ここ一年間ほど、開発チームでは正社員エンジニアが自分しかいませんでした。この状況を改善すべく、開発チームの立て直しに尽力した結果、EM とサーバーサイドエンジニアが採用でき、ようやくチームとして動けるようになりました。
その中途採用では、書類選考とコーディング試験、一次面接、最終面接後のアトラクト面談を担当しました。(アトラクトについては後述します)
ですが、私は昨年まで本格的に採用活動をしたことがなく、社内の識者のアドバイスをもらいながら、自分なりに試行錯誤の連続でした。
面接は、フラットな立場でお互いがマッチしそうか話す機会です。「候補者がこれからどのようなキャリアと考えているのか」「弊社としてはどんな機会が提供できそうか」といった話を軸に、候補者理解と愚直なアトラクトを行うことが内定受諾の決め手になると感じています。
本記事では、心理学要素を踏まえつつ、採用する側から面接のあり方を深掘りします。
採用市場と採用フローのおさらい
経済産業省によると 2030 年には最大 79 万人の IT 人材が不足すると言われており、エンジニアの採用は年々難しくなっています。
平成 30 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(IT 人材等育成支援のための調査分析事業)- IT 人材需給に関する調査 -
さらにエンジニアは転職すれば年収があがりやすいと言われています。ファインディ株式会社の調査によると、全体の平均年収が横ばいになりつつありますが、細かく見るとまだ上がっているロールや言語もあります。
Findy Blog » 「職種・言語別の年収」「働いてみたい企業」などを調査!771名に聞いた最新版「IT/Webエンジニア転職動向調査」をリリース
その結果、人材の流動性が高く、社員の平均勤続年数が 2-3 年の会社もあります。ですが会社にとって採用のコストは非常に高く、社員が 5 ~年と定着するに越したことはありません。
そこで会社は適切な人材を雇用し、採用の成功率を向上させるため工夫を重ねています。
多くの会社の選考フローは、書類選考から始まり複数回の面接を経て、内定が決まります。選考が進むに従って通過率も上がっていくのが一般的です。
その過程で行われる複数回の面接は、現在所属している社員と候補者が対面でコミュニケーションをとる貴重な機会です。
採用活動でのアトラクトとは
その採用フローのなかで「アトラクト」が不可欠だと言われています。
「アトラクト」とは、会社に対して魅力を感じてもらうための施策や活動を指します。採用フローではアトラクトが不可欠であり、全体を通して、様々なタッチポイントで候補者のフェーズにあわせて実施します。例えば下記のような施策があります。
- テックブログやイベントなどの積極的な技術発信
- 採用サイトで社内のメンバーの活躍の発信
- 面接で候補者のやりがいをきちんと掘り出し提案する
面接でアピールできる2大アトラクト
転職活動とは、会社と候補者のマッチングです。そのため、候補者の希望を理解してアピールしていく必要があります。
面接は候補者と直接コミュニケーションがとれる機会であり、アトラクトには絶好のチャンスです。特に、最後のオファー面接は、候補者への最後のアトラクトとなり、内定受諾率に大きな影響を与えます。
ここでは、大きく 「金銭的な条件」と「環境要因」の 2 つの要素に分類します。
1. 金銭的な条件(年収、福利厚生、ストックオプションetc)
需要にともなって、エンジニアの平均年収も上がっています。それを上回る高い年収を出せばエンジニアは集めやすくなります。
ですが、スタートアップやベンチャー会社などこれからビジネスをスケールさせていく会社は、予算が限られています。またすでに黒字化した会社でも、候補者のスキルに応じて年収レンジが決まるため、既存の社員の給料を考えるとスキル以上の上乗せは難しいケースもあるはずです。
なのでストックオプションがついてきたり、福利厚生を充実している会社もあります。エンジニア向けによくあるのは書籍購入補助やスキル取得推進の費用負担です。
2. 環境要因(ビジョン、働きやすさetc)
競合他社より金銭的な条件が多少悪かったとしても、やりがいなど会社の強い魅力が提示できれば、内定を受諾してもらえることもあります。
下記のような代表的な環境要因があります。
- 新しいサービスや市場を作るというビジョン
- モダンな開発体験や強い開発組織
- 福利厚生などの会社のサポート
- 候補者の希望にあったキャリアパス
心理学的にもアトラクトの効果は説明できる
たとえ競合他社で高い金銭的な条件が提案されていても、やりがいの方が上回ったり、「なりたい自分になるため」に転職することがあります。この理由も、心理学的にマズローの欲求 5 段階説で説明できます。
マズローの欲求5段階説
この学説では人間の欲求は 「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「尊重欲求」「自己実現欲求」の五段階 にわかれ、それぞれの欲求が積み重なって 1 つのピラミッドを構成します。
まずお金は食事や住宅を借りたり、家族を養ったりするために必要です。これは「生理的欲求」や「安全欲求」に該当し、また会社に所属すれば「愛と所属欲求」もある程度満たされます。
そのうえで自分が評価されている証明である高い年収がもらえれば「尊重欲求」が満たされます。
さらにこの「尊重欲求」が満たされると、次の「自分が満足できる自分になりたい」と願う自己実現欲求が出てきます。
そもそもなぜ転職したいのか
ただし、現実的にはこの段階はスパッと分かれているものではなく、グラデーションがあり複数の欲求が混ざっています。
そもそも人はなぜ転職を考えるのでしょうか。転職の理由はいろいろありますが、自己実現やなんらかの欲求を叶えるため人は転職します
