はじめに
以下の論文のまとめ。
Y. Soda, et. al. Colorimetric absorbance mapping and quantitation on paper-based analytical devices. Lab on a Chip, 2020.
論文:
https://pubs.rsc.org/en/content/articlehtml/2020/lc/d0lc00028k
Lab on a Chipのimpact factorは6.799(2021/12/13)
概要
- μPAD(microfludic paper-based analytical devices)において、染料の量を求める新しい手法。以下が手法の流れ。
- 第1段階:カメラに写ったピクセルごとの吸光度を画像のRGB値から求める
- 第2段階:それらからノイズを除去する
- 第3段階:ランベルト・ベール法を用いて各ピクセルにおける吸光度から染料の量を推定する
- 第4段階:各ピクセルの染料値を積分し、対象領域の染料の量を求める
重要用語まとめ
馴染みのない分野なので、重要と思われる用語をまとめる。
- colorimetric・・・「比色分析の」「比色定量の」という意味の形容詞。論文中ではおそらく、他の色との比較で色の絶対的な値を決める手法のことか
- absorbance・・・「吸光度」。論文中では対象物質がどれほど光を吸収してるか、という文脈の中で用いられている。
- heterogeneous color distribution・・・直訳すると「異質の色分布」。論文中では紙上における色の分布、という文脈の中で使われる
- discharged dye・・・直訳すると「吐出された染料」。discharge自体は多義語だが、論文中では、おそらく紙等に実験のため吐出された染料を意味するだろう
- paper substate・・・直訳すると「紙の基盤」。発色試薬を染み込ませる紙。
- defined channel・・・channelは「流路」の意味。
- hydrophobic barrier・・・直訳すると「疎水性の壁」。channel(流路)を制御するため疎水材料でコーティングする。
- assay・・・論文中では名詞として使われていて「(実験の)評価」くらいか。
- biomolecules・・・「生体分子」
- spectrophotometry・・・「分光光度法」。光のスペクトルを測定すること。colorimetric absorbanceの言い換えか?
- transmittance・・・「透過率」
- Thioflavin T ・・・蛍光物質らしいので、染料の1つか。論文中では実験の第1段階で使われている。
- Beer's law・・・ランベルト・ベールの法則(後述)
手法
第1段階:カメラに写ったピクセルごとの吸光度を画像のRGB値から求める
例えば、以下のように、中央に黄色い染料(Thioflavin T)をたらした場合を考える。
$R_0 G_0 B_0$ :背景(上図では染料が垂らされてない周囲)のRGB値
$R G B(p)$ :染料が吐出された部分の p ピクセルにおけるのRGB値
$\gamma$ :gamma correction valueと書いてるが、ここではガンマ逆補正値のことか?
として、各ピクセルにおける吸光度 $A_{RGB}(p)$ は
A_{RGB}(p) = -\gamma \log \left( RGB \left( p \right) / R_0G_0B_0 \right) \tag{Q1}
(論文には $(p)$ の記述は無いが、各ピクセルの関数系であることを明確にするため加えている。)
参照エリアとのRGB値における比を計算し、それの negative logを計算している。これにガンマ逆(?)補正値を乗じることで、ガンマ補正する前の吸光度を求める。
以下は上図におけるBlueの吸光マップ(b)、と(Q1)式を使って吸光度を計算したもの(d)
確かにノイズが多い。
第2段階:ノイズを除去する
略。
以下は(b)からノイズを除去したもの(c)と、その補正された吸光度(e)。
第3段階:ランベルト・ベール法を用いて各ピクセルにおける吸光度から各ピクセルにおける染料の量を推定する
ランベルト・ベール法(Beer's law)というものは初めて聞いたが、こちらwikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ランベルト・ベールの法則
によると、入射光の強度に対する媒質通過後の光の強度の比のnegative log(つまり吸光度)は単位面積あたりの物資の量に比例するというもの。
\hat{A}_{RGB}(p) = - \log_{10} (\frac{I_1}{I_0}) = \epsilon c l \tag{Q2}
ここで
$I_1$:媒質通過後の光の強度
$I_0$:媒質通過前の光の強度
$\epsilon$:モル吸光係数
$c$:媒質のモル濃度
$l$:媒質の深さ
$cl$ で単位面積あたりの媒質(今回は染料)のモル数となるので、(Q2)により(Q1)で求めた吸光度がモル数の単調な関数系であることが保証される。
導出根拠も書いてるが、とりあえずスルー。
(Q1)式で既に各ピクセルにおける吸光度 $A_{RGB}(p)$ は求まっているので、それが単位面積あたりの染料の量に比例する、と考える。ただし、ランベルト・ベール法と現実は若干違うようで、補正項(deterioration ratio)を導入する。
Beer's lawによって染料の量から求まる理想的な吸光度を $A^{ideal}_{RGB}([Dye(p)])$ とすると、実際の吸光度は
A^{paper}_{RGB}(p) = dr([Dye(p)]) \cdot A^{ideal}_{RGB} ([Dye(p)]) = f([Dye(p)]) \tag{Q3}
dr がdeterioration ratio。Dye(p)の関数系としている。[Dye(p)]は単位面積(つまり1画素)あたりの染料の量。
第4段階:各ピクセルの染料値を積分し、対象領域の染料の量を求める
(Q1)と(Q3)から
\begin{eqnarray}
n_{Dye} &=& \sum_{p} [Dye(p)] \tag{Q4} \\
&=& \sum_{p} f^{-1}(A^{paper}_{RGB}(p)) \tag{Q5} \\
&=& \sum_{p} f^{-1} (-\gamma \log (RGB(p) / R_0 G_0 B_0)) \tag{Q6}
\end{eqnarray}