「付加価値のつくりかた」 要約(前編)
一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質。
付加価値は生産性を上げる「最強スキル」である。
キーエンス出身の著者 田尻望氏が付加価値のノウハウを体系化した一冊。
・イントロダクション
あなたの会社の製品のコストをそのままに価格を20%UPすると、利益はどうなるか?
例えば営業利益率が5%の企業ならば、利益は5倍になる。
一方でこの会社で価格をたった5%下げただけで、その利益は0になる。
この結果が示すように生産性を上げることは仕事をする上で一番重要な事項だ。
この生産性を上げるために必要なスキルが「付加価値をつくる」ことである。
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第1章 付加価値における「価値」の話
はじめに、価値と付加価値の定義づけをする。
「価値とは相手が決めるもの」
「付加価値はニーズが源泉である」
つまり、お客様が商品やサービスに価値をつけ、
付加価値はお客様のニーズを叶えるものである。
まずは価値を理解し、自分の仕事に価値があるか判断しましょう。
Q.1 お客様の買うという意思決定に影響を与えているのか?
Q.2 商品・サービスを買った後、本当に使うのか?
Q.3 それを使ったら、役にたつのか?
お客様があなたの商品に対し、「こういうの探してたんだよ!」と言ってくれるのか、
買った後実際に使い、リピートしてくれているのか、商品を使うことによってお客様の
抱えていた問題は解決したのか。
これらの問いに一つも当てはまらない場合、あなたの仕事はムダです。
「価値」を理解せずこの世に送り出された商品・サービスはごまんとあります。
ある大手家電メーカーが洗浄力No.1を謳い多大なコストをかけ洗濯機を開発しました。
一番のアピールポイントを洗浄力とし、大々的に広告しました。
ここで質問ですが、あなたが洗濯機に求めることはなんですか?
洗浄力です!って答える方はほとんどいないのではと思います。
顧客のニーズは顧客の困りごとから生まれるということを理解しなかった
がために、役に立たないガラクタを作ってしまったのです。
(洗浄力が求められるのは洗剤です)
実際洗濯機に求められるニーズは騒音、節水節電、容量、乾燥機能、デザインだそうです。
このメーカーは付加価値として提供すべき要素を見誤り、
「作れたから作った」
か
「エンジニアのエゴ」
を押し通してしまったのです。
このように顧客の心理を考えずに、スペックを謳ったマーケティングは
ムダが多く赤字を生み出してしまう恐れがあります。
価値を理解していないこと以外にも、売り手が陥りがちなミスとして、
「なぜお客様は買うのか?」
よりも
「どうすれば売れるのか?」
を優先的に考えてしまうことです。これは売り手主体の思考であるため、
どうしてもスペックから入ってしまうのです。
ビジネスのゴールはお客様に買ってもらうことです。
お客様主体で、「なぜ買うのか」をまず考えましょう。
キーエンスは新商品開発はマーケットイン型、つまり顧客のニーズにフォーカスした
企画開発を行なっています。キーエンスは開発前に市場に足を運び、
「この商品を作ったら、買ってくれますか?」
と直接聞きます。もちろんこのフレーズ以外にも聞き込みを行い徹底的な市場調査を行い
商品開発に反映しています。
キーエンスのような徹底した市場調査を経ていない商品・サービスは
仮説だけをもとにつくられた「見切り発車」であり、十中八九失敗します。
付加価値をつくる起点になるために、
「価値とは何か?」と「お客様」を理解しましょう。
(付加価値=価値-外部購入価値)
第2章 それは付加価値か、ムダか?
お客様に絶対に言ってはいけない一言があります。
それは売り手が価値を勝手に決めてしまうような一言。
例えば
「こちらのプランは少々高くなっておりまして...」
のような言葉です。先ほど述べたように価値はお客様が決めるものです。
このような物言いは絶対にしてはいけません。
売り手として、価値はお客様に決めさせる必要があります。
お客様が心の中で期待している
「こんなサービスだったらその金額でも支払うなあ」
を叶えることを目指しましょう。
続いて付加価値の構造の話をしましょう。
著者のセミナーで付加価値とは何か?と尋ねると多くの人は
「お客様のニーズを超えたもの」
と答えるそうです。相手の期待を超えたプラスα的な何かであると。
実はこの部分はお客様が求めていないムダな部分です。
先の例で言えば「洗浄力No.1」がまさにこの部分です。
では付加価値とはどこか?
答えは
「原価に上乗せされた部分からお客様のニーズまで」
です。商品が元々有している価値に付加できたものが付加価値なので、
原価(元々の価値)からお客様のニーズを叶える部分までが付加価値であり、
そのラインを超えるものはお客様は求めておらず、ムダです。
付加価値を支えるもの。それは
「顕在ニーズ」
と
「潜在ニーズ」
です。顕在ニーズは目的がお客様の頭に明確にあるものです。
例えば、金持ちになりたいとか、シュメール人に会いたいとかです。
潜在ニーズはお客様が認識していないニーズで、多くの場合顕在ニーズの裏に潜んでいます。
例えるならこんな感じです。
・痩せたい→顕在ニーズ
なぜ痩せたいか?
