こちらはデフエンジニアの会アドベントカレンダー14日目の記事です。
今回はデフエンジニアの会としてやったことの1つとして、様々なスクールへの働きかけを行った話をまとめようと思います。
はじめに
まず、デフエンジニアとは「デフ=Deaf(ろう者・難聴者・聴覚障害)の総称」+エンジニアのことです。
つまり、耳が聴こえない(聴こえにくい)エンジニアです。
そして彼らは共通した悩みがあり、それは「勉強する環境を作るのが難しい」ということ。
例えば以下のように、
- スクールに通いたくても通訳がつかない
- 情報保障(字幕・通訳・文字でのサポートなど)を拒否される
- 動画にも字幕がなく、なんと言っているのか分からない
などで、勉強したくてもそういう環境を得ること自体が難しいという問題があります。
そしてそういう方々はどうするのかというと、独学で頑張るしかないという状況に追い込まれます。
結果、仕事もして勉強もして・・・という厳しい環境についていけなくなりエンジニア自体をやめてしまう人も多いです。
その上、数年前から始まったコロナ禍でオンラインでのプログラミングスクールが流行ったのですが、そこでも動画への字幕サポートがない等で勉強が難しい環境は変わりませんでした。
もう一つ懸念していることがあります。
聴覚障害が軽い人の中には動画に字幕がなくてもある程度は理解できる人もいます。
そういう人だけが頑張れて、そうではない人は頑張れないという状況は本来はおかしいことではないか?と。
ある程度聴こえて、ある程度話せる人だけが企画や勉強会、スクールに参加できて、上に行ける。
その一方で、聴覚障害が重い人、話すのが困難な人は参加しても内容が分からないからと諦めてしまう。
また今だと音声認識など色々な方法がありますが、それを使っても誤字脱字もあり100%完璧ではないのでやはり話についていけない。・・等々で差がついてしまうことも。
それでも、周囲の人たちはそういう状況を知らないから、「ある程度聴こえてある程度話せる人の方が色々とやる気があって勉強もできる人が多いな」と思ってしまうことも。
そういう環境もおかしいと思っています。
本来は、障害が重い軽いに関係なく本人が自分の力を発揮できるようにすること。
そういう環境づくりが大事なのではと思っています。
そして、エンジニアという仕事は本来はとても楽しく面白いはずなのです。
勉強ができる環境を得ること自体が難しくそのためにエンジニアを諦めるのはすごくもったいないし、残念なことだと思っています。
それで、デフエンジニアの会はエンジニアが安心して勉強できるよう、この1年間で様々なスクールへ働き掛けてきました。
どうやって働きかけたか
まず、有名どころのスクールやオンライン勉強サイトをリストアップしました。
リストアップ
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スクール
・Udemy
・コードキャンプ
・AIアカデミー
・資格の学校TAC
・Schoo
・ISAオンラインスクール
・デイトラ
・東京大学エクステンションデータサイエンスコース
・startLab
・デジハリ・オンラインスクール
・TechAcademy -
ネットで勉強できるサイト
・Paiza!
・PyQ
・スタディング
・AIジョブカレ
・・・など。
フォームから連絡
その次に、各ページのお問い合わせ先から連絡しました。
内容は大体において以下の通りです。
初めまして。●●と申します。今回は耳が聴こえない方々への字幕保障についてお問い合わせさせていただいております。
まず●●(私の名前)は生まれつき耳が聴こえません。
そのため、普段勉強時は動画に字幕を必要としております。
そして現在、耳が聴こえないエンジニアたちの集まり・学習の場としてデフエンジニアの会を設けております。
その中で彼らの勉強の機会を増やすために、今様々なスクールへ動画への字幕付与状況について確認させていただいております。
御社のオンラインスクールでの動画に字幕はございますでしょうか?
・・といったような文章を送りました。(相手に合わせて内容は変えましたが)
返信が来た時の対応
字幕不可だった場合
「字幕は用意していない」というお返事があった場合、
・予算的に厳しい
・そもそも耳が聴こえない方で学びたいと思っている方を想定しておらず気づかなかった
・字幕が必要な方の存在は知っていたが、字幕を付けるのは大変、面倒くさいから避けたい
大きく分けてこの3つが原因だと考えられます。
そのため、返信として以下の文章を送りました。(一例として)
お忙しいところお返事をありがとうございます。 そして字幕の用意はないとのこと承知いたしました。ですが、全国で耳が聴こえない方はおよそ30万人、また、法律では聴覚障害者として認められていないけど聞こえづらさを感じる方はおよそ1400万人もいます。
その中でエンジニアを目指す若者たちも数多くいます。
そしてコロナ禍でプログラミングのオンラインスクールが激増しましたが、どれも動画に字幕がなく、聞こえない方々には勉強しづらい環境が続いています。
しかし、現在はAIの進歩により、AIを使って自動で字幕を付けられるアプリなども出てきています。
そういった方法を使えば全て手動で字幕を付けるよりは幾分か手間をかけずにできるのではないかと思います。また無料で字幕を付けるサービスをしているところもございます。
なのでもしよろしければこの方法もご検討しつつ聴こえない方々が学びやすい環境づくりを考えていただけると幸いです。
今後もよろしくお願いいたします。
字幕可だった場合
中には字幕がもともとついている、もしくは今後字幕を付ける用意があるというお返事を下さったところもあります。
そこには丁寧にお礼を伝えた上で、デフエンジニアの会メンバーに共有しても良いかという旨などを確認しその上でデフエンジニアの会メンバー・個人SNSでも共有してきました。
感謝しております。
字幕不可⇒改善してくれたケースも!
