2016年に出版された、UXデザインの教科書という本を読んだので軽くレビュー。
WebデザイナーであればUXという言葉は高頻度で目にしたり耳にしたりしますが、自分自身が体系的に学んだことないなーと思い”教科書”と銘打っているこの本を読み始めました。
UXの全てを網羅するのに最適な本
この本はUXデザインの理論やプロセスの考え方などに力点を置かれていて、アカデミックな内容を多く含んでいます。
UXデザインを一つの学問領域として捉え、その上でより良い実践を行ってもらうための「教科書」です。
それゆえボリュームがあり読むのに時間がかかりましたが、UXデザインに関する知識を改めて整理し体系的に学ぶには良書でした。
それでは個人的に気になった、勉強になった内容を紹介していきます。
◆UXデザインの定義
本書でのUXデザインの定義とは結論から述べると以下のようにまとめられます。
UXデザインとは 「ユーザーが嬉しいと感じる体験となるように、製品やサービスを企画の段階から理想のユーザー体験を目標にしてデザインしていく取り組みとその方法論」
新規サービスのアイディアが着想したあとから(時には前から?)UXデザインのステップは始まっており、様々な取り組みと分析を行っていく一つ一つがUXデザインに繋がっているということ。
私はこの本を読むまでは、端的に言うと問題提起ありきのUI改善、その取り組みでUXデザインが形成されていくと考えていて、ミクロな目線で考えていたことに気付かされました。
◆人間中心設計の歴史は長かった
UXとの関連性が深い人間中心設計。人間中心設計という言葉は知っていましたがその歴史は長く、なんと2005年にはNPO法人の人間中心設計推進機構が設立されており、13年もの歴史があることに驚かされました。
さらには人間中心設計専門家の資格認定試験は2009年から開始しており2017年までに人間中心設計専門家460名認定しているそうです。
ちなみにUXデザインの専門チームが参画したWebサービスが紹介されていました。
フォトブックサービス「ノハナ」
新規サービスを立ち上げるに当たり「ユーザーにどのような価値を提供するのか」といった点からスタートし、以下のフローでプロジェクトを進めたそうです。
- プロジェクトの着想
- プロジェクトの方向性
- ユーザーの調査
- ユーザーモデリング
- 体験価値とコンセプトの設定
- 体験シナリオの作成
- 機能要件へ変換
- プロトタイピング
- 実装
- UX評価
仮説と潜在需要をすり合わせするために社内へインタビューを行ったり、ユーザーストーリーマッピングを使って機能仕様を検討する様はまさにユーザー目線での新規サービス立ち上げで、とても興味深く読むことができました。
◆UXデザインは3つの主体から考える
UXデザインとその関係性についてよく理解できる図がありました。
ユーザーの使用タイミングやその周りの環境などといった利用文脈の把握や既存UXの把握、製品・市場の把握といった矢印が内側のUXデザインに向いていて私としてもついそこに目がいきがちですが、デザインの理論に関する知識も学習し続けなければならないと気づかされました。
さらには製品・サービスとそのユーザーといった双方向の視点だけで考えるだけでなくビジネス視点も含めて初めて自分のやりたいことを実現できるので、どのタイミングでビジネスサイドとの折り合いをつけるかも大事になってきます。
◆UXはサービス利用中に経験するものだけではなかった
たとえばMacbookを購入する際を例に上げて時間軸でUXを分解すると以下の4つに分けられるそうです。
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予期的UX<利用前>
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口コミなどからどのような評価をされているのかを知る
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瞬間的UX<利用中>
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Macbookを購入するときにうけるサービス
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エビソード的UX<利用後>
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Macbookを自分なりに使ってどう思うか
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累積的UX<利用時間全体>
-
製品の試用期間全体を通しての評価。その製品を提供する企業に対する印象も生じていることを意味しているので、そこから昇華し「Appleの製品はいい」と評価することも含まれる。
私はUXデザインにおいてユーザーが感じる価値の本質は体験そのものだけだと勘違いしていたけれど、利用前後でもUXがあるとすると、同じ体験でもネガティブな評価とポジティブな評価が同時に存在している可能性もあるのではと気づきました。UXを考えたり議論したりする際は、対象となる期間を明確に意識することが重要なのかもしれないですね。
◆ユーザーの本質的ニーズを見極める
前職でユーザーインタビューを何度か経験させてもらいましたがその前にこの本の知識がInputされていたら、より充実したデータを得られたのかもしれない。と反省したうちの一つがこれ。
ユーザーの目的には階層性があり、本来の目的は一番深いところに隠れているということ。
事業会社で働くデザイナーにとっては、ユーザーの本質的ニーズを知ってサービスの改良に繋げたいと強く思うはず。実際にユーザーと対面し質問を繰り返してヒアリングする上で、ユーザ自身が発する願望はどれほど本質からブレイクダウンされた具体的なもの(表面的なもの)なのかを視野に入れていたらもっと質問の仕方も変わっていたかもしれないと思いました。
またユーザーモデリングの3階層と言われている「価値層」「行為層」「属性層」のうち、「属性層」を把握するのにユーザーインタビューは適しているが、それ以外の2つの層を把握するにはフォトエッセイやエスノグラフィーといった調査手法が必要で、KA法やジャーニーマップをやるためにはユーザーインタビューだけでは足りないことも知ることができました(やらなければいけないこといっぱいあるな....)
