はじめに
今回は、チームのメンバーでお互いの価値観を共有することに適した「ワーキングアグリーメント」という手法を紹介します。
ワーキングアグリーメントとは
ワーキングアグリーメント(Working Agreement)とは、チームメンバーが共同作業を行う上での基本的なルールや約束事を明文化したものです。
ワーキングアグリーメントは、チームメンバー全員で話し合って作成することが多いです。
例えば、「会議には遅刻しない」「作成した成果物は翌稼働日までにレビューしてもらう」など、具体的なルールを決めることで、日々の業務を円滑にします。
また、各メンバーがどのような価値観や期待を持っているのかが共有されるので、お互いの理解を深める効果もあります。
チームが発足して間もない時期で、まだチーム内のルールが整備されていない時なんかは、特に効果的だと思います。
詳しくは以下の記事を参照ください。
ワーキングアグリーメント - Agile Studio
チームメンバーにやりたいか聞いてみた結果
私のチームは、毎年新人が入ってきたり既存メンバーが別チームに異動したりで、メンバーの入れ替えはありますが、チームとしては発足してから何年か経過しており、チーム内のやり方はそれなりに整備されています。
それでもワーキングアグリーメントについて、チームのメンバーにやってみたいか聞いてみたところ、皆がやってみたいということだったので、やってみることにしました。
ただ、ワーキングアグリーメントのやり方として「チームのルール」についてあらためて定義するよりも「どんなマインドを持って取り組むか」を中心に議論したいとメンバーから提案されました。
(こちらのワーキングアグリーメントの具体例には、<マインド>という項目があり、これと同じようなレベルでマインドの持ち方を議論したいということでした)
その提案を聞いた時は、ルールを定義しないとワーキングアグリーメントをやる効果が半減してしまうのではと思いました。
しかし、少し考えてそんなことはないと判断したので、その提案通りやることにしました。
そう判断した理由は、私のチームがすでにチームとして取り組んでいるプラクティスが多くあり、それを定期的にメンバーの提案で変更・改善していたからです。その状態で、チームのルールをあらためて検討するよりも、「どんなマインドを持って取り組むか」を中心に議論した方が、各メンバーの価値観が共有でき、お互いの理解を深める効果が高いと思いました。
また、ITエンジニアのような創造性の高い職種の場合、チームの細かいルールをすべて明文化することが必ずしも良いとは限らないと思います。
ルールを明文化すると、それを厳格に守る雰囲気となって柔軟な対応をしづらくなったり、ルールを守ることが負担に感じたり、創造的な思考を妨げたり、ルールに依存して自主性が低下したりなどの可能性があります(もちろん、そうならない適切なルールもあります)。
ワーキングアグリーメントの関連記事の中には、ルールを守らなかった場合に軽い罰を与えるという事例もありましたが、これはリスクがあると思います。全員が軽い罰を楽しめるほどの強い信頼関係のあるチームなら良いと思いますが、そうでないと罰が不満やストレスになったり、罰を受けないようにリスクを避けることに意識が向いて消極的な行動が増えてしまうという可能性があります。
上記の経緯で「どんなマインドを持って取り組むか」を議論することになりましたが、それを行うならば、マネージャーの自分は参加しない方が良いかもしれないと思って、マネージャーなしで開発メンバーのみでやってもらうことにしました。
私はプレイングマネージャーで、開発メンバーと一緒に開発しているので私も一緒に参加したかったのですが、私は 1 on 1 などで各メンバーの価値観はある程度、理解しています。
しかし、メンバー同士の価値観の相互理解は、入って間もないメンバーがいることも含めて、そこまでできていない可能性があるため、マネージャー無しでやった方がお互いの理解を深める効果が高いと判断しました。
(あと、マネージャー無しの方が、上下関係を意識せずに活発に話せるかもしれませんし)
ファシリテーターには、チームに配属されてから1年くらいの若手メンバーにファシリテーターを得意とするメンバーがいたので、そのメンバーにやってもらいました。
ファシリテーターについては、メンバーの中の年長者がやるのも良いですが、若手がやると他メンバーがなんとかうまくいくように協力的な姿勢で積極的に発言する傾向があるので、各自の意見をたくさん出してほしい時は若手にファシリテーターをお願いするのもありだと思います。
ちなみに、あとで知った話ですが、ファシリテーターが今回どんな進行をしたかというと、最初の20分間でオンラインのツール上で各自が付箋に自分の考えを書いてから、残りの40分間でその付箋をグルーピングしながら皆で議論していくという方式でした。
まとめると、私のチームでは、以下の方法でワーキングアグリーメントを実施しました。
- 「どんなマインドを持って取り組むか」を中心に議論する
- マネージャーは不参加で実施する
- ファシリテーターは、チームに配属されてから1年くらいの若手がやる
- やり方は、各自が20分間で付箋に考えを書いてから、40分間で付箋をグルーピングしながら議論する方式
やってみた結果
メンバーだけで実施したときに録画を残してくれたので、録画を確認したところ、チームのメンバーそれぞれが大事にしている価値観を中心に議論していたので、お互いの理解を深めるという意味では良かったと思います。
議論で出てきた意見の一部を紹介します。
<コミュニケーション>
- 悪い報告ほど早めにしよう
- 「自分が一番発言してやるぜ」の心意気で!
