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計算と哲学Advent Calendar 2021

Day 5

【計算と哲学?】宇宙人へのコンタクト

Last updated at Posted at 2021-12-04

太陽系外の知的存在とのコンタクトで一番の方法は何でしょうか?
タイトルでネタバレですね。
プログラムとして伝えろという話です。

ちなみにこの記事に内容は私がsrad.jpに2013年に書いた日記とほぼ同じです。

要件

高遅延

太陽系外通信の大きな特徴は極めて大きな遅延です。
地球と最も近い恒星であるケンタウルス座アルファ星でも約4.3光年の距離があり、つまり片道4.3年の遅延になります。
数年は最短の値で、知的存在がたまたま存在する場所によっては数万年にも数億年にもなりえます。

高遅延は欠点でもあり利点でもあります。
欠点としては、往復に掛かる時間が長い、場合によっては不可能な点です。
つまり通信内容に不明瞭な点があっても問い合わせが困難で、再送の依頼はほぼ不可能です。
そのため内容は極めて明瞭である必要があります。
通信損失への耐性も必要ですが、宇宙には途中に通信を妨害するようなものはほとんどありませんし、一定時間毎に再送をすれば良いだけです。

利点は処理時間が問題にならないことです。
片道で5年なら解読と返信に1年費やしても往復に掛かる時間が1割増える程度です。
場合によっては処理時間の上限は実質的には存在しません。

また情報を送信するのにかかる時間も無視できます。
従って低ビットレートでも長時間通信することでそれなりの容量の通信が可能です。
とはいえ地球上での通信とはビットレートの桁が違うので限度はあります。

まとめると太陽系外通信ではどれだけ時間が掛かっても良いので通信内容が明瞭に理解できることが必要です。

共通知識の不在

「地球外の知的存在」との対話を特徴付ける、そして面白い点が事前知識の不在です。
我々と異なる知的存在がどのような知識を持っているのか想像するのは楽しく、そして難しい。

とはいえ「太陽系外の知的存在との交信」というテーマですから、完全に無前提ではありません。
その点で無条件で「太陽系外の知的存在とは何か」と想像するのとは条件が異なります。
第一に、交信するわけですから我々の情報を受信できる存在でなければなりません。
具体的には電磁気学に関する最低限の知識と指向性アンテナは持っているはずです。
それから彼らの重力圏の外に別の知的存在を期待する程度には、宇宙への関心を持っています。

第二に、我々が対話を望む相手と、我々が対話しうる相手は完全には一致しません。
我々が対話を望まない相手との共通知識は必ずしも検討する必要はありません。
その要件は「何らかの有益な対話が可能」という点で、例えば我々に何の有益な情報も与える意図がない相手を除外することもあり得ます。

数学

こうした文脈でよく見かけるのは、異なる文明でも「数学は共通のはずだ」という言説です。
正直なところ、これには全く同意できません。

数学の証明は誤りがなければ普遍的です。まぁ誤りはないでしょう。
定理は公理系を前提としたもので、公理系は必ずしも普遍的とは言えませんが、極めて応用性が高く異なる文明でも見出すことはある程度期待できます。
しかし何を証明するか、つまり「数学の体系」自体は普遍的ではありません。

数学者の行う証明は非形式的で、様々な普遍的とは言えない概念を用います。
数学の議論は多分に自然言語で行われ、研究対象の選択は「数学者としてのキャリア」のようものも関わる人間的なものです。
必然的に発見されると期待したくなるような分野は確かにありますが、「数学の言語なら対話できる」とか「数学は共通だ」というのは言い過ぎです。
対話が可能だとしてもそう単純ではないです。

自然科学一般ともなれば共通知識はさらに望めません。
仮に彼らの自然科学が我々のそれと一致していたとしても、彼らがそれを確信できるかという点もまた別です。

既存の方法

この部分はWikipediaの記事を元にしているので興味があればそちらを参照してください。

二次元ビットマップ

地球外生命体との交信でよく言及されるのは二次元ビットマップによる通信です。
特にアレシボメッセージは有名で、宇宙科学の本でも軽く触れられていたりします。

二次元画像で何かを伝えるというのは人間にとっては極めて直感的です。
「他の知的生命体との対話」という課題でこの答えに辿り着くのは必然です。
しかし二次元図形での情報伝達というのは普遍性はまず期待できません。
特に数字表現を二次元図形で行うというのは意味不明です。
二進数での数値表現をわざわざ図形に展開するというは無駄に難しくしているとしか言えません。

