1.はじめに
私は普段、IT企業の企画系部門で仕事をしています。以前はアプリケーションエンジニアとして現場に入っていましたので、それなりの開発経験もあります。
これまで、業務に関する学習は当然のことながら、資格試験はIT/非ITに関わらず40以上の合格実績があり、継続的な「学び」についてはそれなりに実践してきたと思っています。
今回、「新人エンジニアにすすめたい勉強法」というアドベントカレンダーがありましたので、過去を振り返りながら「学び」や「勉強法」についての考え方などを、皆さまと共有させていただきたいと思います。どこまで共感いただけるかわかりませんが、皆様の取組みにおいて少しでもお役に立てば幸いです。
2.なぜ学びが必要なのか?
最初に「学び」の必要性について確認します。ここでは、ギャラップ社が提唱する次の方程式をお借りして考えてみたいと思います。
強み = 才能 × 投資
社会人として仕事をするうえでは様々な能力が必要となりますが、その能力を実際の現場で発揮できなければ活躍はできません。そのため、方程式における 「強み」は「常に完璧に近い成果を出す能力」 と定義されています。そして、強みを伸ばすには、「才能」と「投資」という2つの要素が必要となります。これらを順番に確認してみましょう。
才能は「生来の考え方・感覚・行動」 、投資は 「訓練・スキル開発・知識構築にかける時間」とされています。才能は個々人の特性によって概ね決まるものですが、投資はその気さえあれば誰でも取り組むことができる項になります。さらに、投資には「知識構築にかける時間」が含まれているため、「学び」によって強みを伸ばすことができると考えることができます。
このような考え方が、ITエンジニアにとっても重要なことであるのは言うまでもありません。そこで今回の記事では 「学び」に注目し、どのように取り組むべきかを具体的な形で整理していきたいと思います。
3.学びのスキーム(枠組み)
学び・勉強を進めるにあたり、すべてを一気にやりきることは出来ません。そのため、最初に学びのスキームを整理することをお勧めします。
具体的には、以下の4つのスキームに分け、どの分野から着手するかを整理することになります。(このスキームは私が考えたものになります)
それぞれ説明していきます。
① 業務領域
まずは「業務領域」、すなわち現在の業務に直接役立つ領域(知識) についてです。
現在担当している業務を遂行するうえで必須の知識になりますので、これが不足していると「そもそも業務遂行ができず、責務を全うできない」という状態になってしまいます。そのため、最優先で取り組むべき領域となります。
例えば、開発で使っている開発言語やライブラリの知識、現場に適用されている開発プロセスやツールの使い方などが該当します。プロセスやツールなどは世間一般で知られているものだけではなく、現場固有のものも多くあります。
あくまでも実際に使っている範囲になりますので、開発言語の仕様やライブラリを全網羅的に知っている必要はなく、使っていないツールの知識なども範囲外ということになります。
② 業務周辺領域
続いて「業務周辺領域」です。
おそらく多くの方は、「①業務領域」の説明を読んで違和感を感じたと思います。具体的には以下の部分です。
開発言語の仕様やライブラリを全網羅的に知っている必要はなく、使っていないツールの知識なども範囲外
確かに「現在」の業務では不要かもしれませんが、「この先」の業務では必要になるかもしれません。あるいは、「当然知っているよね」という勝手な認識をされ、急に要求される可能性も考えられます。この要求に対応できない場合、従来の領域に押し込まれて二度とチャンスはこない、ということも想定されます(実際よくあります)。つまり、この領域はあなたにとって「放置できないのびしろ部分」といえます。
この先、新たな業務に携わる場面は多々あるでしょう。そこで、 「やったことがないので出来ません」「知らないので教えてください」では話になりません。「仕事ができる人」と認識されるには、業務周辺領域に「あらかじめ、どれだけ手をつられたか」が大きく影響します。
