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TSL(Three.js Shader Language)入門

Last updated at Posted at 2024-06-15

はじめに

この記事は、Three.jsで導入されるThree.js Shader Language(TSL)について、その概要と基本的な使い方を記録、共有するためのものです。

対象とする読者

  • Three.jsの基本的な使い方を理解している
  • シェーダーに興味がある
  • GLSLの基本的な知識がある

対象環境

この記事を読む前に

TSLの仕様は現在ドラフト版と位置付けられています。ユーザーからのフィードバックを受け付けている段階で、将来的には仕様が大きく変更されるかもしれません。Three.jsとブラウザーのバージョンを確認してからお読みください。

この記事では、JavaScriptの開発環境やThree.jsのインストールガイドは取り扱いません。Three.jsの基本的な使い方については、公式ドキュメントを参照してください。

TSLとは

Three.js Shader Language(TSL)は、Three.jsが新たに推進するシェーダー言語です。2024/05/29にThree.jsから最初の仕様がアナウンスされました。

TSLに関連する用語

まず、TSLに関連する用語を整理します。

  • Node : 値の変更を検知し、演算を行い、複数のNodeを合成するオブジェクト
  • NodeMaterial : 複数のNodeをメンバー変数に持つマテリアル。Nodeを入れ替えることでレンダリング結果が変わる
  • WebGPURenderer : NodeMaterialをオンザフライでWGSL(WebGPU)やGLSL(WebGL2)に変換するレンダラー

これらの要素を総合してTSLと呼びます。

なぜ新しいシェーダー言語が必要なのか

現在、Three.jsはWebGPUへの段階的移行と、シェーダー作成の難易度を下げるという2つの目標を掲げています。この目標を達成するために、TSLが導入されました。

WebGPUへの移行

Three.jsはWebGLコンテンツをJavaScriptで記述するためのライブラリです。

WebGLでは最新のGPUを最大限に活用できません。この問題を解決するためにWebGPUが開発されています。

WebGPUはシェーダー言語にWGSL(WebGPU Shading Language)を採用しています。この言語はWebGLで使われてきたGLSL(OpenGL Shading Language)とは互換性がありません。

Three.jsは1つのソースからWGSLとGLSLの両方を出力する中間言語としてTSLを導入しました。

Shader Chunkの複雑化

現状のThree.jsは、シェーダーの処理を共通化するためにShaderChunkという仕組みを採用しています。これはGLSLコードを文字列として扱い、レンダリング直前に置き換えるというものです。

Three.js内蔵のShaderChunkに依存するシェーダーは、その変更によって動作しなくなります。たとえばShaderChunk内の変数名が1つ変わっただけで、そのChunkに依存する後続処理が失敗します。

TSLはJavaScriptで記述されるため、WGSLへ変換する際にTree Shakingが適用されます。ShaderChunkと違い、シェーダーの処理は入出力以外が隠蔽され、変更による影響範囲が限られます。

GLSLとTSLの関係性の整理

従来のGLSLで記述されたシェーダーマテリアルとTSLの関係性を整理します。

  • WebGLRenderer → ShaderMaterial → GLSL
  • WebGPURenderer → NodeMaterial →(変換)→ WGSL / GLSL

NodeMaterialにNodeを渡すと、WebGPURendererがNodeをWGSL(WebGPU)またはGLSL(WebGL2)に変換します。

WebGLRendererではNodeMaterialはサポートされません。NodeMaterialはWebGPURendererでのみサポートされます(関連issue)。

TSLの目標

TSLが実現されると、以下のような利点があります。

WebGL2とWebGPUで動作するシェーダーマテリアル

Three.jsは以下の手順でWebGPUへの移行を進めています。

  • レンダラーをWebGLRendererからWebGPURendererへ移行する
  • WebGPUが動作しない環境では、WebGPURendererがWebGL2にフォールバックする

カスタマイズしたGLSLに依存しないコンテンツは、WebGLRendererをWebGPURendererに入れ替えるだけで移行が完了します。GLSLで記述したシェーダーをTSLに移行すれば、WebGPUがサポートされていない環境でもコンテンツが動作するようになります。

