こんにちは|こんばんは。カエルのアイコンで活動しております @kyamaz です。
本稿は、拙稿『特殊ユニタリ群SU(2)をイメージしてみる』の続編です。
「万能量子計算」を考えるなかで『本来であれば、ユニタリ行列のイメージを取り扱えるのが良かったのですが、執筆者の力量がなく、特殊ユニタリのイメージを扱うことにしました。』として、前稿では特殊ユニタリ群をイメージするアイディアを示しました。本稿では、その”特殊”を取ったユニタリ群をイメージすることを考えてみます。
ユニタリ群U(1)
本稿では、2次のユニタリ群$U(2)$について考えますが、その前に1次のユニタリ群$U(1)$を見てみましょう。1
$U(1)$ は、1次なので $uu^{*}=1$ を満たす複素数 $u$ の集合、すなわち絶対値$1$の複素数の集合であればよく、$U(1)$は
$\qquad\qquad u= \{ \quad e^{i \theta} \quad \vert \; \theta \in \mathbb{R} \}$
で表される複素数の集合です。
ユニタリ群U(2)の行列
さてユニタリ群$U(2)$の前にまずは、特殊ユニタリ群$SU(2)$を見ていきます。特殊ユニタリ群$SU(2)$は、行列式が$1$となるユニタリ行列の集合で、その元の一般形は、
$\qquad\qquad
U = \left( \begin{matrix}{ \alpha } & { \beta } \\
{ - \beta ^{*} } & { \alpha ^{*} }
\end{matrix} \right),
\begin{equation}
|\alpha|^{2}+|\beta|^{2}= 1,\alpha,\beta \in \mathbb{C}
\end{equation}
$
で表せられます。この一般形を導くには、$U = \left( \begin{matrix}{ \alpha } & { \beta } \\
{ \gamma } & { \delta }
\end{matrix} \right)$とおくと、
$\qquad\qquad\begin{align}
UU^{\dagger} &= \left( \begin{matrix}{ \alpha } & { \beta } \\
{ \gamma } & { \delta } \end{matrix} \right)
\left( \begin{matrix}{ \alpha ^{*} } & { \gamma ^{*} } \\
{ \beta ^{*} } & { \delta ^{*} } \end{matrix} \right) \\
&= \left( \begin{matrix}{ |\alpha|^{2}+|\beta|^{2} } & { \alpha
\gamma ^{*} + \beta \delta ^{*} } \\
{ \alpha ^{*} \gamma + \beta ^{*} \delta } & { |\gamma|^{2}+|\delta|^{2} } \end{matrix} \right)
= \left( \begin{matrix}{ 1 } & { 0 } \\ { 0 } & { 1 } \end{matrix} \right)
\end{align}
$
より、左上、左下の成分から
$\begin{equation}\label{XX1}
|\alpha|^{2}+|\beta|^{2}= 1 \tag{1}
\end{equation}$
$\begin{equation}\label{XX2}
\alpha ^{*} \gamma + \beta ^{*} \delta = 0 \tag{2}
\end{equation}$
が成り立ち、$det{U} = 1$より、
$\begin{equation}\label{detSU}
\alpha \delta - \beta \gamma = 1 \tag{3}
\end{equation}$
が成り立ちます。
式($\ref{XX2}$)、式($\ref{detSU}$)を $\gamma, \delta$について連立方程式にして、
$\begin{equation}\label{gd}
\left( \begin{matrix}{ - \beta } & { \alpha } \\
{ \alpha ^{*} } & { \beta ^{*} } \end{matrix} \right)
\left( \begin{matrix}{\gamma} \\ {\delta} \end{matrix} \right)= \left( \begin{matrix}{ 1 } \\ { 0 } \end{matrix} \right) \tag{4}
\end{equation}$
途中で式($\ref{XX1}$)を使うと、$\gamma=- \beta ^{*}, \delta= \alpha ^{*}$が示せます。
次に、本題であるユニタリ群$U(2)$を見ていきます。
ユニタリ行列$U$は行列式の絶対値が$1$となり、上述の式($\ref{detSU}$)を、
$\begin{equation}\label{detU}
| \alpha \delta - \beta \gamma | = 1 \tag{3'}
\end{equation}$
に置き換えて、この式($\ref{detU}$)が成り立つことになります。$U(1)$で見てきた様に、この式($\ref{detU}$)の左辺の絶対値符号の中は複素数 $e^{i \theta} ( \theta \in \mathbb{R} )$ と表せて、その行列式$det{U}=e^{i \theta}$です。そして上述の式($\ref{gd}$)は、
$\begin{equation}\label{gdU}
\left( \begin{matrix}{ - \beta } & { \alpha } \\
{ \alpha ^{*} } & { \beta ^{*} } \end{matrix} \right)
\left( \begin{matrix}{\gamma} \\ {\delta} \end{matrix} \right)= \left( \begin{matrix}{ e^{i \theta} } \\ { 0 } \end{matrix} \right) \tag{4'}
\end{equation}$
となり、$\gamma, \delta$について解くと、$\gamma=- e^{i \theta}\beta ^{*}, \delta= e^{i \theta}\alpha ^{*}$です。これを使うとユニタリ群$U(2)$のユニタリ行列$U$は、
$\begin{align}
U &= \left( \begin{matrix}{ \alpha } & { \beta } \\
