この記事は 42 Tokyo Advent Calendar 2024 の 12日目の記事です。ハマってるので書きました。
2024年秋に登場したスマートフォン向け公式ポケモンTCGアプリ『Pokémon Trading Card Game Pocket(以下、ポケポケ)』は、手軽なデッキ構築や鮮やかな「イマーシブカード」でファンを魅了し、世界的な人気を博しています。
そんなポケポケが、もしブロックチェーン(以下、チェーン)上で展開したらどうなるのでしょう? 単なる技術オタク的な妄想ではなく、ビジネス的、ユーザー体験的、コミュニティ基盤的なインパクトを徹底的に考察すると、そこには意外なほど豊かな可能性が見えてきます。
本記事では、運営企業であるDeNAがオンチェーン化によって得られる戦略的利益、ユーザーが享受する新たな価値、チェーン選定の悩ましさと最終的な有望候補、さらにDEX(分散型取引所)やNFT-Fi的な要素、アプリケーション特化チェーン構築のシナリオ、チェーンの選定、そして仮にDeNAが撤退してもコミュニティがゲームを継続できる可能性まで、幅広く踏み込んで考えていきます。
オンチェーン化の基本メリット:資産性・透明性・相互運用性
まず、オンチェーン化とは、ゲーム内カードやアイテムをNFTとしてブロックチェーン上に記録し、トランザクション履歴やルールの一部もスマートコントラクトで管理することを指します。
ここで得られる基本的メリットは以下の3点に集約されます。
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資産性の確立:
デジタルカードは自分専用のウォレットに紐づくNFTとなり、ユーザーは本当の「所有者」になります。紙のカード同様、ゲーム外でも価値が通用し、サービス終了で紙くずになる心配が軽減されます。 -
透明性の担保:
パック開封確率や対戦マッチング条件など、一部ロジックをオンチェーン化すれば、改ざん困難な記録が残ります。不正や闇調整の疑念が薄らぎ、公平性の高いプレイ環境が期待できます。 -
相互運用性・エコシステム拡張:
他のWeb3ゲームやメタバース、ブロックチェーンドメインとの連動が容易になり、カードが別ゲームで特典を与えたり、メタバースの個人ギャラリーで展示されたりと、多次元的な価値を帯びます。
DeNAが得られる戦略的利益:ロイヤリティ、レンタル、ガバナンス
ポケポケを運営するDeNAは、オンチェーン化によってビジネスモデルを大きく拡張できます。
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二次流通ロイヤリティ:
ユーザー間でカードが自由に取引されるたび、NFT発行元としてDeNAは自動的にロイヤリティを受け取れます。これにより収益は初期販売に留まらず、カードエコノミーが循環する限り継続的な収入源となります。 -
レンタル・担保化による新収益源:
レアカードを貸し出す、あるいはNFTを担保にしたトークン貸付や、レンタル専用スマートコントラクトを通じ、手数料ビジネスを展開可能。これら「NFT-Fi」的な金融マネタイズは、従来のゲームビジネスにはなかった新境地です。 -
ガバナンストークンによるコミュニティ強化と資金調達:
ガバナンストークンを発行し、カード追加やバランス調整をコミュニティ投票で決定すれば、ファンは単なるプレイヤーではなく共創者に近づきます。トークン初期販売による資金調達も狙え、DeNAはコミュニティ軸での安定成長を図れます。 -
スポンサーシップやUGC(ユーザー生成コンテンツ)拡張:
他ブランドとのコラボNFTやユーザーアーティストによる公認二次創作カードを発行すれば、コミュニティ主導のコンテンツ拡張も可能になり、運営はさらなる収益機会を確保できます。
ユーザーが享受する価値:真の所有権、自由市場、クロスアプリ連携
ユーザー側のメリットも明確です。
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真の所有権:
アカウントロックされた資産からの脱却。カードは自分のウォレット内のNFTで、リアルカード並みに「いつまでも手元に残る」安心感が得られます。 -
自由な二次市場と金融的応用:
欲しいカードを直に購入したり、不要なカードを売却・貸出したりできる自由度の高さは大幅アップ。NFTを担保にした融資や他のゲーム内通貨とのスワップなど、ユーザー独自の戦略も成立します。 -
透明性とコミュニティ主導ガバナンス:
ブロックチェーン上での明確なルール開示やコミュニティ投票によるルール決定は、ユーザーが運営に翻弄されない環境を実現。ファンが信頼を持って長期的に参加できます。 -
クロスゲーム・クロスメタバース展開:
ポケポケで得たNFTカードが、別のブロックチェーンゲームで特典アイテムのキーになったり、メタバースイベントで限定アバターにアクセスできたりと、遊び方が際限なく拡張される可能性もあります。
チェーン選定の難しさ:L1、L2、独自チェーン、そして最終的な有力候補