そのため、 「今は必要ないけれどきっと必要になるだろう」という領域を自分なりに探求し、積極的に取り組んでいくことが大切です。「こういう領域をやっていきたい」という思いでも良いですし、むしろその方がモチベーションにつながります。
③ 間接領域
3つめは、「間接領域」です。
この言葉だけでは少々わかりにくいところですが、エンジニアとしてだけではなく社会人あるいはビジネスパーソンとして必要な領域となります。
一般的に、エンジニアは特定領域の専門家という位置づけになりますが、社会人という括りでは特定領域以外の知識も当然必要になってきます。これから先の長いキャリアを考えれば、エンジニアとしてだけではなく、マネジメントや経営側にまわる可能性も十分にあるわけです。
仮にエンジニアとしての専門性を継続し全うするにしても、立場や責任範囲が変われば、身に着けるべき知識やスキルの幅も変わってきます。
間接領域の中身は人によって様々ではありますが、例えばビジネス会計や組織論などがこれに該当します。会社の収益を正しく認識し、貢献していくためには会計の知識がある程度は必要になりますし、組織を動かす(いわゆる、労使の「使」側にまわる)場合は、組織論のような知識も要求されます。仮にそのようなポジションに抜擢されたとしても、最初は試用期間にあたりますので、知らない・できないということが露見すると、「素養なし」の烙印を押されるのは時間の問題となります。
新人エンジニアにとってはまだまだ先の話になるかもしれませんが、こうした領域についても勉強が必要になるということは、できるだけ早い段階で認識しておいたほうがよいと思います。もし早期に着手することができれば視座が高まりますし、得られた知識を現場で活用することができれば、同期・同僚よりも頭一つ抜きんでることが十分に可能となります。ちょっとした場面でも、上司などに「こいつわかってるな」と思わせられれば、キャリアが良い方向に向かっていく可能性も高まるでしょう。(これは「キャリアの計画的偶発性理論」でも説明されます、興味ある方は調べてみてください)
④ その他の領域
最後は「その他の領域」です。
ここまでくると、普段の業務にはほとんど、あるいはまったくと言っていいほど関係ない領域になってきますが、「より良い人生」のためには必要不可欠な領域であると私自身は感じています。
より良い人生というのは、 「キャリア」や「Well-being」といったキーワードで説明することができます。
キャリアは一般的に「仕事に関するもの」と思われがちですが、実は仕事だけでなく、プライベートも含めた概念とされています。たとえば「プライベートは楽しいけど、仕事はトラブルだらけ」という状態で「幸せな良い人生である」と感じることはできないでしょう。逆もまた然りです。Well-beingについても同じようなもので、より良い人生を歩むためには重要な視点となります。
さて、「その他の領域」の話に戻りますが、より良い人生にするためには、様々な事柄に興味を持ち、多くの刺激を受け、自らの活動にフィードバックする、というサイクルは必要不可欠であると考えます。
私事で恐縮ですが、現在「漢字検定 準1級」を勉強しています(2級までは合格済みです)。この中で、これまで知らなかった新しい漢字や語句を学ぶことで、新しい概念を知ることができますし、言葉からは「かつての文化」を感じることもできます。また、検定試験では四字熟語や故事成語なども出題されますので、それらの意味を調べる中で新たな学びや気づきが多くあります。これは私のキャリアにおけるひとつのヒントになりますし、新たな価値観が形成されることで、プライベートだけでなく仕事にも活かすことができると感じています。
「その他の領域」の優先度は低くなりがちですが、とても大切にしたい領域です。
自分には関係ないと思わず、是非一度、目を向け考えてみてください。
4.知識と知見
ここまで、「知識」という言葉を何度か使ってきましたが、「知識」と「知見」の違いはご存じでしょうか?