・モテたいから→潜在ニーズ
といった感じです。多くの人は顕在ニーズの裏にある潜在ニーズに気づいていません。
気づいていないからこそ、この潜在ニーズを叶えることによって、
それは感動・付加価値となりうるのです。
また、付加価値には3つの種類があります。
①置換価値
今より便利に、今と同じ感動を味わえる価値
②リスク軽減価値
「リスクを減らしたい」を叶える価値
③感動価値
その人がまだ味わったことのない、未知の価値
顕在ニーズの裏に潜む潜在ニーズにフォーカスし、そのニーズはどの種類の価値と
なりうるのか考え、開発・マーケティングを行うことが重要です。
キーエンスではお客様の現場に赴き徹底的に潜在ニーズを調べ上げ、
世界初・業界初を生み出し続けています。
(その上で特注品ではなく標準品を作っているのが凄い)
第3章 付加価値創造企業「キーエンス」
「構造が成果を創る」
私たちは構造に動かされおり、成果は構造によって生み出される
これは著者が提唱しているキーエンスのコンセプトです。
キーエンスは平均年収2000万円を誇る大企業ですが、実際社員全員がその給与に見合う
成果を上げているかと言われれば答えはノーだそうです。
キーエンスは営業・企画開発・人事といった社内全ての構造が
「お客様に付加価値を提供するための構造」
になっており、その構造によって創られる成果が富を築いているのです。
(キーエンスの構造については別書「構造が成果を創る」参照)
「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」
これはキーエンスの経営理念です。
要するに同じ利益が出るならコストの少ない方を追求しなさいということです。
(皆やってるよって聞こえてきそうですが、キーエンスはお決まりの如くレベルが違うのでしょう)
実際にキーエンスがどう付加価値を生み出しているのか。
キーエンスは企画開発に「マーケットイン型」を取り入れています。
先にも述べたように、市場(お客様目線)で企画開発を行います。
・それは本当に売れるのか?
・実際に使われるのか?
・使うことで役に立つのか?
・どんな役に立つのか?
この徹底した市場調査によって
最大公約数の仕様と機能を備えた標準品を作り上げ、成果を生み出します。
具体的なキーエンスの商品開発プロセスは以下のようになっています。
①思いつき → 知人・取引先・ネットで調査
②仮説立案 → 徹底的な市場調査(メガ・ミクロトレンド、シーズ)
③より緻密な仮説立案 → 市場に出すべきプロダクトテーマの選定
④マーケットイン調査 → クライアントへ直接ヒアリング(お宅買うん?使うん?役立つん?)
⑤商品化決定 → 再度商品化検討&投資回収期間、貢献利益も計画
ポイントは利益を上げるかどうかの検討も緻密に行うことと、調査をもとに立てた仮説が正しいか、
再度検証を行う点です。彼らはこのプロセスを常人には理解し難いスピードで行い、
高付加価値状態での標準化を行なっています。
標準化に関して、キーエンスが経営理念の主軸にしている考えがあります。
それは、
「市場原理、経済原則で考えることが大切である」
です。市場原理は再三になりますが
「お客様が何を買い、どう使い、いつ感動を感じるか」
経済原則は
「どうすると一番利益が出るのか?」
という意味です。シンプルですがこの考えが非常に重要です。なぜなら、
「企業や個人の判断・解釈は常に市場とずれている」
からです。この考えをベースにキーエンスは多くの企業の事例・困り事を蓄積し、
広く展開できる汎用性があって集約・分散できる機能を備えた標準品を作り上げています。
キーエンスは実に70%の商品が世界初・業界初です。
このことによって付加価値戦略と差別化戦略を両立させているのです。
「初」によってまだ見ぬ価値としてお客様へ感動を与えるのはもちろんのこと、
他社と相見積もりを取られることがほぼありません。(=差別化)
相見積もりを取られないことで価格競争から抜け出し、独自のブランド力を保持しています。
前編の最後に、なぜあなたの会社はキーエンスになれないのか?
これまで述べてきたキーエンスが行なっていることを、
実践している企業は多く存在していることでしょう。
しかしそれは、
「一部の人が実践している」
に過ぎないのです。
キーエンスの場合は
「構造化を徹底し、再現性を目指して、同時に全てのことを全ての人がやっている」
のです。キーエンスにも負けない実力を持ったセールスやエンジニアはどの企業にも
1人2人いるかもしれませんが、キーエンスは全員がそのレベルで仕事しているのです。
(人材不足のこのご時世に贅沢だなあと感じますが)
営業についてさらに踏み込むと、
キーエンスでは技術営業と営業の守備範囲がかなり重複しており、
他社に比べて圧倒的に技術営業が少ないそうです。(どんな教育してんだ)
両者で役割ははっきりと分かれていますが、シームレスにつながっており、
営業が単独でお客様のもとへ出向いて案件を獲得できるだけの力を持っています。
(私もいくつかの企業でインターンや労働経験がありますが、営業がお客様と
技術営業をつなぐ伝書鳩化している例は少なくありませんでした)
なぜキーエンスになれないか。キーエンス流で言わせれば、
「どれかをやっていない」
「誰かがやっていない」
はほころびであり構造を壊す要因なのです。
キーエンスはほころびを生まないために
「全てを数値で判断する」
ということを徹底しています。
例えば営業利益を一定比率で全社員に分配する持ち株制度のようなものに更に踏み込み
「会社全体の利益が個人の報酬として即座に還元される仕組み」
を整えています。人事においても、行動やプロセスまでもが数値化され、
属人的な頑張りよりも、仕組みの価値を重んじており、
これがほころびの発生を防ぎキーエンスをキーエンスたらしめているのです。
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後編につづく