LoginSignup
16
13

More than 5 years have passed since last update.

WSDM 2016 勉強会: Feedback Control of Real-Time Display Advertising

Posted at

Feedback Control of Real-Time Display Advertising

WSDM 2016 勉強会 での発表資料です。次の論文の解説になります。

Feedback Control of Real-Time Display Advertising by Weinan Zhang, Yifei Rong, Jun Wang, Tianchi Zhu, Xiaofan Wang

問題設定

背景

  • インターネット広告 > ディスプレイ広告 > RTB (Real-Time Bidding) の世界の話
    • 「ディスプレイ広告」は、ここではいわゆる「バナー広告」の類だと思って貰えれば OK
    • バナー広告以外には「検索連動型広告」(Google AdWords など) があるが、こちらはこの論文のスコープ外
  • RTB における登場人物 (組織・システム)
    • Publisher
      • Web メディアなどの「広告枠」を持っている人
    • Advertiser
      • 広告主
    • SSP (supply-side platform)
      • 「広告枠」を提供する側のプレイヤーが利用するプラットフォーム
      • アドオークションを開催する人 (システム)
    • ★ DSP (demand-side platform)
      • 広告主 (広告代理店) が利用するプラットフォーム
      • アドオークションに参加して入札する人 (システム)

動機

  • Advertiser は広告枠を購入し、その広告枠に自分の広告を表示したい
    • 広告を表示して (インプレッションを獲得して)、クリックやコンバージョンを獲得したい
  • Advertiser は KPI を持っている
    • CPM (cost per mille): 1,000 回のインプレッションをするのに要した費用
    • AWR (auction winning ratio): アドオークションでの勝率
    • eCPC (effective cost per click): 1 クリックを獲得するのに要した費用
    • CTR (click-through rate): クリック率
  • Advertiser は、これらの KPI を最適化 (※) したい
    • ※ 最適化、というよりも、目標数値に収束させる、というのが正しいかも
    • eCPC を低く抑えたり、CTR を高めたりしたい
  • RTB においては、これらの KPI が時間推移によって大きく上下に変動しうる
    • 上下に変動してしまうと、KPI を最適化するのも一苦労となる

論文が提案する解決法

  • KPI をその目標数値に収束させる問題に対して、「フィードバック制御」を取り入れる
  • 最適化対象の KPI は、具体的には:
    • 獲得を目的とした広告であれば、eCPC となる
    • ブランディング・認知目的の広告であれば、AWR となる
  • これらの KPI の制御に使える変数は、 bid price (オークションにおける入札額) となる
    • bid price を、フィードバック制御の出力値とする
  • フィードバック制御の方法:
    • PID: proportional-integral-derivative controller
    • WL: Waterlevel-based controller
  • さらには、入札最適化 (bid optimization) = マルチチャネルでの広告出稿の最適化 (※) にも、このフィードバック制御を導入してみる
    • ※ コストパフォーマンスの悪いチャネルへの広告出稿を控え (割り当て予算を減らし)、コストパフォーマンスの高いチャネルにその予算を寄せる

フィードバック制御を組み込んだ DSP bidding agent

概要

Screen Shot 2016-03-19 at 2.07.03.png

処理の流れ

  1. 入札リクエストを受け付ける
  2. 入札額を算出する (Bid Calculator)
    • 入札単価状況や予測された CTR (or Conversion rate) を基に計算する
    • 詳しくは「入札戦略」で説明する
  3. 入札額を調整する (Actuator)
    • PID or WL を利用する
    • こちらも「フィードバック制御」で詳しく説明する
  4. 入札レスポンスを返却する
  5. Win notice を受け取る (オークションに勝利した場合のみ)
    • Controller にフィードバックする
  6. ユーザの行動 (クリック or コンバージョン) を受け取る
    • こちらも Controller にフィードバックする

入札戦略

  • よく使われている入札戦略が存在するらしい
  • 予測された CTR $\theta_t$ と、平均的な CTR $\theta_0$ 、ベースの入札額をもとに入札単価状況によって調整された入札額 $b_0$ より、次の式で入札額 $b(t)$ を決定する
b(t) = b_0 \frac{\theta_t}{\theta_0} \tag{1}

