はじめに
先日、2022年9月現在取得可能なAWS認定12個を全て取得し無事全冠達成できましたので、振り返りとAWS学習に有用なコンテンツをまとめてみました。現在は全冠達成者も多くこの手の記事も増えてきた印象ですが、これからエンジニアとしてのキャリアを踏み出される方やAWS認定取得を目指されている方の参考になれば幸いです。
筆者について
・大学・大学院では、画像処理、無線通信のための機械学習応用について研究
・AWS経験は2年程度
・新卒2年目、AWSを活用しモバイル通信向けバックエンドシステムや社内業務支援システムなどの開発業務に従事
AWS認定
AWS認定は、AWSを活用する技術的な専門知識が一定以上あることを証明するAWS公式の認定資格です。各試験は、それぞれのキャリアに必要な技術スキルとクラウドの専門知識が修得できるように設計されており、資格取得を通して効率的かつ体系的にAWSとその周辺知識を学習することができます。2022年9月現在、AWS認定には基礎コース・アソシエイト・プロフェッショナルの3つのレベルからなるアーキテクト・開発者・運用者の役割別認定とセキュリティ・ネットワーク・データベース・データ分析・機械学習・SAP on AWSの6つの専門知識認定の合計 12個 の認定が存在します。
AWS認定の有効期限は3年間です。再認定には有効期限の3年間のうちに再度同じ認定試験を受験して合格する必要があります。再認定に合格すると合格日から3年間、有効期限が延長されます。AWS認定に合格すると次回から使用できる認定試験の50%割引バウチャーなどの特典を入手できます。
AWS認定取得のメリット
近年のIT業界ではパブリッククラウドを活用した開発が活発になり、中でもAWSはクラウド市場でトップシェアを誇り幅広い業種で利用されるようになってきました。AWSはグローバルで数百万件以上、日本でも数十万件を超える利用がされており、AWSのクラウドが選ばれる10の理由にもあるとおり世界中のITソリューションでAWSが活用され、それに伴いAWSに関する専門知識やスキルも重要になっていると感じています。このような背景を踏まえて、AWS認定を取得するメリットをいくつか挙げてみました。
- パブリッククラウドのデファクトスタンダードになりつつあるAWSの技術的な専門知識を定量的に証明することができる。
- 社内での昇給や昇格、転職市場での技術力の証明などITエンジニアとしての市場価値を高められる。
- 業務時間外や休日でも勉強する習慣が身につく。
- 学習から認定取得までの過程で、認定ごとのテーマに関する分野を効率的かつ体系的に学習できる。
- 普段触らないサービスを学ぶことで興味が広がったり実務で利用するきっかけになる。認定取得に向けた学習と実務での活用による相乗効果で確かな技術力が身につく。
- 全ての認定を取得することでAWSサービス全体を見渡したAWS Well-Architected Frameworkにもとづく要件に応じたソリューションを選択できる。
- APNに参加している会社に所属している場合、全冠達成することでAPN ALL AWS Certifications Engineersとして表彰され、エンジニアとして箔をつけることができる。
資格の話題になると「IT資格は取得する意味があるのか」という意見が散見されますが、個人的には「なくてもいいけど、アピールポイントの一つとして持っておいてもいい」といった認識です。AWS認定取得は、初めてAWSを学習される方にとっては良いロードマップになりえますし、実務でAWSをバリバリ利用されている方でも体系的に学び直せる機会になると思いますので、AWSに関する実力を問わず有用な学習コンテンツだと思います。
全冠までの道のり
AWS認定は以下の順番で取得してきました。
取得日 | コード | 試験名 |
---|---|---|
2021/08/10 | SAA-C02 | AWS Certified Solutions Architect - Associate |
2021/11/12 | DVA-C01 | AWS Certified Developer - Associate |
2021/12/09 | SOA-C02 | AWS Certified SysOps Administrator - Associate |
2021/12/11 | CLF-C01 | AWS Certified Cloud Practitioner |
2022/01/15 | SCS-C01 | AWS Certified Security - Specialty |
2022/02/06 | SAP-C01 | AWS Certified Solutions Architect - Professional |