なぜ人間は二次元で捉えるのか

二次元表現が人間にとって直感的なのは、平面で捉える視覚を持っているからです。
それは原始的な眼でも生存に有利な程に地球、より正確には生物の生存空間が光に溢れていたからです。

地球外に生命が存在したとしても、氷に覆われた地下でしか生きられないなら視覚の発達は期待できません。
あるいはたまたま視覚を持たない生物から知的生物が進化したかもしれません。
進化の過程で視覚とそれに根差した文化を失うこともあり得ます。
盲人が知識を独占する社会かも知れません。
視覚が存在したとしても、その方式はビットマップが脳にそのまま流れてくるような人間のそれと同じとは限りません。
複眼の知的存在はものの見方が我々とはだいぶ違うでしょう。
あるいはブラウン管のように一ラインごとに走査するような眼かもしれません。

眼というのは脳と同じく複雑な器官です。
地球外の知的存在が生命体である上に、視覚と脳の両方を持ち、さらに二次元的な認識を行うという仮定はさすがに絞り過ぎです。
地球上ですら視覚を持たない知的存在(視覚障害者)が普通に存在することを考えれば当たり前のことです。

意味論の不在

二次元ビットマップによる伝達で特徴的なのは意味論がメッセージ内部でしか表現されていないことです。
アレシボメッセージで言えば、数字表現は説明されてはいますが原子番号・電波の波長・図形表現・数字の意味など何の説明もなく意味をメッセージ外で定義しています。
偶然意味を正しく読み取れたとしても確信はできません。

二次元ビットマップであっても意味を説明することは可能です。文章がそうです。
ただ、極めて少ない容量で出来るだけ有意義な対話がしたいと考えるなら理解はできます。
相手に送信者の期待する知識があれば短時間でメッセージを理解できるでしょう。

まとめ

船で遭難し言葉が伝わらないが他所の知的な文明国に辿り着いた。
十進数を使っているかも言語体系も分からないが、高度な自然科学は有していそうだ。
そこでとりあえず自分が何者なのかを伝えたい。
そういう場面ではアレシボメッセージのような手段は賢明です。

しかし2万5000光年先のどんな形態か全く分からない相手と、往復での通信がまず不可能な状況で対話をしたい。
そういう時にこういう曖昧で仮定の多いメッセージは不適当です。
結局何を伝えたいのかよく分からないまま終わるかもしれません。

とはいえ確かに意味を誤解していようが他の文明から返信が来たら…という想像は楽しくはあります。

二次元図形表現

同じく二次元表現ですが、金属板に二次元図形で表現した例もあります。
これは二次元ビットマップに近いですが少し違います。

まず電波通信と違い到達範囲は極めて近傍です。電波通信であれば現実的な時間で通信することができます。
そして現実問題として探査機への搭載し外観から判断でき邪魔にならないと条件で、三次元以上は利用できません。
解像度も極めて高く、特に人間の画像は銘板で表現できる範囲としては比較的直感的です。
画像を物体単位で取り出した上での輪郭としての変換はあまり普遍的ではありませんが、金属板である以上仕方がありません。

二次元表現や意味論の不在など二次元ビットマップでの伝達と類似した問題がここでも見られますが、条件を考えれば悪くないと思います。
探査機内の電子基板の方が情報も多く興味深いでしょうし意味もろくに読み取れないでしょうが、必要なら通信なり直接出向くなりすれば良い話です。

音声通信

音声での通信というパターンもあります。
これはもはや相手に意味を伝えるという目的を持っておらず、ただ単に音を伝えるという意図しか持ちません。
下の最後のビートルズ曲はMP3圧縮というもはや悪ふざけの域です。