シェーダーの再利用性向上

TSLはシェーダーの処理をノードとして切り出せます。

  • 基本となるノードマテリアルを安全に継承し、カスタマイズできる
  • 頻繁に利用するシェーダーをノードに切り出すことで、複数のマテリアルに再利用できる

ノードエディター

NodeMaterialはシェーダーの処理がNodeに切り出されており、ビジュアルシェーダーエディターが実現可能です。将来的には、Three.jsでもUnityのShader Graphのようなエディターが利用できるかもしれません。

ブラウザー上で動作するThree.js用のノードエディターは、Three.js PlayGroundというページで公開されています。

参考Pull Request

Three.js NodeEditor

TSLの基本

ミニマムなNodeMaterialを作成し、TSLの基本を理解しましょう。

セットアップ

Three.jsからTSLを利用するために、関連するクラスをimportします。

import { Mesh, PlaneGeometry } from "three";
import { MeshBasicNodeMaterial } from 'three/nodes';

const material = new MeshBasicNodeMaterial();
const mesh = new Mesh(new PlaneGeometry(10, 10), material);

シェーダーをカスタマイズしないNodeMaterialを作成しました。このマテリアルは、MeshBasicMaterialと同じように動作します。

TypeScriptの場合、importに注意

import { MeshBasicNodeMaterial } from 'three/src/nodes/Nodes.js';

Three.js r167は、package.jsonのexportsフィールドwebgpuもしくはtslというサブパスを指定しています。公式ドキュメントではこのサブパスでサンプルコードが記述されています。

TypeScriptを使う場合、tsconfig.jsonのmoduleResolutionフィールドがnodeだとexportsフィールドが解決できません。

  • サブパスを使わずthree/src/nodes/Nodes.jsを直接importする
  • tsconfig.jsonのmoduleResolutionbundlerもしくはnode16にして、threeのimportをすべてwebgpuサブパスに統一する。

この問題を解決するためには、上記のいずれかの方法を選択してください。

レンダリング結果を変更する

NodeMaterialには、メンバー変数としてNodeが組み込まれています。これらのNodeを置き換えると、レンダリング結果が変わります。

import { Mesh, PlaneGeometry } from "three";
import { MeshBasicNodeMaterial, color } from 'three/nodes'; // colorノードを生成する関数をimport

const material = new MeshBasicNodeMaterial();
material.colorNode = color(0xff0000); // カラーノードを赤色に変更
const mesh = new Mesh(new PlaneGeometry(10, 10), material);

このコードでは、colorNodeに固定値を割り当てて赤色に変更しています。TSLのcolorは、Nodeを生成するための関数です。NodeMaterialのコンストラクター内でたくさんのNodeが初期化されていますが、まずは以下の3つのNodeを覚えてください。

  • colorNode : マテリアルに適用される色を決定するノード
  • fragmentNode : カラーノードにライトやフォグの影響を合わせたノード
  • positionNode : ジオメトリの座標を出力するノード

他にもopacity、shadow、normalなどのNodeがあります。目指す表現にあわせて、これらのNodeを入れ替えましょう。

マテリアルの設定値をNodeとして扱う

マテリアルに設定された値をNodeとして扱いたい場合は、materialColorなどのアクセサー関数を使います。

import { Mesh, PlaneGeometry, Color } from "three"; // three.jsのColorクラスをimport
import { MeshBasicNodeMaterial, materialColor } from 'three/nodes'; // TSLのuniformを生成する関数をimport

const material = new MeshBasicNodeMaterial();
const mesh = new Mesh(new PlaneGeometry(10, 10), material);
material.colorNode = materialColor; // カラーノードにマテリアルのcolor変数を割り当てる。

material.color.setHex(0x00ff00); // マテリアルの設定を変更すると、レンダリング結果に反映される。

ほかにもopacityなどのアクセサー関数が用意されています。

変数を扱う

Nodeマテリアルのレンダリングに成功しましたが、固定値を割り当てたためマテリアル設定が変更できません。次に、変数を扱う方法を解説します。

Uniform

uniformはJavaScriptからWebGPUに変数を渡すためのNodeです。

import { Mesh, PlaneGeometry, Color } from "three"; // three.jsのColorクラスをimport
import { MeshBasicNodeMaterial, color, uniform } from 'three/nodes'; // TSLのuniformを生成する関数をimport

