§1.はじめに
「コラッツ予想」の自然数についての操作を
A:偶数なら,2で割る
B:奇数なら,3倍したのち,1を加える
と,A,Bで表しておくことにする。
コラッツの予想というのは「どのような自然数も操作A,Bの有限回の繰り返しの後,1に終結する」というものである。
$2$ のベキ $2^n$ 以外は,偶数であっても操作Aを繰り返せば奇数になるので,「任意の奇数について成り立つ予想」と言い換えてもよいだろう。
以下,コラッツ予想を考えるスタートの自然数は奇数に限定して考える。
§2.C形式
コラッツの操作に従って計算してゆくとき(特に手計算では),十進法の表記のまま計算してゆくのは不便である。コラッツの操作を考えると2進法か3進法かの選択になるが,それぞれのトレードオフを考えると,3進法が良いと考える。
$a$ を奇数とし,3進法の位取りでコラッツの操作通りに計算してみよう。
例えば,$a=11$ のとき
操作B $a ,\ 1\ _{(3)}\ =\ 34\ =\ 2×17$
操作A $2^{-1}${$a,\ 1$}$_{(3)}\ =\ 17$
操作B $2^{-1}${$a,\ 1$}$,1$$_{(3)}\ =\ 52$
∴ $2^{-1}${$a,\ 1,\ 2$}$_{(3)}\ =\ 2^2×13$
操作A2回 $2^{-3}${$a,\ 1 ,\ 2$}$_{(3)}\ =\ 13$
操作B $2^{-3}${$a,\ 1,\ 2$}$,\ 1\ _{(3)}\ =\ 40$
∴ $2^{-3}${$a,\ 1,\ 2,\ 2^3$}$_{(3)}\ =\ 2^3×5$
操作A3回 $2^{-6}${$a,\ 1,\ 2,\ 2^3$}$_{(3)}\ =\ 5$
操作B $2^{-6}${$a,\ 1,\ 2,\ 2^3$}$,1\ _{(3)}\ =\ 16$
∴ $2^{-6}${$a,\ 1,\ 2,\ 2^3,\ 2^6$}$_{(3)}\ =\ 2^4$
操作A4回 $2^{-10}${$a,\ 1,\ 2,\ 2^3,\ 2^6$}$_{(3)}\ =\ 1$
∴ $11,\ 1,\ 2,\ 2^3,\ 2^6\ _{(3)}\ =\ 2^{10}$
これはもちろん,
$11×3^4+1×3^3+2×3^2+2^3×3^1+2^6×3^0\ =\ 2^{10}$
のことである。
同様にして,この形の等式のコレクションを得る。
$3,\ 1 ,\ 2\ _{(3)}\ =\ 2^5$
$5,\ 1\ _{(3)}\ =2^4$
$7,\ 1 ,\ 2 ,\ 2^2 ,\ 2^4 ,\ 2^7\ _{(3)}\ =\ 2^{11}$
$9,\ 1 ,\ 2^2 ,\ 2^3 ,\ 2^4 ,\ 2^6 ,\ 2^9\ _{(3)}\ =\ 2^{13}$
$11,\ 1 ,\ 2 ,\ 2^3 ,\ 2^6\ _{(3)}\ =\ 2^{10}$
$13,\ 1 ,\ 2^3\ _{(3)}\ =\ 2^7$
$15,\ 1 ,\ 2 ,\ 2^2 ,\ 2^3 ,\ 2^8\ _{(3)}\ =\ 2^{12}$
$17,\ 1 ,\ 2^2 ,\ 2^5\ _{(3)}\ =\ 2^9$
$19,\ 1 ,\ 2 ,\ 2^4 ,\ 2^5 ,\ 2^7 ,\ 2^{10}\ _{(3)}\ =\ 2^{14}$
$21,\ 1\ _{(3)}\ =\ 2^6$
$23,\ 1 ,\ 2 ,\ 2^2 ,\ 2^7\ _{(3)}\ =\ 2^{11}$
$25,\ 1 ,\ 2^2 ,\ 2^3 ,\ 2^6 ,\ 2^7 ,\ 2^9 ,\ 2^{12}\ _{(3)}\ =\ 2^{16}$
$27,\ 1 ,\ 2^2 ,\ ・・・,\ 2^{66}\ _{(3)}\ =\ 2^{70}$ (左辺は42桁)
$29,\ 1 ,\ 2^3 ,\ 2^4,\ 2^6,\ 2^9 \ _{(3)}\ =\ 2^{13}$
・・・
この形の等式を $Collatz$ に因んで「$C$形式」と呼ぶことにする。
$C$形式を一般的に述べると次のようになる。
「 $a$ を奇数として
$a,\ 2^{a_1},\ 2^{a_2},\ ・・・,\ 2^{a_m}\ _{(3)}\ =\ 2^{k+a_m}$・・・(*)
$0=a_1<a_2<a_3<・・・<a_m$ $,\ k$ は $4$ 以上の偶数 」
奇数 $a$ がコラッツ予想に従うならば,適切な
