こんにちは|こんばんは。カエルのアイコンで活動しております @kyamaz です。
はじめに
がベルヌーイ数について興味をもって調べていたところ、デンマークの数学者、天文学者であるトーマス・クラウゼン(1801年 - 1885年)の業績の1つに『フォン・シュタウト=クラウゼンの定理』があることを知りました。トーマス・クラウゼンのWikiPediaには、もちろん詳しく経歴の紹介もされていますし、今どきはChatGPTを使って詳細の業績を知ることができます。
ChatGPTによると、「クラウゼンの業績は、その時代において最先端の研究であり、数学や物理学、天文学、そして応用科学の発展に重要な影響を与えました。彼の研究は今日でも様々な分野で活用され、クラウゼンの名は数学史において非常に重要な位置を占めています。」とコメントされる業績があるようですが、彼の業績をとりあげているサイトはそれ程多くないようです(mathlogにも投稿は探せませんでした)。
本稿では、地味でも素晴らしいクラウゼンの紹介をさせて頂きます。
トーマス・クラウゼン
トーマス・クラウゼン(Thomas Clausen)1は19世紀の数学者・天文学者で、純粋数学、応用数学、天文学、地球物理学に関する150 以上の論文を執筆しました。
幼少期は家計が貧しかったために読み書きができないまま育ち、数学愛好家の司祭ゲオルグ・ホルストに見出され、学校へも通えるようになり、初等数学を習得して才覚をあらわしたようです。そして、ホルストの推薦もあり、18歳頃にはアルトナ天文台の所長であるハインリッヒ・シューマッハのもとで働くこととなりました。1821年にシューマッハが創刊した雑誌「天文ニュース」にクラウゼンの論文が掲載されるほど頭角を表しており、1824年には天文台の助手になっています。
また、この頃にカール・フリードリヒ・ガウスと初めて会っており、親しくなったようです。ガウスはこの後のクラウゼンの職の口利きをするなどしており、彼をとても評価していたようです。一方で、彼の仕事とは裏腹に、プライベートでは上司(?)であるシューマッハの姪に恋をして、シューマッハとの関係が悪化していたそうです。階級の差別的な考え方が根強かった時代ですので、理不尽な対応があっったのかもしれません。それがきっかけ分かりませんが、30歳を過ぎてから7年ほど精神的な病いに悩まされたようです。その間の消息についての記録はほんど残っていないとか。そして、若かりし頃の恋の影響かはわかりませんが、クラウゼンは結婚せず、生涯独身だったそうです。
その後、病いから快復した1840年(39歳の頃)には、彼の生涯で最も優れた研究を独力で行っています。〔業績については後述〕その2年後には、タルトゥ天文台の天文学教授に任命され、さらにその2年後に、ケーニヒスベルク大学から名誉博士号を授与されました。この博士号の推薦には、ベッセル関数で有名なフリードリヒ・ヴィルヘルム・ベッセルが彼の才能を高く評価したからだそうです。そして、1866年から1872年の引退までタルトゥ天文台の所長を務めました。
このタルトゥで過ごした時期に多くの業績を残し、ゲッティンゲン王立科学協会(現ゲッティンゲン科学アカデミー、1854年)、サンクトペテルブルク科学アカデミー(1856年)に選出されており、ゲッティンゲン王立科学協会から2つの賞を授与されています。
以下にクラウゼンの業績について幾つか紹介していきます。
フォン・シュタウト=クラウゼンの定理
フォン・シュタウト=クラウゼンの定理は、数論におけるベルヌーイ数の小数部分に関する定理です。定理としては次に示すように、ベルヌーイ数の小数部分に関する定理となります。
- フォン・シュタウト=クラウゼンの定理
- $n$を正整数、$2n$が$p − 1$で割り切れるような素数を$p$とすると、ベルヌーイ数$B_{2n}$にすべての$1/p$を加えた数は整数になる
$\displaystyle B_{2n} + \sum _{\begin{matrix} (p-1)|2n \\ p: prime \end{matrix} \\ } \frac{1}{p} \in \mathbb{Z}$
これは、0でないベルヌーイ数$B_{2n}$の規約な分母が、$2n$を$p − 1$で割り切れるような素数$p$の総積であることと同義です。
クラウゼン関数
