand{\setR}{\mathbb{R}}
\newcommand{\scrO}{\mathcal{O}}

※この記事は,私のブログで執筆した記事『さんすうのーと(2) ―連続写像』を若干編集し,移植したものです.

はじめに

今回は,位相空間上に連続写像を定義するために重要となる,距離空間上の連続写像に関する定理を取り上げようと思います.

解析学の授業で,ε-δ論法による連続関数の定義を学んだ方は多いと思います.
距離空間における連続写像も同様に定義されるのですが,その定義と同値な命題が色々と存在します.
そして,今回取り上げる同値な命題には「距離」を用いた表現が一切含まれておりません.
つまり,その命題の中では距離関数を用いていないということです.

「距離関数を用いていない」というところが大変重要であり,より抽象度の高い位相空間上に連続写像の概念を拡張することができます.
位相空間には「近さ」の概念はあるものの,距離空間のように「近さ」を定量化する(数で表す)ことができません.
なので,位相空間上に連続写像の概念を拡張する上で,ε-δ論法にる定義じゃいかんわけです.

以上のことを念頭に入れて,どのように位相空間上に連続写像を定義するかを見ていきましょう.

距離空間上の連続写像

まず,距離空間上での連続写像を,ε-δ論法を用いて定義します.

定義

$(X,d_X),~(Y,d_Y)~$を距離空間とする.
このとき,写像 $f \colon X \to Y~$が点 $x_0 \in X$ で連続であるとは,

\forall \varepsilon > 0,~ \exists \delta > 0,~ \forall x \in X,~ [x \in B(x_0~;~\delta) \Rightarrow f(x) \in B(f(x_0)~;~ \varepsilon)] \tag{a}

が成り立つことをいう1
そして,上記の $f$ が任意の $X$ 上の点で連続である時,$f$ を $(X,~d_X)$ から $(Y,~d_Y)~$への連続写像という.$\square$

上記の(a)は次の2つと同値であり,下の表現を証明で使います:

\forall \varepsilon > 0,~ \exists \delta > 0,~ f(B(x_0~;~ \delta)) \subset B(f(x_0)~;~ \varepsilon)\\
\displaystyle \forall \varepsilon > 0,~ \exists \delta > 0,~ B(x_0~;~ \delta) \subset \inverse{f}(B(f(x_0)~;~ \varepsilon))

ε-δ論法を用いた定義と同値な命題

次の定理が位相空間上に連続写像を定義する際に重要となります.

定理

(上の定義中の設定を引き継ぐ)
次の二つの命題は同値である:

(1) $f$ は連続写像
(2) 任意の $Y$ の開集合 $O$ に対し,$\inverse{f}(O)$ は $X$ の開集合となる
$\square$

定理中の(2)に注目してみると,距離関数は全く登場していませんよね.
(2)で登場しているのは,距離関数により定まる開集合のみです.
そして,この開集合という概念は位相空間にもあるので,これにより位相空間における連続写像を「任意の開集合の逆像が開集合となるような写像」と定義してよいだろうということになります.

また,ここでは示しませんが,(2)に出てくる「開集合」を全て「閉集合」に置き換えた命題(2')とも同値です2

(2') 任意の $Y$ の閉集合 $F$ に対し,$\inverse{f}(F)$ は $X$ の閉集合となる

これより,連続関数 $f \colon \setR \to \setR$ のグラフが閉集合であることも簡単に分かります.
直感的には正しい気がしますが,これをε-δ論法を使って示そうとすると,そう簡単にできません.
しかし,(2')を利用すると,いとも簡単にこの主張を示すことができるのです.

グラフが閉集合であることの証明が気になる方は,すぐ下の証明を見てください.

証明
$\Gamma := \{ (x,y) \in \setR^2 ~;~ y = f(x) \}$ とおく.
$\Gamma$ が閉集合であることを示せばよい.
$F(x,y) := y - f(x)$ とおくと,$F \colon \setR^2 \to \setR$ は連続関数となる.
また,$\Gamma=\{ (x,y) ~;~ F(x,y)=0 \} = \inverse{F}(\{0\})~~$である.
$\setR$ の一点集合が閉集合であることと,$F$ が連続であることより,閉集合の逆像 $\inverse{F}(\{0\})~$は閉集合である.$\square$

定理の証明

$\scrO_X, \scrO_Y$ をそれぞれ $X,Y~$の開集合全体の集合とおく.

(2) $\Rightarrow$ (1)の証明

点 $x \in X$ を任意にとる.
任意の $\varepsilon > 0$ に対し,$B(f(x) ~;~ \varepsilon) \in \scrO_Y~$ であるから,仮定より

\inverse{f}(B(f(x) ~;~ \varepsilon)) \in \scrO_X

となる.
$x \in \inverse{f}(B(f(x) ~;~ \varepsilon))~$ であるから,開集合の性質より,ある $\delta > 0$ が存在して

~B(x ~;~ \delta) \subset \inverse{f}(B(f(x) ~;~ \varepsilon))~

が成り立つ.
つまり,$f$ は $x \in X~$で連続である.
$x$ は任意にとっていたので,$f$ は連続写像である.

(1) $\Rightarrow$ (2)の証明

$O \in \scrO_Y$ を任意にとる.
任意の点 $x \in \inverse{f}(O)$ に対し,$f(x) \in O$ であるから,開集合の性質より,ある $\varepsilon > 0$ が存在して$~B(f(x) ~;~ \varepsilon) \subset O~$となる.
これより,

\inverse{f}(B(f(x) ~;~ \varepsilon)) \subset \inverse{f}(O) \tag{b}

が成り立つ.
また,仮定よりある $\delta > 0$ が存在して

B(x ~;~ \delta) \subset \inverse{f}(B(f(x) ~;~ \varepsilon)) \tag{c}

となる.
(b),(c)より,$x$ は $\inverse{f}(O)$ の内点であるから,$\inverse{f}(O) \in \scrO_X$ となる.
$O \in \scrO_Y$ は任意にとっていたので,以上より示された.$\square$


  1. 距離空間 $(X,~d)$ に対して$~~B(x ~;~ \varepsilon) := \{z \in X ~;~ d(z,x) < \varepsilon \}~$と定義しています. 

  2. 他にも(2)と同値な命題が存在するので,気になる方は内田さんの『集合と位相』のp64,65あたりなどを読んでみてください. 

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