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[BizDev目線] 既存組織内での事業立ち上げで意識した5つのこと

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この記事は GLOBIS Advent Calendar 2020 の18日目の記事です。

はじめに

こんにちは、鳥潟(@ktori1127)です。今は グロービス学び放題というサービスの事業リーダーをさせていただいています。社内のエンジニアにアドベントカレンダー書きましょう!と誘われ、軽い気持ちでOKしたのですが、実際に書こうと思うと悩むものですね:sweat: せっかくなので4年前に本事業を立ち上げてから、現在に至るまで、大切にしている考え方をBizDev目線でつらつらと書いてみたいと思います。

専任1名からのスタートで、事業が順調に立ち上がらず苦労した時期もありましたが、ありがたいことに多くの優秀な仲間も加わっていただき、現在は「有料ID14万」を突破する規模に成長してきています。昨年度は、HRアワード優秀賞、日本e-LearningAward 特別賞、HRテクノロジー大賞 ラーニングサービス部門優秀賞、RubyBiz Grand prix 特別賞 など4つのありがたい賞をいただくこともできました。

最初に断っておきますが、本記事は偉そうに成功ノウハウを書きたいわけではありません。新規事業を立ち上げる過程で、私自身はたくさん地雷を踏み苦労してきました:head_bandage: その過程を改めて振り返り、「意識してやってよかったこと」を5つにまとめて記してみました。

現在事業立ち上げをしていらっしゃる方、これから挑戦しようとしている方、歴史ある企業のなかで新規事業を推進している方などの参考になればと思います。

私は誰か?

キャリアのスタートはサイバーエージェントでの営業です。その後23歳の時にビルコム株式会社というPR会社の創業に参画をさせていただき、10年ほど事業立ち上げや経営を経験した後に、グロービスへ入社しました。

現職では、研修設計のコンサル、オンライン研修に関連する事業立ち上げを経て、現在の「グロービス学び放題」事業立ち上げといった経験をさせていただいています。

1つ目:事業のミッションに誰よりも忠実であること

世界中に学ぶ楽しさを広げ、社会の創造と変革を実現する

これは、4年前に立ち上げたグロービス学び放題の事業ミッションです。突然ですが、皆さんにとって学びは楽しいものですか?それとも苦痛なものですか? 私が過去に触れた多くのビジネスパーソンは、学びは必要に迫られて行うものであり、苦痛を伴うものと言っています。(私も20代の頃は学びよりも実践が重要と信じて、毎日深夜まで働いていましたが:angel_tone2:

過去実施したリサーチでは、仕事以外の時間を使って学んでいる社会人は3割程度であり、さらにその中で毎月数千円以上を自己投資に使っている人は半分程度、つまり社会人の10人に1-2人しかお金をかけて学んでいないということです。意外と少ないですよね。

一方で、学びを別の側面で捉えると以下のようなことが言えるのではないかと思っています。

学ぶことで、景色が変わり
学ぶことで、行動が変わり
学ぶことで、仕事がサクサク進み
学ぶことで、仲間ができて
学ぶことで、キャリアが変わり
学ぶことで、家庭が安定し
学ぶことで、社会に貢献し
学ぶことで、人生が変わる

学びは最高のエンターテインメントだと、心から信じています。これは、私自身が20代中盤から30代にかけて経験した順番そのものなのですが、学ぶという行為は人生を前向きにしてくれるパワーを秘めていると思っています。

立ち上げから4年、事業を通じて「学びって楽しいぜい:sunny:という想いを世の中に広げたいと思いながら仕事をしているわけですが、事業の立ち上げはそんなに綺麗なことばかりではありません。時には、なぜこんな苦労をしているのか?と弱音を吐きたくなる瞬間もあります。その際に大切なことは、事業のミッションをどれだけ信じ切れるか?だと思っているのです。

この「信じる」ということについてですが、浄土真宗の宗祖でもある親鸞の教えに「教行信証」という言葉があります。私なりの解釈も含めて解説すると:

最初に信じてみる。信じて行動するからこそ、証明される

逆は、

証明されているから信じる。そして行動する

になります。

現代は、データや科学技術で証明しやすい環境だと思います。だからこそ、何かをトライする際にデータやファクトを必要とされるケースが多いように感じます。(データで証明された方が、安心できるし周囲の説得も簡単になりますからね)でも、証明されていることをやっても、事業の急速な成長は望めないし、すでに他社が手掛けていることがほとんどですね。

