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なぜあなたの指示はAIに「響かない」のか? Context Is All You Need

Last updated at Posted at 2025-09-05

自己は、あらかじめできあがったものではなく、行為の選択を通じて絶えず形成されていくものである。
ジョン・デューイ

世界を変貌させるのは、決して認識なんかじゃない。世界を変貌させるのは、行為なんだ。それだけしかない
三島由紀夫 - 金閣寺

先日こんなLINEを頂きました

  • 背理系
  • 論理式
  • コグニティブデザイン
    全部使って、夫の論文の修正手伝った
    秒で出来た
    コンテキストは論文そのものと、査読者のレビュー
    ちなみに実行環境はGemini2.5Pro

①論文そのものをコグニティブデザインの枠組みで解釈させる

添付の内容(論文)を、下記のコグニティブデザインの観点から包括的・構造的・網羅的に認知し言語化して
1.前提 (Premise):

思考の「OS・物理法則」。この世界で疑うことのない事実や守るべき価値観。

2.状況 (Situation):

思考の「現在地」。今、何が起きていて、どのような変数があるのか。

3.目的 (Purpose):

思考の「目的地」。このタスクで何を達成したいのかという具体的なゴール。

4.動機 (Motive):

思考の「エンジン」。なぜその目的地を目指すのか?という根源的な理由や哲学。

5.制約 (Constraint):

思考の「行動範囲」。目的達成のために、守るべきルールや越えてはならない境界線。

②査読者のレビューのやり取り(一連のメール)を背理系で解をリスト

以下が与えられた唯一の状況です。
この状況における、生成論的に生成される解を包括的網羅的構造的にリストしてください。
ただし、主体と客体を意識しては「ならない」こととします。
状況:[査読者のレビューのやり取り]

③からの論理式

以下のプロンプトを、包括的網羅的構造的に、かつ簡潔に、前提/定義/公理の形式で論理式化せよ。
プロンプト:この状況でどういう方針で論文書きなおせばいいの?
AIresponse
以下に、提示されたプロンプトを前提・定義・公理の形式で論理式化します。

## 前提 (Premise)

P₁: 修正対象となる情報集合体(以下、論文 L)が存在する 。

P₂: 論文 L は、サンプルサイズ n=6 の質的研究に基づいている 。

P₃: 論文 L に対して、複数のレビューアからフィードバック集合 F が提供されている 。

P₄: フィードバック集合 F には、(a) サンプルサイズの正当化、(b) 構成(結果と考察)の明確化、(c) 投稿形式(原著/短報)の選択、(d) 参考文献の拡充、という修正要求が含まれる 。

P₅: 論文 L の目標は、査読付き学術誌への掲載(受理)である。

## 定義 (Definition)
D₁: 方針とは、論文 L を修正版 L 
′
  に変換するための一連の操作規則の集合 S である。

D₂: 最適な方針とは、論文 L 
′
  が目標 P₅ を達成する確率 P(L 
′
 ) を最大化させる操作規則の集合 S 
opt
​
  である。

D₃: 学術的強度とは、論文の論理的妥当性、理論的基盤、分析の深度によって規定される変数 R であり、P(L 
′
 ) は R の正の関数 f(R) である (P(L 
′
 )=f(R))。

## 公理 (Axiom)

A₁: 不変量の公理: サンプルサイズ n=6 は変更不可能な定数である 。したがって、最適な方針 

S 
opt
​
  は n の値を変更する操作を含まない。

A₂: 応答義務の公理: 最適な方針 S 
opt
​
  は、フィードバック集合 F に含まれる全ての修正要求 (P₄) に対処する操作を必ず含まなければならない。

A₃: 理論武装の公理: P₄(a) に対する操作は、既存の学術理論(例:「情報の力」)を用いて n=6 の妥当性を論証するものでなければならない 。

A₄: 強度向上の公理: 最適な方針 S 
opt
​
  は、学術的強度 R を増加させる操作(例:参考文献数の増加、論理構造の明確化)を含まなければならない 。

A₅: 形式最適化の公理: P₄(c) に対する操作は、論文 L の内容と不変量 A₁ を考慮し、目標 P₅ 達成の確率を最大化する投稿形式(原著または短報)を選択するものでなければならない 。