最も難しい問題は「どのチェーンにデプロイするか?」です。
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L1チェーン(Ethereumなど):
セキュリティと信頼性は抜群ですが、ガス代高騰リスクやスループット面で大量ユーザー処理には不向き。 -
L2・サイドチェーン(Polygon、Arbitrum、Immutable Xなど):
Ethereumエコシステムを継承しつつ、低手数料・高速処理が期待できます。NFTゲームの実績も多数あり、開発者支援やツールも豊富。 -
独自チェーンやプライベートチェーン:
Cosmos SDKやPolkadot Substrateを利用して専用チェーンを構築すれば、手数料モデルやガバナンスルールをDeNA好みに最適化可能。ただし、外部との相互運用性が制限される恐れや、初期ユーザー獲得のハードル上昇が懸念点。
DeNAが最大限コントロールしたいならプライベートチェーンもアリですが、世界規模の流動性確保や既存コミュニティへのアクセスを考えると、成熟したパブリックチェーンのエコシステム利用が得策です。
ここまでの検討の末、個人的にはBaseかSolanaあたりが最終候補として有望だと感じます。
BaseはCoinbase発のL2で、Ethereumエコシステム互換性を維持しつつユーザーオンボーディングのしやすさ、法規制に配慮した環境を提供します。Solanaは独自路線で超高速・低手数料を実現し、既にゲーム特化の事例が増えつつあるため、多数ユーザーを抱えるポケポケにもストレスの少ない体験を提供できます。
この2チェーンはいずれも「一長一短」ながら、どちらに舵を切っても悪くない選択肢です。BaseならグローバルなEthereum互換エコシステムの恩恵を、Solanaなら圧倒的スピードによるUX向上を得られるため、DeNAとユーザー双方にとって合理的な落とし所となるでしょう。
DEX、レンタル、NFT-Fi──深まる経済圏
オンチェーン化は、カード取引に留まらず、DEX(分散型取引所)やNFTレンタル市場、流動性プールなどを用いた高度な「ゲーム内金融」を発展させます。
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公式DEXやNFTマーケット連携:
DeNAが公認マーケットやトークン交換プラットフォームを立ち上げれば、手数料ビジネスが生まれ、ユーザーは多様なアセット管理戦略を組めます。 -
NFTレンタル&流動性プール:
レアカードをプール化し、流動性提供者に報酬を与える仕組みや、期間限定貸出契約をスマートコントラクトで自動執行するモデルも実現可能。所有者はカードを「働かせて」稼げ、借り手は安価に強力カードを利用できます。 -
NFT-Fi(NFT+DeFi)の深化:
カードNFTを担保にガバナンストークンを借り入れ、他のDeFiプロトコルで運用するなど、新たな金融エコシステムがユーザーと運営を巻き込む形で成長します。
DeNAが消えてもゲームは続く?──コミュニティ持続可能性
オンチェーン化最大の特徴は、ゲーム中核データとルールがブロックチェーン上にあるため、仮にDeNAが経営難で撤退しても、コミュニティがフロントエンド(UI)を作り直せば類似のゲームプラットフォームを再生できる可能性があることです。
もちろん、IPやブランド許諾の問題は別途考慮が必要ですが、技術的には「運営依存度」を減らせる点が、ユーザーに長期的な安心感をもたらします。これはユーザーが積極的に資産投下できる誘因にもなり、結果としてブランドやコミュニティの強さを底上げします。
まとめ:オンチェーンTCGで拓く新エンタメの境地
『ポケポケ』がオンチェーン化すれば、
- DeNAは二次流通ロイヤリティやレンタル市場、ガバナンストークン活用で継続的かつ多元的な収益を獲得可能
- ユーザーは資産所有、自由な二次流通、透明性高いガバナンス、クロスアプリ連携など、かつてない自由度と価値を享受
- チェーン選定は難しくも、BaseやSolanaといった成熟した選択肢が有望で、グローバルな流動性と使いやすいツール群を活用できる
- オープンエコシステムにより運営依存度が低下し、将来的にはコミュニティ駆動の持続可能なプラットフォームへと進化できる
これらのシナリオは、決して単なる空想に留まりません。既存のWeb3・NFT・DeFiインフラは日々整備され、世界各地でオンチェーンゲームの成功事例が生まれています。もしDeNAが本気でこの道を選ぶなら、ポケポケは「単なるデジタルTCG」から「グローバルかつ長命なNFT・Web3エンタメプラットフォーム」へと進化し、ゲーム業界のみならずデジタル資産市場全体に新たな衝撃と刺激を与えるかもしれません。
以上はあくまで一つの展望ですが、その中にはWeb3技術がもたらす新時代のビジョンと興奮が確かに宿っています。
オンチェーン化されたポケポケが登場する日が来るかどうかは分かりませんが、こうした可能性を考えるだけで、ゲーム、コミュニティ、経済の境界が薄れた新時代のエンタメを垣間見た気がしませんか。