#はじめに
先日、Googleから量子超越を実証したという論文がnatureに掲載され、関連して応用利用への期待や暗号化基盤の危機について取り上げられることが多くなりました。これを機会に量子コンピュータについて勉強してみようという方も多いかと思います。
私は約1年前から量子コンピュータに関する某研究会に参加しており、通常業務の傍ら量子コンピュータの理解を少しずつ進めてきました。その中でいろいろな書籍等を見てきましたので、どのような順序で読めばわかりやすいかを紹介したいと思います。
学習の一助になれば幸いです。
#対象者
まずは量子コンピュータとはなんぞや、ということを知りたいという方が対象です。
あくまでも入門レベルになります。
#書籍等紹介
- 上記の学習ロードマップに記載した要素をひとつずつご紹介します。
- 書籍、文献、Webが混ざっています。
- ロードマップの番号と関連付けて記載します。
- 書籍はAmazon、文献・WebはそれぞれのURLにリンクさせておきます。
【注意事項】
書籍の内容等については個人の主観により書かせてもらっていますので、購入検討の際にはAmazonレビュー等も参考にしてみてください。
##① 図解 量子論がみるみるわかる本
- 量子論の歴史を踏まえ、近年の状況までが平易に解説されている。
- 宇宙物理学者として著名な佐藤勝彦氏による監修のため、信頼性は高い。
- リーズナブルな価格で、量子論初心者の最初の一冊に最適。
- 量子コンピュータについては数ページ触れる程度。
##② 図解入門 よくわかる 最新 量子コンピュータの基本と仕組み
- 2018年9月発売で、その時期においては比較的新しい情報が掲載されている。
- 量子コンピュータ全般の話題に触れられており、比較的平易(数式なし)な説明がされているため、初心者でもとっつきやすい。
- 量子ゲート方式の大局的な話だけではなく、実現方式のイオントラップや量子アニーリング方式など様々な情報がある。
- 各社、各国の戦略について整理されており、量子コンピュータにおける現状の全体感がわかりやすい。
- MDR社のCEOである湊雄一郎氏による著。
- 概念説明からBlueqatでの実装まで幅広くかつ丁寧に説明されており、非常にわかりやすく理解がしやすい。
- 現場でご活躍されているだけあってか、比喩表現が腹落ちしやすいと感じる。
##④ 量子コンピュータが変える未来
- デンソー社の寺部氏と東北大学の大関氏のタッグによる著。
- 量子コンピュータ全般の話題もあるが、量子アニーリング方式が主。
- 比喩表現は他の書籍と比べると少々わかりづらいと感じるが、量子アニーリング(イジングモデル)については理解しやすい。
- 現時点では、日本国内における量子コンピュータの取組みは量子アニーリング方式が多くあり、各企業の事例が紹介されている点は有用性の高い内容だと感じる。
- 但し、時間が経てば陳腐化する内容であるため、購入時期によっては注意が必要かもしれない。
- PDFファイルで公開されている。
- 文部科学省所管の国立研究会開発法人科学技術振興機構による作成であり、信頼性は非常に高い。
- 2018年12月の発行で、当時の最新の技術動向・全体感がよく把握できる。
- 研究開発の意義や課題、推進方法などが記述されており、全体感がとてもわかりやすい。
- Qunasys社が運営するQmediaのWeb記事。
- 量子コンピュータの解説などでよくみられる「文句」に対し、「それは誤解である」と切り込む内容。
- 「なるほど」と感じる記述が多く、非常に興味深い。
- 概念レベルで理解を進めた後、必ず目を通していただきたいと感じる。
##⑦ 量子コンピュータ 超並列計算のからくり (ブルーバックス)
- 数式が出てくるため、概念からもう少し突っ込んだ内容である。
- アルゴリズムの概念説明などがあり、数式だけでの理解よりはわかりやすい。
- ②③と比較すると、より難しい内容であると感じる。
##⑧ 量子コンピュータ入門(第2版)
- 概念説明はあるが、数式での理解ができる(そちらの方がしやすい)内容である。
- 計算の途中式が省略されていることがあるため数学初心者にはつらいが、「クラウド量子計算入門」と合わせて参照するとわかりやすい。
- 概念的にわかりづらい部分は他の書籍やWeb「EMANの物理学」などを合わせて参照することで理解を深めることができると感じる。
##⑨ EMANの物理学 量子力学
- 個人で運営されているWebサイト。
- 量子力学を基軸に量子論の概念から各種数式まで幅広く取り扱われている。
- 特に「ブロッホ球」は数式を交え、比較的わかりやすい解説がされており、よく参照させていただいた。
- 量子コンピュータや量子ゲートに関する解説もあり、書籍と合わせて参照すると理解を深めるのに役立つ。
##⑩ クラウド量子計算入門―IBMの量子シミュレーションと量子コンピュータ
- 「IBM Q Experience」による量子実験を主に書かれている。
- 各種のゲート操作やアルゴリズムが丁寧に解説されており、「IBM Q を実際に使ってみる」という段階では非常にわかりやすい。
- この書籍だけでの概念理解はしづらいため、他の書籍による事前学習を行っておいた方がよい。
##⑪ 「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界
- 相対性理論について平易に解説された内容。
- 量子論が微視的であれば、相対性理論は巨視的なものであるということを理解できる。
- 監修は「量子論がみるみるわかる本」と同じ佐藤勝彦氏であり、信頼性は高い。
- 「量子論とは相容れない」とされているが、量子分野に興味が持てる方は知っておいて損のない内容だと感じる。
- 私自身はとても楽しみながら興味深く読むことができた。
#その他
ロードマップに掲載しなかった書籍をご紹介。
##日経ビジネス2018.7.16 ついに来た!量子コンピューター
- 特集記事のため、ページ数は20ページ弱しかない。
- 「超高速のカラクリ」と題し、量子コンピュータの計算のしくみが平易に解説されている。
- Google、IBM各社の量子コンピュータの戦略が解説されている。
##Interface(インターフェース) 2019年 03 月号
- 量子コンピュータの説明を数式なしで試みており、独自性のある内容だと感じる。
- 量子ビットを電子工作やC言語でシミュレーションするなど、他の書籍には見られない斬新な取組みがされており、「実際に試してみる」という点では充実した内容。
- その分、全員におすすめというよりは、「ハマる人はハマる」という内容かもしれない。
#おわりに
量子に関してはド素人の私でしたが、1年を経てなんとか社内での説明や簡単な質問(概念レベル)への回答ができるようになりました。
量子の世界は直感的な理解ができない摩訶不思議な世界なので、いかに自分なりに腹落ちさせるかがポイントになります。そのためには、1冊の本を読むのではなく、複数の書籍やWebサイトをあさっていろいろな表現・比喩を見る中で自分なりの理解をすることが大切だと思います。最初は「?」が多いと思いますが、根気よく学習してみてください。きっと量子コンピュータの魅力にはまっていくと思います。