定義は様々ありますが、ここでは次のように整理をします。
- 知識 : ある事柄について、知っている内容や情報のこと
- 知見 : 実際の体験や経験を通して得た知識のこと
知識は単に知っているだけの状態と言えますが、知見はそれに体験や経験が加わるため、実際の活用場面に少なくとも一度は遭遇したことがあるということになります。この違いはかなり大きなものです。
仕事においては、知識を使って業務のレベルや能率を上げていくことが重要な活動となりますが、実は知識だけではなかなか実践することが難しく、仕事を通じて知識を知見化していくことが重要となります。
とはいえ、そもそもベーシックな知識がなければ知見に変えることはできませんし、知識という前提情報がなければ見過ごしてしまうことも多く出てくるでしょう。何事も断片的なモノの見方はよろしくありません。常にMECE(※)なモノの見方ができれば、さまざまな可能性を考慮したうえで、不要な情報は理屈をもって打ち消すことができます。これはレベルや能率をあげることに、とても役立ちます。そしてこのプロセスはさまざまな場面で、それこそ一生役立つスキルだと思います。
※MECE:Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive、「モレなくダブリなく」という意味。
また、知識から知見への一方通行だけではなく、知見から知識へのフィードバックも発生します。現場での気づきが知識として補完され、それがまた新たな知見につながるというループが生まれます。
このようにして身に着けた知識・知見を活用し、「知ってるやつ」と思わせることができれば、興味ある仕事が自然とやってくることもありますし、「知ってるやつに陳腐な仕事はさせられない」という意識が周囲に生まれ、面倒な仕事(いわゆるブルシット・ジョブ)がまわってこなくなります。このような環境になればしめたもので、より高度な知識・知見を身に着ける時間がさらに生まれ、より高度な人材になるというポジティブなループが加速されます。嘘のような本当の話です。
5.新人時代に教わったこと・学んでおきたいこと
ここでは、私自身がエンジニアとして新人時代に教わったこと、学んでおきたいことを共有したいと思います。
5-1.教わったこと~エンジニアの基本戦略
私が新人エンジニアのころ、当時所属していた会社の社長から教わったことがあります。
「まずはテクニカル・スキル、マネジメント・スキル、そしてストラテジ・スキルを順に身に着けなさい」というものです。
当時、業界未経験だった私はそれを堅実に受け止め、エンジニアとしての使命であると考え、身に着けるための取組みを始めました。そして、その会社では情報処理技術者試験への取組みが推進されていましたので、当時業務で使っていたJavaの試験と並行して情報処理試験の学習を開始しました。
この社長の言葉は、私の基本的な価値観となっていますし、この言葉は正しいと感じています。
因みに、情報処理試験はまだ全区分合格が達成出来ていませんが(高度試験はあと1区分!)、いまだに継続的に取り組んでいます。エンジニアの基礎スキルは時代によってそれほど大きく変わるものではありませんので、とても役立つ知識になります。そのため、まず学ぶべきことは何かと問われれば、「情報処理技術者試験」と答えています。
5-2.学んでおきたいこと
ということで、新人エンジニアとして学んでおきたいことを改めて考えてみました。
私なりの答えは以下の4つです。
a.開発言語
b.情報処理技術者試験
c.開発方法論(メソドロジ)
d.クラウド(AWS)
順番に見ていきます。
a.開発言語
エンジニアとして業務遂行する際の「1-1」(最初のステージ)にあたります。言語仕様をしっかり理解していきましょう。とはいえ、ドキュメントばかりを眺めていても仕方がないので、資格試験をベースに取り組むことをお勧めします。
たとえばJavaであればOracleの認定試験(Bronze、Silver、Gold)でしょう。
Pythonであれば、Python3 エンジニア認定 基礎試験/実践試験/データ分析試験があります。
資格試験がないものは、市販の入門書籍ベースで問題ありません。しっかり学んでいきましょう!