クラウゼン関数は、次の式で与えられる関数です。一般化ができるため、オーダー2の場合を単にクラウゼン関数と呼びます。
$$\begin{flalign}
{Cl} _{2} (\varphi) &= - \int _ {0} ^{\varphi} \log \Big| 2 \sin{\frac{x}{2}} \Big| {dx} &
\end{flalign}$$
フーリエ級数展開を用いると、
$$\begin{flalign}
{Cl} _{2} (\varphi) &= \sum _{k=1} ^{\infty} \frac{\sin{k\varphi}}{k^{2}} = \frac{\sin{ \varphi}}{1^{2}} + \frac{\sin{2 \varphi}}{2^{2}} + \frac{\sin{3 \varphi}}{3^{2}} + \cdots &
\end{flalign}$$
と表されます。この分母が2乗であることを「オーダー2」であるとしています。
(プログラムで値を求めるためには...)
GNU Scientific Library(GSL)には、クラウゼン関数double gsl_sf_clausen(double x)
があらかじめ定義されております。この関数を使うことでクラウゼン関数の値を求めることができます。
クラウゼンの公式
ガウス超幾何級数の2乗を一般化された超幾何級数として表す関係式です。(が全く理解できていない分野ですが、式だけ写経しておきます)
$$\begin{flalign}
{} _{2} F _{1} \Big[ \ \begin{matrix} a & b \\ a+b+1/2 & \end{matrix} ; x \Big] ^{2} &= {} _{3} F _{2} \Big[ \ \begin{matrix} 2a & 2b & a+b \\ a+b+1/2 & 2a+2b & \end{matrix} ; x \Big] &
\end{flalign}$$
ド・ブランジュの定理(かつて、ビーベルバッハ予想とされていた問題)の証明で使用されるアスキー・ガスパー不等式など、いくつかの不等式を証明するために使用されています。
6番目のフェルマー数が合成数である
6番目のフェルマー数 $F_{6} = 2^{2^6}+1$ が素数でない($2^{64}+1=67280421310721×274177$ に素因数分解できる)ことを示す。
π の計算
$\displaystyle \frac{\pi}{4} = 2 \arctan{\frac{1}{3}} + \arctan{\frac{1}{7}} $ を使い、$\pi$を247桁まで計算した。
この式も、クラウゼンの公式と呼ばれることがあるそうです。
そのほかの業績
そのほかの業績では、シューマッハとガウスの手紙には「6次の直交ラテン方陣が存在しないことの証明」もクラウゼンが行ったとされますが、その詳細は見つかっていないようです。また脚注2に出典が明確ではないですが、クラウゼンの名がついた関係式を見つけました。
おわりに
クラウゼンは、研究ではあのガウスやベッセルが認めるほどの才能を発揮しながらも、プライベートではその家柄や時代背景から悩み深い人生を送ったのがクラウゼンという人物だったのでしょう。同時代に生きたソフィー・ジェルマン(女性であることにより数学研究において大変苦労されたとされる)にも似て、先駆者でありながら、孤高の天才というよりは人として親しみのもてるエピソードがある研究者であったと思います。
ご一読いただきまして有り難うございます。
(●)(●) Happy Hacking!
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nの階乗を二項係数で表す式 $\displaystyle n!(-1)^{n}= 1^{n} - \Big( \begin{matrix} n \\ 1 \end{matrix} \Big) 2^{n} + \Big( \begin{matrix} n \\ 2 \end{matrix} \Big) 3^{n} - \Big( \begin{matrix} n \\ 3 \end{matrix} \Big) 4^{n} + \cdots \pm (n+1)^{n} $ ↩