:star: フィードバック制御

ここがこの論文の肝です。

  • $(1)$ の入札戦略によって算出された入札額を、Actuator によって調整して最終的な入札額 $b_a(t)$ とする
b_a(t) = b(t)\exp\{\phi(t)\} \tag{2}
  • $\phi(t)$ は PID or WL で計算される値である
  • ちなみに、筆者らは $b_a(t) = b(t)(1 + \phi(t))$ などの線形なモデルも試してみたとのことで、こちらは性能が悪かった模様

PID Controller

  • PID によってフィードバック制御を実現する
  • 以下 Wikipedia からの引用

PID制御は、制御工学におけるフィードバック制御の一種であり、入力値の制御を出力値と目標値との偏差、その積分、および微分の3つの要素によって行う方法のことである。
920px-PID_en.svg.png

  • 具体的には、次の式で計算される
e(t_k) = x_r - x(t_k) \tag{3}
\phi(t_{k+1}) \leftarrow \lambda_P e(t_k) + \lambda_I \sum_{j=1}^k e(t_j) \Delta t_j + \lambda_D \frac{\Delta e(t_k)}{\Delta t_k} \tag{4}
  • それぞれの意味は次のとおり
    • $(3)$ 式は、KPI の目標値 $x_r$ と、時刻 $t_k$ における KPI の実績値 $x(t_k)$ との差を表す
    • $\Delta t_j = t_j - t_{j-1}$ : 時刻 $t_j$ と $t_{j-1}$ の間の時間差を表す
    • $\Delta e(t_k) = e(t_k) - e(t_{k-1})$ : 時刻 $t_k$ と $t_{k_1}$ のそれぞれの実績値同士の差を表す
    • $(4)$ 式は PID 制御の伝達関数に相当する
    • $\lambda_P, \lambda_I, \lambda_D$ はそれぞれ、比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインを表すパラメータ

Waterlevel-based Controller

  • こちらは PID 制御よりもシンプル
\phi(t_{k+1}) \leftarrow \phi(t_k) + \gamma (x_r - x(t_k)) \tag{5}
  • $\gamma$ はステップサイズパラメータを表す

オフラインでの実験・評価

データセット

  • iPinYou DSP のデータセットを利用
    • 10 日分
    • 9 キャンペーン
    • 約 6475 万の入札ログ
      • オークションでの勝利に必要な最低入札価格が含まれる
    • 約 1950 万のインプレッションログ
    • 約 1 万 4000 のクリックログ
  • 入札戦略の $(1)$ 式で利用する CTR の予測には、ロジスティック回帰を利用する

評価方法

  • iPinYou のデータセットを用いて、eCPC と AWR のそれぞれの KPI について目標値を設定し、実績値をそれに収束させることを試みる
    • 論文には明示されていない気がするけど eCPC と AWR はそれぞれ別に分けて実験をしているはず…
  • 手順は以下のとおり
  1. 入札ログのレコードを DSP bidding agent に与える
  2. DSP bidding agent は入札価格を算出する
  3. 算出された入札価格が、オークションでの勝利に必要な最低入札価格を上回っていれば、オークションに勝利したものとして取り扱う
  4. オークションに勝利した場合
    • インプレッションログを DSP bidding agent に与える
    • クリックログが存在するなら、それも与える
  5. $\phi(t)$ の更新は 2 時間ごとに行う
    • この更新を 1 ラウンドとする

評価に使う指標値

収束速度に関わる指標値

  • Rise time
    • 実績値が、エラーバンド (最適化対象の KPI の目標値 ± 10% 以内) に最初に到達するまでに要した時間
  • Settling time
    • 実績値が、エラーバンド内に定着するまでに要した時間

精度に関わる指標値

  • Overshoot
    • 実績値が KPI 目標値を超えてしまった割合 (%)
  • RMSE-SS
    • 実績値がエラーバンド内に定着した以降における、目標値と実績値の RMSE

