0. 四元数の勉強の動機
最近、四元数を扱う機会が出てきた。
折角四元数を扱うのだから、しっかりと基礎から理解しようと思い基礎から勉強しようと思った。
今回は、四元数に関して勉強した内容のメモを書こうと思う。
間違っていたら教えてください。
1. 四元数の定義
四元数$q$は以下のように定義される。
q = a + bi + cj + dk
ここで、$a,b,c,d \in \bf {R}$ で $i,j,k$は以下の性質を満たす元である。
i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1
最初、四元数の性質を見たとき「複素数を拡張するから、$j^2 = -1,\ k^2 = -1$の理由は分かるけど、$ijk = -1$って何で?」って思った。
この理由を知るためには、三元数から考えないといけない。
(四元数の性質の理由は、この記事の最後の方で理由が分かる。)
この四元数の性質を理解するために、三元数からスタートする。
(アイルランドの数学者ハミルトンが考えた手順通りに議論する)
2. 三元数
2.1 三元数とは
三元数$\alpha$は複素数を拡張して、虚数$i$とは異なる$j^2 = -1$となるような元を導入。即ち
\alpha = a + bi + cj\ (a,b,c \in {\bf {R}},\ i^2 = j^2 = -1)
である。
2.2 三元数について
この三元数が和と差については閉じていることは容易に確認できる。
$\alpha = a + bi + cj$, $\beta = x + yi + zj$としたとき
\alpha \pm \beta = (a \pm x) + (b \pm y)i + (c \pm z)j
次に三元数が「積の絶対値と絶対値の積が等しい」という絶対値の性質が成立するかどうか考えてみる。
つまり、三元数$\alpha, \beta$について
|\alpha \beta| = |\alpha||\beta|
が成立するかどうか考えてみる。両方とも正の値になるので、以降考えるのは
|\alpha \beta|^2 = |\alpha|^2 |\beta|^2
とする。(このように考えても結果は変わらないため)
2.2.1 絶対値の性質の確認(簡単な例について確認)
まずは、簡単な例から考えていく。これは成立するのか?
|\alpha \alpha|^2 = |\alpha|^2 |\alpha|^2
計算してみると次のようになる。
まず右辺について
\begin{eqnarray}
|\alpha|^2 &=& a^2 + b^2 + c^2\\
右辺 &=& |\alpha|^2 |\alpha|^2\\
&=& (a^2 + b^2 + c^2)(a^2 + b^2 + c^2)\\
&=& a^2a^2 + a^2b^2 + a^2c^2 + b^2a^2 + b^2b^2 + b^2c^2 + c^2a^2 + c^2b^2 + c^2c^2\\
&=& a^4 + b^4 + c^4 + 2a^2b^2 + 2b^2c^2 + 2c^2a^2\\
&=& ((a^2 - b^2 - c^2)^2 + (2a^2b^2 -2b^2c^2 + 2c^2a^2)) + 2a^2b^2 + 2b^2c^2 + 2c^2a^2\\
&=& (a^2 - b^2 - c^2)^2 + 4a^2b^2 + 4a^2c^2
\end{eqnarray}
次に左辺について考えてみると・・・
\begin{eqnarray}
\alpha \alpha &=& (a + bi + cj)(a + bi + cj)\\
&=& a\cdot a + a\cdot bi + a\cdot cj + bi \cdot a + bi \cdot bi + bi \cdot cj + cj \cdot a + cj \cdot bi + cj \cdot cj\\
&=& a^2 - b^2 - c^2 + 2abi + 2acj + 2bcij
\end{eqnarray}
ここで、右辺は$(a^2 - b^2 - c^2)^2 + 4a^2b^2 + 4a^2c^2$であるので、
左辺の絶対値を考えると$ij$の項が無くなって欲しい。
そこで、$ij = 0$と仮定すれば、
\begin{eqnarray}
\alpha \alpha &=& (a + bi + cj)(a + bi + cj)\\
&=& a\cdot a + a\cdot bi + a\cdot cj + bi \cdot a + bi \cdot bi + bi \cdot cj + cj \cdot a + cj \cdot bi + cj \cdot cj\\