2022/02/28 | DOP-C01 | AWS Certified DevOps Engineer - Professional |
2022/03/28 | ANS-C00 | AWS Certified Advanced Networking - Specialty |
2022/06/05 | DBS-C01 | AWS Certified Database - Specialty |
2022/07/30 | DAS-C01 | AWS Certified Data Analytics - Specialty |
2022/08/08 | MLS-C01 | AWS Certified Machine Learning - Specialty |
2022/09/11 | PAS-C01 | AWS Certified SAP on AWS - Specialty |
おすすめのAWS認定取得順番
ある程度のIT知識がある方を対象とした、超個人的おすすめ認定取得順は次のとおりです。
「SAA → (DVA, SOA) → CLF → SCS → SAP → DOP or 残りのSpecialty」
以下にその理由を記載します。
SAA → DVA, SOA (アソシエイト3冠)
SAAは、AWSの主要サービスや基本的な考え方・ベストプラクティスを効率よく学習できるのではじめに取得するのがいいと思います。最近の風潮としてフルスタックエンジニアの需要が高まっているため、実務でアプリ開発もしくはインフラ運用など一方のみを担当している場合でも、円滑な業務遂行のためにお互いの技術スタックを理解していることが求められていると感じます。このような背景からAWSに関するインフラ・アプリ・運用をバランスよく学習するためにアソシエイト3冠をはじめの目標として定めることをおすすめしています。
CLF
アソシエイト3冠後なら、CLFは容易に取得できると思います。正直CLFの受験タイミングはどこでもいいのですがこのタイミングをおすすめする理由は、今後のプロフェッショナル・スペシャリティ用の50%割引バウチャーの予備を入手するためです。またアソシエイト3冠以上を目指す場合、CLFにアソシエイトの合格で入手した50%割引バウチャーを使用しないことをおすすめします。理由は大きく2点で、プロフェッショナル・スペシャリティの受験料はCLFの受験料12,100円に対して約2.7倍の33,000円と高額のため半額の恩恵が大きいことと、これまでより更に難しくなる試験で1回まで落ちても再度半額で受験できるという安心感のためです。
SCS
セキュリティはAWSが最も重視する項目の一つでありどんなAWSサービスを利用する場合でも必須の知識なので、アソシエイト3冠後の取得をおすすめします。本認定で学習する知識は、他の試験や業務上でも直接的に活用できるものが多い印象があります。
SAP
アソシエイト3冠、SCSまで取得し終わる頃には、一通りAWSがどんなものかざっくりわかっている状態でSAPの勉強を開始できる準備が整っていると思います。SAPはサービス単独の知識というより複雑な制約の中どのように要件を実現するかというところに重点が置かれている印象です。問題文を理解するためには他サービスとの連携やユースケース等を一通り理解している必要があるのですが、これまで積み上げてきたものをベースに理解していけば挫折せずに学習を進められると思います。SAP取得はITエンジニアとして箔をつけることにも繋がるので、「無理せずできるだけ早く取りたい」という思いを実現すべくこの位置においています。
DOP, ANS, DBS, DAS, MLS, PAS
SAP取得後は、自身の専門性や経験をもとに取得する認定を決めるのがよいと思います。おすすめ取得順を強いて言えば以下のとおりです。
- DASで学んだ知識はMLSでも生きるので、DAS → MLS
- PASはリリースからまだ間もなく他の試験に比べて情報が少ないので後回しにする。
採点対象外の設問について
2022年9月現在、CLF, SAA, DVA, SOA, SCS, ANS, DBS, DAS, MLS, PASは設問65問のうち50問が採点対象で15問が採点対象外となっています。(SAP, DOPは設問75問のうち65問が採点対象、10問は採点対象外)
採点対象外の設問は、AWS側で受験者の正答率を調査しこれらの設問を今後採点対象の設問として採用できるかどうかを評価するために使用されます。試験中にどの設問が採点対象外かはわからないですが、感覚として尖った設問や細かいパラメータを聞いてくる設問は採点対象外である確率が高いような気がしています。「結構わからない問題が多かったけど意外と点数が高かった!」とおっしゃる方が多いのはこれが理由だと考えています。そのためもし試験中にわからない問題が続いても「採点対象外かもしれない!」と切り替えることが大事です。試験中のメンタル維持のお役に立てれば幸いです。
