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RubyKaigi2023 "Ractor" reconsideredで分からなかった部分などを調べてみた

Last updated at Posted at 2023-05-11

RubyKaigi2023が始まりました!!!

待ちに待ったRubyKaigiがついに始まりました。
今年はRubyKaigiにオンライン参加として、オフィスでRubyKaigiを生中継しながらワイワイする会をやりました。
Qiitaとしてはスポンサーとして協賛、ブース出展しており、現地参加メンバーもいます。

"Ractor" reconsidered

初日の今日もいくつかセッションを見ましたが、その中で理解の不十分だったこのセッションについて、過去の発表等も振り返りながら調べてみました。

Ractorについて

Ractorについては色々な記事ですでに説明されているのですが、軽くおさらいします。

RubyKaigi Takeout 2020

Ractorはマルチコアを使って並列に処理を行えるように作られました。
マルチプロセスを使う方法もありますが、データの共有に制限があったり、メモリ空間が別れていることやforkの性能の影響があったりすることで、スレッドを使いたいことがあります。
ただ、RubyのThreadはGVLにより、並列に実行することはできない制限がかかっています。またThreadプログラミングは難しい (同期等の問題やデバックの問題)という背景があり、並列実行できるようにするRactorが作られました。

Difficulties and Issues of "Ractor"

本セッションでRactorに関するDifficulties and Issuesとして挙げられていたものについて少し詳しく調べてみます。

APIについて

Ractor間で共有できるオブジェクトには制限があります。 (Shareable Objects)

  • Class/module objects
  • Immutable objects (frozen objects which don't refer to unshareable-objects)
  • Special objects (Ractor object)

また外側のローカル変数にはアクセスできず、エラーになるという制約もあります。
そして、このオブジェクトをメッセージとして送信する方法として、deep copyして渡す方法と、move: trueを使ってshallow copyで渡す方法があります。(送信元のRactorからは参照できなくなる)

Ractor間のコミュニケーションは2種類あります。

1. 送り先のRactorを指定してpushする r.send(obj)Ractor.receive

r2 = Ractor.new Ractor.current do |cr|
  cr.send Ractor.receive + 1
end

r1 = Ractor.new r2 do |r2|
  r2.send Ractor.receive + 1
end

r1.send 1

# r1 -> r2 -> mainへ
p Ractor.receive
# => 3

2. 受信元を指定してpullする Ractor.yield(obj)r.take

r = Ractor.new do
  val = 0
  loop do
    Ractor.yield val
    val += 1
  end
end

3.times do
  puts r.take
end

# 0
# 1
# 2

それぞれ、「receiveはキューが空の時にブロックし、sendはブロックしない」「yieldはtakeされるまでブロックし、takeはyieldされるまでブロックする」という挙動をします。

これにより、以下のような挙動をします。

r = Ractor.new do
  while msg = Ractor.receive
    Ractor.yield msg
  end
  :fin
end

r.send 1
r.send 2 # rはyieldでブロックされているがキューに積む
r.send 3
r.send nil
p r.take #=> 1
p r.take #=> 2
p r.take #=> 3
p r.take #=> :fin

Poor performance

パフォーマンスに関して3点課題が挙げられていました。

  • GC実行時にすべてのRactorが止まってしまう
    • → Future work
  • Ractorごとに1ネイティブスレッドを使うので、システムコールが増えてしまう
    • → 改善予定
  • Ractor.select(*rs)のオーダー O(n)
    • → 改善予定

Ractor.selectの改善

selectは複数Ractorの監視のためのメソッドです。
Ractor::RemoteErrorをrescueすることで監視の役割を行うことができます。
このAPIをごそっと改善中で Ractor::Selector というものを検討しているようです。

ネイティブスレッドの問題

MaNy ProjectとしてM:Nスレッドの説明が昨年のRubyKaigiにて発表されていました。

現状はネイティブスレッドとRubyスレッドが1:1ですが、これをM:Nにするのを目指しています。

こちらのセッションで、M:Nのメリットとして軽量になることが挙げられています。GVL(Ruby)のスケジューリングがネイティブスレッドのスケジューリングを気にせず実行できるので、オーバーヘッドが減らせるようです。

また、そもそもOSの制限により、一定以上のネイティブスレッドを作れない制限もあるようです。

M:Nスレッドを実現するために、2つのスケジューリングをRubyレイヤで行います。

このうち、去年は対応されていなかったRactorレベルの対応ができたことで、masterと比較してRactor作成が4.5倍、Ring exampleの処理スピードが22.6倍に向上したようです。

GCによるパフォーマンスへの影響

現時点ではまだ対応できていないようですが、Future worksとして対応が期待されます。

感想

今までうまく使われていなかったRactorですが、パフォーマンスが大幅に向上する!となり、どんどんエコシステムが発達していき、Ractorがたくさん使われるようになる未来が楽しみです。

参考

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