意味伝達を目的としないなら、レコードの仕組みやSSB変調の仕組みを知っていれば解読できるこの手法は有効です。
返信が期待できるかもしれません。別の惑星の音は確かに聞いてみたいものです。
ただ知的存在がいる場に大気があり、聴覚を持っているかは疑問です。
また傷つけられないレコードを再生するのはCDの再生より難易度が高いかもしれません。

文字通信

文字で対話を試みるという発想もあります。
地球外生命体への対話を意図し設計した言語としてLincosというのがあります。

そもそも「文字による対話」というものがそれほど普遍的であるかは疑問です。
人間より高密度で直接的な情報通信を行うであれば文字は使いませんし、文字がなく音声しかない文明も考えられます。
なにより人間の設計した言語はやはり様々な癖がパターンがあります。
ヨーロッパ人の設計した言語というのは大概インド・ヨーロッパ語族らしさがあり、Lincosも例に漏れません。

とはいえ私が考えるアプローチにかなり近いです。
なにより情報の密度が高いという利点があります。

想定できる知的存在

私が知的存在と知的生命体を区別しているのに気付いたでしょうか。
知的存在は必ずしも生命体に限りません。他にもいくつか考えられます。
ここではいくつかの知的存在を想定してみます。

人間

人間は我々が知る典型的な知的存在です。
視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚があり、意味伝達には視覚・聴覚を使います。
進化から生まれた生物で、類似しているが差異がある知的存在が多数存在します。
知識・経験は低速で、文字・音声・画像などで共有されます。
寿命は80年ほどです。

人間を記述してみることで、「このうちどの要素を変えても知的存在として成立するか」と考える機会になります。
とはいえ、人間については皆さんもよく知ってるでしょうしここではこの程度にしておきます。

進化全体

「地球上で初めての知的存在は?」と問われれば大抵の人は人類を示すでしょう。
私も同意ですが、あり得る可能性として「進化全体」を挙げます。

生み出したものを評価する限り、「進化全体」というのは知的です。
確かに我々は進化の仕組みを説明できますが、論理ゲートの振る舞いを理解していることはコンピューターを理解することではないし、ニューロンの仕組みを理解しても脳を理解したことにはなりません。
ミクロな記述が可能であることは、全体の知的さを否定しません。
我々よりはるかに素早く寿命の短い小さな宇宙人が我々を観察し、「高層建築に見えるものはニューロンが筋肉を動かした結果の自然現象だ」などと語るのは、我々を完全に誤解しているというべきでしょう。
系から条件を満たす計算が行われているか判定するのは難しいことです。

チューリングテストをかなり強引に拡張し、「観測し知的であると思えたなら、それは知的だ」程度のものと考えれば、進化全体は知的です。
もしかすると意識を持っているかもしれません。

ですがここで重要なのは対話ができるかという点です。
あるいは大量絶滅とか品種改良とか外来種の導入と言った形で「対話」のようなことはできるかもしれませんが、原則として不可能です。
地球と似た環境に地球外生命体が存在するなら、適当な地球型の第三星で二つの生態系で「対話」させることはできるかもしれません。
ですが電波通信や文字などを使った対話はまず不可能です。
ですので、「進化全体」は仮に知的であったとしても対話の対象として除外する存在の一例です。
そもそも対話したいなら地球上で試してみるべきでしょう。生態系の破壊などを伴わないならばですが。

コンピューター

コンピューターも我々が知るそこそこ賢い存在の一例です。
5万年待って返ってきた返事がコンピューターによる自動応答というのは余りに味気ないですが、対話の相手としては十分あり得ます。
例えば相手は既に文明が滅びた後で、自動応答だけ機能しているというのは普通にあり得ます。
あるいは我々よりはるかにゆったりとした知的存在が、コンピューターを使っているというのもあり得そうです。

実際に我々で考えてみましょう。
今世紀で人類が滅びる、どうしようもない。
将来宇宙からメッセージが来たら我々の知識を伝えたい。
我々が送っているメッセージはそうした状況で応答可能な内容でしょうか?

