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湧源クラブAdvent Calendar 2019

Day 20

原始惑星系円盤の密度進化を解く(拡散方程式の無次元化)

Last updated at Posted at 2019-12-19

これは,湧源クラブ Advent Calendar 20日目 の記事です!

この記事を読むとできるようになること
一見難しそうな拡散方程式を数値計算できる

学部の授業でやった計算を紹介します.
出てくる式は,修論の研究でもめっちゃ使っています.

原始惑星系円盤(Protoplanetary disk)とは

fig1-5-1078x516.jpg
credit: NASA/JPL-Caltech

できたてほやほやの恒星の周りにできる,ガスと塵からなる円盤のことです.
質量のほとんど(99%くらい)は水素とヘリウムが主体のガスであると考えられています.
原始惑星系円盤の中で,塵やガスが集まって惑星が誕生します.
現在の太陽系には原始惑星系円盤は残っていませんが,
他の恒星の周りに存在するものは電波望遠鏡で観測されています.
今回は,この原始惑星系円盤のガスの密度進化を解いてみましょう.

拡散方程式

$r$方向(円盤の中心から外側に向かう向き)のガス面密度の拡散方程式は次のようになります.

\frac{\partial\Sigma_{\rm g}}{\partial t}-\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}\left[3r^{1/2}\frac{\partial}{\partial r}\left(\Sigma_{\rm g}\nu r^{1/2}\right)\right]=0

$\Sigma_{\rm g}$はガスの面密度と呼ばれる量で,普通の質量密度を$\rho_{\rm g}$として次で定義されます(次元は${\rm ML^{-2}}$).

\Sigma_{\rm g} = \int_{-\infty}^{\infty} \rho_{\rm g} dz

$\nu$は粘性係数です(次元は${\rm L^2T^{-1}}$).
拡散方程式の導出は記事の後ろに書いてあるかもしれないです.

無次元化

では,この式を計算していきたいのですが,明らかに複雑でめんどくさそうですよね.

数値計算を行うときによく用いられる手法として,無次元化というものがあります.
様々な物理量(今回の場合,$r, \Sigma_{\rm g}, \nu, t$)をそれぞれ適当な値で規格化することで,式をスッキリさせて計算しやすくします.

円盤の典型的な半径,円盤の典型的な寿命,中心($r=0$)での面密度をそれぞれ
$r_1, t_0, \Sigma_0$とします.
そして,次のように無次元の数$x, \sigma, \tau$を用いてそれぞれの物理量を変数変換します.

r \equiv x^2 r_1\\
\Sigma \equiv \sigma \Sigma_0\\
t \equiv \tau t_0

$\nu$についてはとりあえず置いておきましょう.
これらを元の方程式に代入すると,

\frac{\partial \sigma}{\partial \tau} - \frac{3t_0}{4r_1^2} \frac{1}{x^3} \frac{\partial^2}{\partial x^2}(\sigma \nu x) = 0.

ここで,$\nu \propto r$ と仮定し,
$\nu = 4r_1^2/(3t_0) x^2$ とおきます.

すると,次のようになります.

\frac{\partial \sigma}{\partial \tau} - \frac{1}{x^3} \frac{\partial^2}{\partial x^2}(\sigma x^3) = 0

$y = \sigma x^3$とおくと,

\frac{\partial y}{\partial \tau} - \frac{\partial^2 y}{\partial x^2} = 0

となって,よく見る拡散方程式の形になります.
これを計算して,最後に変数変換したものを元に戻せばOKです.

計算結果

Fortranで書いた計算コードを記します(学部時代に書いたのそのまま).

サンプルコード
sample.f90
program main
  implicit none

  ! r方向の刻み
  INTEGER, parameter :: jmax = 200
  ! 時間ステップ数
  INTEGER, parameter :: nmax = 10000000
  ! 出力時間ステップ
  INTEGER, parameter :: nint = 10000

  REAL, dimension(0:jmax) :: u
  REAL, dimension(1:jmax-1) :: unew
  REAL delx, delt, r, x

  INTEGER j,n
  INTEGER i

  CHARACTER(len = 20) fname

  i = 0

  delx = 1.0 / real(jmax)
  delt = (delx**2) /3
  ! クーラン数
  r = delt / delx*2

  !初期条件
  u(0) = 0.0
  DO j = 1, jmax-1
     x = real(j)*delx
     u(j) = x*exp(-(x/0.1)**2)
  END DO
  u(jmax) = 0.0

  DO n = 0, nmax
     IF (mod(n, nint) == 0) THEN
        write(fname,'(i5.5,a)') , i, '.dat'
        open(10, file = fname)
        DO j = 1, jmax
           x = real(j)*delx
           ! 元々の変数に変換して出力
           write(10,'(2f12.5)') x**2, u(j)/(x**3)
        END DO
        CLOSE(10)
        i = i +1
     END IF

     ! 拡散方程式の差分方程式
     DO j = 1, jmax-1
        unew(j) = u(j+1)*r + u(j)*(1.0 - r*2.0) + u(j-1)*r
     END DO

     ! 値の更新
     DO j = 1, jmax-1
        u(j) = unew(j)
     END DO
  END DO

END program main

計算すると,こんな感じで面密度が拡散していきます
(横軸縦軸ともに,適当な値で規格化しています).
anime.gif

(昔書いたコードを使ったので,動画はgnuplotで作りました)

自己相似解

さて,上の動画をキャプチャするとこんな感じになります.
色が濃くなるにつれて時間が進んでいくことを表しています.
sample.png

よく見ると,各時刻の面密度のグラフは
他の時刻の面密度のグラフを伸び縮みさせた形になっています.
このような解を自己相似解といいます.

付録:拡散方程式の導出

力尽きたので,読者への宿題とする.

付録:拡散方程式の解析解

ここまで頑張って書いておいてなんですが,
実はこの方程式,特別な場合には解析解が存在します.

\nu = \nu_1(r/r_1)^{\gamma}\qquad (\nu_1 は r=r_1 での \nu)

と仮定すると,

\Sigma_{\rm g} = \frac{C}{3\pi \nu_1 (r/r_1)^{\gamma}} T^{-\frac{5/2-\gamma}{2-\gamma}} \exp\left[ -\frac{(r/r_1)^{2-\gamma}}{T} \right].

ここで,$C$は積分定数,

T = \frac{t}{t_{\rm dif}} +1,\\
t_{\rm dif} = \frac{1}{3(2-\gamma)^2}\frac{r_1^2}{\nu_1}

半径Rより内側の円盤の質量は,

M_{\rm d}(R, t) = \int_0^R 2\pi r \Sigma_{\rm g} {\rm d}r

と書けます.円盤全体の質量は,$R\rightarrow \infty$として求まり,
$\Sigma_{\rm g}$の式を使って頑張って計算すると,
$C$が求まります.

\Sigma_{\rm g} = \frac{M_{\rm d}(0)}{2\pi r_1^2 (r/r_1)^{\gamma}} T^{-\frac{5/2-\gamma}{2-\gamma}} \exp\left[ -\frac{(r/r_1)^{2-\gamma}}{T} \right]

参考文献

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