◆ユーザーのニーズをもっと知る
エスノグラフィをしているときに着眼すべき点が、「やっていないこと」「やりたくてもできないこと」。
その背景には我慢やあきらめ、できなくても問題ないという様々な理由が含まれていて、こうした情報は本当の意味で潜在的なニーズとなりうる重要な情報だと思います(エスノグラフィに限らず気づきの観点としてとても重要だと思う)
そこでAEIOUフレームワークを使って分類整理する手法が最適であることを初めて知りました…!
- 作りてのプロだからこそ見落としてしまう・気づきにくいから <業界の非常識ニーズ>
- ユーザー自身が気づいていないから <暗黙的ニーズ>
- ユーザーが諦めているから <暗黙的ニーズ>
- ユーザーが価値を理解できていないから <不可知的ニーズ>
- 「カタチ」になっていないから <コト・ニーズ>
この5つの観点でユーザーのニーズに迫ることができます。
自分の作ったサービスがユーザーに思ったように使われていなかったとき、その理由を紐解く上で必要な観点だと思います(脳裏に焼き付けよう!)
◆ペルソナは複数作ってから絞り込む!
勘違いして理解していた気になっていたうちの一つ。
ペルソナはサービスを利用する典型的なユーザーとして架空の人物を一人作り上げ、サービス開発する上でそのユーザーの利用体験とのすり合わせを行うために必要な手法だと思っていました。
しかしこの本では最初にペルソナを6体作成しています。
エスノグラフィや関係者へのインタビューなどの調査結果をもとにペルソナを複数作成。本質的ニーズに対するペルソナ間の共通性を見出し、それに優先順位をつけることによって優先順位の高いものを組み合わせて架空の人物として作り上げています。
◆ユーザーのことを知るための手法をどのタイミングで行えばいいの?
ペルソナ作ったりユーザーインタビューしたり、ジャーニーマップを作ったりといった様々なデザイン手法が確立しているけれどもそれってどのタイミングで行えばいいんだろうと疑問に思ったときに見るのがこれ。
こういうの欲しかった...!と思ったのは私だけではないはず、、、
左がUXデザインプロセスでそれぞれのプロセスに応じた代表的なデザイン手法が右側に書かれています。いまプロセスのどこにいて、どうやってユーザーにアプローチしていくかを考えるときに役立ちます。
基本的にこの本は新規サービス立ち上げを前提とした話となっているので、上記に記載されているユーザー手法の使用タイミングもそれに沿っているけれども、既存サービスの改善においてはどのUXデザインプロセスでユーザーを把握するかという着眼点でそれに応じたデザイン手法をピックアップして取り組めばいいのかなぁと個人的に思います。
どの手法をこの本で紹介しているのかといった一覧表は以下です。
この一覧表を見ると先人たちが編み出した手法の多さに驚かされるとともに、満遍なくピックアップしていることがわかります。
まとめ
自分の知識が浅はかであるがゆえに、新しい学びや発見が多く大変勉強になりました。こんなところもいい!勉強になった!とばかり書いていてこの本の宣伝みたいな内容になってしまいましたが、UXデザインをマクロ的な視点で見るにしてもミクロ的に手法を知るにしても、とても情報量が多いので腰を据えて体系的に学ぶにはよい本だと思います。オススメです!