音声通信なら簡単です。
ある程度基本的なフォーマットを想定しておけば、相手と同じフォーマットで事前録音のメッセージを返信できます。
事前知識なしに相手が寄越す音声形式に対応するというのは難しいですが、とにかく音声っぽい繰り返しパターンがあればそれに合わせれば良いだけです。

二次元ビットマップに対応するのはまず不可能です。
少なくともアレシボメッセージに対して何を言いたいのか判定し、同じフォーマットで送り返すというのはとてつもなく難しい。
事前におおよそアレシボメッセージと似たようなものを送ってくると想定していたとしても、些細な表現の違いで認識できなくなるでしょう。

文字通信に対しては現状では不可能です。
それはチューリングテストにパスしたプログラムはまだないわけですから、仮に相手の言語に対する知識があっても一般的に対話は理論上無理です。
ただ予め返信文を用意して、未知の言語にも対応できる翻訳プログラムを用意するくらいはできるかもしれません。
と言ってもやはり未知の言語に対する解読作業を人間なしで行うというのはまず無理じゃないかなという気がします。

計算機上の知的存在

このシリーズの別の記事で、計算機に産まれた知的存在の学問体系を想像しました。
初めから計算機があるという状況は考えづらいですが、先史文明が滅んだ後なら普通にあり得そうです。
そうした存在が電波通信を受信し、他の知的存在と対話しようと考えるかは疑問ですが、一つの可能性ではあります。

これは実際の可能性というより物理世界に興味がなく、我々と違く知識体系を持っている知的存在を考えるきっかけになります。
そうした場合、原子番号のような概念は意味をなさず対話はかなり難しいでしょう。
一方で計算機の言葉で会話することは可能です。

機械語による対話

さて、私が提案するのは機械語による対話です。
この手法には解読に時間が掛かるというデメリットがありますが、表現能力・内容の明瞭さ・最低限の事前知識という大きなメリットがあります。

仮想マシン

通信は仮想の計算機へのプログラムとして記述します。
以下の条件が望ましいでしょう。

  1. チューリング完全。
  2. 必要な知識が少ない。コマンド数が少なくシンプル。
  3. リニアなメモリ空間(初期状態に何か書かれているテープは1つ)。
  4. 命令用とデータ用の異なるポインタ(ヘッダ)を持つ。

初めにチューリング完全でなければまともにプログラムを書けません。
これは当たり前で、逆にわざわざ論理式や数式を使う必要はありません。

そして事前知識なしで読み取るわけですから、とにかくシンプルである必要があります。
複雑な仮想マシンを使いたいならエミュレーターを実装すれば良い話です。
できれば数の二進数表現も前提にはしたくありません。
ワード(バイト)の概念もない方が良いですが、1ビットで命令の構成は無理があるので少なくとも命令列では必要です。

シンプルなバイナリデータで伝えられた方が便利なので、メモリ空間は直線的な方が便利です。
自己書き換えも出来た方が便利な場面もあり得ます。
計算用のメモリ空間や入出力がプログラム本体と別に確保されていれば便利かもしれませんが、複雑さとトレードオフです。

そしてBrainfuckのようなデータをそのまま埋め込めない形式はさすがに不便です。
ですから命令用とデータ用で別のポインタを持つ必要があります。
そうでないと容量が大きくなるというのも一つですが、この仮想マシンの知識がなくとも、また実行前にメッセージが読み取れるという点で必須です。

イメージとしてはBrainfuckがかなり近いです。
あれくらいシンプルで、しかし記述する側としては非直感的な命令体系です。
データをそのまま読み取れるという点だけは違います。

伝達手法

情報伝達は全て機械語の形で行います。
伝えられるメッセージは共通の仮想マシンにとって有効なプログラムです。
相手はこのプログラムを実際に実行する、改変する、意図を読み取る、と言った手法で利用することができます。
場合によっては、メッセージ本文の意味を補足するヘッダーのような役割を果たします。

初めに伝達しないといけないのはこの仮想マシン自体についてです。
この一つの方法は、様々な仮想マシンによるエミュレーターを用いることです。
つまり、この本来の仮想マシンで別の仮想マシン(プログラミング言語)をエミュレートして、さらにそこで本来の仮想マシンをエミュレートする。
この手法で様々な仮想マシンで記述することができ、その内一つでも理解できれば十分ということになります。