$a_2\ ,\ a_3,\ ・・・,\ a_m,\ k$
によって,式(*)が成り立つことは計算例から自明だろう。
$m$ は操作Bの回数,$k+a_m$ は操作Aの回数を示す。
$C$形式 $11,\ 1,\ 2,\ 2^3,\ 2^6\ _{(3)}\ =\ 2^{10}$
の最上位「$11,$」を取り除き,等号を「$,$」に置き換え,
$2^0,\ 2^1,\ 2^3,\ 2^6,\ 2^{10}$
に対して,パターンの変換
「$2^m,\ 2^{m+n}\ $」 → 「B, A($n$)個, 」
をすると
B, A, B, A, A, B, A, A, A, B, A, A, A, A
この順に操作して奇数$11$ は1に終結する。
§3.奇数生成ツリー
コラッツ予想は操作A,Bを繰り返すものだが,奇数 $(2n+1)$ に操作Bを行うと偶数 $(6n+4)$ になり次に必ず操作Aを行うので $(3n+2)$ になる。
ここで,操作Bに続けて操作Aを行うことを新たに操作B′とし,AまたはB′ の逆操作として α かつ β を考える。つまり,
α:2倍する
かつ
β:$3n+2$ の形なら,(2倍した後)1を引いて3で割る
すなわち,
(操作 α) $・・・-(m)-(2m)-(2^2m)-(2^3m)-・・・$
であり,
(操作 β) $・・・-(3n+2)-(6n+4)-(12m+8)-・・・$
|
$(2n+1)$
これにより,1を出発点としてツリー状の構造が出来上がる。
( これを「奇数生成ツリー」と呼ぶことにする )
1-2-4-8-16-32-64-128-256-512ー・・・
| | |
5・・・ 21 85・・・
( 操作 β によって4からも1が生じるが,出発の1と同じなので省略する )
16 から奇数5が生じ,2倍してゆくと更に奇数を生成する枝となる。
5-10-20-40-80-160-320-640・・・
| | | |
3 13・・・ 53・・・ 213
$3,\ 21,\ 213,\ ・・・$ など3の倍数は2倍を繰り返しても $(3n+2)$ の形になり得ないので,2倍の枝を伸ばしても奇数を生じさせない。よって,2倍の枝を伸ばす必要はない。このことは結局,コラッツの操作の途中で3の倍数は現れないことの理由となる。
§4.奇数生成ツリーとC形式
この奇数生成ツリーにおいて,前節で例として考えた奇数$11$ が現れる部分($11$ のツリー)は
1-2-4-8-16-・・・
|
5-10-20-40-・・・
|
13-26-52-・・・
|
17-34-・・・
|
11
ここで,$11$ の$C$形式
$11,\ 1,\ 2,\ 2^3,\ 2^6$ $_{(3)}\ =2^{10}$
の各桁を次のように配置してみると(説明は不要だろう),
$11$
$1,\ 2$
$2,\ 2^2,\ 2^3$
$2^3,\ 2^4,\ 2^5,\ 2^6$
$2^6,\ 2^7,\ 2^8,\ 2^9,\ 2^{10}$
これは,$180^{\circ}$ 回転すると,ツリーと同じ形である。すなわち,ツリーと$C$形式は一対一に対応している,といえよう。
ところで,$C$形式はコラッツの操作から導かれたのであるが,$C$形式が奇数ツリーに対応しているなら,ツリーからも導けるはずである。
実際($11$の奇数ツリーを見ながら),
$1\ =\ 1$
右に4つ移動(2倍を4回繰り返す)
$16\ =\ 2^4$
下に移動(1を引いて3で割る)
$15\ =\ 2^4-1$
$5\ =\ 0.\ (2^4-1) \ _{(3)}$
右に3つ移動(2倍を3回繰り返す)
$40\ =\ 0.\ (2^7-2^3) \ _{(3)}$
下に移動(1を引いて3で割る)
$39\ =\ (-1).\ (2^7-2^3)\ _{(3)}$
$13\ =\ 0.\ (-1),\ (2^7-2^3)\ _{(3)}$
右に2つ移動(2倍を2回繰り返す)
$52\ =\ 0.\ (-2^2),\ (2^9-2^5)\ _{(3)}$
下に移動(1を引いて3で割る)
$51\ =\ (-1).\ (-2^2),\ (2^9-2^5)\ _{(3)}$
$17\ =\ 0.(-1),\ (-2^2),\ (2^9-2^5)\ _{(3)}$
右に1つ移動(2倍)
$34\ =\ 0.\ (-2),\ (-2^3),\ (2^{10}-2^6)\ _{(3)}$
下に移動(1を引いて3で割る)
