はじめに
2年前(2021年)にQiitaにて「CX向上グループ」という、ユーザー体験を良くすることをミッションとしたチームが発足しました。そこで私は、日々ユーザー体験と向き合いながら開発などをしてきました。
一旦2年間経ったので、今まで学んだことをまとめてみようと思いました。今回の内容が、ユーザー体験と向き合っている方々と共通するところが少しでもあれば嬉しいです。
組織をどういう狙いで立ち上げ、どのようなことをやっていたのかについては、以下の記事にまとめてあるのでご覧ください。
やっていたこと
「ユーザー体験を良くする」ことをミッションとして、やっていたことは大きく2つあります。
- サイトのユーザー体験を良くするための開発
- GitHub Discussionsやユーザーインタビューなどでユーザーの皆さまとのコミュニケーション
私たちにとっての「ユーザー体験」はサイト上にとどまらず、サイト外のコミュニケーションも含まれます。
チームとして大事にしてきたこと
これらをやる上で、以下のことをチームとして大事にしていました
1. ユーザーと向き合うこと
真摯に向き合ってプロダクトやコミュニティを運営すること
2. プロダクトと向き合うこと
自分たちがQiitaを1番使い倒して、最高のプロダクトを作ること
3. 社内と向き合う
自社の利益に悪影響を及ぼすものであったとしても、ユーザー体験を良くするためには社内での衝突もいとわないこと
学んだこと
今までの経験を通して学んだことを「スタンス面」、「開発を進める面」からまとめます。
- スタンス面で大事なこと
- 自分たちが1番サービスを使い倒すこと
- 運営として信頼感と親しみを持ってもらえる言動をすること
- 開発を進める上で大事なこと
- やることを絞ること
- 言語化しづらい部分を大切にすること
この学んだことは、他の場所でも適用できるものだと考えているため、以下で「ユーザー」と記載している対象は、Qiitaに限らない他のサービスの「ユーザー」も想定しています
スタンス面で大事なこと
1. 自分たちが1番サービスを使い倒すこと
まず大事だと実感したことは、自分自身がヘビーユーザーとなり、運営の都合を度外視したユーザー視点を持てるようにすることです。自分たちがユーザーとなることで、ユーザーの感情に敏感になり、普段の施策を考える際にもリアリティが増したと感じました。
もちろん、ユーザーの意見を聞かずに、「ユーザーニーズを把握している」と盲目的になることには注意すべきです。自分と正反対の感じ方をする人もたくさんいます。そのため、私達もGitHub DiscussionsやX(Twitter)、ユーザーインタビューを通して、直接意見交換をすることも大事にしています。
しかし、ユーザーの意見を聞くことは大事にしながらも、自分の意見はただの1つのサンプルという前提で「自分はこう感じる」という自分の感覚も同時に大事にしています。
ユーザー体験には「唯一の正しい答え」がないことばかりだと思います。多数派だからそれが唯一の正解というわけでもありません。
自分の感覚を大事にして、意見をぶつけ合うことで、より良い新たな選択肢を見つけるきっかけになると考えています。
2. 運営として信頼感と親しみを持ってもらえる言動をすること
以下の記事にもありますが、元々コミュニケーションにおいて課題を抱えていました。
その中で、自分たちが運営の代表としてふさわしい言動をとり、責任を持って振る舞うために「信頼感」と「親しみ」を持ってもらえるように心がけてきました。
信頼感を持ってもらえるように心がけていること
具体的には以下の4つです
- 今考えていることをオープンにする
- どんなことを考えているのか、今何に取り組んでいて、今後何をしようとしているのかを公開できる範囲でオープンにする
- 間違ったときは、隠さずに、誤り認めて修正する
- エンジニアコミュニティを中心に考える
- 多くの方に使っていただいているサービスだからこそ、特定のユーザーや、特定の企業、Qiita社の利益等、どこかに偏った判断をせず、コミュニティを中心に判断を行う
- 改善することに期待を持ってもらえる
- スピード感、丁寧さなどをもって、真摯に応える
- 期待値が誤って伝わらないように、素直に伝える。すぐに対応すべきものであれば、やると言い切る
- 誤解をされないように正しく伝える
- テキストでのコミュニケーションが多く、かつオープンな場所に残るため、間違った情報を伝えない
