はじめに
リモート環境でも、チームが主体的に楽しみながら成長するためには、リーダーシップのスタイルを柔軟に進化させる必要があります。
今回は、メンバー全員にリーダーの役割を交代で担わせることで、シェアドリーダーシップを育み、主体性を引き出すための具体的なプラクティスをご紹介します。
全員にリーダーを任せる意義
「自分がリーダーのつもりで考えてみて」と若手メンバーに伝えても、視座を変えるのは難しいものです。
通常、チーム全体のことはリーダーに委ねてしまい、自分のタスクにのみ集中してしまう傾向があります。
この状態では、メンバーが主体的に動き出すきっかけを得にくいのが現実です。
そこで、実際にチームリーダーを交代で任せ、意思決定をメンバー自身が行う経験を積んでもらうことで、自分がチームの意思決定に関われることや、チームを変えられる楽しさを体験してもらいます。
そうした経験を通じ、チームへの主体的な提案が自然と増え、全員がリーダーシップを発揮できる環境が整っていきます。
リーダーを任せる前のステップ
リーダーを任せるための前段階として、以下の二つのステップを踏みます。
私のチームの場合は、ここに数ヶ月の期間をかけて、メンバーがリーダーをするときに様々な判断ができる下地を作ってもらいます。
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意思決定の判断ロジックの説明を繰り返す
チームとしての意思決定時(タスクの優先度や不具合の修正要否など)に、毎回意思決定の判断ロジックを説明します。説明に時間がかかりますが、これを繰り返します。もしも理由を説明しないまま決定が進むと、「自分が知らないところでチームが勝手に動く」という感覚をメンバーが抱きやすくなり、主体性が発揮されにくくなるからです。 -
意思決定の訓練を繰り返す
チームとしての意思決定を行う際に、「どうすると良いと思いますか?」と質問します。質問されたメンバーは、その場で一生懸命に考えて結論を出すための判断ロジックを説明してくれます。妥当な回答であれば、それをチームの意思決定として採用します。その経験を繰り返し積むことで、メンバーが自信の判断に自信を持ち、次第にスムーズに意思決定できるようになります。
ステップを踏んだ後にリーダーを任せる
上記のステップを経たら、いよいよリーダーを任せます。
私のチームはスクラムで開発しているので、チームリーダー兼スクラムマスターをスプリントごとに交代で任せています。
リーダーは、スプリントの計画作成、進捗管理、タスクの割り当て、朝会やスプリントレビューなどのすべての会議の準備と進行を担当し、チームを牽引する役割を体験してもらいます。
初めてのリーダーに不安を持つメンバーもいるので、初めてリーダーを任せるときは、難しいリーダーの仕事はペアプロで行うことで、メンバーが安心して役割に取り組めるようにサポートします。
たとえば、スプリント計画MTGやスプリントレビューの事前準備は、初めてでは難しいのでペアプロで行います。
このペアプロでの注意点は、それまでのステップでリーダーとして意思決定するための訓練は十分にしているので、ティーチングよりもコーチングを中心に行うことです。
メンバーに問いかけながらメンバーが自分の判断で意思決定してもらいます。
具体的な問いかけ方は、以下のコーチングプログラミングの記事を参照ください。
最初はチームの意思決定が怖くてできないメンバーもいるかもしれませんが、繰り返すうちに自信がつき、次第に自ら判断して進めるようになっていきます。
リーダーの主体性を発揮できる余地を広げる
リーダーとしての主体性を発揮しやすい場面を意識的に増やすことも重要です。
例えば、スプリント終了後のレトロスペクティブのやり方をリーダーに任せるなどです。
KPT、YWT、Fun/Done/Learnなど、様々なレトロスペクティブのやり方の中からリーダーがやりたいものを選択することから始め、慣れてきたら「オリジナルの振り返り方法」を考案してもらったりします。
詳細は以下の記事を参照ください。
このように、リーダーとして自分の色やオリジナリティを出せる機会があると、自分がチームに貢献できている実感が得やすくなります。
たとえば、オリジナルの振り返り方法がチームにフィットして盛り上がったり、新たな発見があったりすると、リーダーは「自分のアイデアがチームの成果に影響を与えた」と強く感じることができます。
この成功体験は、次にリーダーを務める時の自信となり、主体的にチームのために新しい提案やアイデアを出す姿勢につながります。
さらに、他のメンバーもそれを目の当たりにすることで、「リーダーは自分の考えを出して良い」という前向きな認識が広まり、チーム全体での提案・改善の文化が醸成されていきます。
全員にリーダーを任せた後のチーム
交代でリーダーを経験したメンバーは、自分がチームを変えられる実感と楽しさを得ているため、各自が自分のタスクだけでなく、チーム全体のために積極的に提案を行うようになります。
たとえば、朝会ではマネージャーである自分はあえて発言を控え、メンバー同士が助言し合いながら意思決定を進める場をつくることで、自然と「頼り合い、支え合うチーム」が形成されていきます。
リーダーとしての経験があることで、メンバー同士で解決を模索する力が備わり、メンバー全員が「チームのリーダー」という意識を持ち、主体的に行動できるようになります。
まとめ
メンバーに交代でリーダーを任せ、シェアドリーダーシップを育むことは、チームの主体性と成長に大きく寄与します。
よろしければ試してみてください。
ちなみに私はITエンジニア向け情報誌「Software Design」の2022年5月号から「ハピネスチームビルディング」を題材に連載記事を書いています。Web上でも以下で公開しています。
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