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リーダーポイントで小さなシェアドリーダーシップの発揮を見える化した話

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シェアドリーダーシップとは

近年は、チームでのソフトウェア開発において、シェアドリーダーシップが推奨されています。
シェアドリーダーシップというのは、指示を受ける側と指示を出す側が明確に分かれていたトップダウン型リーダーシップの逆の考え方です。
各メンバーが専門性や創造性を発揮し、それぞれが意思決定に関わり、固定的なリーダーに依存しないリーダーシップのスタイルです。

近年、シェアドリーダーシップが推奨されているのは、おそらく以下の背景からだと思います。

  • ソフトウェア開発で扱う問題が複雑で多様になったため、1人のリーダーがすべてを管理しようとするよりも、複数のメンバーが状況に応じてリーダーシップを発揮する方が、迅速かつ柔軟に対応できる
  • リーダーシップを発揮して意思決定プロセスに参加することで、自分の意見が反映されると感じ、責任感が高まると共にモチベーションが上がりやすい
  • 各メンバーが指示されたことをやるのではなく、自分から積極的に提案することが多くなることで、多様な視点からの提案が増えて創造的なアイデアが生まれやすくなる

当時はシェアドリーダーシップができていなかった

数年前の私のチームは、マネージャーの私が細かく指示を出している状態で、シェアドリーダーシップのあるチームではありませんでした。

そのため、シェアドリーダーシップを促進して、チームメンバー全員がリーダー的な役割を積極的に担う環境を作るには、どうすればいいのかを考えました。
そこで私のチームで導入したのが「リーダーポイント」という仕組みを用いたプラクティスです。

リーダーポイントとは

メンバーがリーダー的な行動を取るたびに「リーダーポイント」を加算します。
リーダーシップを発揮する具体的な行動がポイントとして評価されるため、メンバー全員がリーダー的な役割を積極的に担うことを促進できます。

事前準備は、メンバーごとのリーダーポイントを記入する帳票を作るだけです。
あとは、リーダー的な行動を取るたびに、自分または他メンバーがリーダーポイントを加算します。

実施する上で重要なポイントは以下の2点です。

  • 毎日の朝会で、どのメンバーに何の行動でポイントが加算されたのかを全員に伝える
  • 一定期間内で一番リーダーポイントが多いメンバーを皆で称賛する

これを実施しないと、日々の活動で「どの行動がリーダーシップと見なされるのか」が分からず、やる気があっても何をすればいいのか分からないということが発生します。
そうならないように、どんな行動が評価されるのかを皆で共有します。
毎日誰がどんな行動をして評価されたのかが共有されれば、健全な競争が生まれやすくなり、メンバーはリーダーシップを発揮する機会を意識的に探すようになります。
また、リーダー的な行動が評価され、称賛されることにより、チームへのエンゲージメントが向上します。

当時の私のチームは、スクラム開発で2週間ごとのスプリントだったので、スプリント完了後の朝会にてそのスプリント内で一番リーダーポイントが多いメンバーを皆で称賛していました。

あとは、リーダーポイントを獲得できる行動として、何を推奨するのかをメンバーに伝えることが重要です。
これはチームごとに状況が異なるため、内容も異なりますが、参考までに私のチームでのリーダーポイントを獲得できる行動の具体例を以下に挙げます。

1. 朝会での提案

朝会ではメンバー全員が自分の進捗を報告しますが、それに対して積極的に提案します。
例えば、以下のような提案です。

  • 「それよりもこちらを優先した方がいいのでは?」と、タスクの優先順位を見直す提案
  • 「機能を作り込む前に中間でレビューした方がいいのでは?」「ペアプロした方がいいのでは?」と、タスクの進め方を提案

