はじめに
モチベーション 3.0 とは、内発的動機づけで行動することです。
詳しくは書籍『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』、講談社、ダニエル・ピンク著 を参照ください。
私が今まで「ハピネスチームビルディング」の連載記事で紹介してきたような「皆で楽しく成長するためのプラクティス」を新しく考えてやってみようとする場合に、モチベーション3.0はとても参考になったので、その考え方を紹介します。
モチベーション 3.0 とは
モチベーションとは、人が行動を起こすための動機付けのことを指します。これは、モチベーション1.0、2.0、3.0という3つの段階に分けられます。
モチベーション1.0は、生理的な欲求を満たすための「生理的動機付け」です。生存を目的とする最も原始的な欲求です。
次に、モチベーション2.0は、外的な報酬と罰を中心に構築された「外発的動機付け」です。
いわゆる「アメとムチ」です。
昔は、ある程度、これでうまくいくこともあったようですが、現代ではうまくいかなくなっています。
そして、モチベーション3.0は、その人自身の内面から湧き出る「内発的動機付け」です。
これは、外部からの報酬や罰に依存せず、自分自身の感情や価値観から生まれるモチベーションです。
モチベーション3.0は、以下の3つの要素が重要視されています。
- 自律性:自ら方向を決定したい
- 熟達:価値があることを上達させたい
- 目的:自分以外の人、もの、社会に貢献したい
これらの要素を満たすような活動をすることで、メンバーはその活動自体からもたらされる内的な満足感によって、主体的に活動を行います。
チームのプラクティスに取り入れる
「皆で楽しく成長するためのプラクティス」を新しく考えてやってみようとする場合は、モチベーション3.0の3つの要素を含めたものにすると効果が出やすかったです。
なお、3つの要素のうち、どの要素が満足感につながるのかの度合いは、人によって異なります。
1 on 1 などで、メンバーがどういう時に楽しく感じるのかを聞いてみることで、その傾向が分かります。
例えば、私のチームでは、以下のような考え方のメンバーがいました。
- 「自律性」の要素が強いメンバーの場合 → 自分で自由に試行錯誤して問題を解決することが凄く楽しい
- 「熟達」の要素が強いメンバーの場合 → 新しい技術を使ってプログラミングをして、それが動いて形になるのが凄く嬉しい
- 「目的」の要素が強いメンバーの場合 → 自分の提案や自分が作った成果で、チームに貢献できた実感が得られると凄く嬉しい
従って、チームメンバーが、それぞれどの要素から強い内発的動機づけを得られるのかを理解しておくと、チームのプラクティスを考える上で参考になります。
ここからは、実際にモチベーション3.0の3つのいずれかの要素を含めたプラクティスの例を紹介します。
①振り返りを全部任せる
数週間に1度のタイミングで、チームの皆で過去の出来事を振り返って、良かった点や改善点を挙げてチームを少しずつ改善する活動を「振り返り」と呼んでいます。
その振り返りのファシリテーター(会議を円滑に進めるための進行役)を順番に交代で皆に任せます。
そして、ファシリテーターになった人は、振り返りを自分がやってみたいやり方で自由に決められる事にしました。
詳細は以下の記事を参照ください。
上記のプラクティスは、モチベーション3.0の3つの要素を含んだ活動になっています。
- 自律性 → 自分で自由に振り返りのやり方を決められる。なんなら自分が考えたオリジナルの振り返りでも良い。従って、自ら方向を決定したいという自律性の要素を含んでいる。
- 熟達 → チームの会議の進行役をやったことのない若手メンバーにとっては、ファシリテーターの経験を積むことはチームリーダーとしてのスキルアップに繋がる。そこに価値を見出すメンバーにとっては、熟達の要素を含んでいる。
- 目的 → 自分が考えたやり方で自分がファシリテートした結果、良い振り返りができた時は、自分がチームに貢献できた実感が得られやすい。自分以外の人への貢献という目的の要素を含んでいる。
②社外発表を勧める
まず自分が何度か社外発表を経験し、それでたくさんのメリットを得た上にとても楽しかった事をチームメンバーに伝えました。
その上で、具体的に発表するテーマの候補を挙げて社外発表を勧めて、発表スライドの準備も協力しました。
発表初心者は発表しやすそうなLTイベントを探すことに苦労するため、参加人数が少なくてLT初心者が集まるオンラインのLTイベントを毎月開催する『Serverless LT初心者向け』というコミュニティを立ち上げて、そこで発表してもらいました。
詳細は以下の記事を参照ください。
上記のプラクティスは、モチベーション3.0の3つの要素を含んだ活動になっています。
- 自律性 → 発表するテーマは、自分で自由に決められる。発表する時期やイベントも自分次第。従って、自ら方向を決定したいという自律性の要素を含んでいる。
- 熟達 → 「このテーマについては十分に分かっている。発表スライドも簡単に作れる」と思っていたとしても、いざ作り始めてみると理解不足に気付くことがある。だから発表の準備を通して理解し直すことでやっと、人に説明できるレベルで理解することができる。技術の理解度に価値を見出すメンバーにとっては、熟達の要素を含んでいる。
- 目的 → 社外のエンジニアに発表を聞いてもらった結果、直接それが知見になったと言ってもらう嬉しさを経験できる。それは自分以外の人への貢献という目的の要素を含んでいる。
③業務時間内に学んだことをアウトプットチャンネルに投稿
「主体的に新しい事を学ぶ」という習慣が身に着きやすいように、業務時間内で自由な学習を毎日30分~60分確保することを勧めます。
学習時間に情報をインプットするだけよりも、学んだことを随時アウトプットした方が効果的な学習になり、成長は加速します。
よって、アウトプットする場として、Slackに学びをアウトプットするチャンネルを作成しました。
新しいツールを調べたり技術記事を読んだりして学んだことを随時Slackに投稿してもらうようにしています。
詳細は以下の記事を参照ください。
上記のプラクティスは、モチベーション3.0の3つの要素のうち2つを含んだ活動になっています。
- 自律性 → 学習するテーマは、自分で自由に決められる。学習するタイミングも自分次第。従って、自ら方向を決定したいという自律性の要素を含んでいる。
- 熟達 → 自分にとって価値があると思った技術を学ぶ。これは、熟達の要素を含んでいる。
- 目的 → なし。
まとめ
「皆で楽しく成長するためのプラクティス」をやる場合は、モチベーション3.0の3つ要素のいずれかを含めたものにすると効果が出やすかったです。
新しいプラクティスを何かやってみようとする場合の参考になれば幸いです。
ちなみに私はITエンジニア向け情報誌「Software Design」の2022年5月号から「ハピネスチームビルディング」を題材に連載記事を書いています。以下で公開していますので、よろしければ、そちらも参照ください。
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