b.情報処理技術者試験
エンジニアの学習教材としては、情報処理技術者試験が最も活用しやすいと思います。受験者数は全国的に非常に多いですし、その分教材も充実しています。また、国家試験として推進されているため内容は網羅的であり、とても有用です。いまや必須のセキュリティに関する問題も多く取り入れられていますし、高度試験の論述問題では昨今の流行も積極的に取り入れられています。過去問を解くだけでもさまざまな気づきがあるでしょう。
何よりも、国をあげてのエンジニア育成の取組みであることは特筆すべき事項です。国が推進するということは、それに反応する企業も多く存在するというのは事実としてあり、ベクトルを合わせて取り組まない手はありません。(PM本で有名なみよちゃんこと三好康之さんに教わりました)
ここで情報処理技術者試験の目的を確認しておきましょう。HPからの引用です。
引用:https://www.jitec.ipa.go.jp/1_08gaiyou/_index_gaiyou.html
1.情報処理技術者に目標を示し、刺激を与えることによって、その技術の向上に資すること。
2.情報処理技術者として備えるべき能力についての水準を示すことにより、学校教育、職業教育、企業内教育等における教育の水準の確保に資すること。
3.情報技術を利用する企業、官庁などが情報処理技術者の採用を行う際に役立つよう客観的な評価の尺度を提供し、これを通じて情報処理技術者の社会的地位の確立を図ること。
ポイントは、エンジニアとして必要な水準が明確に示されているため、合格によって知識の保有を客観的に証明することができる、ということです。これはそのまま評価につながります。この手の試験は、ついつい試験の具体的な内容(問題)に目が行きがちですが、学習スキームの検討においては試験のシラバスがとても役立ちます。この件については後述します。
c.開発方法論(メソドロジ)
開発を高度な形で進めていくためには開発言語の知識はもちろんのこと、プロセスの理解もそれと同じくらい必要であり重要です。そしてプロセスは、開発方法論(メソドロジ) として知識化されています。
エンジニア/プログラマーは、高度なソースコードをバリバリ書く人の方が重宝されると思われがちですが、実際の現場ではプロセスの基本的な考え方を踏襲しつつ、可読性の高い実装をしてくれる人の方が有難い存在になります。もちろんバリバリ高度なプログラマーが必要な場面もありますが、それを目指すのは基本をきっちり抑えてからでも遅くはないでしょう。
プロセスについて、まずは一般的な開発手法(用語)の知識として 「共通フレーム」を学ぶことをお勧めします。経験の少ない新人ですと、何が一般的なもので何がプロジェクト固有のもの(独自文化、方言)なのか、なかなか判断が付きません。その現場だけで仕事をするのであればまだしも、実際はそうもいきませんし、外部のベンダーやパートナーと会話することもあるでしょう。そこで方言しか知らないと恥をかくことになりますし、なめられてしまいますので、基本をしっかり抑えておきましょう。
プロジェクト・マネジメントの領域では、 「PMBOK」は外せません。上記同様に、プロジェクト管理の常識を知っておきましょう。(情報処理でも問われますよ!)
「当たり前」を知ることによって知識を強化することができます。また、デファクトスタンダード(標準)な方法論は成熟度が高いため、得てして「よくできている」ものです。現場や企業によってプロセスは様々ですが、それが 「成熟度の高い妥当なプロセス」なのか、「誰かの思い付きでそうなっているだけのプロセス」なのかを見極める能力は重要です(後者を放置すると危険なこともあります)。必ずしも標準にとらわれる必要はありませんが、標準を知ってから応用していくという順序を心がけましょう。
d.クラウド(AWS)
時代が移り変わり、いつの間にか外すことのできないスキルのひとつになりました。
クラウドが出始めたころは「オンプレをまとめただけ」とか「セキュリティに懸念がある」として敬遠されていましたが、今ではすっかり当たり前の存在です。
勉強においては、シェアが1位のAWSを学ぶことをお勧めします。私もAWS、Azureと基礎レベルの学習を行ってきましたが、競合ゆえにサービス内容も似ているので、まずはAWSから学ぶとよいでしょう。なんといっても資格試験や試験のための教材が充実していますので、学習しやすいこと間違いなしです。
