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エンジニアがオウンドメディアを書くということ

Last updated at Posted at 2017-12-20

この記事は株式会社LIGのアドベントカレンダー2017、21日目の記事です。


本稿は株式会社LIGに入社して一年半の社員による、LIGブログを通してのオウンドメディアへの接し方、気付き、LIGブログそのものへの所感、あるいはあの日の空の遠さと、過ぎた夏の日を述べるポエムになります。

株式会社LIGとそのブログ

LIGが本質的に何をやっている会社かというのが社員からとってみても謎のアンチクショウなんですけれども、皆様のお手元に届く情報があるとすれば、LIGブログを通してご覧いただいているのかもしれません。LIGブログはいわゆる弊社のオウンドメディアで、社員が業務で得た知見を発表していく、ちょっぴり面白いブログです。お時間があればぜひ見てみてくださいね!

オウンドメディアを作りたいです

さて、世界へ情報を発信するのが三度の飯より容易になった昨今、弊社のように社員の方々が書く記事によってメディアを作成されている他社様も多いと思います。また実際、そのようなオウンドメディアを作りたいということで弊社にもご相談いただくことが相当数あります。

LIGさんのブログいつも拝見しています。ありがとうございます! 本当にこれは嬉しいんです。自己紹介前に知っててもらえるって感じがして、本当に自分事として嬉しいんです。オウンドメディアって最高だなって思う瞬間です。みんな作った方がいいです。オウンドメディア。本当にありがたい。

で、よくよくお話をうかがうと、誰がライティングするんでしょう、というと社員が書きますみたいな話があったりして。社員が編集しますとか、社員が画像もレタッチするんですよ。なるほどー。LIGさんみたいにっていうありがとうございます! そうですね……。僕らはそこでだいたい自分の身上を振り返ります。空の遠さを感じるのはこのあたり。これは大変だぞ、と。

ライターではない社員が日常的に記事を書いていくことは社内の「内圧」が高くなります。社員はある日突然生まれた「何か知らんけど何かしらの記事を書く」という業務によって、心身と業務に相当なストレスを強いられることになるからです。どストレートに言えば鬱憤です。鬱憤が溜まります。会社に、鬱憤が、溜まります、イェーイ! どストレートに!

そりゃもう大変です。ブログ書いてて案件が遅れたらお話になりません。そうでしょ? って聞くと社内の誰もが「そりゃそうだ」って言う。でもブログも書けっていう。何なんでしょうか。僕のドッペルゲンガーでも見たんでしょうか。あいつ二人いるわーみたいな感じですか。それならオッケー的なノリ? 嘘じゃん。いないじゃん。でもお仕事なので両方やらなきゃいけないのがLIG社員の辛いところだな。覚悟はいいか? 俺はできてる。

以下は会社で記事を書けと言われて雇用契約を見直しているどこかの社員の皆様への共感と、部下に記事を書かせなければならない管理職の方々へのご参考に。そして気まぐれでメディアを始めようとするワンマン社長はそこになおれ。今からお主の罪状を読み上げる。

会社がメディアを運用するコストは思うよりずっと高い

LIGに入社して驚いたのが一つの記事へかけるコストでした。あの適当な感じのブログですから、どうせ適当に書いて載っけているだけだと思っていましたが(もちろん今でもそうのような記事はあるのがLIGのいいところです)、とんでもない。力を入れています。微に入り細に入り、社として一つの記事をどう見せていくかということに非常に気を使い、サポートをしています。

LIGでは僕の知る限り概ね下記のような手順で一つの記事が掲載されています。たぶん僕の知らないところでさらにディテールを詰めているのだと思っているので、「コストは思った以上」です。

職能ごとに書く内容を毎月決める

LIGブログは根底が阿呆なので、書いていいもの、悪いものが決まっていません。バックエンドだからバックエンドの記事を書くというのが暗黙的に敷かれたルールなのですが、その範囲は組み込み系の記事でもいいし、マネジメント寄りの記事でも構いませんし、何ならバックエンドを逸脱した記事でも構いません。

記事の内容は、そのようにそれを書く個人に任されています。ほとんどの社員は毎月最低一つ記事を書くことが業務の一つとして課せられていて、まず自分で何を書くか月一で悩むことが習慣になります。「ブログの締め切りが……」というキーワードが盛んに飛び交うのが日常なので、良くも悪くも全ての社員にライター気質が入魂されています。

