機械学習モデルのAPI化: FastAPI vs KServeの選択基準
1. はじめに
機械学習モデルを本番環境で運用する際、多くの場合「API化」が求められます。APIを通じて外部システムやアプリケーションと連携し、リアルタイム推論やバッチ推論を行うことが可能になります。
API化の方法として代表的なフレームワークに FastAPI と KServe(旧 KFServing) がありますが、「どちらを選べばいいのか?」という疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、
- FastAPI と KServe の違い
- どんなケースでどちらを使うべきか?
-
実際の実装方法と注意点
を詳しく解説します。
2. FastAPIとKServeの基本概念
項目 | FastAPI | KServe |
---|---|---|
用途 | 軽量なAPIの開発 | Kubernetes上でのML推論サービスの提供 |
スケール | 単一ノードまたは小規模クラスタ向け | 大規模クラスタ向け(自動スケール) |
デプロイ | 手動でコンテナデプロイ | Kubernetes Operator により自動デプロイ |
推論方式 | 同期処理(REST API) | 非同期処理も可能(gRPC, REST) |
サポートするモデル | 任意のフレームワーク(ONNX, TensorFlow, PyTorch, scikit-learnなど) | TensorFlow, PyTorch, ONNX, XGBoost, Scikit-Learnなど |
可観測性 | ログ管理が手動 | Prometheus, Grafana との統合が容易 |
スケールアウト | 手動(ロードバランサー必須) | Kubernetesのオートスケール |
適用対象 | 小規模・軽量なAPI | 大規模な本番運用・分散環境 |
3. どんな場合にどちらを使うべきか?
✅ FastAPIを使うべきケース
FastAPI は軽量なPythonのWebフレームワークであり、以下のようなケースで適しています。
-
開発が素早くできる小規模な推論APIを作成する場合
- 例:機械学習モデルをAPI化し、フロントエンドやモバイルアプリからリクエストを受け付ける
-
Kubernetesが不要な場合
- 例:シンプルな推論サーバーを1台のVMやDockerコンテナ上で運用
-
軽量な推論エンドポイントを提供する場合
- 例:scikit-learn, XGBoostなどの小規模なモデルの推論
-
非同期処理を活用したい場合
- FastAPIは非同期処理(async/await)をサポートし、多数のリクエストを効率的に処理できる
-
gRPCのような複雑な通信プロトコルが不要な場合
- REST APIをメインに使うならFastAPIで十分
✅ KServeを使うべきケース
KServe(旧 KFServing)は、Kubernetes上でMLモデルのスケーラブルな推論を提供するためのツールです。以下のケースで適しています。
- クラウド環境(AWS, GCP, Azure)でスケーラブルなML推論APIを運用したい場合
- Kubernetesを使用してMLパイプラインを管理している場合
-
大量のリクエストを自動でスケールアウトしたい場合
- KServeは オートスケール をサポートし、リクエスト量に応じてPodの数を自動調整可能
-
複数のモデルを同時に管理したい場合
- 例:バージョニング(A/Bテスト)、複数のMLフレームワークのモデルを一元管理
-
高可用性・高耐障害性が求められる場合
- FastAPIは 単一ノードが落ちると影響を受ける が、KServeはKubernetesの仕組みを活用し耐障害性が高い
4. 実装方法(FastAPI vs KServe)
🛠 FastAPIによるML推論APIの実装
from fastapi import FastAPI
import pickle
import numpy as np
# モデルのロード
with open("model.pkl", "rb") as f:
model = pickle.load(f)
app = FastAPI()
@app.post("/predict")
def predict(features: list):
features = np.array(features).reshape(1, -1)
prediction = model.predict(features)
return {"prediction": prediction.tolist()}
# 実行
# uvicorn main:app --host 0.0.0.0 --port 8000
- FastAPIを利用することで、手軽にML推論APIを作成 できる
- しかし、スケーラブルな運用には ロードバランサー(NGINX, Kubernetesなど)が必要
🛠 KServeによるML推論APIの実装
apiVersion: serving.kserve.io/v1beta1
kind: InferenceService
metadata:
name: my-ml-model
spec:
predictor:
tensorflow:
storageUri: "gs://my-bucket/my-model"
- Kubernetes上でKServeを使い、モデルをデプロイ
-
kubectl apply -f model.yaml
でデプロイ完了 - 自動スケールが可能で、リクエスト量に応じてPod数が増減
5. 結論: FastAPIとKServeの共存は可能か?
FastAPIとKServeは基本的に 異なる用途 のツールですが、「共存は可能」です。
🔥 FastAPI + KServe の組み合わせ
実際のシステムでは、以下のように FastAPIをフロントエンドとして、KServeをバックエンド推論エンジンとして使う こともできます。
- FastAPIでリクエストを受け取る
- KServeにリクエストを転送し、スケーラブルな推論を行う
- 結果をFastAPI経由で返す
import requests
from fastapi import FastAPI
app = FastAPI()
KSERVER_URL = "http://my-ml-model.default.svc.cluster.local/v1/models/my-ml-model:predict"
@app.post("/predict")
def predict(data: dict):
response = requests.post(KSERVER_URL, json=data)
return response.json()
6. まとめ
選択基準 | FastAPI | KServe |
---|---|---|
小規模API | ✅ | ❌ |
大規模運用 | ❌ | ✅ |
Kubernetes環境 | ❌ | ✅ |
簡単な実装 | ✅ | ❌ |
自動スケール | ❌ | ✅ |
👉 「ローカル or 小規模なら FastAPI」、「大規模クラウド運用なら KServe」 を選択するのがベスト!