はじめに
報告 連絡 相談(以下、報連相)は、チームで仕事をする上で重要です。
報連相に問題があると、非効率な方法で仕事を進めてしまったり、間違った方針で成果を作ってしまうことで、手戻りが発生して開発の生産性が下がります。従って、報連相は、チーム全体の生産性に影響する重要な要素です。
その報連相を改善するために1つの大原則があることに気付きました。それを心掛けるようになった結果、チームの報連相が良い感じで行われるようになり手戻りが劇的に減りました。
実際、私のチームには毎年新人が配属されていますが、それらのメンバーは誰でも半年以内に適切なタイミングで報連相を行うようになりました。例えば、私がその大原則を用いる前によく遭遇した以下のような手戻りは発生しなくなりました。
- 成果物を作成中に途中で相談や中間レビューを行わずに、完全に作り切ってからレビューで初めて見せるため、そもそもの方針の間違いを指摘されて大きな手戻りが起きる
- 技術的な調査を行うタスクにおいて、自分で考えた非効率な調査方法で進めてしまう
- タスクの遂行中に、状況変化があったにもかかわらず、タスクの進め方の再判断をしなかったため、後から手戻りが起きる
報連相を改善する大原則
報連相を改善する大原則とは
「報連相のタイミングの良し悪しを毎回フィードバックする」
ということです。
詳細を説明します。
まず、チームで報連相を改善するためには、そのチームでの報連相の目的を明確にする必要があります。
私のチームの場合は「生産性を高めるために手戻りをなくすこと」としています。
その目的をチームの皆で共有し「報連相が遅いことによる手戻り」をなくそうという共通認識を持ちます。
そして、その手戻りをなくすためには「報連相のタイミングの良し悪しを毎回フィードバックする」ことが最も効果的でした。
ちなみに、手戻りをなくすと言っても「技術的な知識やスキルが足りないことによる手戻り」は仕方がないということはチームで共有しています。知識やスキルは長く経験を積むことで蓄積されることであり、短期間で習得できるものではありません。そのため、それが足りないことによる手戻りは成長するための必要な時間と位置付けます。
なくしたい手戻りは「報連相が遅いことによる手戻り」のみとします。
過去の私は全然できていなかった
とても恥ずかしい話ですが、過去(10年以上前)の私は報連相が遅くて手戻りが発生した際に、そのメンバーに「言うのが遅い!」と怒っていました。
当時の私は、報連相が遅い原因がそのメンバーにあると思っていましたが、振り返ってみると、報連相が遅い原因はマネージャーの私にありました。
前章で紹介した通り、「報連相のタイミングの良し悪しを毎回フィードバックする」ことが大切なのに、当時の私は遅い時には「遅い!」と怒っていましたが、適切なタイミングの時には何も伝えていませんでした。
それではメンバーは何が適切なのか確信が持てず分からないので、適切なタイミングで報連相ができないのは当然でした。
また当時の私は、メンバーにとって「報連相」=「嫌なこと」という認識にさせてしまったことで、嫌なことは後回しにしたくなる悪循環も発生していたと思います。
本来は、悪い内容の報告であっても、タイミングの遅い報告であっても、とにかく報告してくれた事に感謝すべきでした。
従って、当時の私に必要だったことは、報連相のたびに以下のように感謝を添えてフィードバックをすることでした。
適切なタイミングの場合の例:
「このタイミングで相談してくれたおかげで手戻りせずに済みました。ありがとうございます。」
報告が遅かった場合の例:
「まず報告してくれてありがとうございます。それならばXXXの対応を行いましょう。それと、今後はさらに手戻りを減らすためにXXXのタイミングで教えてくれると助かります。」
このように良い時も悪い時も必ず感謝を伝えれば、メンバーにとって「報連相」=「感謝される事」という認識になります。
そうすれば報連相してもらいやすくなり、フィードバックを継続すれば必ず適切なタイミングで報連相してもらえるようになります(実際、新人が過去7人、この方法でそうなりました)。
(補足)ポジティブフィードバックが苦手な場合の考え方
私はポジティブフィードバックの大切さを社内や社外で発表していますが、時々、以下のような質問をもらうことがあります。
「褒めるのが苦手なんですけど、褒めるためのコツってありますか?」
過去の私も、褒めたり称賛したり感謝したりなどのポジティブフィードバックが苦手で、全然できていませんでした。
それが変わったきっかけは、いろんな事を自分の責任と考えるようになったことです。