$33\ =\ (-1).\ (-2),\ (-2^3),\ (2^{10}-2^6)\ _{(3)}$
$11\ =\ 0.\ (-1),\ (-2),\ (-2^3),\ (2^{10}-2^6)\ _{(3)}$
右辺の負の項を左辺の同じ位に移項して
$11\ .\ 1,\ 2,\ 2^3,\ 2^6\ _{(3)}\ =\ 0\ .\ 0,\ 0,\ 0,\ 2^{10}\ _{(3)}$
小数点を移動すると
$11,\ 1,\ 2,\ 2^3,\ 2^6\ _{(3)}\ =\ 2^{10}$
§5.C形式からC形式を導く
ここまで,コラッツの操作通りにして,あるいは奇数ツリーから$C$形式を導いたが,
すでに$C$形式があれば,これを素にしていくらでも新たに$C$形式を作り出ことができる。
奇数生成ツリーにおいて幹や枝は,初項は奇数,公比は $2$ の等比数列であるが,
(1) 初項が $3m+1$ の奇数なら奇数番目毎に操作βによって奇数を生成する
(2) 初項が $3m+2$ の奇数なら偶数番目毎に操作βによって奇数を生成する
ことに着目する。
例えば
枝:$5$ー$10$ー$20$ー$40$ー$80$ー$160$ー$320$ー$640$ー・・・
$3$ $13$ $53$ $213$
からは,$5$ の$C$形式 $5 ,\ 1\ _{(3)}\ =2^4$ をそれぞれ $2,\ 2^3,\ 2^5,\ 2^7,$ ・・・倍すれば
$\ 2\ ×(\ 5,\ 1\ _{(3)}$ $=2^4\ )$ より $10,\ 2\ _{(3)}\ =2^5$ ∴ $3,\ 1,\ 2\ _{(3)}\ =2^5$
$2^3\ ×(\ 5,\ 1\ _{(3)}$ $=2^4\ )$ より $40,\ 2^3\ _{(3)}\ =2^7$ ∴ $13,\ 1,\ 2^3\ _{(3)}\ =2^7$
$2^5\ ×(\ 5,\ 1\ _{(3)}$ $=2^4\ )$ より $160,\ 2^5\ _{(3)}\ =2^9$ ∴ $53,\ 1,\ 2^5\ _{(3)}\ =2^9$
$2^7\ ×(\ 5,\ 1\ _{(3)}$ $=2^4\ )$ より $640,\ 2^7\ _{(3)}\ =2^{11}$ ∴ $213,\ 1,\ 2^7\ _{(3)}\ =2^{11}$
・・・
また
枝:$13$ー$26$ー$52$ー$104$ー$208$ー$416$ー$832$ー・・・
$17$ $69$ $277$
からは,$13$ の$C$形式 $13 ,\ 1,\ 2^3\ _{(3)}\ =2^7$ をそれぞれ $2^2,\ 2^4,\ 2^6,$ ・・・倍すれば
$2^2\ ×(\ \ 13,\ 1,\ 2^3\ _{(3)}\ =\ 2^7\ \ )$
より $52,\ 2^2,\ 2^5\ _{(3)}\ =2^9$ ∴ $17,\ 1,\ 2^2,\ 2^5\ _{(3)}\ =2^9$
$2^4\ ×(\ \ 13,\ 1,\ 2^3\ _{(3)}\ =\ 2^7\ \ )$
より $208,\ 2^4,\ 2^7\ _{(3)}\ =2^{11}$ ∴ $69,\ 1,\ 2^4,\ 2^7\ _{(3)}\ =2^{11}$
$2^6\ ×(\ \ 13,\ 1,\ 2^3\ _{(3)}\ =\ 2^7\ \ )$
より $832,\ 2^6,\ 2^9\ _{(3)}\ =2^{13}$ ∴ $277,\ 1,\ 2^6,\ 2^9\ _{(3)}\ =2^{13}$
・・・
$3,69,213$ は3の倍数なので,これらの$C$形式からはもう新たな$C$形式は作れないが,その他(3の倍数以外)の$C$形式からは同様にしていくらでも作り出せる。
尚,上記の例において,
$f(x)=4x+1,\ g(x)=2x+1$
とおくと,
$5\ (3m+2タイプ)\ $の枝から生成される奇数は,$(5-2)/3=1$ より
$g(1)=3,\ fg(1)=13,\ f^2g(1)=53,\ f^3g(1)=213,\ $・・・
$13\ (3m+1タイプ)\ $の枝から生成される奇数は,$(13-1)/3=4$ より
$f(4)=17,\ f^2(4)=69,\ f^3(4)=277,\ $・・・
であることを注意しておきたい(「コラッツ予想の謎解き」参照のこと)。
(コラッツ予想と3進法位取り 終わり)
(参考:Qiita「コラッツ予想の謎解き」)