実はお問い合わせ時は字幕不可でも、その後字幕を付けるよう改善して下さったところもあります。
それまでは聴こえない方々も勉強していることに気づかなかった、また、その当時は予算がなかったなどの理由で字幕を付けていなかったとのことです。
そして、うちが字幕を付けていなくても他の所で字幕を付けているところはあるだろうから、大丈夫だろう・・・と思ってしまっていたというところもありました。
理由は何にせよ、動いたことで字幕を付けてくださったのは大変嬉しいことです。
動画に字幕がついている(つけてくださった)スクール・サイト一覧
ここでは、動画に字幕がついているスクール一覧を紹介していきます。
- Udemy Business ★聞こえない人の受講歴あり
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Udemy ★聞こえない人の受講歴あり
全世界から様々な講師が色々なことを動画で教えているサイトです。
ジャンルは幅広く、プログラミングからマナー授業、ビジネスの仕組みなど色々とあります。
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Schoo ★聞こえない人の受講歴あり
前述したSchooです。
こちらはプログラミングというよりはビジネス的な知識を身につけることがメインのように思われます。
そして、以下、文字起こし動画を作って下さいました。
動画を文字で学ぶ!文字起こし対応授業のお知らせ
https://schoo.jp/news/2023/2023-05-22-14-59-00
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AI Academy ★聞こえない人の受講歴あり
AIや機械学習、データ分析などを学習するオンラインスクールです。
こちらは交渉の結果字幕を付けてくださったスクールです。感謝しております。
- ドットインストール ★聞こえない人の受講歴あり
ここはWEB制作関連の方々を対象としたサイトで、オンラインスクールというよりは「オンラインで学ぶことができるサイト」のようなものです。
そしてここは動画がメインですが、「プレミアム会員」になると1か月1000円で動画の文字起こしを見ながら勉強することもできます。
※文字起こしのイメージ
★聞こえない人の受講歴あり
テキストがメインのスクール・サイト一覧
ここまでで、動画に字幕がついているスクールを紹介してきました。
ここからは、テキストがメインのスクールも一部紹介したいと思います。
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AI Academy ★聞こえない人の受講歴あり
これは前述と同じスクールですが、実はここはテキストも多めになっています。
そのため、動画だけでなくテキストも並行して理解することができます。
★聞こえない人の受講歴あり
- TechAcademy ★聞こえない人の受講歴あり
WEB制作中心のオンラインスクールです。
こちらはほぼテキスト中心なので、聴こえなくても壁を感じず学ぶことができます。
メンターとの連絡もありますが、耳が聴こえないのでチャットをお願いしたいとお伝えすればチャット対応が可能なスタッフを用意してくださるとのことです。
★聞こえない人の受講歴あり
WEB制作中心のオンラインスクールです。
こちらはほぼテキスト中心なので、聴こえなくても壁を感じず学ぶことができます。
メンターとの連絡もありますが、耳が聴こえないのでチャットをお願いしたいとお伝えすればチャット対応が可能なスタッフを用意してくださるとのことです。
★聞こえない人の受講歴あり
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PyQ
Pythonに特化したサイト。
本来Pythonを動かすためには環境構築が必要ですが、こちらは環境構築不要でPythonを勉強できます。
しかもほぼテキストがメインとなっており、クエスト形式でクリアしていくタイプなのでゲームが好きな人にも良さそうです。
★聞こえない人の受講歴あり
まとめ
ここまでで、私がどのようにして字幕を付けることをお願いしてきたのかの簡単な説明と、エンジニアまたはエンジニアを目指す方々がオンラインでも安心して学ぶことができるスクールや勉強サイトを紹介してきました。
現在は字幕を付けてくださるところが徐々に増えてきているとはいえ、それでもまだまだだと思います。
しかし、今後、2024年に障害者差別防止法の改正により事業者の障害者への合理的配慮の義務化が定められることになります。
それによって、字幕の付与に関する運動もますます高まっていくと思われます。
あと1年後ですが、その未来のために、様々なスクールやネット配信などでも字幕付与が当たり前になって多くの聞こえない方々がエンジニアを目指して勉強していける環境が整うことを願っています。
★★ここで紹介したスクールやサイト以外にも字幕がついているところ・テキストがメインとなっているところがあれば是非教えてください。
デフエンジニアの会(X)⇒https://twitter.com/deafengineers