例えば、せっかく早めに相談してくれた時に称賛や感謝をしないことで、その後、早めに相談してくれず、大きな手戻りがあったら、それは私の過失だと思います。
また、ポジティブフィードバックしないことで、メンバーの仕事のやりがいや達成感が低くなったとしたら、それも私の過失だと思います。
つまり、自分がポジティブフィードバックしないことで、手戻りが起きたり、メンバーが楽しく開発できなくなったりすることが自分の責任だと考えたら、苦手とか言ってる場合じゃなく、やらざるを得なくなると思います。
成功体験を積み上げるために仕込む
適切なタイミングで報連相してくれた時にポジティブフィードバックをしようとしても、新人は適切なタイミングで報連相が全くできない場合があります。
そんな時は、適切なタイミングで報告しやすい機会を仕込むという方法もあります。
例えば、テスト実施を依頼した朝に以下のように依頼します。
「定時までにテストが完了できないと分かった時点で報告すること」
そうすれば、定時前にだいたい状況を報告してくれます。
よくできた新人は定時の数時間前の時点で、そこまでの進捗のペースをもとに状況を報告してくれます。
遅い場合でも、定時の数分前までには状況を報告してくれます。
その時に、ポジティブフィードバックをすることで、成功体験を積んでもらいます。
これを繰り返すことで、「主体的に報連相を行う=成功体験」というイメージが定着し、適切なタイミングで報連相がしてもらいやすくなります。
報連相の改善を促進するための条件
報連相のたびに感謝を添えてフィードバックするだけでも改善効果がありますが、以下の条件をすべて満たしているとさらに効果が上がります。
- マネージャーは、メンバー全員とチーム全体のゴールと進捗状況を随時共有していること
- マネージャーは、メンバーからの報告を受けて意思決定を行う際に、どういう論理で意思決定するのかをメンバーに説明し、自分の報告がどのように活用されるのか理解してもらうこと
- マネージャーは、メンバーに対して気軽に話しかけてもらえる関係性を構築していること
1.と2.を満たしていると、チームのゴールを達成するためにどんな意思決定が行われるのか想像できるようになってくるため、どんな状況でも適切なタイミングで報連相ができるようになります。
3.を満たしていると、タイムリーに報連相してもらうまでの期間が短くなります。
その他の報連相の基本の習得はどうするのか
報連相の書籍や記事には「報連相の基本」として、たくさんのノウハウが紹介されています。例えば、「相手の視点に立ち、相手が意思決定するために必要な詳細度の情報を伝える」などです。
新人に対して、それらの習得は、報連相してもらった時に少しずつ指導して身につけてもらえば良いと思っています。
理由は、報連相において一番手戻りが起きる原因は「報連相が遅いこと」であり、それさえ最初に解消できれば大きな問題は無くなるからです。
例えば、報告内容が不適であっても(自分視点でストーリー仕立てで結論を最後にする形式であっても)、報告さえしてもらえれば、その情報を受け取った側が適切にヒアリングすれば、手戻りを回避できます。
そもそも新人に始めから適切な報告を求めるのは無理があります。
新人は、報告に慣れていないため、報告しながらパニックになり支離滅裂な話をすることもあります。
文章での報告の場合は、その内容が理解できないこともあります。
そういう場合は、文章での適切な報告を求めるのでなく、ビデオ通話(もしくはオフライン)で、整理された情報を聞くのでなく、起きたことを時系列そのままで話してもらった方が理解できます。
これは報連相の経験が少ないことで起きる現象であるため、経験を積んでもらいながら、少しずつ指導を継続すれば必ず改善されます。
あとは書籍を用いて勉強会を実施すると改善効率が上がるため、私のチームでは新人が配属された時に、以下の毎朝15分の勉強会にて報連相の書籍を用いて学習を行っています。
まとめ
報連相には様々なテクニックがありますが、一番大切なのは「相手が判断するために、適切なタイミングで適切な詳細度の情報を伝えること」だと思います。
今回はその状態になりやすい方法を紹介しました。
ちなみに私はITエンジニア向け情報誌「Software Design」の2022年5月号から「ハピネスチームビルディング」を題材に連載記事を書いています。以下で公開していますので、よろしければ、そちらも参照ください。
Twitterでも役立つ情報を発信しますのでフォローしてもらえると嬉しいです → @kojimadev