僕はあまり書くことに抵抗がないので必要なときに書くことを決めているのですが、人によってはこの時点で多大な負荷となるので、バックエンドならバックエンド、デザイナーならデザイナーで集まり、ブレーンストーミングなどを行い、個人が書くものをあらかじめ決めておくことがあります。あるいはこの時点で編集の方が加わって、執筆の方向性を検討してくれることもあります。複数人でシリーズ物を書こうと決めることもあります。

記事を書いて入稿する

何を書くかが決まると個人で記事を書き進めます。もうこの時点で無視できない実務コストと管理コストがかかっているのですが、書き終わるまで社員は孤高に書かなければならず、たぶん文章を書くのが好きな人でなければ、自分の職種を疑うことでしょう。自分はライターなのかどうなのか。ライターでは、ないな、っていうキーボードからの確かな、手応え。

またフロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニアはLIGブログ中にコードを書くことも多く、当然そこから自分で書く必要があります。デザイナーは後述のアイキャッチや記事中の画像素材を自分で作ることが課せられています。大変ですね。そうなんですよ、聞いてください。これがマジで大変なところです。

表面上は「業務で得た知見を云々」という体裁ですけれども、間違いのないように、人に伝わるように書き下すのは本当に大変なことです。そうすることで快感を感じる人ならいいんです。ウィンウィン。でもウィンウィンって絶対優勢のウィンの方が考えた言葉だと思いません? 知って欲しー。そんな人ばかりじゃないっていうのは知っていて欲しー! 情報と思考を整理して、さらにコード書いてってのはマジで時間がかかると知っていて欲しー!

編集作業を行う

そのように各社員から記事が集まると、編集者がその記事の編集業務を行います。と言っても、「玉稿」を入稿したのはライターではありません。一般的なライターなら書かないような常識破りに手を染めている文章も多いでしょう。申し訳ない! 編集前と編集後を比べるとかなりの手直しが入っていることが分かります。

例えば文章構成、テニヲハ、表記ゆれの基本的なところから、情報が足りない部分の指摘、クオリティの担保、法律上の懸念払拭など、たぶん編集としては当然の作業なのかもしれませんが、そのようなディテールまで目を向けられない僕らはいつも助けられています。

そもそも「編集がちゃんといて、編集がとても重要な位置を占めている」というのが、LIGブログでは意外に思われることも多いです。

必要素材を調達する

文章が出来上がる前、もしくは出来上がった後、この工程は前後することが多いのですが、その記事が必要とする素材を編集者やデザイナーで調達、作成します。

例えば僕が書いている記事は定期的に社員の写真が必要となるため、編集者はカメラのスキルも出来れば必要で、撮影とレタッチを行って、記事に入れ込んでもらっています。

また現代ではトップページや一覧のページで表示されるアイキャッチによってPVが大きく左右されるので、編集者とデザイナーは協力しながらオリジナルのアイキャッチを一つ一つの記事に当てはめています。たぶん楽をしようとしてアイキャッチなんかはフリー素材を使えばコストを抑えられるはずですが、LIGブログではそのほとんどに対してかなりコストをかけて作っているようです。このような細かな対応によって記事への遷移率が大きく変わるそうですね。

公開日時を設定する

ここまでやって、LIGではやっと公開できる記事が生まれます。その後、期日が調整されて、一つの記事が公開されます。期日も他の記事との兼ね合いや、時刻の設定などが細かく管理、スケジューリングされ、設定されています。文章にしてみると記事公開までまた長い工程ですね。もちろんこれが全てではありませんが、最もベースとなるコストです。だいたい記事公開まで半月〜1ヶ月かかっています。

その他に必要なコスト

上記までの記事はいわゆる社員が記事を書く「真面目系」の記事の掲載手順です。他にもライターの方、外部ライターの方に書いていただく記事、おもしろ系の記事、PR記事などによってパターンは多種多様になりますし、海外での撮影なんかも少なくありません。またLIGではそれらの日程、人材の管理を主に編集者の方々、営業の方々で行っているのですが管理コストもかなりのものになるはずです。

また忘れちゃいけないのが、サイトそのもののコストです。LIGブログはAWS+WordPressで運用されていて、脆弱性対応などのメンテナンスコスト、デザインやUI/UXの変更で発生するコスト、サーバー自体のランニングコストの総計は腕のいいエンジニア何人月かに及ぶでしょう。