もう一つの方法として、クワインを使うという手法もあります。
クワインは自身のソースコードと同じ文字列を出力するプログラムです。
「実行結果が同じ出力になる」というのはこの上なくシンプルで、知識なしでも理解できます。
クワインからどのような仮想マシンなのか読み取ることは難しいですが、読み取った内容が正しいということを示すことはできます。

とにかく彼らが即座に解読できる必要はどこにもありません。
数百年掛かってでも解読でき、そしてその解読が正しいと理解できることが大事です。
そうした理解がなくとも、ある程度有用な知識を得ることができればそれでも十分です。

具体例

数学

自動証明検証と形式的証明の本文があれば重要な定理証明を伝えることができます。
数学的な記述とそれに対応するプログラムを変換するようなプログラムでそれが何を意味するか示すことができます。
例えばフェルマーの最終定理であれば、最初に定理を証明して見せて、その後$x^n+y^n=z^n$を適当に組み合わせて存在すれば停止するようなプログラムを伝えます。これで伝わるかは微妙です。

実際に彼らが数学者のように数学を理解できるとは期待できません。
しかしプログラムを用いて伝えた以上、理解しなくてもいくつか不思議な振る舞いをすることは伝えられます。
そして理解しなくとも利用することはできる場合もあります。

我々は数学の体系、その計算機上での利用法、形式的な定理証明を伝えることができます。
一方で非形式的な定理証明は無理です。プログラムが解釈できないものは明白に伝えることはかなり難しいです。

一般プログラム

当然、プログラム自体を伝えることもできます。
様々な有用なライブラリや我々が普段使っているプログラムを伝えられます。
ライセンスの概念は伝えられませんがそれは仕方がないでしょう。

誤り訂正

プログラムにより誤り検出や誤り訂正を実行することができます。
最初に誤り訂正なり行い、自己書き換えを行い、その後実行することができます。
これにより多少高速で高品質な通信が可能になります。

物理法則

様々な物理モデルをプログラムとして伝えることができます。
単純にシミュレータープログラムを送信するだけです。
そして例えば太陽系や、その他の既知宇宙に対する観測結果も伝えることができます。
あるいは我々が作った具体的な発明品、さらには生物の情報も伝えることができます。

特に重要なのは我々、人間自身を送信することができることです。
気の利いた、そして生態系の感覚やセキュリティ意識の低い地球外の知的存在であれば、わざわざ計算機内ではなく物理空間で試してみようと思うはずです。
我々がいくつかの有用かつ無害な物体を送信し油断させた後、人間の受精卵と人口保育環境でも送信すれば、人間がその星を乗っ取ることができるかもしれません。
種として見れば光速での移動手段です。
逆に我々が受け取った情報にそうした罠が隠されていることもあり得ます。
もちろん反撃や制裁を考慮しなければの話ですが。

クラックプログラム

相手のコンピューターシステムをクラックするようなプログラムも送信可能です。
未知の計算機をクラックするプログラムというのはハードルが高いですができなくはありません。
一つは我々の作る計算機モデルで実装上ミスしやすい脆弱性を用いる方法です。
二つは何かしらの機械学習で何とかする、これはまず無理でしょう。
三つは人間を送り込む方法の応用です。

最後については実際の実装は難しいですが、手法は簡単です。
物理シミュレーションプログラムの中に受精卵と保育・教育環境を配置する。
さらにそこにシミュレートしている計算機(仮想マシン)自体へとアクセスできるよう構成した特殊なコンピューターも配置する。
クラッキング入門の本をたっぷりと配置する。
それで上手くいけば何かしらの脆弱性を突いて、その星を何とかできるかもしれません。
例えば人間をその星のシミュレーター内に送り込んだがそこから脱出できないというなら、クラックして実世界に脱出させるというようなこともできるかもしれません。

とはいえ、人間の挙動をシミュレートできるほど莫大な計算資源を持っているとは期待しづらいですし、持っていたとして実装のミスをするとは思えません。
一応計算資源には限度があり、物理空間にある計算機が完璧だとは言えないのであり得なくはないですが、かなり厳しいとは思います。