おすすめ学習コンテンツ
各試験ページで紹介されている学習コンテンツ
なにはともあれ、各認定ページの「試験の準備」から試験概要を確認します。以下、SAAを例に記載します。
試験ガイド
試験ガイドで試験範囲とその内容を確認します。重要なサービスや考え方を知ることができます。
サンプル問題
サンプル問題 ( 10問 )から大まかな出題傾向を把握します。解説やサービス詳細のリンクも記載されているので、あわせて確認することで理解が深まると思います。
デジタルトレーニング
ここで記載されているデジタルトレーニングとは、AWS Skill Builderで認定ごとに提供されているExam Readinessシリーズのことで、認定取得に必要な要点が端的にまとめられています。解説記事や動画により2~3時間程度で試験範囲の全体像や重点的に学習すべきサービス・ユースケースを把握できるのでぜひ勉強開始時の受講がおすすめです。AWS Skill Builderには試験対策に限らず豊富な動画コンテンツが公開されているので、気になるキーワードで検索してみて視聴してみるのも面白いと思います。
公式練習問題
同じくAWS Skill Builderで提供されている公式練習問題 ( 20問 )です。昨年までの有料かつフィードバックは分野ごとの正答率だけ(間違えた問題やその解説がない)だった模擬試験の後継サービスになります。Skill Builderへの移行に伴い、無料かつ1問回答ごとに詳細な解説まで見ることができるようになりました。試験問題は変わりませんが何度でも受験可能です。上記サンプル問題と同様に大まかな出題傾向の把握のために、ぜひ受験することをおすすめします。
試験問題に慣れるための学習コンテンツ
AWS WEB問題集で学習しよう
AWS WEB問題集で学習しようは、11種のAWS認定試験(PAS以外)に関する4000問以上の問題が詳細な解説とともに提供されています。1セット7問とコンパクトなので通勤時間などのスキマ時間でも学習することができます。解説がとても丁寧で関連するAWSドキュメントのリンクも貼られており、リンク先もあわせて確認することで初学者だとあまりの情報量に圧倒されがちなAWSドキュメントへの耐性をつけていくこともできます。各試験ごとにたくさんの合格記が投稿されているので勉強方法の参考にもなると思います。最近のアップデートにより学習履歴(正答率、間違えた問題、お気に入りなど)を保存できるようになり、より効率的に学習できるようになりました。たくさん問題を解いて、試験に慣れたいという方には非常におすすめできるコンテンツです。
Udemy
Udemyは、204,000以上の講座があるオンライン学習プラットフォームです。提供コンテンツはPython・Excel・ウェブ開発・JavaScript・データサイエンス・AWS認定試験・デッサンなど多岐に渡ります。その中にはAWS学習に最適なコンテンツも豊富に提供されています。
CLF, SAA, DVA, SOA, SAPなどの受験者の多い認定については、Shibata Shingoさんのコースがおすすめです。試験対策にフォーカスした ハンズオン講座 や 問題集 が日本語で提供されています。中でも【SAA-C03版】これだけでOK! AWS 認定ソリューションアーキテクト – アソシエイト試験突破講座は、SAA合格に求められる知識とハンズオンによる主要AWSサービスの操作をバランスよく学習することができます。これからAWS学習を始める方は、いきなり知識ベースの勉強から入るとAWS操作のイメージがしづらいかと思いますので、はじめに本講座を受講しておくと見通しがつきやすくなると思います。
スペシャリティ認定については、Stephane Maarekさんの講座が有名です。(CLF, SAA, DVA, SOA, SAPに関する講座も提供されています。)
こちらも試験対策にフォーカスした ハンズオン講座 や 問題集 が提供されています。注意点としては、全て英語なので苦手な方は字幕やブラウザ翻訳機能を活用するなどの工夫が必要です。
また、Udemyは月1-3回ほどのペースで最大 94% 程度割引になるセールを開催しています。急ぎでない場合はセール中に講座を購入することをおすすめします。
試験対策に限定しないおすすめ学習コンテンツ
BlackBelt
BlackBeltは、AWSが提供する各種サービスやソリューションごとにカテゴリ分けされたAWSサービスの基本から応用まで学べるサービスです。各サービスのプロフェッショナルが解説してくださり、AWSドキュメントを読んで理解できなかった場合でもBlackBeltを視聴すると理解できたりします。セミナー動画はYouTubeに公開されており、無料でアカウント登録も必要なく視聴できます。また、セミナーでの投影資料もSlide ShareやPDFで確認することができます。