これからの時代の必須スキルとなりますので、現業での扱いがなかったとしても、積極的に知識を身に着けておきましょう。今どきの提案依頼書には、「クラウド」の文字列が必ずと言っていいほど入っています。
5-3.+αで学んでおきたいこと
資格・検定試験ベースの話題になりますが、比較的最近に取得した資格試験で有用だと感じたもの(情報処理以外)は、G検定・E資格、DX検定です。
G検定・E資格は、日本ディープラーニング協会が主催している試験で、いわゆるAIに関するエンジニアとしての知識を身に着け育成することを目的としています。実務で扱っていないにしても、G検定で基本的な用語の理解くらいはしておきたいところです。E資格はより高度なものとなりますので、AI関係の開発に携わる可能性がある、あるいはデータサイエンティストを目指したいといった場合に受験を検討されるとよいと思います。
DX検定は、IT技術やビジネストレンドに関するバズワードの知識を問うものです。業務に関わるものも含め、知っているようで良く知らないワードは沢山あると思います。それらを学ぶ機会として活用することができます。
6.学習スキームの整理
ここで、冒頭に説明した学習スキームの整理方法を見ていきたいと思います。
各領域に対して具体的に何をセットするかは、個々人によって異なってきます。普段の業務で関わっているもの(①業務領域)であれば迷わずセットできますが、それ以外の領域(②業務周辺領域~)は、特に新人にとっては、何をセットすべきかを考えるのは簡単ではありません。
そこで役立つのが、先にも触れた「情報処理技術者試験」の「シラバス」 です。情報処理試験の目的でも確認しましたが、この試験では「エンジニアとして必要な水準」が具体化されています。そして、それを文書で表現したものがこのシラバスということになります。
例えば「応用情報技術者試験」のシラバスをのぞいてみると、テクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系(まさに社長から教わったとおり!)に分かれており、それぞれかなりの量で細分化されています。
試しに大分類9を見ると、先ほどあげていた組織論や会計といったキーワードも見つかりました。う~ん、よくできてます。
大分類9:企業と法務
中分類22:企業活動
1. 経営・組織論
2. OR・IE
3. 会計・財務
シラバスはこちらにありますので、是非一度目を通してみてください。
こういった情報からヒントを得て「②業務周辺領域」をセットしてみましょう。 「③間接領域」、「④その他領域」の2つは急いでセットする必要はありません。勉強をする中で気になる領域が出てきたら少し深掘りをしてみてください。そこで、 「役立ちそう」「面白そう」と感じたらセットしてみるのが良いと思います。焦る必要はありません!
7.究極の勉強方法
ここまで、「学習スキーム」や「知識」の重要性について説明をしてきました。では、肝心要の「知識」を獲得するためには、どのような勉強法が最適と言えるでしょうか。
ここからは、私が実践している「究極の勉強法」をご紹介していきたいと思います。仕事がどんなに忙しくてもこの方法であればバッチリ勉強できます!!(と、私は思っているので風呂敷をブアッ!と拡げてみました)
因みに、資格試験に特化した勉強法の話題については、以前の記事にもまとめていますので、こちらも参考にしてください。
7-1.知識は記憶である
「知識」という言葉には多岐解釈性(人や場面によって意味が異なる)がありますが、今回は「ある事柄について、知っている内容や情報のこと」という整理をしました。
これをもう一歩掘り下げて考えてみると、知識は単なる「記憶」 とも言えます。そして役立つ記憶というのは、うろ覚えでなく「いつでも必要な情報を正しく引き出すことができる状態」となります。
この、「いつでも引き出せる状態」を実現するためには、脳の特性をよく理解したうえで学習を進める方が効率的です。少なくともここでは、 「記憶」と「引き出す」ことが基本、ということをまずはおさえておきましょう。
7-2.脳の特性を知る
記憶するという作業は、いつまでたっても大変なものです。よほどの特殊能力(例えばギフテッドと呼ばれる方たちは、瞬間記憶能力を有しているそうですが)でもなければ、そうそう簡単に覚えることはできません。 脳は生物における器官のひとつ であるため、力任せに覚えようとしても、そうはいきません。自然には自然の摂理があります。そこで、脳の特性をうまく活用し記憶すること、すなわち 「記憶術」について考えてみます。これは決して疑似科学ではありません。