{ - e^{i \theta} \beta ^{*} } & {e^{i \theta} \alpha ^{*} }
\end{matrix} \right)
= \left( \begin{matrix}{ e^{i \theta/2} \alpha' } & {e^{i \theta/2} \beta' } \\
{ - e^{i \theta/2} \beta' ^{*} } & {e^{i \theta/2} \alpha' ^{*} }
\end{matrix} \right) \\
\label{u1} &= \left( \begin{matrix}{ e^{i \theta/2} } & { 0 } \\ { 0 } & { e^{i \theta/2} } \end{matrix} \right) \left( \begin{matrix}{ \alpha' } & { \beta' } \\ {- \beta' ^{*} } & {\alpha' ^{*} }
\end{matrix} \right) \tag{5}
\end{align}
$
と書けます。ここで、$\alpha' = e^{- i \theta/2} \alpha, \beta' = e^{- i \theta/2} \beta$と置いて計算しました。すると、式($\ref{u1}$)の右側の$\alpha',\beta'$で表した行列は、行列式$ \alpha' \delta' - \beta' \gamma' = e^{- i \theta} (\alpha \delta - \beta \gamma) = e^{- i \theta} e^{ i \theta} = 1$が成り立ち、これは$SU(2)$のユニタリ行列の一般形であることが分かります。
つまり、
$$\label{u2} [ U(2)の行列] = e^{i \theta/2} I \times [ SU(2)の行列]\quad(ここで\theta \in \mathbb{R}) \tag{6}$$
と考えれば良さそうです。(参考文献を読むと厳密ではないようですが、$U(2)\simeq U(1) \times SU(2)$という関係が背景にあるようです。)
行列式 -1 の2次ユニタリ行列をイメージしてみる
ここで$U(2)$の具体例として、行列式が$-1$である2次ユニタリ行列についてイメージしてみましょう。
式($\ref{u1}$)で$\theta=\pm \pi$の場合を考えると行列式は$-1$になります。関係式($\ref{u2}$)で考える上では$-I$が$SU(2)$の行列に含まれており、$\theta$の符号が+だけを考えても本質的には良さそうです。式($\ref{u1}$)を計算すると次のようになり、
$\begin{align}
U &= \left( \begin{matrix}{ e^{i \pi/2} } & { 0 } \\ { 0 } & { e^{i \pi/2} } \end{matrix} \right) \left( \begin{matrix}{ \alpha' } & { \beta' } \\ {- \beta' ^{*} } & {\alpha' ^{*} }
\end{matrix} \right) \\
&= \left( \begin{matrix}{ i } & { 0 } \\ { 0 } & { i } \end{matrix} \right) \left( \begin{matrix}{ \alpha' } & { \beta' } \\ {- \beta' ^{*} } & {\alpha' ^{*} }
\end{matrix} \right)
\label{uneg} = \left( \begin{matrix}{ \alpha'' } & { \beta'' } \\ { \beta'' ^{*} } & {- \alpha'' ^{*} }
\end{matrix} \right) \tag{7}
\end{align}
$
行列式が$-1$である2次ユニタリ行列の一般形は式($\ref{uneg}$)と表せます。
ここで、冒頭に挙げた以前の寄稿と同様に $U \equiv \left( \begin{matrix}
{ U_{11} } & { U_{12} } \\
{ U_{21} } & { U_{22} }
\end{matrix} \right)$ とおいてそれぞれの行列成分を図示することを目指します。
前稿では『特殊ユニタリの行列要素のイメージ』として次のような図を紹介しました。(※前稿では、複素数$c$の複素共役を$c^{*}$ではなく$\bar{c}$と表記しましたので、以降は表記に$\bar{c}$を使います。)
同様にして『行列式が$-1$である2次ユニタリ行列の行列要素のイメージ』は容易に描けます。
●行列式が$-1$である2次ユニタリ行列の行列要素のイメージ
図からも分かる通り、行列式が$-1$の場合の$U_{11} \iff U_{22}$の対応づけは、行列式が$1$の場合の$U_{12} \iff U_{21}$の対応と同じで、行列式が$-1$の場合の$U_{12} \iff U_{21}$の対応づけは、行列式が$1$の場合の$U_{11} \iff U_{22}$の対応と同じです。4つの直行した単位円がまるで$\pi/2$だけ回転したかのように見えるのです。($SU(2)$のイメージとそれぞれの単位円の色の対応を確認してみてください。)
また、$\alpha$と$\beta$の間には$|\alpha|^{2}+|\beta|^{2}= 1$という関係がありますので次のようなイメージでの関係も$SU(2)$と同様にあります。
ユニタリ群U(2)をイメージしてみる
前節で、行列式$-1$と$SU(2)$である行列式$1$の行列成分について比較してみました。同様に、一般のユニタリ行列も『特殊ユニタリの行列要素のイメージ』を$\theta/2$だけ回転した4点で表されることが容易に推察できます。ユニタリ群$U(2)$のイメージは、$SU(2)$を使って次のようなイメージで示すことができそうです。
ここでの $SU(2)$の規則は前稿で示したとおりですが、以下に再掲しておきます。
複素数$\alpha,\bar{\alpha}$は、図中の黒点●の点対称の位置でそれぞれを表記できます。(下図の★の2点)
複素数$\beta,\bar{\beta}$は、実数軸と並行でその距離が2の2点で表せられます。(下図の★の2点)
以上で、一般のユニタリ行列についてのイメージの解説を終わります。本稿が、皆さまの理解の一助になれば幸いです。
(●)(●) <終わりのご挨拶。)
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