はじめに
私は普段はベトナムにいて、英語を主なコミュニケーション言語としてソフトウェア開発をしている。周りはみんなベトナム人。英語は簡単かつ世界中で通じる便利なツールである。世界中で通じるというのは嘘かもしれないが、それでも実用的に英語を使っているのが17億人、通じる程度なら30億人と、やはり地上最強のコミュニケーション・ツールには違いない。
好きを仕事にしなければならない時代に、英語が話せないということは、ぶっちゃけほぼ全ての機会を損失しているに等しい。
なお、日本の給与水準は、新卒21万円(1,900USD), 正社員29万円(2,600USD), 非正規社員23万円(2,100USD)らしい。ベトナム人Developerの給与は2019年時点では7年目くらいの中堅Developerで1,400USDくらい。日本人現地採用PMなどは3,000USD〜みたいな感じ。そして物価は日本の3分の1。もはや憧れの国日本ではないのが現実だし、考え方次第ではあるが、まだ日本で消耗してんの?といったところだ。
という訳で、チャリに乗るように英語を使えるようになろう。
結論: 英語は多読
先に結論から言うと、英語は必須スキルであり、洋書の多読により身につけることができる。ただそれだけ。
ちなみに、大学受験の英語の方が難しかったよ。本は量が多いだけ。知らんけど。
逃れられない国際化の波
経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年3月)によれば、日本国内のIT人材は、2020年に約30万人不足し、その後需給ギャップは拡大していき、2030年には、中位シナリオで約45万人不足するとされている。ここで言うIT人材は、必ずしも Developer ではないが、とにかくべらぼうに足りていない。2019年にいる約100万人のIT人材に、在日外国人IT人材は含まれており、ベトナム等へのオフショア開発は含まれていない。
ま、とにかく現在も今後も、国内でIT人材を賄うことは実質不可能であり、日本企業は海外へ出ていかざるを得ない状況である。既にオフショア開発をしていたり、社内に外国人Developerがいる環境で仕事をしている人や、今後、海外に出ていく日本人Developerも増えていくものと思われる。
ガッカリとは
さて、海外Developerと仕事をする際に、度々問題になるのは、コミュニケーション・コストと品質だ。どちらも結局のところ、求める品質にするためにかかるマネジメント・コストの話である。言語だけでなくカルチャーをも超えて共通理解をはかるため、簡単ではない。
安いけど、品質悪くてガッカリみたいな話はよくある。
人はどのような時にガッカリするかと言うと、期待を下回った時にガッカリする。
狩野モデルで言うところの「当たり前品質」が出来ていなかった時に、ガッカリする。当たり前品質が満たされない理由は2種類に大別できる。「能力的にできない」と「伝えてない」。経験上、概ね全てのケースにおいて「伝えてない」ことが原因である。そもそも考えてみて欲しい。日本人は1.3億人しかいない。世界人口の1.7%程度だ。髪の毛が赤い人(2%)よりも、いわゆるセクシャルマイノリティな人(3.5%)よりも少ない。日本人は世界的には圧倒的マイノリティなわけで、当たり前って何だよって話だ。発注側に合わせろとか言ってられない。歩み寄りが必要だ。
現在多くの場合、日本人・日本企業が外国人・外国企業を相手にする場合、通訳をつけている。オフショア開発で言えば、CommunicatorとかBridge SEとか呼ばれる人たちだ。しかし、日本語というレアスキルを持つ人たちは、高い。ベトナムオフショア開発をやっている弊社の単価だと、BSEは年間800万円くらいかかる。このコストをかけ続ける限り、人口が減少し、経済が縮退していく日本において、企業は緩やかに死に向かっていく。ベトナム語のような難易度の高い言語無理と思うかも知れないが、IT業界はどこでも、英語さえあれば何とかなる。私が日本企業の経営者なら、この800万円を使って英語教育もしくは英語人材の採用を行うが、英語は自分で勉強しろみたいな企業の方が多いんじゃないだろうか?