- 大前提として、正しい日本語、正しい敬語を使って適切に回答する
親しみを持ってもらえるように心がけていること
「正しく」するあまり、かしこまり過ぎても、運営との距離が遠く感じてしまうと思います。そのため、親しみを持てるように、親近感のわくコミュニケーションを取ることも心がけています。
言葉遣いもそうですし、感謝の気持ちを伝えるなども心がけています。
はじめは言葉遣いなども含めて慣れないことばかりで大変でしたが、2年前よりは良いコミュニケーションができてきていると感じています。
開発を進める上で大事なこと
1. やることを絞ること
少人数で開発を担当してきたため、大きなプロジェクトに取り組むと、日々の問い合わせの調査や、不具体対応ができずに待たせてしまうことがあったり、逆にそちらに時間を使いすぎて、プロジェクトが大幅に遅延したりしてしまっていました。
せっかくご意見をいただいたので、できるだけ速く、できるだけ多くのものに応えたいという気持ちがあったのですが、大きな課題の解決が遅れてしまうジレンマに陥りました。
スプリントごとにうまく行かなかったことを毎回振り返り、以下のように進めるようにしました
- サポートの工数も考慮してプロジェクトを計画し、そちらはきちんと進める
- 定常的な要望への対応、不具合修正等への対応は優先度を検討しながら、スプリントごとに少しでも対応をする
- 開発ロードマップを用いて現在進行しているものを可視化したうえで、2でできなかったもののやるべきと判断したのであればロードマップに入れる
2には要望に答えるだけであれば比較的簡単にできるものもあります。しかし、やりたいことはすでに大量にあり、すべてには対応できません。無計画に対応していると、長い目線で進めるべきものが進められなくなってしまいます。
すぐに対応すべきと判断したものについては迅速に期待を上回るスピードで対応しながらも、やることは絞ることを心がけています。
2. 言語化しづらい部分を大切にすること
今までは、「機能をリリースしたからOK」となってしまっていることがたくさんありました。たとえば、
- リリースはしたもののバグがあったり、当たり前のような機能がなかったり、作って終わりになっていた
- リリースはしたものの、ほぼ気づいてもらえず、使ってもらえていなかった
- 導線が悪かったり、アナウンス等を積極的にしていなかった
開発をしていると、どうしてもリリースすることばかりに目が行きがちです。しかしユーザビリティを向上するには、使ってもらって、より効率的に、より便利に、より満足してもらえるところまでできていなくてはいけません。
機能としてリリースはしたけれど、最低限の使いやすさがないと、多くの人には使ってもらえないことも体感しました。そのため、この「最小限の要件には存在しないプラスアルファの部分」の大切さに気づき、どうしたらより便利になるかという工夫を大事にするようになりました。
使いやすさに限らず、「必要最低限のことはやりきったけど、プラスアルファこうするともっと盛り上がるのではないか」「もっと知ってもらえるのではないか」のようなこともあります。
とはいえ、この部分をどこまでやるべきかというラインはロジックとして言語化しづらいことが多いです。
同じチームの中では、毎日の議論を経て、このラインがある程度すり合ってきて、感覚で定量的ではなく話したとしてもあまり意見のズレは起きなくなってきました。
しかし、このコンテキストを共有していないチーム外の人に説明をするときに、理由をうまく言語化できないことがありました。人によっては反対の感じ方をすることがあったり、工数などの制約と検討するために、言語化して説明することも求められることがありました。
未だに、うまく言語化はうまくできていないのですが、少しヒントになったものとしては、「UX」「ユーザービリティ」などについて学んで、語彙を増やすことが、思考を整理することにつながると思い、以下のようなものを参考にしました。
まとめ
定量的に判断できない、うまくいくと思っても全然効果がない、答えがないことばかりです。たくさん労力をかけたものよりも、ささっとやったことのほうが喜んでもらえるということもよくあります。
だからこそ、きちんとユーザーと向き合って考え続けて、使って喜んでもらえた時にはとても喜びを感じています。
今後も粘り強く小さなことを少しずつ積み上げることで、体験をより良くしていきたいと思います。