具体的な方法に入る前に、4つの予備知識「エビングハウスの忘却曲線」、「記憶の貯蔵モデル」、「感覚の組み合わせ」、「記憶が整理される時間」について説明します。
7-2-1.エビングハウス忘却曲線
最初に知っておきたいのは、記憶の特性に関する「エビングハウス忘却曲線」です。
詳しくはWikipediaを直接参照いただくのがよいと思いますが、簡単に説明すると「できるだけ短い時間の間隔で再学習をした方が、記憶の定着率が高く労力も小さくて済む」ということになります。
画像引用:Wikipedia 忘却曲線
そうはいっても、10分や1時間単位で同じ学習を繰り返すのは現実的ではありませんので、短くても1日単位の繰り返しであると認識いただいて問題ありません。
7-2-2.記憶の貯蔵モデル
そもそも記憶というのは、脳内でどのように扱われるのでしょうか。
この疑問をモデル化したのが「記憶の貯蔵モデル」です。
情報は、感覚器を通じて入力されると「感覚記憶(感覚レジスター)」に一時的に保存されます。ここでの保持時間は非常に短く、数百ミリ秒から数秒程度とされています。より長い時間、記憶にとどめるためには短期記憶に情報を転送する必要があります。ここでの転送条件は「その情報に注意が向けられていること」 です。
短期記憶における情報の保持時間は1分程度です。この情報の中から、より重要だと判断されると、その情報は長期記憶に転送されます。ここまで到達することができれば、情報を長期的に保持する「記憶」になります。
長期記憶に転送されるためのポイントは、忘却曲線で確認したように 「繰り返し学習すること」になります。人間は生物として生き残るために記憶を保持し活用しています。生き残りをかけた生活の中では、重要な情報が繰り返しインプットされ、長期記憶に定着することになります。つまり、情報を繰り返し入力しさえすれば、それ以上の努力をしなくても、自然と脳に保持される、と考えることができます。脳は我々が思っているよりも、とても優秀な器官なのです。
7-2-3.感覚の組み合わせ
長期記憶に転送するためには感覚との組み合わせも有効です。
具体的には 「音声」「香り」「手」 が有効とされています。
音声は、たとえば動画の音声として耳で聞いたり、自ら発する音声などが該当します。自ら声を発する場合は耳栓をするのも有効だとされています。その理由は、自分の声が骨伝導によって響くため、集中力が増すためと言われています。
香りはそのまま、嗅覚による刺激です。香りそのものを勉強内容に結びつけることはできませんが、集中力を高めるための環境作りとしてアロマを利用する、というのはよく聞く話です。
手は、よく 「身体を使って覚える」と言われているものです。漢字の書き取り練習などをイメージいただけると良いと思います。なかなか覚えられないものが出てきたら、手を使って書く、というのもシンプルながら良い方法と言えます。
また別の話として、その時々の出来事に関連づいた記憶として「エピソード記憶」というものがあります。環境や時間・空間、文脈に関連づいた記憶です。これもまた長期記憶に転送されるひとつの要因となります。
7-2-4.記憶が整理される時間
記憶が整理される時間、それはズバリ「睡眠時間」です。
多くの方が認識されている事実だと思いますが、十分な睡眠は疲れを取り除くだけではなく、記憶の整理が行われる時間でもあります。しっかりと学習を行った後は、十分な睡眠時間を確保しましょう。
私個人としても、この理屈はとても腹落ちしています。特に漢字検定で実感しました。初めて見た漢字やその読み方は、同じ日のうちに繰り返しても「何だっけ?」となりがちなのですが、しっかり睡眠をとった次の日になると、不思議なことに自然と記憶が蘇り、スラスラと読み書きできてしまうことがあります。これは意識の問題ではなく、脳の機能のおかげであるということがよくわかりました。やはり脳は優秀ば器官なのです。
それからもうひとつ、勉強した日の飲酒は避けましょう。トレーニングをしても記憶整理がままならなければ、記憶として定着することはありません。お酒は記憶整理を疎外する要因になります。せっかくの努力が台無しになるため気を付けましょう。(毎日勉強すれば、断酒も簡単です!・・・たぶん)
7-3.脳の特性を活かした勉強法
ここで、脳の特性を活かした勉強法のポイントを改めて整理します。
- 学習を繰り返すこと(1日単位)
- 音声などの感覚を組み合わせること
- 睡眠を十分にとること
- 記憶を引き出す練習をすること