事業を立ち上げるフェーズでは、正直、辛いことやうまく行かないことも多々あるのですが、結局は事業が掲げるこのミッションに対して、どれだけ忠実にリーダーが向き合い信じているか?これが一番大切なのではないかと思っています。それこそが、事業を成長させる原動力になると思います。

2つ目:常に顧客の近くにいる

事業の立ち上げ当初は、専任担当が私一人でとにかくリソースがない状態が続きました。一方で、アサインされてから3ヶ月で立ち上げるゴールが決まっていたので、周囲の方々に協力をいただきながら進めていく必要がありました。でも、上手くいくか不明な事業でもあったので、適切な協力を引き出すことに苦労した記憶があります。そこで、私がとった行動は「デモIDをお客様に配布し、利用後に電話でインタビューをする」というシンプルな内容です。1ヶ月半くらいで50-60社ほどのお客様にデモIDを発行し、電話にてヒアリングしました。

 実際に顧客の声をまとめていくと、今まで様子見だった周囲のメンバーが協力してくれるようになりました。何より自分自身の仮説がどんどんクリアになり、サービスの骨組みが定まっていきました。そのヒアリングで、動画の時間を3分程度に区切っていくという方針も決まりました。(動画の長さは、最初10-15分くらいでしたが、顧客の声はより短くという希望が大半でした。)

実際のインタビューをまとめたファイル。この時期は、ほぼ毎日電話でヒアリングばかりしていました。
インタビュー.png

 サービスが立ち上がり1年くらい経過した頃には、ユーザー数が増えていく中で、品質に対する要望やコメントをいただく機会が増えてきました。サービス規模が小さい時は全ての状況を把握できるのですが、拡大してくると主体的に情報をとりにいかないと実態が見えなくなりました。中にはクリティカルな指摘も含まれていました。危機感を募らせていた際に、ネットプロモーター経営という良書に出会い、このスキームを応用してサービスに組み込むことにしたのです。

NPS.png
image.png

上記の図にあるように、Net Promoter Scoreの運用では小さなループと大きなループの2つが存在します。前者の小さなループでは、リアルタイムでサービスやコンテンツへのフィードバックがslackに送られてくる仕組みを社内のエンジニアにお願いして構築しました。

こんな感じでslackに毎日大量のフィードバックが通知されてきます。このチャネルには52名のスタッフが入っています。私自身は、このチャネルに毎日目を通しています。

NPS1.png

中には、改善要望のコメントも送られてきます。担当が必ず目を通し、対応を検討していきます。
NPS2.png

これらのユーザーの声を踏まえて、CS担当が必要に応じてユーザー対応を行うフローを構築しました。「グットマンの法則」で示されている通り、苦情を述べたユーザーは、その後の解決に満足するとファンに変わるという傾向があります。この法則に沿って、強いクレームをいただいたユーザーにはなるべくリアルタイムにご連絡を差し上げ、対応方針をお伝えするようにしていました。

グットマン.png
http://www.customer-loyalty.jp/goodman.html

さらに大きなループでは、3ヶ月に一度、コンテンツ評価の数値を分析し、改善するサイクルを回しています。このように、事業が拡大するにつれて疎遠になりがちなユーザーの声を、常に身近にするための仕掛けを作り出すことで、常にユーザーを意識した判断ができるようになりました。

顧客の声を取りに行くのではなく、声が毎日通知されてくる(≒いつも顧客の声と一緒にいる)感覚を醸成することが大切なのだと思います。

3つ目:予測できること、予測できないことを見極める

物事には、過去からの延長線上で予測できることと、前例がなく予測が難しいことに分けられます。既存組織の中で新規事業を進める際に気をつけたいのは、予測が難しい取り組みをしているのに、精緻な計画・予測を作ることです。20代の頃、経営をしていた会社ではここの違いがわからず、一生懸命計画を作ったのに、開始して1週間で前提が変わり精緻な計画が無意味になった苦い思い出があります:frowning2:

計画作成そのものは否定しませんが、事業を開始する際に精緻に数値で作り承認を取るという流れはおすすめできません。(精緻な数値に対して、承認を得るということは、それがコミットになり本質的な価値検証よりも数値を追いかける行動が強化されてしまうからです)

新規事業は動いてみて分かることだらけです。8割くらいそうなんじゃないでしょうか。そうであれば、ビジョンは明確に、数値計画は最低限に留めて、とにかく行動をすることが大切なのだと思います。30代前半の頃に、この違いがわからず悶々としていた際に、JUST STARTという書籍に出会い、視界が開けたことを覚えています。

