※本記事は、「b.tokyo2019において語られた、ブロックチェーンの可能性と課題(前編)」の続きとなる記事である。
b.tokyo2日目(10/3)においては、金融サービスを提供する企業・当局による金融領域に関する議論が活発に行われた。
b.tokyo DAY1-2019/10/2(水)
マルチステークホルダーガバナンスによる健全なエコシステムの構築
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金融庁総合政策局課長補佐・高梨氏、ジョージタウン大学の松尾教授、Coinbase日本法人代表取締役北澤氏、MITメディアラボのマイケル・ケーシー氏、イーサリアム財団のダニー・ライアン氏がそれぞれの立場から考えた「あるべきレギュレーションの姿」について議論した。
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日本の金融庁は暗号通貨規制に関して、かなりイノベーティブであり、事業者との調整を進めている。
- 規制の目的は①金融システムの安定②消費者の保護③金融犯罪防止である。
- 自律的で仲介者がおらず、匿名化の進む分散型金融においては、規制が非常に難しいという問題がある。
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ブロックチェーンを取り巻くステークホルダーには「事業者」「ユーザー」「開発者」「規制当局」とがあり、これらマルチステークホルダーが一丸となって規制の目的およびゴールをすり合わせる必要がある。
「ステーブルコイン」と金融イノベーションーMakerDAO創業者が語る「Defi」の本質
現在パブリックブロックチェーンの領域で注目を集める、「MakerDAO」と「Defi」について、MakerDAO CEOルン・クリステンセン氏の口から語られた。
- MakerDAOはイーサリアムを基盤技術に使い、米ドルと連動して常に価格が一定になるようにスマートコントラクト上で設計されている。いわゆる「ステーブルコイン」であり、Defi(=ブロックチェーンを活用した分散型金融)の一種である。
- ボラティリティが高く日常的な決済用途としては不適な仮想通貨が多い中、MakerDAOは既にヨーロッパにおいてブロックチェーン開発者の給与支払いやレンディングサービス、資金調達の用途に活用されている。
- アルゼンチンでは国家の発行する法定通貨のインフレーションが発生しており、このように国民の法定通貨に対する信用が低い国家においてはドルペッグのMakerDAOに資産を退避させる事例も多い。
2020年の決済ビジネス―「ポイント」「仮想通貨」「トークン」がつくる経済圏
マネーパートナーズから西村氏、ディーカレットから白石氏、元SBI Ripple Asiaの沖田氏、auフィナンシャルホールディングスから藤井氏が参加したパネルディスカッション。
- これまで企業は「ポイント」という形で自社を中心とする経済圏にユーザーを囲いこみ、リテンションさせていた。しかしトークン・仮想通貨は流通することに価値があり、ユーザー視点では次のアクションにすぐに移行することができるという特長がある。この流れは今後も加速していくものと思われる。
- 決済ビジネスだけではマネタイズをすることはできない。しかし中国のAlipayはペイメントアプリをリリースした直後から融資サービスを提供し、ビッグデータを集積した。このような決済⇒総合⇒ビッグデータという方式で決済サービスを入り口としたマネタイズを考えるのが重要。
- 近年●●Payと銘打ったペイメントアプリが多くリリースされている。これらペイメントアプリでは個人の決済情報を扱うためブロックチェーンを活用することは考えにくく、おそらく今後も利用されない。しかしこれらペイメントアプリは自社経済圏へのユーザー取込みのみにフォーカスしていることが多く、かつペイメントアプリ市場のキャパシティが飽和状態に近づいていることを考えると、トークンを活用したより有機的な消費行動が促され、新たな決済の概念が生まれる可能性がある。
LINE Blockchainが目指す社会
LINEのブロックチェーン事業の責任者を務め、子会社LVCの代表取締役である高永受氏とKPMGコンサルティング株式会社執行役員椎名茂氏によるセッション。
- LINEは仮想通貨取引所として、日本では「BITMAX」を、日米以外の国家では「BITBOX」をリリースしている。今後米国でもリリース予定。また独自仮想通貨LINKをリリースしている(日本を除く)。
- すでにKYC済みのLINE Payを利用することで、本人確認のコストを下げ、普段使用するチャットアプリから仮想通貨の購入が可能である。他のアプリケーションと比較して顧客によりシームレスな体験を提供することができる。
- LINK Chainという独自のブロックチェーンの開発を進めており、このチェーン上で様々な「Dapps」、ブロックチェーンアプリケーションを提供している。現在遊べるサービスに加え、著作権の保護・KYCや本人確認アプリなどの開発も進めている。
STOのリアリティ 証券型トークンはビジネスをどう変えるか?
