この記事は電磁気学のお気持ちを理解することに重点を置いています。そのため、厳密性とは程遠い説明が為されていることがあるため、予めご了承ください。
はじめに
今回は、電荷密度を考えるモチベーションについて説明します。結論から述べると、電荷には次の2つの要求が存在します。
- 電荷はモノに附随する量ではなく、空間に対して定義される量であってほしい。
- 電荷は点だけでなく、線や面、領域に対しても統一的に定義できる量であってほしい。
それぞれについて、なぜこのように定義するべきなのかの根拠と、どのようにしてこれを解決するかを見ていきます。
電荷はモノ対して定義される量ではなく、空間に対して定義される量であってほしい。
モノに対して定義される量として、パッと思いつくのは質量でしょう。質点を考えていた時も、剛体を考えていた時も、質量はモノに固有の量として定義され、位置や時間の変化を受けないと仮定していました。しかし、電荷はモノに固有の量ではなく、位置や時間によって変化します(例えば、コンデンサを例に考えてみると、充電中や放電中は極板の電荷は時間によって変化します)。電荷をモノに対して定義するのは、あまり良いとは言えなさそうです。さらに、質量と異なり、電荷は普遍的に存在します。現実的には、電荷は電子や陽子によるものですから、空間中の至る所に考えなければならない(無視できない)電荷の影響が存在するわけです。
この2つの問題は、モノに対して固有の量が決まっていて、それが空間中を移動しているのではなく、空間中に時間変化する量が定まっていて、モノが存在する領域で量を切り取っていると考えることで解決できます。この考え方に立つと、モノの移動は切り取る領域のほうが時間変化しているとして解釈されます。さらに、空間中に普遍的に電荷が存在する状態も、空間中に量を定義することによって全体を一気に定義することができます。
電荷は点だけでなく、線や面、領域に対しても統一的に定義できる量であってほしい。
前節で、電荷は空間中に定義される時間変化する量であるべきだと述べましたが、愚直に位置と時間の関数として電荷を与えると不都合が生じます。例えば、空間中に一様に同じ電荷$Q$が存在する状態を考えてみましょう。この時、適当な立方体の領域の内部に存在する電荷を考えたとすると、領域の内部の電荷はこれらの電荷の総和ですから、$Q$が領域内の点の数だ存在することになってしまいます。これは無限和ですから、$Q$が有限量であれば発散してしまいます。領域をどれだけ小さく取ってこようとも、電荷が有限量であればその内部の点は無限に存在するため、常に電荷が無限大になってしまうのです。唯一この考え方が通用するのは、点に対する電荷を考えるときだけで、それ以外の幾何学的対象(線や面、領域など)に対しては電荷は無限大となってしまい意味を為しません。従って、線や面、領域などに対しても統一的に電荷を与えるような共通のインターフェースが欲しいわけです。
この問題は、点に対して電荷が定まるのではなく、点に対して電荷密度が定まると考えることで解決できます。点に対して定義されているのは、その点を含む領域をどんどん小さくしていった時の、領域の大きさと電荷の比例定数です(小難しく書いていますが、要するに微分係数です)。これを考えたいモノが線なら線積分を、面なら面積分を、領域なら体積積分を実行することによって、電荷を積分という共通のインターフェースで取り出すことができます。また、モノの移動は積分領域を変えることで表現できるため、前節の問題に対してもシームレスに対応できます。
しかし、このままでは、線や面、領域に対しては電荷をうまく定義できた反面、肝心の点に対して電荷が定義できません。電荷密度は比例定数なので、大きさ0の領域の電荷は常にゼロということになってしまいます。しかし、その他に対しては積分という強力なツールが一様に通用するため、可能な限り積分という体を崩したくはありません。そこで、Diracの$\delta$関数と呼ばれる新しい関数を導入します。これはザックリ言えば、次のような性質を持つ関数です。
$$\int_{V}dv\delta(v-v_{0})x(v)=x(v_{0})$$
要するに、積分によって情報を取り出すことを前提とした関数から、点についての情報を取り出すための道具です。以上をまとめると、点、線、面、領域に対して電荷は次のように定義されます。
$$\int_{V}dv\delta(v)q(v)=Q_{point}$$
$$\int_{C}dsq(s)=Q_{path}$$
$$\int_{S}dSq(S)=Q_{surface}$$
$$\int_{V}dvq(s)=Q_{region}$$
当初の目的通り、電荷を統一的に定義できました。
まとめ
電荷を扱いやすいように定義するために、積分によって量を取り出すことを前提とした電荷密度を位置の関数として定義します。その過程で、点に対する電荷がうまく定義できなくなるため、Diracの$\delta$関数を導入し、電荷を積分という共通のインターフェースで取り出せるようにします。