オウンドメディアは開発も運用も全然気軽じゃない

企画、ライティング、編集、管理、ランニングコストと、制作会社がコストかけ過ぎじゃない? 正直、そう思われた方が多いのではないでしょうか。ただLIGブログが十分な効果を発揮するためには必要なコストとLIGは考え、業務として取り組んでいるものになります。

「メディアを作成したい」といただくリクエストに対しては、上記のような弊社の状況を一例としてお伝えすることが多いです。このようなコストをかけるのは、LIGにとってLIGブログとは、自社の宣伝塔であり、ブランディングであり、稼ぎ頭であり、遊び心であるためです。単なるコストというよりも、重要な投資先なのです。

自社でサイト制作が出来るのであれば、もしくは、安価なCMSサービスを使えるのであれば、ミニマルでオウンドメディアを書き始められるのではないかと思いますが、戦略的に見直しながら、ひたすら誰かが投資だと信じて、旗を振り続ける必要があり、オウンドメディアは開発も運用も全然気軽じゃない、というのがLIGブログを通して得た所感の一つです。

オウンドメディアを続けるために

では、この膨大な投資に対して、LIGの社員はどのように向き合っているのでしょうか。また、どのようにすれば記事を書くことを業務として定着させられるのでしょうか。

書くフィールドに誰かが立ち続ける

結論です。ナレッジでも仕組みでも何でもない、いわゆる愛。もしくは気合い。諦めない心。フルボッコで立ち続ける精神。でも、当たるも八卦当たらぬも八卦のオウンドメディアを運営するにあたって、実はこれが一番重要だと思いました。

エンジニアはアウトプットをすべき、という考え方があります。実際多くのエンジニアはアウトプットを欠かしません。(それ以上のインプットも欠かさないでしょう)アウトプットには自分の思考の整理や、セルフブランディング、教育などの意味合いがあると思うので、それ自体に異論はありません。

ただその考えがオウンドメディアと絡められて、嫌な感じで悪い方に発展すると「エンジニアはアウトプットをすべき。どうせするなら自社のメディア内でやれば一石二鳥では?」となりがちで、そういった例を何個も聞いています。ですが、それは投げやりで雑な論法じゃないですか。

今の時代、エンジニアはプライベートでアウトプットを言われなくても行っている方も多いはずです。そっちの方が楽ですし、社外の広がりがあるかもしれません。下手すれば他の業務量は変わらないのに、業務で書く理由が特別に見当たりません。例えエンジニアじゃなくてもそうでしょう。そう、これが本音。

社員がオウンドメディアを書くのは当たり前ではないのです。

本当に残念ながらそういうことなんだと思います。勘違いしないでください。エンジニアはだいたいアウトプットをしたくないわけではありません。でもオウンドメディアじゃなくてもよくね? って思っちゃう自分を止められない。もうしょうがない。何だこのQiitaの書きやすさ。プレビューとか使いやっす! マジで使いやっす! 本稿は株式会社LIGの! 株式会社LIGのアドベントカレンダー21日目です!

でもオウンドメディアを持ってる管理職層って結構、社員に記事書いてもらいたいじゃないですか。分かります。外部のライターとか超面倒だし、そもそもマインド的なもの発信したいのに、それを知ってるのは誰だっていうと絶対社員だもの。そりゃそうですよね。ほら、いつも教えてるアレ書いてくれ。ほら、俺の「いい仕事のルール」、みたいなやつ。

そりゃ書きますけれども。書きますけれども、続けろって言われたら危うく輪廻しちゃいそうになるじゃないですか。

そのメディアを引っ張る中心人物の本気の熱量が必要なんです。人がその「場」に留まるには、誰かが本気でそこで楽しんでいるとか、取り組みを行っているとか、苦しんでいる様子がまずあって、何とか関わろうと人が集まってきて定着化するのだと感じています。取り組みに惚れさせろ。もうそういう感じです。

モチベーションを維持する仕組みを作る

誰かが旗を振って、継続的に社員が書いていても、モチベーションが落ちる時は必ずあるでしょう。例えば僕の記事は人に読まれにくいです。バックエンドの記事がLIGではまず読まれにくいです。結構地味に傷つきながら日々を生きています。変に優しくしないで欲しいです。