そして、これらを効率よく学習するため、最初に2つのことを行います。
- 適切な教材を選択すること
- 計画を作ること
教材は、学習対象の知識が網羅されていることが最低条件です。大概の資格試験のテキストは、その点に問題はありません(試験範囲にしたがって編成されているわけですから)。一方で入門書のような書籍などは注意が必要です。知りたい範囲が十分に載っているかは気を付けて確認しなければなりません。
それからも一つ、感覚を組み合わせた学習においては、動画による学習コンテンツもかなり有効です。Udemyがこれにバッチリ該当します。経験豊かな講師陣による知識の整理および講義、音声によるインプット、繰り返し学習が可能な形態などなど、記憶術の活用において適切なコンテンツと言えます。
計画については、1日単位で取り組む範囲を明確にし、あらかじめ定めた間隔で繰り返し復習できるようにします。繰り返し回数は経験的に、最低3回、できれば5回程度が良いです。
私の場合、たとえば以下のようなスケジュール表を作成し、実践しています。
これは、「マーケティング検定2級」の計画書です。使っている公式問題集は、各項目が問題1問+解説数ページ の構成になっているため、繰り返し学習の計画にはもってこいでした。1・2回目はざっくり読んで、3・4回目でじっくり読み、5回目で最終確認を行います。これを1日単位でずらして実践していきます。さすがに5回目にもなると「もう知っとるわ」という状態になるのですが、それだけ記憶にガッチリ定着している証拠でもあります。3~5回目は1日ごとではなく、2~5日ほど間をあけて再学習する方法もありますので、自分にあった間隔を見つけられると良いと思います。
上記例ではテキストの章立てのみをマッピングしましたが、動画コンテンツの番号などを併記し、あわせて学習に組み込むようにしましょう。
ここで、まだ説明をしていなかった5回目に記載している「1分ライティング」について説明します。以下の書籍で紹介されている方法でもあります。
先ほど確認したように、記憶は脳に定着させるだけでなく「引き出す」ことも必要です。問題集があればそれを使って引き出す訓練をすることもできますが、1分という時間の間に記憶していることをすべて書き出すという方法も、また引き出すための訓練になります。ぜひ一度試してみてください。
8.情報処理技術者試験での例
ここまでの整理を踏まえ、応用情報技術者試験を想定した具体的な取組み方法を考えてみたいと思います。
最終的には計画に落としていく必要がありますが、まずは教材を探していきます。
知識を網羅的に身に着けるために、まずはテキストを一冊購入しましょう。私はいつも翔泳社のテキストを使っていますので、今回もこれにします。(翔泳社の回し者ではございません)
続いて、Udemyから動画コンテンツを探します。
こちらがよさそうです。
この動画をピックアップした理由は、知識が網羅されていることに加え、動画が数分単位の細切れになっていることです。
いくつかピックアップしてみると、以下のようになっています。
トピック | 時間 |
---|---|
ウォーターフォールモデル1 | 07:22 |
ウォーターフォールモデル2 | 10:10 |
アジャイル開発1 | 06:27 |
アジャイル開発2(テスト駆動開発の実例) | 06:14 |
すばらしい時間設定です。
先ほど計画の例を掲載しましたが、毎日繰り返しながら進めていくことになるため、ひとつひとつの分量は適切であることが求められます。このコンテンツのように動画が数分単位で構成されていると、計画がとてもしやすくなります。テキストと動画の内容をマッピングし、1日でこなせる分量に調整したうえで、計画に並べていけば完成です。
ついで話ですが、「マイクロラーニング」はご存じでしょうか?
5分程度の動画を使ってスキマ時間に学習する方法のことです。これはスキマ時間を有効に使うというのが主目的ではありますが、繰り返し学習にも最適な構成と言えます。Udemyで教材を探す場合は、この観点でも確認してみてください。
9.Udemyおすすめ講座
これまでご紹介してきた分野に関し、おすすめのUdemy講座をピックアップしてみましたので、ご参考にしてください。
9-1.情報処理技術者試験
令和5年版:現役講師が教える【基本情報技術者試験 科目A】講座
先ほどは応用情報をピックアップしたので、ここでは基本情報技術者試験です。
同じ講師の方ですが、内容・構成ともに秀逸だと思います。おすすめです!