予測できる物は、しっかり予測する。
予測できない物は、早く行動して不確実性を少なくしていく。
ステークホルダーには、精緻な計画ではなく、行動によりわかった学習結果を共有する。

とてもシンプルなことですが、既存組織の中でこの信念を貫くことはなかなか難しいもだと思います。

 just start.png

4つ目:経営の全体像を捉えながら”今、やるべきこと”に注力する

事業立ち上げの頃、とても難しかったのは「今、何をやるべきか?」を判断することでした。少しずつ事業も拡大し、メンバーも増えていく中で事業運営において様々な意見が出るようになります。例えば:

・オペレーションマニュアルをしっかり作るべき
・チームの文化醸成に時間をかけるべき
・評価制度を見直すべき
・改めてミッション・ビジョンをゼロベースで考え直すべき

など、様々な提案をいただきます。これらの提案は全て正しいし、やった方が良いのですが、問題は「今、それをやるのか?」ということです。以下の図は、私が20代の頃に前職の組織が3名から70名規模に成長する中で起きた課題・取り組みの全体像になります。

*筆者の20代の頃の経験を踏まえて作成した、経営の全体像。数値の順番で問題が発生する。
全体像.png

例えばサービスの提供価値やプロセスが定まっていない時にマニュアルを用意しても、サービス価値そのものが変わってしまう可能性も高く作成にかけた時間は無駄になってしまいます。さらに、事業としてUnit Economicsが成立していない(≒収益性が担保されていない)段階で、資金調達をしてマーケティング投資をしても健全な事業成長は望めないでしょう。

このように、事業を運営する際には、抑えるべき論点の全体像・順番があるというのが私の過去の経験から言えることです。これらを網羅的に把握しながら、適切なタイミングで着手していくこと。逆に、今やらないことを意志を持って決めていくこと。これは、今も悩みながら取り組んでいることですが、意外と大切なことなのではないでしょうか?

5つ目:過去へのリスペクトと未来への責任

最後のポイントは、ノウハウやスキルというよりも心構えについてです。既存組織の中で新規事業を担当する際、多くの場合は既存事業の利益を原資に投資いただいているわけです。何を当たり前のことを、と言われるかもしれませんが、ここに向き合うスタンスはとても大切だと感じています。ここを理解するためにも、既存事業と新規事業のそれぞれの目的を抑えていくことが肝心です。

シンプルに表現すれば、既存事業を担っている方々は「今日のご飯をたべるため」にお金を稼いでいます。一方で新規事業を担う人たちは、「明日以降のご飯のタネを生み出すため」に頑張っています。このように、目的やプライドの置き所が異なるわけです。

 この物凄く当たり前のことを理解せずに行動すると、社内で応援されない新規事業になってしまいます。これは私の経験に基づいた実感です。共同創業した前職のスタートアップで、既存事業の担当役員をしていた時期がありました。その際に別の新規事業を担当する役員が、「既存事業は古い、これから収益は下がっていくだけなので新規事業が重要だ!」と言った趣旨のメッセージを発信していました。新規事業を行う仲間を鼓舞するために伝えることは百歩譲って良いとしても、この内容を既存事業を担うメンバーが聞いたらどう感じるでしょう?申し上げるまでもなく、とても複雑な心情になりますね。私も実際そのように感じました。論理的には正しいことかもしれませんが、先ほどの役割・プライドの置き所を理解していれば、そのような発信は生まれないのだと思います。

既存事業と新規事業の関係性。
新規事業は応援される状態を目指したい。
新規既存.png

あらゆる会社も事業も不変の物はなく、全ては変わっていく「諸行無常」です。一方で、変えるべきことと、維持するべきことも存在すると思います。事業の土台を作り上げてきてくださった多くの先輩たちの努力に敬意を払いながら、未来を切り開いていく責務を持って事業に取り組む。たまたまこの時期に、新規事業を担当させていただいているという視点で歴史の縦糸をしっかりつないでいく。そのような想いを大切に、事業を運営することも大切なのではないでしょうか。

責務.png

最後に

グロービス学び放題では、これからも学ぶ楽しさを広げ、前向きに行動する人を応援していきたいと思います。次年度からは、このサービスの英語版(GLOBIS Unlimited)を本格的にグローバルに展開していく予定です。

そのため、BizDev、Dev、Design、Customer Success などあらゆる職種で仲間を募集しています。Edutechに興味ある方、ぜひ気軽に声がけください:grinning:

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考書籍

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