AI Coding Agentの7月の動向
AI Coding.Infoというサイトを公開しました。
これは、Claude CodeやGemini、あるいはCodexなど、AI Coding Agentに関する利用動向をGithubのリポジトリの情報から定点観測するサイトです。
AI Coding Agentの利用の判定として、以下のような条件で毎日調査を行っています。
- プログラミング言語30種類のGithub上でのスター数の多い公開リポジトリTOP 100
- AI Coding Agent 16種類
- 各種AI Coding Agentの利用するルールファイルがGithubリポジトリにある場合のみ、AI Coding Agentを利用していると判断
AI Coding Agentの利用率は2.9%
AI Coding Agentの利用率は2.9%です。 これは3,000件のリポジトリを調査した結果、AI Coding Agentの利用形跡が見られたリポジトリの割合です。全体からすれば少ない割合だといえます。
これには複数の要因があります。1つはこの調査はGithubのスター数Top100からの調査です。そのため、「Githubのスター数Top100の利用状況」が「世界のAI Coding Agentの利用状況を表している」といえるか。という問題があります。また、これはあくまでパブリックなリポジトリをもとにしているため、現在の企業の利用実態とは乖離があると考えられます。どちらかというとOSSでの採用状況を表している。とも言えます。
また、仕組み上の問題として、CLAUDE.mdやGEMINI.mdなどのルールファイルが存在しなければ、利用しているかどうかは外形的に判断できない。という問題もあります。そのため、「Claude Codeを利用していても、CLAUDE.mdファイルを作成していない」というリポジトリは、「Claude Codeを利用していない」という判定になります。
AI Coding Agentのプロダクト別のシェア
一番利用されているプロダクトは「Cursor」、次に「Claude Code」、3番目に「Copilot Agent」(Github Copilot)が並びます。 Gemini CLIが6/25発表であったことを考えると、ほぼ1か月で4位の座にいるということは、かなり浸透しているといえるかもしれません。しかし、一方で、Gemini CLIはCursorの1/3程度しか利用リポジトリがないとも言えます。
プログラミング言語別のAI Coding Agent利用状況
一番AI Coding Agentが利用されているプログラミング言語は「Typescript」、2番目が「Python」、「Rust」 です。
TypeScriptに関しては、AI Coding AgentはGithub CopilotなどのVS Code拡張から始まったと思われるので、そこから考えると、ある程度、納得のいく結果かと思います。また、PythonもDeepLearningをはじめとするML系との親和性が高いことを考えると、それほど不思議な結果ではないかもしれません。そこからすると、3番目のRustは意外な結果でした。この結果について想像してみると、Rustに関しては、ここ2,3年で盛り上がってきたプログラミング言語だ。という認識があります。そのため、プログラミング言語としてのコミュニティの若さが、AI Coding Agentのような新しい取り組みについて貪欲であるからではないか。といえるかもしれません。
AI Coding Agent利用リポジトリ数の1か月の推移
2025年7月のAI Coding Agent利用のリポジトリ数(重複あり)の推移を見てみます。7/1時点では77個のリポジトリで、AI Codingの利用が確認できました。7/31時点では112個のリポジトリに増加していました。利用しているリポジトリ数は1.4倍に増加しています。
サービスを開始し、この1か月で、Trae IDEやJunieなど追加したAI Coding Agentがあったり、Geminiの利用基準の変更を行いましたが、かなりの速度でAI Coding Agentが開発に浸透していることが分かります。
プログラミング言語におけるAI Coding Agentの利用格差
調査により浮き彫りになったものとして、プログラミング言語によりAI Coding Agentの利用率に大きな開きがあることが分かりました。TypeScriptは全体の21%にあたるリポジトリにAI Coding Agentが利用されていることに対し、Go言語は全体の5%程度にすぎません。
これに関して、確たる証拠はないですが、サービスについてヒアリングしていると、興味深い意見を聞きました。「インフラ系のOSSにおいては、生成AIを利用したコーディングが禁止されている」という内容でした。情報を収集しているといくつかそういった例はあります。
これらは「NetBSD」「GentooLinux」「QEMU」というOSSでGo言語を用いて実装されたOSSではありません。しかし、OSや仮想マシンなどインフラに近い領域においては、生成AIの利用を一部禁止している側面があります。Go言語で有名なOSSとしてkubernetesがあります。しかし、その周辺のエコシステム(CNCF関連)においては生成AIを利用している形跡がありません。このようなインフラ、ミッションクリティカルで高パフォーマンスな領域においては、まだ生成AIの利用することは慎重である側面があるのかもしれません。これは逆説的ですが、「Go言語がミッションクリティカルな高パフォーマンス領域で使われているため、失敗したリスクが大きくなりすぎるため、生成AIのコードが利用できない。そのため、Go言語では(特に有名OSSでは)利用が少ない」といったことがいえるかもしれません。実際にGoを利用しているリポジトリを見ても、インフラ系は少ないイメージです。grafana/lokiやcockroachdb程度でしょうか。