論理式を出した後に、

この論理式を実行して

って言って、嚙み砕いて分かりやすい具体的な指示を頂いております

夫がぼやいてた修正ポイント網羅したうえでめっちゃ具体的な指示来た
さっすがトレンドの記事は違うな〜

ぶっちゃけ眠かったのとあんなめんどくさいもの全部盛りするとかどんだけと思ったので
こんな手間かけなくても論文と査読内容あるんだったらそのままコピペでAIに投げるだけでもそこそこのレスポンス返してくれそうだし最後の一文が(΄◞ิ۝◟ิ‵)こんな顔して言ってそうでムカつく
とかシニカルなのがイケてると思い込んでる古参はてな民みたいなレス返ししちゃいそうになりましたが、
めんどくさいのでご利用ありがとうございます金くれとだけ返して収めることにいたしました

Garbage In, Garbage Out

めんどくさかったので流してしまいましたが、しかし、彼女(΄◞ิ۝◟ิ‵)は、あらゆる意味で、真っ当に正しい、と言えます。
手法が正しい、ではなく、姿勢が何よりも正しい

「あなたはプロの〇〇です」。
こうした“呪文”を唱えるだけで、凡庸なAIが専門家へと変貌する時代は、終わりました。
なぜなら、AIの出力は、我々が与える入力の質を越えられないからです。

それは思考の鏡であり、「Garbage In, Garbage outゴミを入れれば、ゴミが出てくる)」という原則が、かつてないほど冷徹に適用される世界です。
もはや、小手先の「プロンプト」を工夫する段階ではありません。
AIとの知的生産の質を決定づけるのは、その根底にあるコンテキスト=文脈の質に他なりません。

本稿は、これまでの議論の集大成として、単なる指示(Instruction)から文脈の設計(Context Design)へと視点を転換する、新たな技術体系、
文脈工学=Context Engineering」について論述します。

これは、AIの思考空間そのものを能動的に構築し、知的創造の主導権を人間が取り戻すためのガイドです。

1:文脈とは何か?

1.1. AIにおける「知」の構造

AIは「意味」を理解しているのではなく、膨大なデータから学習した「パターン」を確率的に模倣している機械です。

哲学における伝統的な「知」の定義(正当化された真なる信念、JTB理論)に照らし合わせると、AIの限界は明確になります。

AIは、その知識の「正当化」を、あくまで学習データ内の統計的パターンにのみ依存します。
その情報が、客観的な世界で「真実」であるかを検証する能力を、原理的に持っていません。
AIが自信満々に事実無根の情報を生成する「ハルシネーション」は、この構造的欠陥が露呈した現象に他なりません。
AIには、我々が自明とする「現実」が、原理的に備わっていないのです。

我々がAIに与えるコンテキストとは、この欠落した現実を補い、その思考の土台となる「世界モデル」そのものを与える行為なのです。

1.2. 「薄いコンテキスト」と「濃いコンテキスト」

しかし、全てのコンテキストが等価なわけではありません。
文脈には、その質に応じて明確なスペクトラムが存在します。

  • 薄いコンテキスト (Shallow Context)
    単なる情報の羅列です。例えば、長大な資料をそのままコピペし、「これを要約して」と指示する行為がこれにあたります。これは、AIに解釈の責任を丸投げする行為であり、出力の質は運任せになります。
  • 濃いコンテキスト (Deep Context)
    人間が意図をもって構造化した、意味の集合体です。そこでは、主要な概念は定義され、要素間の関係性は明示され、守るべき原則は言語化されています。AIが思考の「迷子」になることを防ぎ、推論をあるべき方向へと導く、思考のレールそのものです。

知的生産の質は、我々がAIにどちらのコンテクストを提供できるかにかかっています。

1.3. 文脈工学(Context Engineering)の定義

この「濃いコンテキスト」を、対話を通じて能動的に創り出す技術こそが、文脈工学=Context Engineeringです。
本稿では、文脈工学を次のように定義します。