まずこれだけは確実に言えることで、そして社員がオウンドメディアを書くのであれば当然のことなのですが、「ブログを書くこと」をビジネスレイヤーで大切なことと位置付けて認識してください。これだけは確実に僕の遺言です。LIGの管理職は僕のドッペルゲンガーを見たのかもしれませんが、それでも「ブログを書くこと」について必ず理解があります。そのことについて絶対に白い目を向けることはありませんし、「お前こんなこと思っていたのかー?」と辱めることはありません。管理職はオウンドメディアを信じてください。例えそれが違う部署の取り組みだとしてもです。

文章を書くことは大人になっても少なからず一定の恥ずかしさが人によっては絶対にあります。とくに今書いているこのような文章を書くと心理面が露呈するため、会社によっては社員間で気まずくなってしまうこともなくはないでしょう。でもLIGではそれはありません。何なら自分の書いている文章を隣席の同僚が読み上げます。そういう風土がありますし、「面白いものって?」というようなブレストが隣室で真顔で行われています。素晴らしい文化だと思います。

また、例えばLIGでは実務の評価だけではなく、LIGブログでのPV数などの活躍をもとにした表彰や評価もされていますし、まず何より業務として取り組むことを明に謳っています。それは苦しいときもありますが、リソースの調整などによって助けられることも多々あります。ちなみに僕は表彰されたことはないです。大丈夫です。優しくしないで欲しいです。

あとは現金なことを言えば、現金です。お金。書いたら書いただけの評価が欲しい人材も間違いなく多いでしょう。ここは優しくしてください。

書く技術をサポートをする

記事を書いていたいのに単純に書く技術が間に合っておらず、苦しんでいる方も絶対に多いと思います。そりゃそうだろ。本職ライターではない社員がほとんどなので、書くこと自体が苦痛であっても仕方ありません。僕も読書感想文が書けず、学校に残されたのは苦い思い出です。だいたい毎年「これからの人生で役立てたい」で終わるけど、今のところ役に立っていません。

LIGでは前述の通り、各職能に対して編集者がついています。書く技術を上げるのには量を書かなくてはならないと古来より言われていますが、ライターでもない自分の文章をプロの編集者に校正してもらうことはそうそうないのではないでしょうか。そういった編集作業を通すことによって、メンバーの文章力の向上が副次的にサポートされています。また、そのルーチンを繰り返すと、自分のセオリーのようなものが各人少しずつできあがってきて、毎月書くという負担が実質的に軽くなっていきます。

さらに副次的な効果として、このコンテンツを作成する技術向上は、Web制作の現場においてダイレクトに役立ちますし、自分の生きた体験をお客様へ伝えることができます。いずれにせよ、「書くことを続けてもらうこと」は絶対に必要になります。

エンジニアがオウンドメディアを書くということ

一年と半年前の夏、僕はLIGに入社しました。

その頃僕はLIGブログを既に知っていたので、内定をいただいた時ひとしきり喜んだ後に「どうしてやろうかな」と心底迷いました。もう30代も中盤でしたし、社長を砂浜に埋めたり、水中で麻雀したりする会社がまともなわけがないんです。色々きっと大変だぞ。

LIGという会社は、何ていうか、良く言うと多様的であり、正直よく分からない職能の同僚が数多くいます。そこでみんな、一度は会社に「受け入れてもらえた」という感情を抱くのではないでしょうか。そのため何だかんだあるのだけれど、本当結構何だかんだあるのだけれど、だいたいみんな自社のことが好きになります。

LIGブログについては、常にその中心にありました。ここまで偉そうに語りましたが、僕はそういった先人たちの背中に乗っているだけです。僕にとって、おそらく多くの社員にとって、LIGブログとは弊社の歴史なのです。正直アウトプットするのであれば、別の場所はいくらでもあるけれど、今、先人たちが大切にしてきたものが自分に回ってきているので、薪をくべ続けたいと思っている。

つまり、取り組みに惚れていたのです。

エンジニアはたいてい移り気です。僕らがそこに力を注げるのは、前提として、そこが好きな場所、心地の良い場所であるからではないでしょうか。決意の理由が、惚れた弱みならもう仕方がない。

それが過ぎた夏の日に思ったことでした。

オウンドメディアを社員に書いてもらおうとする時、そこはまず社員にとって心地の良い場所になるかをまず考えていただければ幸いです。プロダクトと同じように。もしかしたらアプリケーションより芽を出すのが難しいかもしれません。

だからこそ、まず自分達の好きになれるものが、そこにあるかどうかを、ぜひご検討ください。

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