- 良い会議になるかは自分次第
- Slackの連絡には必ずスタンプで反応しよう
- リアクションは大事にしよう
- ポジティブフィードバックや賞賛コメントを積極的に口にしよう
- 嘘はつかない、取り繕わない
- 他メンバーの分報にスタンプだけでもいいので、毎日コミュニケーションをとろう
<エンジニアリング>
- クラス、メソッド、プロパティの名前は、意識して付けよう
- 気がついたことはとりあえずSlackで共有しよう
- チーム全員がリーダーシップをもって行動しよう
- 知りながら害をなすな
- AIや便利なツールはどんどん取り入れていこう
- タスクのゴールを明確にしよう
出てきた意見のいくつかは「ルール」とした方が良いように見えるものもあります。
ただ、それらをあえて「ルール」とはせずに、「そういうマインドで取り組みましょう」というちょっとふわっとしたゆるい共有くらいが、今のチームには合っていると思ったので、私はこれで良いと思いました。
ルールとして強制するよりも、チームのメンバーがこうありたいと思っていることに共感して、少しずつでも主体的にそういう行動をしてもらった方が長期的には良いように思ったからです。
実施し終わった後、行動が変わったかというと、劇的な変化はありませんでした。
ただ、前よりもちょっとリアクションの頻度が増えるなど、少しだけ行動が変わった点はありました。
そういう些細な変化はルールによる強制でなく、他のメンバーの価値観を共感したことで自分から変えたと考えると、長期的に見れば良かったと思います。
(おまけ)普段の会議におけるシェアドリーダーシップの発揮
おまけの話として、普段の会議においてもシェアドリーダーシップを発揮してもらいやすい機会を作る方法の紹介です。
会議にてマネージャーが発言を控えることで、他のメンバーがリーダーシップを発揮する機会を増やすことは簡単に実践できて効果もそこそこあります。
例えば、毎日の朝会などの定例会議で、マネージャーが発言を控えて、他のメンバーが議論をリードしたり決定したりしてもらうことで、各メンバーがリーダーシップを意識し、自発的に意見を出しやすくなります。
マネージャーが発言を控えることで、議論の結論を出すまでに時間が余分にかかることがありますが、その時間はチームの成長とのトレードオフの関係であり、長期で見れば十分な効果があると思います。
これにより、チーム全体の主体性が高まり、問題解決や意思決定が迅速に行われるようになります。
まとめ
チームのメンバーでお互いの価値観を共有することに適した「ワーキングアグリーメント」という手法を紹介しました。
今回は、私のチームの状況に合わせたやり方を紹介しました。
もし、私のチームが発足したばかりのチームであれば、通常のやり方の通りにチームのルールを決めるやり方をしたと思います。
つまり、プラクティスは、そのチームに合わせたやり方でアレンジして実施するのが良いと思います。
ぜひ、自分のチームに合った方法を考えて実施してみてください。
ちなみに私はITエンジニア向け情報誌「Software Design」の2022年5月号から「ハピネスチームビルディング」を題材に連載記事を書いています。同日に以下の記事も公開していますので、よろしければ、そちらも参照ください。
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