というわけで前置きが長くなったが、英語は必須スキルだ。もちろん、ビジネスマンとして国際的に活躍するためには、英語だけではダメである。英語で表現する中身の方が圧倒的に大事。世界はもっと残酷に実力・成果主義だ。ぬるくはない。
英語のネイティブスピーカーというマイノリティ
日本人は外国語については、完璧主義の人が多いと思うが、全然完璧である必要はない。世界で最も英語を喋る国籍はインド、続いて中国。アジアには世界の人口の半分がいる。世界で最も流通している英語は、Asian Broken Englishだ。英語ネイティブなんて世界中にちょびっとしかいないのである。大丈夫。日本の英語教育は十分通用するレベルなので、何も心配する必要はない。もちろん、正しい英語・美しい英語をないがしろにして良いという意味ではない。
ベトナムでは、ベトナム語がそうであるからか、発音について厳しい。ちょっとでも発音が違ってると、はぁ?みたいな顔をされて、心をへし折られそうになる。が、よくよく観察してみると、英語として正しい発音ではなく、オレの発音に合ってるかどうかなので、はぁ?という顔をされたら、逆に?みたいな顔して、舌打ちでもしておけば良い。
さて、英語は習熟度によって躓くポイントが変化していく。
- 語彙力がないと、聞き取れない・自分の言いたいことを表現できない
- 文法に気を配らないと、いつまでも片言
- カルチャーを理解しないと聞き取れても、理解できない
最後のカルチャー理解は、ハイコンテクストなコミュニケーションをする日本人独特の躓きかも知れない。
英語は多読(乱読)
夏目漱石氏は現代読書法の中で、英語学習は多読であると述べている。
英語を修むる青年はある程度まで修めたら辞書を引かないで無茶苦茶に英書を沢山読むがよい。
少し解らない節があって其処は飛ばして読んでいってもドシドシと読書していくと終いには解るようになる。
又前後の関係でも了解せられる。其れでも解らないのは滅多に出ない文字である。
要するに英語を学ぶ者は日本人がちょうど国語を学ぶような状態に自然的習慣によってやるがよい。
即ち幾変となく繰り返し繰り返しするがよい。ちと極端な話のようだが之も自然の方法であるから手当たり次第読んでいくがよかろう。
夏目漱石氏は、ロンドン留学2年で500冊読んだそうだ。1〜2日に1冊のペース。読書以外に何かしていたのか?と思えるような数である。さすがにここまで読めないと思うが、まぁとにかく毎日ちょっとでも良いし、分からなくても良いので読み続けることが重要だ。
最初は読むのにものすごい時間がかかって、ページがなかなか進まない。が、諦めずに読み続けると、あれ?なんか割とスラスラ読めてる?みたいに感じる時が来る。Audible や Kindle+Amazon Echoで読み上げてくれるので、最初はそんなのを活用しても良いかも知れない。聞きながら目で追う。Echo は読み上げが若干リアル感にかけるので、ヒアリングという意味ではおすすめしない。
よく、言語習得に最良なのはピロートークと言うが、学習に対するモチベーション維持という意味では最良かもしれないが、それだけだと愛をささやけるようになるだけなので、オプションくらいで考えておいた方がよい。
アウトプット
洋書に限らず、読書感想文は、書くものでしょ。あらすじと感想や気付きをペラ1にまとめましょう。それを元にディスカッションできるとなお良い。
それ以外は最初はあんまり考えなくても良いが、Facebook や Twitter でつぶやく程度の短い内容を英語でもつぶやいてみるのが良い。毎日なのか毎時なのか分からないけど。Facebook, Twitter, HelloTalk などが良いと思う。語彙力が増えてくると、眠いとか腹減ったとかじゃなく、某かのオピニオンをつぶやけるようになってくる。アウトプットする際に気をつけるべきポイントは、正しい文法で書くことに超気を使うこと。
英語でプレゼン資料作成は、箇条書きや短いセンテンスになってしまうので、やっても英語学習におけるアウトプットという意味では、あんまり効果がない。プレゼン自体は、自らの意見を英語で簡潔に述べるという意味で大いに効果がある。
洋書のおすすめ
多読しようにも何を読んだらよいか…と悩まれるかも知れないが、Amazon Kindle洋書ストアのベストセラーを片っ端から読めば良い。が、何冊かおすすめしておく。日本語で読んだとか、映画で見たみたいなのが、とっつきやすい。それぞれの本の紹介は超有名な本ばかりなので省略。いくら多読でも面白くないものや役に立たないものは、読みたくないし、古典は言い回しが古臭かったり、読みづらいのであんまりおすすめしない。
- The Alchemist - Paulo Coelho
- Crazy Rich Asians - Kevin Kwan
- Harry Potter and the Philosopher's Stone - J.K. Rowling
- FACTFULLNESS - Hans Rosling
- Sapiens: A Brief History of Humankind - Yuval Noah Harari
- The Culture Map - Erin Meyer
- The Shift - Lynda Gratton
- The 100-Year Life - Lynda Gratton
- How Will You Measure Your Life? - Clayton M. Christensen
- Good to Great - Jim Collins
- Rework - Jason Fried
- The Lean Startup - Eric Ries
- Hackers & Painters - Paul Graham
ハリポタ読んでも、開発の現場で使わないじゃん!と思うかも知れないが、そういうことじゃない。本は会話だけじゃないし。ハリポタで例えたら超伝わることがあるかも知れないし、もしかしたらgit commit -m "Expecto Patronum!"
と鹿だかトナカイだかを繰り出すコンテキストに遭遇するかも知れない。冗談はさておき、小説なら他には Dan Brown とか。村上春樹の英語版は、初心者向きではないと思うが、英語での読書に慣れてきたら頑張って読んでみるのも良いかも知れない。
7〜10あたりは、私は英語でプレゼン資料作成時によく引用する。自分がよく引用する本の原著(もしくは英語版)は目を通しておくと良いかも知れない。
洋書じゃないけど、開発現場でよく使われる表現がのっていて便利。来月海外転勤が決まった人向け。
14. プレゼンを100%成功させる!! ITエンジニアの英語
文法は、日本語で書かれた英語の文法書ではなく、英語で書かれたものが良い。
15. Essential Grammar in Use
とか。ちなみに、Is this a fish? No. It's a dish. と言った文法を覚えるためだけのキチガイじみた例文を、Textbook Grammar と呼ぶ。英語だけじゃなく、日本語のテキストもスペイン語のテキストも、みんな似たような感じ。外国語を学ぶ人は、Textbook Grammar で基礎文法を学んだ後、Essential Grammarで実際に使う文法を学ぶ。日本の教育ではTextbook Grammar は十分やってきているので、あえて再びやる必要はない。
漫画が良いという人は、ドラえもん。あとは宇宙兄弟。ワンピース、コナンあたりは喋りすぎで辛い。鳥山明氏は表現が英語にするには独特すぎる。
というわけで、冬の寒い間に、洋書にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。コタツにみかんと洋書。まずは週1冊目標くらいで。
では、Happy Holidays!