アンダーソン毛利友常法律事務所の河合弁護士、Securitize CEOカルロス・ドミンゴ氏、三菱UFJ信託銀行の斎藤氏、三井不動産の能登谷氏によるディスカッション。
- 金融庁はイノベーションに寛容であり、STOに関しても法に準拠できる枠組みもそろっていることから、企業にとっては検討がしやすい環境になっている。これまでの仮想通貨を用いたICOとは全く異なったマーケットとして成熟していくと思われる。
- 不動産は20年前にREITという形で証券化の概念が持ち込まれたが、STOという形でさらに小口化できれば、より裾野が広がり、投資家の幅も広がると考えられる。アメリカではすでにSecuritizeプラットフォームの上で不動産を購入した事例がある。
- STOにより、受益証券など、これまで流動性が低く証券化の対象になりえなかったもの流動化でき、資金調達者にとって手段の多様化が実現できる。
- 証券にデジタル化の波が押し寄せている中で、信託銀行にはカストディという点で需要があると考えられる。また信託銀行は日本の法益において投資家のことを保全できる強みがあり、これをテクノロジーでさらに加速させていきたい。
- STOの今後の課題
- トークンとバックアセットの紐づけやその管理者が不存在の場合があり、担保の方法を考える必要がある。
- 各国によって金融規制が異なることに対して、ボーダーレスなデジタル証券を目指すSTOは何らかの形でバランスを調整する必要がある。
- 様々なSTOプラットフォームの開発が独立別個に進んでいるが、共通フレームや規格を作っていく必要がある。
まとめ
- 本イベントでは、レギュレーターや事業者、開発者、また「Libra」といったホットトピックに関しても関係者を招聘し、多様な観点からブロックチェーンに関する議論が行われていた。またスピーカーへの参加者の質問に関しても、PoC(実証実験)や活用領域についてのアドバイスを求めるものなどが多く、あらためてブロックチェーンという技術に対する関心の高さを印象付けるものであった。
- 特に金融領域での活用に関する議論が多く、国際送金や為替といった既存業務の変革を模索するような議論もあれば、「MakerDAO」「STO」など仮想通貨に紐づく新たな経済圏の創出を示唆するものもあった。
- 一方で、本イベントにおいては、「実用化」されたブロックチェーンシステム、すなわち既に本番環境で稼働し運用保守のフェーズに入っている事例に関してはあまり取り上げられなかった。しかし日本国内においても、すでにブロックチェーンシステムを他システムと接続し、実稼働させているサービスは存在する。
- 例えば地銀大手のふくおかフィナンシャルグループ(FFG)は、アクセンチュアのブロックチェーン運用ソリューション「Blockchain Hub」を利用し(ブロックチェーン基盤としてはHyperledger Fabricを使用)、ブロックチェーンを用いた地域ポイントサービス「myCoin」を2018年10月にリリースした。これは、ふくおかフィナンシャルグループのマイレージサービス「mybank+」や、ウォレットアプリ「Wallet+」内からシームレスに利用できることから、利用ユーザー数が順調に伸びており、100万人を超える勢いである。
- 本システムは日本初となる金融機関によるブロックチェーン導入事例であり、まさに商用化におけるリーディングケースと言えるであろう。
多くの企業にとってはいかに既存業務にブロックチェーンのロジックを組み込むかが検討課題であることを鑑みれば、今後は本番環境での運用に必要な議論、すなわち「システム導入および運用保守にかかる具体的なコストの算定」「マネージドサービスの活用を視野にいれつつ、基盤構築の難易度をいかにして下げていくか」といったいわば地に足のついた議論が必要になるだろう。