〜ベクトルにとって、数ベクトルによる成分表示は、あくまで「ある一つの姿」にすぎない〜
はじめに 誰のための記事か?
この記事では、対象読者をこのように想定しています。
・線形代数の練習問題はなんとなく解ける。
・線形代数の教科書に出てくる用語はだいたい知ってる。
しかし、まだどこか線形代数の背景や面白さがわかっていない気がする...
そんな心境の人のための記事です。
この記事が伝えたいこと 「数学概念」を大切にする
線形代数に本当の意味で親しむために、この記事では次のような気持ちを大切にします。
・概念そのものが気になる
・数学概念同士の関係性が気になる
・線形代数の本質が気になる
とくに、ベクトル空間、線形写像、線形写像の表現、などのワードは知っているが、それらの関係性がまだ腑に落ちていない、よく分かっていない、という人にはぴったりな内容です。
二冊の本を道案内として紹介
私自身、ベクトル空間、線形写像、線形写像の表現などの概念に初めて触れたときは、なんだかよくわからなった記憶があります。ここで理解がスムーズな人は数学に強いのかもですね。だから、私は線形代数に親しむため、いろいろな参考書を読みました。その中でもとくに役立ったのがこの二冊です。
数学概念の説明がとても上手な本です。そこで、この二冊の内容でとくに私が気になった点を、この記事では紹介します。ぜひ、内容が染み込むまで繰り返し読んでみてください。
線形代数に慣れていく過程でのよきお供になれたなら幸いです。
なるほど!とわかる線形代数 要約
ベクトルとベクトル空間
- ベクトルってなに?ベクトル空間の要素のこと。その具体例の一つが、高校数学で習った幾何ベクトル。
- ベクトルとその成分表示の意味とは。1つの幾何ベクトルと、その成分表示(数ベクトル)は同じではない。一対一に対応付けられるが、その方法はたくさんある。一般のベクトルにとって、数ベクトルによる成分表示はあくまで、「ある一つの姿」にすぎない。
次元と基底
- ベクトル空間の基底とは、そこに属するベクトルすべてを過不足なく表すために必要なベクトルの集まり。基底となるベクトルの個数を次元という。
線形写像とは
- 線形写像を見た目にわかりやすく表示するツールが行列です。行列は、線形写像をある特定の視角から切り取ったものですが、線形写像の本質を損なうことなく、計算を進めることを可能にしてくれます。ただ数を長方形に並べただけのものが、こんなに豊かな内容を持つのはちょっと不思議です。p93引用
線形写像と行列
- 一般にベクトル空間の基底の選び方はいろいろありますから、それに応じて線形写像を表す行列もさまざまになります。一つの線形写像を表す行列が何通りもある...のでは混乱して困る気がしますが、実はそうではありません。何通りもあると言っても無秩序ではなく、同一の線形写像から生じる行列たちには、全体を貫く特徴があります。そして、むしろ「何通りもある」ことを逆手にとって、そんな行列たちのうち、もっとも「私たちにわかりやすいもの」「見た目で線形写像の特質がつかみやすいもの」を選ぶために、基底の取り方を工夫するのが、線形代数の大切な任務なのです。p138引用
線形という構造へ 要約
線形性とは
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数学の多くの基本的な概念は、まず'量'を数として表わし、次にその線形性に注目することで得られている。p3
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1つの線形写像があらかじめ与えられるとき、それを表現する行列は多様であって、いろいろな行列が存在する。そのなかでできるだけ簡明な行列をとり、線形写像の性質を見ようとすると、固有値問題とよばれる問題が生まれてくる。p5
基底と線形写像
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線形の構造自体は抽象的なものとして取り出されたが、それはもともとはベクトルのような力学的な考察から生まれてきたものだった。p54要約
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ベクトルの演算を考えることは、平面上のベクトルの集合全体に線形構造を与えることになる。この集合は線形空間になるが、ベクトルは「数」とは直接のつながりはない。数と結びつけるためには座標を導入する必要がある。すると、ベクトルの演算は、座標を通して数の演算で表せる。このとき、平面上のベクトル同士の演算と数での演算、どちらも構造としては同じになる。数による表現の仕方は座標軸の取り方によって変わるのだが、線形の構造は変わらない。これは、ベクトルの演算そのものは、座標と無関係に定義されているから。p17要約
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2つの線形空間のあいだの線形写像とは、線形性を保つ写像のことである。それぞれの空間に基底をとっておくと、線形空間は座標空間となり、線形写像は座標のあいだの線形対応となる。このとき、線形写像は、行列とよばれる数のブロックで表すことができる。p 31
行列式
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行列式は、1次式として多くの文字を含んでいるような数式の処理に有効に使われるが、この1次を線形という言葉に置き換えてみると、行列式は、線形写像の性質を代数を通して理解するブリッジとなることが予想される。実際、いまでは、行列式は線形写像を表わす行列の理論のなかに完全に融けこんでいる。p57
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代数学は演算の仕組みをとらえて、それを記号化することによって機能化するものであるが、その意味では行列式は代数学が生み出した数学のなかの芸術品といってよいものかもしれない。p75
線形写像の合成と行列式の積
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行列式が線形写像の理論で、効果的にはたらくのは、線形写像の合成においてである。線形写像の積と行列式の積の間に整合性が成り立ち、これによって線形空間と線形写像の理論のなかに、行列式を通して、代数的な方法が適用されることになっていくのである。p80要約
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線形写像が正則かどうかという定性的な性質は、行列式を計算すればわかるという定量的なことになってきたのである。p83要約
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