2. 突発的なタスクへの対応

別部署から急にタスクが降ってきた時に、チームがどう対応すべきかを以下のように提案します。

  • 「今連絡が来た件について、すぐに打ち合わせを開いてどう進めるか決めましょう」とチーム全体にSlackでメンション付けて提案

3. 自動化の提案

手動で行っている作業を自動化することを以下のように提案します。

  • 「その作業は毎回手動でやっていますが、以前に使ったXXXの技術を使えば自動化できると思います」と提案

4. プロセスやプラクティスの改善提案

チームのプロセスやプラクティスについて、以下のように改善案を提案します。

  • 「プルリクエストのテンプレートをこのように改善すれば、不具合が減って品質が高まるのでは?」と提案する

5. 状況に合わせた戦略変更の提案

テストで検出した不具合の傾向から、その後のプロジェクトの進め方を以下のように提案します。

  • 「テストが途中ですがXXX機能で検出した不具合が多いので、テストを中断してその機能のコードレビューを再度実施するなど、XXX機能の品質を高める活動をした方がいいかも」と提案する

6. 緊急時のリーダーシップ

マネージャーが急に不在になった際、誰が何をやるかを以下のように決定する。

  • 「さきほど連絡が来た割り込みタスクについては、Aさんやる方のが効率良いのでAさんがお願いします。Aさんが担当予定のタスクはBさんがお願いします。Bさんのタスクは今日じゃなくてもいいので」のように決定する

7. 他メンバーへのサポートや助言

分報で各自がやっていることを透明化して開発している中で、他のメンバーの分報に対して助言します。

  • 「そのタスクを進めるなら、XXXのツールを使うと効率が良いです」と助言を投稿する

リーダーポイントを活用するための工夫

リーダー的な行動を主体的に実行してもらう機会を増やすために、あえて「責務を明確にしない余白」を設けることも有効です。
例えば、当時の私のチームはCIのテストがNGとなった時に、誰が対応責任者なのかを明確にしていませんでした。
そのため、それに気付いたメンバーが、どのテストが失敗したのか確認した上で誰に対応してもらうと良さそうかを提案するところまでやってくれて、リーダーポイントを獲得することが多くありました。

チーム内でのシェアドリーダーシップがまだあまりできていない段階の時は、このような「余白」を意図的に作り、リーダー的な行動を主体的に実行できる機会を多く提供すれば、リーダー的な行動を主体的にする経験が増加して、シェアドリーダーシップの文化が定着しやすくなります。
(十分に文化が定着すれば不要になります)

リーダーポイントの導入で得られた効果

それまでは、リーダーシップをマネージャーだけが担うことが多く、他のメンバーは受動的になることが多くありました。
しかし、リーダーポイントが導入されてからは、以下のような変化が起こりました。

  1. リーダーシップの発揮が増加
    メンバーが「リーダー的な行動を取ること」が具体的に認識されるようになり、リーダーシップを発揮する機会が増えました。
    ポイント制度によって、自分の行動がリーダーシップとして評価されるという意識が芽生え、チーム全体で主体的に行動することが多くなりました。

  2. 多様なリーダーシップの出現
    リーダーポイントを活用することで、リーダーシップを発揮するメンバーが毎回同じではなく、技術的な問題に強い人やコミュニケーションが得意な人など、状況に応じたリーダーシップが出現しました。
    これにより、より多様な視点からチームが強化され、リーダーシップの質も向上しました。

まとめ

リーダーポイントは、チームメンバー全員が小さなリーダーシップを発揮できる機会を作り、シェアドリーダーシップの文化を育むためのプラクティスです。
この記事で紹介した具体的な行動例を参考に、リーダーポイントのプラクティスを試してもらえると嬉しいです。

なお、リーダーポイントは、シェアドリーダーシップが当たり前のように発揮されるようになってきたら、プラクティスを終了する頃合いです。
また、長期間にわたって続けるとマンネリ化や形骸化が起きる可能性もあるため、この手のプラクティスは期間を限定して行うことを推奨します。


ちなみに私はITエンジニア向け情報誌「Software Design」の2022年5月号から「ハピネスチームビルディング」を題材に連載記事を書いています。Web上でも以下で公開しています。

X(旧Twitter)でも役立つ情報を発信しますのでフォローしてもらえると嬉しいです → @kojimadev

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