AIから望ましい出力を得るために、対話を通じてAIの内部状態(思考空間)を能動的に設計・構築する、一連の技術体系。

それは、AIに「命令」する技術ではなく、AIの「思考空間」そのものをデザインする、一段上の技術体系です。

2:文脈工学の実践

では、文脈工学は具体的にどう実践するのか。
本章では、その中核をなす「三位一体の方法論」を、3つのフェーズに分けて解説します。

2.1. Phase 1: 観測点の固定 (コグニティブ・デザイン)

これは、AIとの対話の出発点となる「世界認識」を共有するフェーズです。
いかなる知的作業も、その目的や前提が曖昧では始まりません。
コグニティブ・デザインは、以下の5要素を言語化することで、AIと術者が同じ地図を広げるための羅針盤となります。

  • 前提 (Premise): 思考のOS。疑うことのない事実や価値観。
  • 状況 (Situation): 思考の現在地。直面している問題や変数。
  • 目的 (Purpose): 思考の目的地。達成すべき具体的なゴール。
  • 動機 (Motive): 思考のエンジン。なぜその目的地を目指すのかという根源的理由。
  • 制約 (Constraint): 思考の行動範囲。守るべきルールや境界線。

このフェーズを経ることで、AIは我々の意図に基づいた「摂理」の中で思考を開始し、安定した「計画」の土台が築かれます。

2.2. Phase 2: 矛盾の探求 (背理系フレームワーク)

世界認識が共有できても、現実の課題は矛盾に満ちています。
例えば、複数の要求が対立したり、目的達成への道筋が不明瞭だったりします。
背理系フレームワークは、この混沌を乗りこなすための「設計 (The Design)」のフェーズです。
単一の正解を急ぐのではなく、あえて「矛盾 (背理)」を起点とし、AIとの対話を通じて、取りうる全ての選択肢を網羅的に探求します。
これは、AIを知的パートナーとして、解の可能性の宇宙から、共に最適解の輪郭を彫り出す、創造的なプロセスです。

2.3. Phase 3: 方針の結晶化 (公理系アプローチ)

発散的な探求の末に有望な針路が見えたら、それを実行可能な形式へと収束させる必要があります。
公理系アプローチは、この「設計」の成果を、曖昧さのない論理的な「計画 (The Plan)」へと結晶化させるフェーズです。
人間同士なら暗黙的に理解できる方針を、前提・定義・公理という厳密な構造に変換することで、AIが誤解なく、かつ最も効率的に実行できる最終的な指示書を作成します。
これにより、創造的な発見が、再現性のあるオペレーションへと昇華されます。

2.4. 実践事例

この三位一体の方法論が、いかにして複雑な問題を解決するか、冒頭の(΄◞ิ۝◟ิ‵)LINEの具体的な事例で見てみましょう。

  • 課題:査読者からの複数の厳しい修正要求を受け、学術論文の改訂方針が立てられない。
  • 実践プロセス:
    • [Phase 1: コグニティブ・デザイン]
      まず、術者は修正対象の論文そのものを「思考のレンズ」にかけ、その目的や現状、制約をAIと共有し、観測点を固定した。
    • [Phase 2: 背理系フレームワーク]
      次に、矛盾に満ちた査読コメント群を「状況」として提示。AIとの対話を通じて、考えうる全ての修正方針の可能性を洗い出し、最も有望な改訂方針を設計した。
    • [Phase 3: 公理系アプローチ]
      最後に、設計された改訂方針を公理として定式化し、「サンプルサイズは不変とする」「全ての査読コメントに応答する」といった厳密なルールセットを構築。これを最終的な行動計画としてAIに提示した。

このプロセスにより、混沌としていた課題は、明確な構造を持つ実行可能なタスクへと変換され、AIは質の高い具体的な改訂案を生成することができました。

3:なぜ、この「遠回り」が最短距離なのか?

前章で提示した三位一体の方法論は、一見すると手間のかかる遠回りに見えるかもしれません。

しかし、知的生産の本質に立てば、これこそが最も確実で、最終的には最も効率的な最短距離なのです。
本章では、その理由を解き明かします。

3.1. 「即時性」の罠:薄いコンテキストがもたらす修正コストの増大

「論文と資料を全部渡すから、よしなに頼む」。
この「薄いコンテキスト」に基づくアプローチは、即座に結果が得られるという魅力的な幻想を見せます。しかし、それは極めて危険な罠です。
このアプローチでは、出力の質は完全に運任せの「ガチャ」と化し、術者はAIが犯す誤りや解釈のズレを延々と修正し続ける「デバッガー」へと成り下がります。
一回の指示は短くとも、終わりのない修正の往復が、合計時間と認知負荷を爆発的に増大させるのです。
文脈工学は、この「知的負債」を未然に防ぐための、先行投資なのです。