よくある質問
よくある質問は、各サービスごとに実際にAWSサービスを使用するうえで直面する疑問と回答が丁寧にまとめられています。試験では要件を満たすための設計やトラブルシューティングに関する問題も頻出ですので、よくある質問集を確認しておくことで知識を整理することができると思います。
公式ドキュメント
各AWSサービスの詳細な情報を得るには、最終的に公式ドキュメントを読むことになります。AWSドキュメントはボリュームが多いため、各試験で重要なサービスについてざっと目を通し不明点や興味がある部分については実際にサービスを操作して理解していくのがいいと思います。
また、真の一次情報は 公式英語ドキュメントである点にもご留意ください。日本語ドキュメントが機械翻訳でおかしな表現になっていたり、そもそも日本語訳のドキュメントがないことはめずらしくないので、その場合は公式英語ドキュメントを確認することになります。
AWS Hands-on for Beginners
AWS Hands-on for Beginnersは、初めてAWSを利用する方や初めて対象のサービスを触る方向けの実際に手を動かしてAWSサービスについて学べるハンズオン形式の学習コンテンツです。実際にサービスを触ってみることで構築の流れや詳細機能を知ることができ、知識ベースで学んだ知識が定着しやすくなると思います。
対策本
AWS認定に特化した対策本もたくさん出版されていますので、重要箇所を効率的に学習するのにおすすめです。ほとんどの対策本には模擬試験が付録しているので試験形式に慣れることもできます。以下におすすめの対策本をまとめます。
基礎コース
アソシエイト
- AWS認定資格試験テキスト AWS認定ソリューションアーキテクト - アソシエイト 改訂第2版
- AWS認定資格試験テキスト AWS認定SysOpsアドミニストレーター - アソシエイト
- ポケットスタディ AWS認定 デベロッパーアソシエイト
プロフェッショナル
- AWS認定資格試験テキスト&問題集 AWS認定ソリューションアーキテクト - プロフェッショナル 改訂第2版
- AWS認定ソリューションアーキテクト-プロフェッショナル ~試験特性から導き出した演習問題と詳細解説
スペシャリティ
- 要点整理から攻略する『AWS認定 セキュリティ-専門知識』
- 要点整理から攻略する『AWS認定 高度なネットワーキング-専門知識』
- 要点整理から攻略する『AWS認定 データベース-専門知識』
- 要点整理から攻略する『AWS認定 データ分析-専門知識』
対策本ではないが、認定取得に役立つ知識が得られる良書
- AWSコンテナ設計・構築[本格]入門
- AWSではじめるデータレイク: クラウドによる統合型データリポジトリ構築入門
- AWSの薄い本 IAMのマニアックな話
- AWSの薄い本Ⅱ アカウントセキュリティのベーシックセオリー
まとめ
AWS認定の概要と取得のメリット、主な学習コンテンツをまとめてみました。AWSを学習される方にとって少しでも参考になれば幸いです。
個人的に資格は知識を得るための学習コンテンツと割り切って短期集中で取得することをおすすめします。資格は体系的に学べるメリットがある一方で、そのままでは広く浅い知識になりがちで実務に直結しないことが少なくありません。「認定試験の知識」と「実際のAWSでの構築作業に必要な知識」にギャップがあることを認識した上で、知識だけでなく実際に手を動かせるスキルの習得まで目指すことが重要だと思います。ただ、何から始めるかという観点で前提知識がある状態で業務にあたると理解しやすいのは間違いないので、資格はサクッと取得してその知識をベースに実務に取り組むのがいいのかなと考えています。
さいごに12冠取得し日々実務でAWSを利用する身としても、AWSはまだまだわからないことが多いです。AWSは日々アップデート(毎月約150~200)されているので、「これできるようになったんだ!」「こんな便利なサービスあったんだ!」といった発見が尽きません。学習をはじめた頃に12冠達成者が「全冠はスタート地点」「AWSなんもわからん」とおっしゃっているのを拝見したときは「皮肉がすごいなー(笑)」と思っていましたが、今になってきっと本当にそう思われてたんだなと実感しています。この完全に理解した状態にはならず難しいですけど日々学びがあって面白いところが、AWSの魅力の一つでもあると思っています。
「全冠はスタート地点」ということでこれからも学習を続けるとともに、これまで以上にアウトプットも意識していきたいです。一緒に頑張っていきましょう!最後まで読んでいただきありがとうございました!