この記事はちゅらデータ Advent Calendar 2023 22日目の記事です。
導関数を表す記法 $dy/dx$ はあたかも分数のようですが、導関数は分数ではありません。一方で、合成関数の微分では
$$ \frac{dy}{dx} = \frac{dy}{du}\frac{du}{dx} $$
と $dy$ を分子、$dx$ を分母のように扱って計算することが許されています。この式を見ていると、$dy/dx$ を分数として扱うことをどうにか正当化したいという気持ちになってきますね。
微分のおさらい
関数 $y = f(x)$ の入力を変化させてみたときのことを考えてみましょう。入力 $x_0\in \mathrm{dom}(f)$ から正の方向に $\Delta x >0$ だけ動かす、つまり入力が $x_0$ から $x_0 + \Delta x $ に変化したとき、出力の変化 $\Delta y$ は $f(x_0)$ と $f(x_0 + \Delta x)$ の差分
$$ \Delta y = f(x_0 + \Delta x) - f(x_0)$$
となります。入力の変化あたりの出力の変化
$$\frac{\Delta y}{\Delta x} = \frac{f(x_0 + \Delta x) - f(x_0)}{\Delta x}$$
を $f$ の $x_0$ から $x_0 + \Delta x$ までの平均変化率といいます。入力の変化幅 $\Delta x$ についての極限をとった
$$ \frac{dy}{dx}(x_0) = \lim_{\Delta x \rightarrow 0} \frac{f(x_0 + \Delta x) - f(x_0)}{\Delta x}$$
を $f$ の $x_0$ における微分係数といい、入力 $x$ に対し「$x$ における微分係数」を出力する関数
$$\frac{dy}{dx} = \frac{dy}{dx}(x) = \lim_{\Delta x \rightarrow 0} \frac{f(x + \Delta x) - f(x)}{\Delta x}$$
を $f$ の導関数といいます。導関数の $(x)$ は省略されがちです。いつでも導関数が求められるとは限りませんが、関数からこの導関数を求めるのが微分です。
分数扱いすることを正当化したい
導関数は分数のような記法で表されますが、「何かを何かで割ったものの極限」はもはや「何かを何かで割ったもの」として扱えるものではないため、分数ではありません。そのため、微分を教える際に「$dy/dx$ は分数のように表されるが分数ではない」と注意しておく必要があります。しかし冒頭で述べた通り、導関数を $dx$ 分の $dy$ だと思いたくなるような場面もあるのです。
高校数学で習う微分の応用として、「接線の方程式を求める」ことが挙げられます。関数 $y = f(x)$ の点 $\left(a, f(a) \right)$ における接線の方程式は、微分係数を用いて
$$ y - f(a) = \frac{dy}{dx}(a) \left( x - a \right)$$
と表せました。$\mathrm{dy}(a) = y - f(a), \mathrm{dx}(a) = x - a$ とおくと、この方程式は
$$ \mathrm{dy}(a) = \frac{dy}{dx}(a)\ \mathrm{dx}(a) $$
と書き換えられます。$dy$ は $y$ 方向の変化量で、$dx$ は $x$ 方向の変化量というわけです。両辺を $\mathrm{dx}(a)$ で割ることで、
$$\frac{\mathrm{dy}(a)}{\mathrm{dx}(a)} = \frac{dy}{dx}(a)$$
が得られます。$a$ を変数と考えると
$$\frac{\mathrm{dy}}{\mathrm{dx}} = \frac{dy}{dx}$$
となり、導関数を「$x$ 方向の変動」分の「$y$ 方向の変動」で表すことができました。
そもそも定義からして分数ではないので「分数ではない」でよいのですが、結果的に「何かを何かで割ったもの」と考えられるよ、というお話でした。
参考文献
- 高木貞治. 解析概論 改訂第三版, 岩波書店. 1983.