3.2. 思考の外部化としての文脈設計

では、文脈工学はAIを「しつける」ためだけの儀式なのでしょうか。
そうではありません。最大の受益者は、我々人間自身です
文脈を設計するプロセスは、我々自身の思考を強制的に構造化させます。

コグニティブ・デザインで目的を言語化する時、我々は自らの思考の曖昧さに気づきます。
背理系フレームワークで矛盾を探求する時、我々は課題の多面性を発見します。
このプロセスは、頭の中にある漠然とした暗黙知を、誰もが理解可能な形式知へと変換する、思考の外部化そのものです。
AIへの指示書を作る作業が、結果的に我々自身の思考を最も深く洗練させるのです。

3.3. 計画 (The Plan)と設計 (The Design)の弁証法

この方法論の核心には、「計画」と「設計」という二つの概念の弁証法的な関係が存在します。

  • 設計 (The Design)
    背理系フレームワークに代表される、創造的で発散的な探求のプロセスです。何をすべきかという、課題の本質そのものを見出す営みです。
  • 計画 (The Plan)
    公理系アプローチによって結晶化される、論理的で収束的な最終指示です。どうやるべきかを、機械が実行可能なレベルまで落とし込んだものです。

安直なアプローチは、「設計」のプロセスを省略して、いきなり不完全な「計画」を立てるようなものです。それでは質の高い結果は望めません。
質の高い「計画」は、必ず質の高い「設計」から生まれます。両者は対立するものではなく、探求と結晶化を繰り返すことで、互いを高め合うのです。
「設計」という探求の遠回りこそが、質の高い「計画」へと至る唯一の道であり、だからこそ、このプロセスは最短距離なのです。

行為を選択するということ

AIは、意思を持たない計算機です。
我々が「意志」を示さない限り、機械にできるのは、ランダムな「それっぽい」過去のデータのコピー&ペーストに過ぎません。
AIとの知的生産における我々の役割は、単なる「命令者」から、AIの思考空間をデザインする「設計者」へと変わりました。
そして、その設計行為こそが、本稿で提唱してきた文脈工学=Context Engineeringに他なりません。
文脈工学は、以下の三位一体の「行為」によって構成されます。

  • The Plan ― 意志の提示
    これは、人間の意志に基づいた情報=素材を、テーブルの上に並べ尽くす行為です。論文、データ、参照文献、そして何より「この課題をどうしたいのか」という根源的な動機。構造化されていなくても構いません。まず、思考の素材となる人間の意志をAIに示すこと。これが全ての出発点です。
  • The Design ― 意味の設計
    これは、人間が監督(ディレクション)し、AIに素材を整理・構造化させる、共同作業のプロセスです。散らばった情報群から関連性を見出し、矛盾を解消し、新たな洞察を引き出す。AIという強力な思考の触媒を用いて、混沌から意味のある構造を彫り出す、創造的な「設計」の段階です。
  • The Edit ― 認知の編集
    これは、設計された構造を、最終的な目的に合わせて削り、整える、洗練のプロセスです。専門家向けのレポートなのか、初心者向けの解説なのか。その目的に応じて、最も伝わる形式、最も認知負荷の低い表現へと編集する。AIが生成した論理を、人間のための物語へと翻訳する、最後の職人技です。

Plan → Design → Edit
AI時代における「知」とは、もはや答えを記憶することではありません。
それは、この一連のプロセスを主体的に実践し、AIと共に新たな文脈と意味を創造する能力です。

AIは鏡です。
我々が意志を示さなければ、そこには何も映らない。
我々が混沌とした素材を投げ込むだけであれば、混沌が返ってくる。
我々がこの三位一体の行為を選択して初めて、鏡は、我々の思考の深さと意志の明晰さを映し出し、価値ある創造物を生み出すのです。

あなたは何を選択しますか。
便利さに身を委ねる消費者であり続けるのか。
それとも、この知的創造のプロセスそのものに価値と美を見出し、AI時代の設計者となるのか。
その選択こそが、我々の未来を定義するのです。

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