&=& a^2 - b^2 - c^2 + 2abi + 2acj + 2bcij\\
&=& a^2 - b^2 - c^2 + 2abi + 2acj\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (ij = 0を仮定したので)\\
左辺 &=& |\alpha \alpha|^2\\
&=& (a^2 - b^2 - c^2)^2 + (2ab)^2 + (2ac)^2\\
\end{eqnarray}
となって$|\alpha \alpha|^2 = |\alpha|^2 |\alpha|^2$は成立する。(気持ち悪いけど・・・)
2.2.2 絶対値の性質の確認(一般形について確認)
次に、$\alpha = a + bi + cj$, $\beta = x + yi + zj$として$|\alpha \beta|^2 = |\alpha|^2|\beta|^2$が成立するかどうか考えてみる。
まずは右辺について
\begin{eqnarray}
|\alpha|^2 &=& a^2 + b^2 + c^2\\
|\beta|^2 &=& x^2 + y^2 + z^2\\
右辺 &=& |\alpha|^2 |\beta|^2\\
&=& (a^2 + b^2 + c^2)(x^2 + y^2 + z^2)\\
&=& a^2x^2 + a^2y^2 + a^2z^2 + b^2x^2 + b^2y^2 + b^2z^2 + c^2x^2 + c^2y^2 + c^2z^2\\
&=& ((ax - by - cz)^2 + (2axby - 2bycz + 2czax)) + a^2y^2 + a^2z^2 + b^2x^2 + b^2z^2 + c^2x^2 + c^2y^2\\
&=& (ax -by -cz)^2 + (ay + bx)^2 + (bz - cy)^2 + (az + cx)^2
\end{eqnarray}
となる。一方左辺は
\begin{eqnarray}
\alpha \beta &=& (a + bi + cj)(x + yi + zj)\\
&=& a\cdot x + a\cdot yi + a\cdot zj + bi \cdot x + bi \cdot yi + bi \cdot zj + cj \cdot x + cj \cdot yi + cj \cdot zj\\
&=& (ax - by - cz) + (ay + bx)i + (az + cx)j + (bz + cy)ij\\
&=& (ax - by - cz) + (ay + bx)i + (az + cx)j\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (ij = 0を仮定したので)\\
左辺 &=& |\alpha \beta|^2\\
&=& (ax - by - cz)^2 + (ay + bx)^2 + (az + cx)^2\\
\end{eqnarray}
これは、$|\alpha|^2 |\beta|^2$と比べて、$(bz - cy)^2$分足りないことがわかる。
これより$ij = 0$と仮定したのは誤りであることが分かった。
2.2.3 絶対値の性質の確認(新たな元を導入)
じゃあ、どうするのか?というと、
\begin{eqnarray}
\alpha \alpha &=& (a + bi + cj)(a + bi + cj)\\
&=& a\cdot a + a\cdot bi + a\cdot cj + bi \cdot a + bi \cdot bi + bi \cdot cj + cj \cdot a + cj \cdot bi + cj \cdot cj\\
\end{eqnarray}
で積の順序を考慮して
\alpha \alpha = a^2 - b^2 - c^2 + 2abi + 2acj + bcij + bcji
として、$ij = -ji$と仮定すれば良さそうと考えた。このようにすると、
\begin{eqnarray}
\alpha \alpha &=& a^2 - b^2 - c^2 + 2abi + 2acj + (bc - bc)ij\\
&=& a^2 - b^2 - c^2 + 2abi + 2acj\\
|\alpha \alpha| &=& (a^2 - b^2 - c^2)^2 + (2ab)^2 + (2ac)^2\\
\end{eqnarray}