9-2.AWS
【2022年版】これだけでOK! AWS認定クラウドプラクティショナー試験突破講座(豊富な試験問題290問付き)
AWSの勉強は、クラウドプラクティショナー試験からはじめることになります。最初は聞きなれない言葉が多いとは思いますが、繰り返し学習しながら概念や具体的な機能をきっちり覚えるようにしましょう。
ピックアップした講座は一部で20分ほどの長さの動画もありますが、ほとんどが10分以内なのでとても活用しやすい構成です。網羅性についても問題ありませんので、おすすめです。
9-3.G検定
【試験対策から本質の理解まで、知識をまとめて身に付けよう!】G検定対策講座
G検定をベースにしているため知識の網羅性は十分でしょう。さらに、各動画の時間も概ね10分以内に収まっているのでとても計画しやすい構成です。
考え方などをひとつずつ丁寧に解説していただけてますので、繰り返し視聴することで単に記憶するだけでなく十分な理解も可能です。
9-4.ビジネス会計
冒頭の話では「間接領域」の例としてあげたビジネス会計に関する講座です。
会計はそれだけでメシが食えるほど深掘りしはじめるとキリがない分野ではありますが、ビジネスを遂行するうえでは、決算書、いわゆる財務3表を理解していればまずは問題ありません。
そこで以下の講座です。
【売れ筋講座TOP5選出!】いちばんわかりやすい決算書の読み方講座
決算ベースで財務3表を網羅的に説明されていますので、 「まずはどんなものか理解しておこう」というファーストステップにおすすめです。こういった分野は先にも説明したように、今現在では使わなくとも、早期に着手しておいた方が有利なスキルになるものです。講座の説明に書かれていますが、 「IT」×「会計」のように分野を組合わせた知識を持つことができれば大きな強みにもなります。講座を受けて「面白いな」と感じたら深掘りしてみてください。
9-5.組織論
組織論はひとつの立派な学問ですが、最初の段階でアカデミックなアプローチをすることはおすすめしません。学んだことを(知識)を現場で活かす(知見)ためには経験が必要になるため、普段の業務の中で疑問を持ち始めてから深掘りする方が効果的な側面もあります。
そこで以下の講座をおすすめします。
このリーダーについていきたいと思われる!「リーダーシップセオリー」入門講座
組織論の中ではリーダーシップや部下のモチベーション・コントロールの話題が出てきます。組織論ではこれらが学術的に整理されているわけですが、その前にこれらの重要性をわかりやすい形で理解することが大切です。まずはこれでリーダーシップが何たるかを学んでみましょう、きっとあなたのキャリアに役立つはずです!
10.さいごに
今回、勉強法をご紹介させていただきましたが、私自身はこの方法での学習に切り替えたことで、従来のやり方(漠然とテキストをこなしていく)よりも、間違いなく成果が出ていると感じます。記憶するのは苦手なタイプだと思っていましたが、単にやり方が間違っていただけだということが良くわかりました。この経験を踏まえて、こども(小学生2人)でも試しているのですが、十分な効果が出ているように感じます。計画はこちらで作成し、毎日その通りにやってもらっているだけです。
新人エンジニアは、これから先のキャリアを具体的に描くのはまだまだ難しい段階にあると思いますが、コアなスキルをしっかりと強化しておけば、その先の可能性はどんどん拡がっていくポジションだと思います。せっかくのチャンスがあっても、自分に回ってこないという場面はとても悔しいものです。そのようにならないためにも、先回りして勉強しておくことはとても大切です。今回ご紹介した学習スキームや勉強法はあくまでもご参考ですが、だまされたと思って一度実践してみてください。きっと、あなたのキャリアにおける強力な武器を作る事に役立つと思いますし、そレが実現されることを願っております。
※挿絵画像は「てがきですのβ」さんからお借りしました、ありがとうございます。
以上です、さいごまでお読みいただき、ありがとうございました!!