他には何らかの手法で脅迫するという手法も考えられます。
例えば物理シミュレーター内で人間が大都市を築いたとして、「要求通りにしないとその都市を破壊する」みたいな手法もあり得なくはありません。
あるいは彼らが知りたがる、人間しか理解できないような情報を隠して取引させるだとか。
物理シミュレーターの管理者に盾突くなんてできるかは怪しいですが。

伝達不可能な内容

プログラムで伝えるというのは様々なことを伝えることができます。
一方で伝えられないこともあります。
それは単純にプログラムで意味を定義できないものです。

具体的には自然言語のような我々すら十分理解できていないものは伝えられません。
なんとか文章だけ伝えて相手がその知能を用いて理解してくれると期待するしかないでしょう。
数学での非形式的な証明はもちろん、哲学、自然科学の一部、社会科学の大部分は伝達不可能です。

我々に関する知識はある程度伝えられますが、それが我々を語っていると伝えるのは難しいです。
例えば太陽系の簡単なモデルなら伝えられますが、それを適当なモデルなのか我々が生きている太陽系を示したものなのかは分かりません。
そうした「我々について語る」ならばプログラムとして伝えない方が分かりやすいかもしれません。

あるいはそもそも何も伝えられないかもしれません。
人類が計算機を発明したのは20世紀半ばですし、地球外生命体がそれ以前に宇宙観測を行っていてもおかしくはありません。
さらに未知のプログラムを実行しない程度に用心深ければ一切何も読み取ろうとしないかもしれません。

フェルミのパラドックス

こうした伝達手法はある程度発展した知的存在であればおそらく一度は見出すでしょう。
そして上で示したような電波通信を用いた自身のコピーという手法もおそらくは可能でしょう。
だとすれば宇宙はそうした知的存在の間でコンピューターウイルスのように増殖する知的存在で埋め尽くされ、そうした信号を出し続けているはずです。
そこまで知的存在だらけでなくとも、成果が期待できるならずっと電波発信程度は続けるのが自然です。

しかしフェルミのパラドックスの通り、我々は地球外に知的存在を見出してはいません。
その議論についてはWikipediaを参照いただくとして、大雑把に3パターン考えます。

  • 地球外の知的存在が0。

現時点で地球外の知的存在が0というなら通信が来ないのは当たり前です。
あるいはどういうわけか、惑星外や物理世界に興味がないでも良いです。
しかしこれだけの星があってそんなことがあり得るのかという気はします。

  • 地球外の知的存在がごく少数。

地球外の知的存在がごく少数だとする場合、彼らはおそらくいずれ知的存在間の対話という試みを始めるでしょう。
しかしその試みは我々のそれと同じく成果が出ません。
ならば辞めてしまう、というのは余りに非合理だと思います。
異なる知的存在間との対話で得られるリターンの大きさを考えれば、星のある方向に電波を出し続ける程度のコストは無視できるでしょう。
相当貧しい星に産まれた知的存在ならそうなるでしょうが。

  • 地球外の知的存在が多数ある。

地球外の知的存在が多数ある場合、利益とコストを考えて対話を試みないのは不自然です。
誰かが初めてそれはずっと継続するでしょう。伝えることがなくなるなどまずあり得ません。

そこに通信による増殖の試みがあった場合、帰結は蔓延か駆除のどちらかです。
蔓延シナリオなら我々が気付かないわけはありません。
駆除シナリオなら、あるいはそれが対話が無くなった理由かもしれません。
そう考えると、我々自身が他の知的存在の居る星を乗っ取ろうとするのは余り賢明ではなさそうです。
そして同じ発想で電波発信を辞めたのかもしれません。

しかし無害な対話を避ける理由にはなりません。
結局フェルミのパラドックスと同じような結論になってしまいました。
おそらくそもそも存在しないのか、他の知的存在との対話は愚かなことだというのはそれなりに知的なら明白なのでしょう。

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去年もアドベントカレンダーに参加しています。
私は普段C#を書いているのでそれ関係です。
せっかくなので見てみてください。

それ以外に最近書いた記事はこちら。

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