安定性に関わる指標値

  • SD-SS
    • 実績値がエラーバンド内に定着した以降における、実績値の標準偏差

実験結果

基本的な収束性能

  • Table 1, 2 と、 Fig. 5 を参照

    • Fig. 5
    • Screen Shot 2016-03-19 at 3.44.08.png
  • PID は いずれのキャンペーンにおいても、実績値を目標値に収束させることができた

  • 一方で WL は、収束に失敗したキャンペーンが存在している

    • 特に eCPC の収束がうまくいっていない
  • 精度の良さは、PID > WL となる

  • Overshoot は WL の方が少ない

  • (PID, WL は関係ないが) CTR 予測の精度が高いとエラーバンド内に定着するまでの時間が短くなる

  • 総じて言えることは、PID の方が収束性能がいいね、ということ

収束の難易度を変化させた状況での性能

  • KPI の目標値を過度に高く (簡単に) or 低く (難しく) して実験してみる
  • Fig. 6, 7 を参照
    • Fig.7
    • Screen Shot 2016-03-19 at 3.55.34.png
  • PID も WL も、過度に難しい (低い) 目標値を設定すると、収束しなかったり変動が激しくなるリスクが生じる

パラメータチューニング

  • 主に $\lambda_P, \lambda_I, \lambda_D$ のパラメータをチューニングする、という話

パラメータ探索

  • $\lambda_D$
    • このパラメータは制御性能を大きく変える効果はない
    • $1 \times 10^{-5}$ ぐらいの小さな値を設定しておく (チューニングはしない)
      • overshoot の発生を減らし、また収束するまでの時間が僅かに短くなる
  • $\lambda_P, \lambda_I$
    • これらのパラメータチューニングは本来ならグリッドサーチで実現するべき
    • でも論文では、それぞれ一方のパラメータを固定し、もう一方のパラメータだけを変化させる方法で、片方ずつチューニングする方法を紹介している
      • ステップサイズを指数的に小さくしていき、局所最適なパラメータを見つける
      • 確かに計算量的には小さくなるが、それでいいのか…

phi(t) の上限・下限設定

  • $\phi(t)$ の値に対して上限値と下限値を設けた方が制御しやすくなる
    • 下限値を設けることで、オークションに勝てなくなる自体を避けることができる
    • 上限値を設けることで、過度に高い入札額の提示を避けることができる
  • 例えば今回の実験は $[-2, 5]$ の範囲にする、など

オンラインでのパラメータ更新

  • オンラインのプロダクション環境などでは、インプレッションやクリックなどのフィードバックがリアルタイムで到着する
    • パラメータの更新を、オンラインで実施しようと思えばできる
    • 1 回のパラメータ探索は 10 分程度で済む
  • 10 ラウンドごとにパラメータを更新してみたときに、どのようにパフォーマンスが変化するか?
  • Screen Shot 2016-03-19 at 10.53.17.png
  • 実際に、収束性能がよくなっているのが分かる
    • Settling time は短くなり、 Overshoot も少なくなるとのこと

実際のオンライン環境下での実験

  • 中国における運用型モバイル広告の DSP、 BigTree に組み込んで実験してみた
  • Screen Shot 2016-03-19 at 11.01.40.png
  • 上図 (Fig. 13)
    • フィードバック制御によって、確かに KPI の目標値 (eCPC) に収束している!
    • クリックもちゃんと獲得できている
  • 下図 (Fig. 14)
    • フィードバック制御がない場合と比較して、bids (オークションでの勝率?)、インプレッション数、クリック数、CTR が良くなっている
    • KPI の目標値 (eCPC) は低めに設定した
      • フィードバック制御がない方の eCPC については言及されていない…

まとめ

  • DSP (demand-side platform) における、広告パフォーマンスを測る KPI を最適化したい
  • フィードバック制御の考えを導入して、KPI の最適化を試してみた
  • PID と Waterlevel-based の二つのフィードバック制御手法を比較してみた
    • オフラインでの実験の結果、PID の方がよかった
  • オンラインでも実験し、実際に KPI が最適化できることを確認できた
16
13
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
16
13