const uniformColor = uniform(new Color(0xff0000)); //Colorインスタンスを参照するuniformノードを作成
const material = new MeshBasicNodeMaterial();
const mesh = new Mesh(new PlaneGeometry(10, 10), material);
material.colorNode = uniformColor; // カラーノードにuniformノードを割り当てる。

uniformColor.value.setHex(0x00ff00); // uniformノードの値を変更すると、レンダリング結果に反映される。

この例では、uniformColorというuniformノードを作成し、Colorインスタンスを割り当てました。このuniformノードをcolorNodeに割り当てることで、マテリアルの色を動的に変更できます。

uniformノードにはvalueというメンバーがあり、ここでuniformに割り当てたインスタンスが格納されています。この値を変更すると、次のレンダリング時に値がGPUに転送されます。

可変長配列にはuniformArray

可変長配列をuniformにしたい場合はuniformArrayノードを使います。

import { Mesh, PlaneGeometry, Vector4 } from "three";
import { MeshBasicNodeMaterial, uniformArray } from 'three/nodes'; // uniformArrayをインポート

const vectors = uniformArray( [
	new THREE.Vector4( 1, 0, 1, 1 ),
	new THREE.Vector4( 0, 1, 0, 1 ),
	new THREE.Vector4( 0, 0, 1, 1 )
] ); //uniformArrayには配列を渡す

const material = new MeshBasicNodeMaterial();
const mesh = new Mesh(new PlaneGeometry(10, 10), material);
material.colorNode = vectors.element(0);
  //uniformArrayには[]ではなくelementでアクセスする。
  //elementの引数にはNodeも渡せるので、attributeを参照したり、別のuniformを参照できる。

Attribute

attributeはジオメトリの頂点情報をフラグメントシェーダーで受け取るためのNodeです。BufferGeometryには、デフォルトで座標や頂点カラーなどのAttributeが登録されていますが、カスタムアトリビュートを追加することで、頂点ごとに異なる値をシェーダーに渡せます。

const geometry = new PlaneGeometry(10, 10);
const customAttribute = new BufferAttribute(
    new Float32Array(geometry.attributes.position.array),
    3
);
customAttribute.setXYZ(0, 0, 0, 0);
customAttribute.setXYZ(1, 1, 0, 0);
customAttribute.setXYZ(2, 0, 1, 0);
customAttribute.setXYZ(3, 1, 1, 1);

geometry.setAttribute("customColorAttribute", customAttribute); //ジオメトリに"customColorAttribute"という名前でアトリビュートを追加する。

const material = new MeshBasicNodeMaterial();
material.colorNode = color(attribute("customColorAttribute")); //カラーノードからカスタムアトリビュートを参照する。
const mesh = new Mesh(geometry, material);

この例ではcolorNode内でカスタムアトリビュートを参照し、頂点ごとに異なる色を割り当てています。

オペレーター

JavaScriptでは演算子オーバーロードができません。そのため、TSLではWGSLの演算子を関数として定義しています。

import { float } from 'three/nodes'; 
const operated = float(1).add(2); // = 1 + 2

各関数は戻り値としてNode自身を返します。そのため、メソッドチェーンで演算を連続できます。

tslFn(TSL関数)

tslFn(TSL関数)は、複数のNodeを参照して、演算結果を返すNodeを生成する関数です。以下のような用途に利用できます。

  • ノイズ関数のような、複数のマテリアルで再利用したい処理をノード化する
  • 複数のノードを入力として受け取り、合成するノードを生成する

tslFnは処理に必要なNodeを引数として受け取ります。ShaderChunkのように他のChunkで設定されているはずの変数に依存することがなく、再利用性が高くなります。

個人的な感想

この記事ではTSLの背景と基本的な使い方を紹介しました。従来のShaderMaterialには再利用性の問題がありましたが、TSLではその問題が改善しそうです。TSLに慣れておくと、WebGPUへの移行がスムーズになりそうです。

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