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高プロで365日24時間働かせる雇用契約は可能か検証する

Last updated at Posted at 2018-06-08

現在話題になっている高プロ。働かせ放題とも言われています。
365日、24時間働く雇用契約にして、実際働いた分を控除する形で1075万円よりも給与の低い者を高プロに適用できるいう記事があります。

本当にそんなことができるのか?

今回はパターンを絞ります。
以下のような場合です。

(1)雇用契約書には、就業時間を9:00~18:00とする記載がある。
(2)雇用契約書には"高プロである"旨は明記されていない。入社後に同意書へのサインを求められる。
(3)就業規則にも就業時間を9:00~18:00とする記載がある。
(4)就業規則に、"会社が時間外の業務を命じることがある"との記載がある。
(5)"勤務時間に対して実際の就業時間が短い場合は、短縮された分の給与は控除する"との記載が就業規則にある。
(6)入社後、会社側が"全ての時間の勤務を命じる"という業務指示を出す。
(7)実労働時間をタイムカード等で会社側が管理し、(雇用契約書に記載の月額賃金)×(月の実労働時間)/(月の日数×24)を給与として支払う。

なお、(4)については、入社時に就業規則を提示していないのが一般的ですので、その場合労働者側が命令を拒否できるのですが、日本の雇用慣習上、拒否できないとします。

また、「そんな会社、すぐに辞めてしまえ」はもっともな意見ですが、実際は諸事情があり辞められないとします。

会社側は入社まで就業規則や細かい業務の提示を行わないのが通例なので、労働者は入社するまで高プロであること自体を知り得ません。
労働基準法上、高プロ適用には本人の同意が必要なため、入社後に高プロへの同意書に署名を要請されますが、これは事実上拒否できないでしょう。
そして、(4)を根拠に365日、24時間の勤務を命じられ、命じられた勤務時間に対して実際の就業時間が短いため、(5)を根拠に給与を控除する。
これを経理側で計算して(7)の式で給与を支払うという形です。

例えば、雇用契約上の年収1075万円、月に20日就業、一日当たり8時間勤務とし、1か月30日とすると、

月額賃金)=1075/12=89.6万円
月の労働時間160時間として、
89.6×160/(30×24)=19.9万円

と計算されます。
つまり、実際に支払われる月給は19.9万円
年収で約240万円の給与になります。

労働者が入社前に実態を確認することが困難であり、入社後は強制的に給与が4分の1~5分の1に減額されるという、非常に悪質なパターンです。

これが明確に違法になるか?ということを検討してみます。

##1.24時間、365日働くという業務指示に違法性がないか

(6)で、「24時間、365日働く指示を出すって、そりゃおかしいだろ。」という疑問です。
この指示に違法性はないのでしょうか。

そこで、改正労働基準法の条文を読んでみます。

第四十一条の二 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働(新設)条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。

「この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない」となっています。
「24時間、365日全部働け」という指示は特に禁止されていません

雇用契約書に9:00~18:00と記載されている以上、本来それ以上の業務を会社側がやってほしい場合は別に契約を結ぶ必要があります。無理にさせようとすると強要罪となる可能性がありますが、
就業規則に、(4)"会社が時間外の業務を命じることがある"との記載がある以上、会社側に時間外の勤務を命じる権利があります

労働基準法はそのような契約自体を禁止していません。"残業をさせる場合は対価として割増の残業代を支払いなさい"と記載されています。
前述の通り、高プロの場合は残業代の支払いは適用しないことになっていますので、対価を支払わないことは違法になりません

なお、労働基準法ではこのほかに、残業時間の上限や36協定の記載もありますが、これらも"この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定"にあたるので、高プロには一切適用されません。
「全て雇用契約で決めてください」ということです。(1)~(6)は雇用契約で両者が合意している内容なので、その内容に違法性が認められない限りは有効です。

また、**「365日、24時間働いたら、普通は死ぬ。死を強要する業務命令は違法である」という主張もできると思います。
これは効果的な主張とは思いますが、
"16時間までなら合法である"**といった判決になり、逆に容認されるかもしれません。

"安全保護義務違反"についてはどうでしょうか。

365日、24時間働くと、どう考えても過労死するので、論理的には成立しています。ただ、それを理由に指示を禁止できるかと言われると厳しいでしょう。

##2.24時間、365日の就業を命じられる可能性について、雇用契約時に合意に達しているか

これについては、雇用契約を締結するにあたり、就業規則を労働者に開示しているかが分かれ目になるはずです。

開示していないとすれば、少なくとも(4)の**"会社が就業時間外の勤務を命じる"**という条文には、雇用契約時に合意しておらず、会社側に24時間、365日の勤務を命じる権利がない

労働者側は24時間、365日の勤務に応じていないので、(5)によって給与を控除することは許されない

という論理です。

この論理は非常にわかりやすいです。海外であったらほとんどこの論理で崩せるでしょう。

しかし、日本の雇用では**"雇用契約を締結した段階で、見せてもいない就業規則にも同意したとみなす"という慣習**があります。

この慣習に従うと、24時間、365日の勤務も雇用契約時に同意したとみなすことができます

##3.就業時間を偽った契約を結んでいる

**「雇用契約において就業時間を9:00~18:00としているのに、実際の就業時間が365日、24時間であり、偽りの就業時間で契約させている。」**という主張です。

明らかに偽りの契約であった場合は、契約を解除できます。
これについては裁判をやってみないとわからないですが、仮に勝てたとしても、契約の解除しかできません。つまり、会社に合わせるか、辞めるかしかありません。

##4.高プロである以上は、勤務時間について裁量権があるはずだから、指示を拒否することができる。

裁量労働制については、この論理が成立します。労働基準法に就業時間の裁量権が労働者側にあることを条件として明記してあるので、(4)の"会社が時間外の業務を命じることがある"という就業規則自体が労働基準法に違反しています。

労働基準法に以下の記載があります。

第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。

すなわち、会社が時間外の業務を命じることがある"という就業規則が無効になるので、会社側に時間外勤務を命じる権利がなくなります。

だから、労働者は24時間365日働けという要求を拒否できます。

しかし、高プロについては勤怠についての裁量が労働基準法に記載されていません。この論理は通用しません。


結論としては、1.で"違法な指示を出している"という主張は、最終的に裁判所の判断になりますが、難しいと考えられます。

2.で、"雇用契約時に就業規則を明示されていない"という主張は、海外ならば通常認められますが、日本では厳しい。

3.虚偽の就業時間を提示しているという主張については裁判所の判断による。

4.については主張できない。

労働者が裁判を起こして会社側を訴えるのであれば、問題点が社会的に認知され、淘汰されるでしょう

しかし、そうならなければ、会社のやりたい放題になる可能性は否定できません

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