もちろん、会社の倒産による退職で、生活をするために強制的に転職をしなければいけないケースもあります。
いくつか事例をあげつつ、どうしてそうなるのか考えてみます。
理由 | 背景 |
---|---|
強い開発チームがある会社で働きたい | 強いエンジニアと働ければ、自分のスキルも上がって、チームリードとかよりできることが増えるはず。 |
もっと年収をあげたい。 | 年収が増えたらできることも増えて、人生の選択肢が増えるかも。海外旅行、結婚、いろんな経験ができるかも |
環境を変えて、自分の力をもっと発揮したい | 新しい環境で自分の力で開発組織や、ビジネスを加速するやりがいが欲しい。 |
もっとフロントエンドの開発がしたい | TypeScriptやReactなどを実際の現場で使って、深く理解し極めたい。情報発信も頑張って、だれかに影響を与えたい。 |
表面的な理由を掘り下げていった場合、こうなりたいという本質的な欲求が見えてきます。
転職の理由「強い開発チームがある会社で働きたい」を例にさらに深掘りして考えてみると、背後には尊重欲求と自己実現欲求があるとわかります。
-
尊重欲求
- スキルが上がることで、みんなから信頼されたい
- リーダーとして評価されたい
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自己実現欲求
- チームリーダーになって活躍したい
もし、候補者の今いるチームの仲が悪く不満を抱えているなら「愛と所属の欲求」もでてきます。
そのため多面的な質問を重ね、この候補者が本当に求めているものは何か確認します。
アトラクトとの関係性
この心理的働きが採用活動においても重要で、 「候補者がどのような仕事がしたいのか」「どんなキャリアパスを考えているのかを知る」 必要があります。
他社と比較して年収が低い会社のオファーだったとりしても、十分に下層の欲求が満たされていれば、自己実現などが優先されます。もし希望にそった機会が提案できれば内定受諾してもらえるかもしれません。
さらに入社後チームになじめれば「愛と所属への欲求」や「尊重欲求」が高まり「自己実現」ができ高いパフォーマンスや勤続年数の長さとして現れるはずです。
会社にとって良い面接のポイント
これらを踏まえると、会社にとって良い面接の定義は主に 3 つだと考えます。
- 採用目的にあった人材か、会社文化への適合性を確認すること
- 技術力や社会的な人間力を見極めること
- しっかり候補者を理解し、現実的なアトラクトをすること
各要素を 1 つずつ見ていきます。
採用目的や会社文化への適合性の確認
まず求人票をつくる段階で、どのような人を採用したいのか、チームメンバーや面接する全員ですり合わせイメージを固めます。ここがぶれていると特定の面接で通過率が下がったり、ボトルネックができてうまく選考が進まなくなります。
例えば、下記のような観点があると思います。
- サーバーサイドエンジニアかフロントエンジニアか
- 新規事業のたちあげを経験したエンジニアがいいのか、突き抜けた技術力を持つエンジニアがいいのか
技術力や社会的な人間力の見極め
技術力は基本コーディング試験で判断し、面接ではコーディング試験でわからない設計の考え方や CI/CD など質問で深堀りしていく必要があります。
面接ですごいできる人だなと思っても、コーディング試験で意外と書けていなかったり、またその逆もあります。やはりコーディング試験と面接のどちらかだけで技術力を見極めるのは困難です。
成長枠であれば、多少技術力は低くても貪欲な知識欲があるので問題ないというケースもあるでしょう。
社会的な人間力とは、「コミュニケーション能力」「協調性」「リーダーシップ」「人を巻き込む力」などの総合力を指します。
代表的な問題がある例は、Netflix のカルチャーにでてくるような優秀だけど周りに悪影響を与えるブリリアントジャークです。
このような人材を採用してしまった場合、放置しておけばチームのパフォーマンスはどんどん下がるので、しっかりと見極めなければいけません。
しっかり候補者を理解し、現実的なアトラクトをする
候補者の見極めだけでは、面接としては不十分で候補者は辞退します。候補者のキャリアパスややりがいをヒアリングしたあとで、逆に会社がどのような機会と環境が提案できるか伝える必要があります。
マズローの欲求五段階説でもでてきたように、自己実現欲求は人の最終判断に大きな影響を与えます。そのため候補者の考え方をできる限り理解し、何を求めているか、それに対して最後のオファー面談まで愚直に向き合っていく必要があります。
ですが、いくら綺麗ごとだけ話しても、いざ入社してみたら話が違うと社員は定着しません。話したくないことも話さなければいけません。「我々のチームは現在こういう課題を抱えており困っている」「実はプログラミング言語のバージョンが古くて技術的負債がある」という話は必ずあるはずです。
こういう技術的やビジネスの課題を一緒に乗り越えていきましょうという方向でポジティブに話を展開しつつ、認識をすり合わせることも大事です。
まとめ
候補者にとって魅力的な面接の定義を模索してきました。
転職は候補者にとっても人生の一大イベントです。会社と候補者が真面目に向き合い、お互いの認識をすり合わせる。その過程で、企業側が愚直なアトラクトを積み重ねていくことで、候補者への熱意が伝わり、候補者に魅力を感じてもらえるはずです。
そもそも会社やチームへの魅力がなくて、人が集まらないケースもあるはずです。その場合は、どのように技術発信していくか、開発組織としてどうスケールするか、サービスのアーキテクチャなど、現在抱えている課題の解決が必要です。
継続的に開発組織として進化しながら、ともに成長できるメンバーを見つけられることを祈っています。