「多様性の科学」
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を読んだので読書メモ。
多様性が必要なのはわかっているが、実際問題として文化的・経験的バックグラウンドが共有できてない人との話ってすり合わせに時間がかかって非効率じゃない?みたいな疑問を解消するために読みました。
第1章 画一的集団の「死角」
9・11事件をCIAが防げなかったのは、当時のCIAはほとんどが白人男性で構成されており著しく多様性に欠けていて、ムスリムの視点が一切なかったのが一因である、という話から多様性の重要性を説いている。
多様性が生産性に直結する例がある。ある調査では、司法業務、保険サービス業務、金融業務において職員の人種的多様性が平均から1標準偏差上がっ ただけで、25%以上生産性が高まったという。
第2章 クローン対反逆者
また人頭税を導入した当時のイギリス政府は同様にほとんどが貴族階級から構成されており、そもそも税を徴収することが困難な人たちがいることに考えが及んでおらず、大変な失敗に終わった、という話など。そのほかいろいろな例。
一つの視点、一つの能力で解決に導けるような問題であれば、多様性は必要ない。しかし多くの視点で広い領域をカバーした方が解決に近づくような問題であれば、多様性はとても重要である。いくら優秀な人が集まっていたとしても、視点が似たり寄ったりであれば相乗効果は見込めない。
ただし人口統計学的な多様性が高くても、認知的多様性にあまり影響を及ぼさない場合がある。例えば製造会社において人種の多様性が生産性の向上に寄与しなかった例がある。多様性は高い集合知を生む要因となるが、それには根拠が必要となり、ただやみくもに多様であればいいと言わけではない。
第3章 不均衡なコミュニケーション
エベレスト大量遭難事件や、1978年の飛行機墜落事件を例に、ヒエラルキーのある環境ではコミュニケーションがうまくいかず、時として致命的な問題を引き起こすという話をしている。両者とも、問題に気が付いていた部下が「上司もきっと同じ問題に気が付いているだろう」と思い込んで問題を報告しなかった結果、死に至ったが、これは上司が高圧的だったからではなくて、ヒエラルキーの存在によって部下が勝手に抑圧的になったから。
ある研究では、地位の高いシニアマネージャーが率いるチームよりも、それほど高くないジュニアマネージャーが率いるチームのほうがプロジェクトの成功率が高かったという結果が出ている。これもリーダーに権威があるというだけで抑圧が発生し、意見が出にくくなるから。ているから。
ヒエラルキーは権威によって発生するだけではなく、例えば会議で1, 2人が主導権を握ると、もうほかの人は発言を控えてしまう。また順番に発言を行うと、発言者は前の人の発言に引っ張られたり真似をしたりすることが多い(情報カスケード)。つまり基本的に会議は機能不全に陥るものであり、何か工夫がない限りは会議という形態でアイデアを集めたり意思決定をするのはやめた方がいい。
第4章 イノベーション
キャリーケースの開発秘話や、当時大企業が集まっていたルート128という地域が廃れ代わりにシリコンバレーが発展した話を例に、イノベーションのためには多様な人との情報交換が必要であるという話をしている。
第5章 エコーチェンバー現象
白人至上主義の集団を例に、狭いコミュニティの中で意見がどんどん偏っていくエコーチェンバー現象の説明をしている。単にほかの人の意見を聞き入れないというだけでなく、他の人の意見を聞いたうえで、それに対して強いヘイトを向けることで逆に自分たちの持論を固めていくのがエコーチェンバー現象の特徴。
第6章 平均値の落とし穴
ダイエットの手法には様々なものがあるが、これは個人差が大きく同じ手法をとっても成功する人と成功しない人がいるからで、その個人差を考慮せずダイエットを続けても結果の出ない人がいるという話から、平均値をとることは時として意味をなさないという話をしている。また1940年代末期の米空軍は非常に事故が多かったが、これはパイロットたちの体格の寸法の平均値からコクピットの設計をした結果それによりすべての人にフィットしないコクピットになっていた(例えば10か所の寸法すべてが平均値に収まった人は4000人超の中で一人もいなかった)のが原因だったという話。
平均、標準化は基本的に役に立つし有効な基準値になるが、個々の値が重要になるケースも多々存在する。例えばすべての人のために標準化されたオフィスより、個々の自由に任せてカスタマイズ可能なオフィスのほうが生産性が高くなる。そういう平均が役に立たないケースに気が付けるようになる必要がある。
第7章 大局を見る
まとめの話。
ポエム
多様性が重要なのは当たり前だが、どのように重要なのかを理論立てて説明してくれるのは純粋に面白かった。チームの人種的な多様性を上げるというのは採用の人にしかできないことだが、そうでなくてもチームメンバーそれぞれの能力や個性を生かす方向で仕事をすることは可能だし、それを意識するべきだと思った。
あと会議は基本的に構造的欠陥を抱えていてうまくいかないので、マジでできる限りやらない方がいいことを学んだ。