となり、$|\alpha \alpha|^2 = |\alpha|^2 |\alpha|^2$は成立する。
また、
\begin{eqnarray}
\alpha \beta &=& (a + bi + cj)(x + yi + zj)\\
&=& a\cdot x + a\cdot yi + a\cdot zj + bi \cdot x + bi \cdot yi + bi \cdot zj + cj \cdot x + cj \cdot yi + cj \cdot zj\\
&=& (ax - by - cz) + (ay + bx)i + (az + cx)j + (bz - cy)ij\\
\end{eqnarray}
となって$k = ij$という新しい元を導入すれば
\alpha \beta = (ax - by - cz) + (ay + bx)i + (az + cx)j + (bz - cy)k
より、絶対値は
|\alpha \beta|^2 = (ax - by - cz)^2 + (ay + bx)^2 + (az + cx)^2 + (bz - cy)^2
であるので$|\alpha \beta|^2 = |\alpha|^2 |\beta|^2$が成立することが分かる。
このことから、「$k = ij$という新しい元(虚数単位)が存在する」ことを認めざるを得ない結果となった。
更に、$\alpha \beta = A + Bi + Cj$という形で表すことが出来ないことが分かり、
三元数は積に対して閉じていない。よって三元数は存在しない。
3. 四つめの元を導入
四つめの元$k$を導入した、四元数$q$を以下のように定義する。
q = a + bi + cj + dk
ここで、$a,b,c,d \in \bf {R}$ で $i,j,k$は以下で定義される。
i^2 = j^2 = -1, k = ij, ij = -ji
4. 四元数の元の性質を導く
$i,j,k$の元の性質を今から導く。$i,j,k$の定義は$i^2 = j^2 = -1, k = ij, ij = -ji$から以下の値を導出する。
(1) $i^2$
(2) $j^2$
(3) $k^2$
(4) $ij$
(5) $ik$
(6) $ji$
(7) $jk$
(8) $ki$
(9) $kj$
(10) $ijk$
4.1 性質の導出
(1) $i^2$
これは定義より、$i^2 = -1$
(2) $j^2$
これは定義より、$j^2 = -1$
(3) $k^2$
$k^2 = kk = ijij = i(-ij)j = -iijj = -1$
(4) $ij$
これは定義より、$ij = k$
(5) $ik$
$ik = i(ij) = iij = -j$
(6) $ji$
これは定義より、$ji = -ij = -k$
(7) $jk$
$jk = j(-ji) = -jji = i$
(8) $ki$
$ki = (-ji)i = -jii = j$
(9) $kj$
$kj = (ij)j = ijj = -i$
(10) $ijk$
$ijk = ij(-ji) = -ijji = -i(-1)i = i^2 = -1$
以上をまとめると以下のようになる。
\begin{eqnarray}
\left\{ \begin{array}{rrrrrrrrr}
i^2 &=& j^2 &=& k^2 &=& ijk &=& -1 \\
ij &=& -ji &=& k \\
jk &=& -kj &=& i \\
ki &=& -ik &=& j \\
\end{array} \right.
\end{eqnarray}
5. 四元数の定義について
これは自分の推測だけど・・・。
三元数から考えると$i^2 = j^2 = -1, k = ij, ij = -ji$が定義で、他の値は定義から導かれた性質であるため、四元数を定義するならば三つの元$i,j,k$の定義は$i^2 = j^2 = -1, k = ij, ij = -ji$がいい気がするのだけれども・・・。
恐らく、三つの元$i,j,k$の定義を$i^2 = j^2 = k^2 = ijk = -1$とするのは、
- この定義からでも同等の性質が導ける
- この数式のほうが、一つの式でまとまり、見た目綺麗で覚えやすい
から、だと思われる。でも背景を知らないと、「複素数を拡張するから、$j^2 = -1,\ k^2 = -1$は分かったけど、$ijk = -1$って何で?」って思うよね?自分だけ?
6. 今後のメモ
次は
- 四元数の積は、ベクトルの内積、外積に関係すること。
- 三次元空間の回転と四元数の積について。
などのメモを書いていこう。