ここまでの内容をまとめると、 AI Coding Agentは流行っている印象はありますが、実際の利用は全体の2.9%と低い傾向があります。しかし、一方で、TypeScriptなどの特定のプログラミング言語を利用している集団では急速に利用割合が増えている。 といえます。これが、先ほどお話しした別の視点の内容です。
AI Codingと相性のよいプログラミング言語とは。
先ほどの章で、AI Codingの利活用が進められるプログラミング言語と、そうでない言語に差があるということを話しました。ここで単純な仮説を立てました。
「利用者が多いプログラミング言語はAI Coding利用リポジトリが多いのではないか」
ということです。そこでデータを解析してみます。
Githubで特定のプログラミング言語に対してプッシュした回数とAI Coding Agentの利用リポジトリ数をプロットしてみます。Githubのプログラミング言語別のプッシュした回数に関するデータに関してはリポジトリで公開されています。
まず初めに最初に立てた仮説である
「利用者が多いプログラミング言語はAI Coding利用リポジトリが多いのではないか」
という仮説は否定できそうです。2024年にGthubにプッシュしたアカウント数に対して、負の相関がみられました。上記の仮説は、「実はAI Coding利用者の利用率はプログラミング言語を問わず〇%程度である。しかし、プログラミング言語利用者数の違いにより利用リポジトリ数に差がある」ということを示そうと思っていました。しかし、そうではない。ということが分かります。
では、逆に
「利用者数の少ないプログラミング言語では、AI Coding Agentの利用が多いか?」
というとそうでもないということが分かります。これは、グラフでI群、II群に分けたように、TypeScriptより利用者の少ないプログラミング言語で、TypeScriptほどAI Coding Agentの利用数の多いプログラミング言語はない。となっています。
次に「AI Coding Agent利用比率」という概念を定義してみます。これは、「AI Coding Agent利用リポジトリ数」を「2024年にGithubにプッシュしたアカウント数」で割った値になっています。これを縦軸にとり、横軸に、「2024年にGithubにプッシュしたアカウント数」をプロットします。そして、円の大きさとして「AI Coding Agent利用リポジトリ数」をプロットします。
このグラフからわかることが2つあります。1つはRustとPythonのAI Coding Agentを利用しているリポジトリ数は、ほぼ同数ですが、その内訳が異なります。PythonはAI Coding Agentの利用比率自体は低いです。しかし、言語利用者数が多いため、一定の利用リポジトリ数があります。一方で、RustはAI Coding Agentの利用比率自体が非常に高いですが、言語利用者が少ないため、一定の利用リポジトリ数にとどまっています。
2つ目は、TypeScriptのAI Coding Agent利用比率はそれほど高いわけではないです。TypeScriptの利用率が4.65E-06に対し、Goは5.00E-06、Rubyは4.45E-06です。相対的に見れば10%も変わっていません。実は、TypeScript,Go,Rubyにおいて利用率に関しては大きく差がありません。利用リポジトリ数が異なるのは単純に利用者数の差である可能性があります。
もしこれらの事実が正しいとすると、AI Coding AgentによりRustの利用者は急増する可能性があります。 これはRustの言語的性質がどうであるから、原理的にAI Coding Agentにより伸びる。というよりかは、観測事実からの帰納的な推論になりますが、Coding Agentの利用比率が高いことからRustとAI Coding Agentは相性がよさそうです。そう考えると、AI Coding Agentの利益を最大限受けられるのは実はRustであり、それにより、この1年間で大きく伸びそうな予感があります。
ただし、現在、調査できているプログラミング言語別のAI Coding 利用リポジトリ数は100個であり、その中でAI Coding Agentの利用数が多くて20個というオーダーの話なので、利用数が1,2個程度の揺らぎでかなり過敏に変わってしまう議論ではあります。
感想
AI Coding Agentは数多くリリースされています。AI Coding.Infoだけで16種類のプロダクトを取り扱っています。少し日常が忙しいな。と思ってキャッチアップが遅れると、すぐに状況が変わっていたりします。また、情報をキャッチアップするにしても情報源が偏ってしまったりして、正確な情報が得られないという課題感もありました。少し前だと、Clineを使ってます。という話はよくありましたが、その実、日本で流行っているのはRooCodeでした。しかし、AI Coding.Infoを見てみるとわかるように、RooCodeはGithub上で採用がほぼありません。Clineに関しては、GithubのTop100リポジトリに入っているので、それ自身と、もう1つぐらいのリポジトリでしか利用されていません。また、大きな話題としては、最近は、ClaudeCodeの話題が自分の周りには多いような気がします。しかし、一方で、リポジトリで利用が多いのはCursorです。このような自分のいる国や普段使っている自然言語によっても偏りというものもありました。その中で冷静な判断を自分の中で持ちつつ、利用できる情報源が欲しい。と思ってサイトを立ち上げました。AI Codingの動向を確認したり、自分の使っているプログラミング言語ではどのツールが相性がいいのかな?と思ったり、有名なOSSでは実際にはどんなルールファイルを書いているのだろうか。ということが気になった場合は、ぜひご覧いただければと思います。